2022年12月15日更新
2022年11月10日に欧州委員会は、策定された車両からの汚染物質の排出を削減し、空気の質を改善するための新しい基準案として、EURO 7をプレスリリースしました。(1)
EUでは2021年6月のEU気候法の成立を受けて、政策パッケージ「Fit for 55」(2)を策定しており、この「Fit for 55」は、「欧州グリーンディール」を包括的に推進し、2030年の温室効果ガス削減目標、1990年比で少なくとも55%削減を達成するための政策パッケージとなります。 「Fit for 55」はいくつかの提案により構成されており、提案の一つとして乗用車および小型商用車(バン)のCO2排出標準に関する規則の改正(排出基準を強化する改正案)があげられています。 こうした流れを受けて公表されたEURO 7(案)(3)について本コラムでは取り上げていきます。
◆EURO 7規則(案)の内容
現在の排気ガスに関する自動車、エンジン、および交換部品の型式承認 (「排気型式承認」) の技術的要件は、小型車および大型車の排気型式承認に適用される「欧州議会および理事会の規則 (EC) No 715/2007 (EURO 6)」(4)および「欧州議会および理事会の規則 (EC) No 595/2009 (EURO VI) 」(5)という2 つの規則で規定されています。 公表されたEURO 7の提案の理由と目的において、この状況は特定された3つの問題があるとしています。記載されている現行の問題点は以下の3点です。
(i)車両排出基準の複雑さ
(ii)目標達成に対し、不足している車両汚染物質制限
(iii)車両の実使用時に対する排出量の制御が不足
上記の特定された問題点に対し、EURO 7は3つの具体的な目的を追求することにより、全体的な目標の達成に貢献するとしています。
(i)複雑な現在の排出基準を簡素化する。
(ii)関連するすべての大気汚染物質について最新の制限を提供する。
(iii)現実に発生している排出量の管理を改善する。
今回公表されたEURO 7(案)にこれらが盛り込まれていますので、それぞれの内容について確認していきます。
(i)複雑な現在の排出基準を簡素化する。
先述したとおり、現在の排出基準は2つの規則(EURO 6/ EURO VI)で規定されています。 2つの規則は大型車の排出ガスはエンジンテスト、小型車の場合は車両全体のテストというように車種により区別されています。 これに対し、EURO 7(案)は第2条の適用範囲にて「カテゴリ M1、M2、M3、N1、N2、および N3 の自動車、ならびに O3 および O4 カテゴリのトレーラーに適用される。」としており、大型車、小型車の区別なく適用すると規定しています。 これらのカテゴリの分類は規則(EU)No 2018/858の第4条で指定されているものが適用されます。
この変更は公道での小型車と大型車の両方のテストを可能にする方法論が開発されてきたことでエンジン試験に基づいて型式承認を行う必要はなくなったことに基づいています。 この規定の変更により、Euro 6 および Euro VIの下で存在していた制限およびテストの異なる適用日や複数の複雑な排出テストを排除し、排出物の型式承認などさまざまな段階で、一貫した一連の手順でテストが可能となり、車両排出基準への対応が簡素化するとしています。
(ii)関連するすべての大気汚染物質について最新の制限を提供する。
現行のEuro 6/ EURO VI 排出基準については、さらなる対策を講じなければ、2035 年までに乗用車とバンのCO2 排出量を100% 削減するという目標を達成できないとされています。 この状況を受けてEURO 7(案)では附属書Ⅰにて窒素酸化物(NOx)の排出量などを厳格化しています。
また、Euro 6/ EURO VIは、指定された期間、車両が排出制限を遵守すると規定しているものの、現在の車両の平均寿命には対応しておらず、EUにおける車両の平均予想耐用年数を反映する耐久性要件を規定することが適切としています。 EURO 7(案)では附属書Ⅳにて新たな耐用年数を規定しており、例えば、乗用車・バンのカテゴリでは現行規則の倍となる走行距離20万キロまたは販売から10年までと設定しています。
従来の排気ガスだけでなく、非排気ガスへの対応もEURO 7(案)の特色の一つと考えられます。 非排気ガスは、車両のタイヤやブレーキから放出される粒子で構成されており、タイヤからの排出は、環境へのマイクロプラスチックの最大の発生源であると推定されています。2050 年までに、自動車の電化により排気粒子が減少するため、非排気ガス排出が道路輸送によって排出されるすべての粒子の最大 90% を占めるとの予想があります。 EURO 7(案)附属書ⅠのTable 4~6においては、ブレーキ粒子排出制限やタイヤの摩耗率制限に関する制限規定が確認できます。
なお、欧州委員会は、2024 年末までにタイヤの摩耗に関する報告書を作成し、タイヤの摩耗限界を提案するために測定方法と最新技術を検討するとしています。
(iii)現実に発生している排出量の管理を改善する。
EURO 7(案)では第7条4項にてメーカーに車両ごとに環境車両パスポート (EVP) を発行し、適合証明書や型式承認文書などの情報源から関連データを抽出して、そのパスポートを車両と一緒に車両の購入者に届けることを義務づけています。 これらのデータは車両の電子システムで表示可能であり、オンボードからオフボードに送信できることを保証するものとしています。 「車載監視システム」または「OBM」は、排出量の超過、または該当する場合はその状況を検出する仕様としており、警告システムが著しく過剰な排出物を通知した場合、車両の修理を開始するよう規定しています。
こうしたシステムを車両ごとに導入することは、検査時だけでなく車両使用時の実際に起きている汚染物質の排出量を管理できることにつながり、規定した排出制限をより高い精度で管理していくことを意図しているものと考えられます。
公表されたEURO 7(案)では、2025年7月1日から、M1、N1車両およびコンポーネント、およびこれらの車両の個別の技術ユニットに適用され、2027 年 7 月 1 日から、M2、M3、N2、N3 車両およびコンポーネント、およびこれらの車両および O3、O4 トレーラーの個別の技術ユニットに適用されることになります。
◆最後に
EUは新しい汚染物質排出枠組について、EUの自動車部門に法的確実性と先行者利益を提供し、競争上の優位性を維持するために、米国や中国などの主要市場で策定中の基準よりも先を行く必要があるとし政策的な意義を強調しています。
また、欧州委員会の提案を受けたEU議会とEU理事会は、2022年10月27日に2035年までに「全ての新車をゼロエミッション化」することで合意しています(6)。 合成燃料などカーボンニュートラルな燃料に関して議論の余地があるものの、この内容は、内燃機関搭載車の生産を事実上禁止することにつながります。 こうした動きからEUは車両からの排気物に関して2035年までに製造される新車は厳格化したEURO 7で規制し、2035年以降はゼロエミッション化した新車で対応していくものと思われます。
一方で、現実的に対応する側である欧州自動車工業会(ACEA)は、EURO 7に準拠するために、特にトラックメーカーは、バッテリーおよび燃料電池電気自動車から内燃機関にかなりのエンジニアリングおよび財源を投入する必要があり、スケジュール的にも非現実的だとして欧州委員会の提案に対して深刻な懸念を表明しています(7)。
2035年までに「全ての新車をゼロエミッション化」するという合意については、EUが自動車やバンについて完全電気化を行う最初で唯一の世界地域になることを意味するとその意義を認めつつ、再生可能エネルギーや公共の充電インフラストラクチャネットワーク、原材料へのアクセスなどの整備が不足した場合、他の地域の自動車メーカーと比較して大きな不利益を被ることにもつながるとの意見を表明しています(8)。
現状は目標達成に向けて理想を追求していくEUとEURO 7など汚染物質排出物規制の導入によりむしろコストや時間、煩雑さが増すとするACEA間で意見が異なるという印象です。
車両に関連する汚染物質排出物規制を巡っては、法規制の内容と各メーカーの対応により、自動車業界の勢力図に影響を与える可能性もあるため、今後も動向について注視していく必要がありそうです。
(1) EURO 7(プレスリリース)
(2) Fit for 55
(3) EURO 7(案)
(4) 欧州議会および理事会の規則 (EC) No 715/2007 (EURO 6)
(5) 欧州議会および理事会の規則 (EC) No 595/2009 (EURO VI)
(6) EU議会 2035年の新車に関するバンのゼロエミッション目標(プレスリリース)
(7) EURO 7(案)に対するACEAの声明
(8) 2035年の新車に関するバンのゼロエミッション目標合意に対するACEAの声明
(長野 知広)
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