2023年02月10日更新
1.EUタクソノミーとは
2030年のEUの気候・エネルギー目標を達成し、欧州グリーン・ディールの目標を実現するためには、持続可能なプロジェクトおよび活動への直接投資が不可欠であると考えられています。 このために、何が「持続可能」なのかについて、共通の言語と明確な定義が必要とされました。 EUの持続可能な成長のための資金調達に関する行動計画のなかで、持続可能な経済活動のための共通の分類システム、EUタクソノミーの創設が呼びかけられました。 EUタクソノミーとは、環境的に持続可能な経済活動のリストを確立する分類システムであり、企業、投資家、政策立案者に対して、どの経済活動が環境的に持続可能であるかに関する定義を提供するものです。 EUタクソノミーによる経済活動の分類によって、投資家や個人投資家が企業の経済活動の環境への取り組みに関する判断しやすくなり、グリーンウォッシュを予防することにもつながります。 また、企業の気候変動への対応が推進され、環境的に持続可能という観点から重要な分野に、投資がシフトされることが期待できます(*1)。
2020年の6月22日に、タクソノミー規則(*2)がEU官報で公布され、2020年7月12日に発効しています。 タクソノミー規則では、以下の6つの環境目的が定められています。
(1)気候変動の緩和
(2)気候変動への適応
(3)循環型経済への移行
(4)水資源と海洋資源の持続可能な利用と保護
(5)汚染の防止と制御
(6)生物多様性と生態系の保護と回復
2.EUタクソノミーによる気候変動への対応
EUタクソノミーの気候変動緩和・適応目標のための持続可能な活動に関する最初の委任法(EUタクソノミー気候委任法)が2021年12月9日、官報に掲載され、2022年1月1日から適用されています。 EUタクソノミー気候委任法では、付属書 I(「経済活動が気候変動緩和に実質的に貢献する条件を決定しその経済活動が他の環境目標に著しい害を及ぼさないかどうかを決定するための技術的な審査基準」)(*3)に、林業、環境保護・修復活動、製造業、エネルギー、上水道・下水道・廃棄物管理・修復活動、運輸、建設・不動産、情報・通信、専門的・科学的・技術的活動という9分野に分けて、気候変動に関する技術的な審査基準が定められています。 EUの環境目標達成に寄与する経済活動を明確化することにより、持続可能な投資を支援することが目的です。(*4)
EUタクソノミー気候委任法には多くの経済活動や環境目標が含まれていますが、そのねらいは、何がグリーンであるかを明確に定義することにより、企業がこれらの基準を満たすために、新しいプロジェクトを立ち上げたり、既存のプロジェクトをアップグレードしたりすることにより、グリーン化を推進することです。 また、企業がタクソノミーに沿ったグリーン活動を開示することで、信頼性の高い比較可能なサステナビリティ情報が投資家やステークホルダーに提示されることになります(*1)。
2022年7月15日には、EUタクソノミーの対象となる経済活動のリストに特定の原子力・ガスエネルギー活動を含める補完的気候委任法(*5)が官報に掲載されました。 2023年1月から適用されていますが、特定のガスおよび原子力活動の基準は、EUの気候・環境に関する目標に沿ったものであり、石炭を含む固体・液体化石燃料から気候ニュートラルな未来への転換の加速に貢献するものであると考えられます。(*6)
3.タクソノミー規則での化学物質に関する規定について
タクソノミー規則では、気候変動以外の分野についても、審査基準を定める委任法を2021年12月31日までに採択し、2023年1月1日からの施行することが目指されてきました。 しかしながら、2023年2月現在、気候変動以外の委任法については公布されていません。
タクソノミー規則で定められている6つの環境目的のうち、化学物質管理に最も関連するのは、5番目の汚染の防止と制御です。 タクソノミー規則の第14条の第1項に以下の規定があります。
第14条 汚染防止・制御への実質的な寄与
1. 経済活動は、その活動が以下の方法により、汚染からの環境保護に実質的に寄与する場合、汚染の防止及び制御に実質的に寄与するものとして認められる。
(a) 温室効果ガス以外の大気、水域、陸域への汚染物質の排出を防止し、又はそれが実行不可能な場合は削減すること。
(b) 経済活動が行われる地域の大気、水質、土壌の質を改善し、人の健康や環境、またはそのリスクへの悪影響を最小化すること。
(c) 化学物質の生産、使用、廃棄が人の健康や環境に与える悪影響を防止または最小化すること。
(d) ゴミやその他の汚染の除去
(e) 第16条に基づき 本項(a)から(d)に掲げるいずれかの活動を可能にすること。
4.EUタクソノミーでの化学物質の技術審査基準
タクソノミー規則の第20条では、技術的な審査基準等について欧州委員会に助言する組織として、持続可能な金融に関するプラットフォーム(Platform on Sustainable Finance)について定められています。 持続可能な金融に関するプラットフォームのテクニカルワーキンググループから、「補足 方法論と技術的審査基準」という報告書(*7)が2022年10月に発行されてます。 この報告書では、気候変動以外の環境目的(循環型経済、水資源と海洋資源、汚染防止、生物多様性)に関する技術審査基準が提案されています。
化学物質に関する提案については、化学物質の製造及び化学製品の製造の項目に記載されています。 提案されている汚染防止・制御への実質的な貢献をしているかどうかの審査基準には、REACHの高懸念物質リストに含まれる物質(CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性)、PBT(残留性、生物蓄積性、毒性)、および同等の特性を持つ物質)よりも多くの分類が含まれていて、内分泌かく乱化学物質、PMT(難分解性、移動性、毒性)、呼吸器・皮膚感作性、STOT(特定標的臓器毒性)、さらに、CMRの疑いがある物質も含まれています(*8)。 この提案の内容が採択されると、タクソノミー規則では、REACH規則よりも多くの有害物質が対象とされることになり、その結果、より害の少ない物質への代替が推進されることが期待されます。
(岡本 麻代)
引用
*1 欧州委員会 「持続可能な活動のためのEUタクソノミー」 https://finance.ec.europa.eu/sustainable-finance/tools-and-standards/eu-taxonomy-sustainable-activities_en
*2 タクソノミー規則
*3 EUタクソノミー気候委任法
*4 欧州委員会 「持続可能なファイナンス・パッケージ」
*5 補完的気候委任法
*6 欧州委員会 「施行および委任法 – タクソノミー規則」
*7 持続可能な金融に関するプラットフォームのテクニカルワーキンググループ 「補足 方法論と技術的審査基準
*8 chemsec (The International Chemical Secretariat) 「EUタクソノミー提案: 「有害化学物質を代替するディープグリーン」」
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