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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

EUプラスチック戦略の狙い(その1)

2021年12月10日更新

EUの影響力をアヌ・ブラッドフォードコロンビア法学教授は、著書“The Brussels Effect- HOW THE EUROPEAN UNION RULES THE WORLD-”で、「EUは、世界を形作る影響力のある超大国であり続けている」としています。

実感としても、EUの環境政策や規制法が日本企業に大きな影響を与えています。このところご質問が多いEUのプラスチック規制(戦略)について、整理してみます。


プラスチックは身近な材料で、軽くて便利と思われている一方、環境に優しくない材料とも言われています。日常に欠かせないプラスチックをどのように規制するかは、EUがやや先行して検討していますが、アメリカや日本でも検討が進んでいます。

 

1.グリーンディールと廃棄物戦略

ライエン第13代EU委員長(任期は2019年12月1日から2024年10月31日まで)は、EU委員長に就任にあたり、EUグリーンディール(A European Green Deal)(以下グリーンディール)など6つの優先課題(*1)を掲げました。


i. EUグリーンディール(A European Green Deal)

ii. デジタル時代にふさわしいEU(A Europe fit for the digital age)

iii. 人々のための経済(An economy that works for people)

iv. EU的生き方を推進する(Promoting our European way of life)

v.国際社会でより強いEUとなる(A stronger Europe in the world)

vi. EUの民主主義をさらに推進する(A new push for European democracy)


これらの課題は、2024年までの任期中の取り組みですが、取り組みに対象は2030年目標、2050年目標などの中長期政策(戦略)ですので、任期後にも影響力を発揮します。

(1)グリーンディールとは

環境政策では、グリーンディールが大きな影響を与えます。

グリーンディールは、8つの要素(総合的な戦略)で構成されています。(*2)

「EU の 2030 年と 2050 年の気候目標を高くする“「Climate Law」を立案(済) し2050 年までに気候中立目標を法制化する”」が有名ですが、「産業をクリーンな循環型経済へ動員する」、「汚染のない環境を目指すための汚染ゼロ目標」など、日本企業に影響する戦略となっています。


これら戦略のアクションプランが、「新循環型経済行動計画」(*3)で、以下のような内容になっています。(抜粋)


新循環型経済行動計画は、設計と生産をターゲットにした4重点項目で構成されています。

(1)持続可能な製品をEUの規範とする

・製品の長寿命化

・再利用・修理・リサイクルの容易化

・リサイクル材を使用

・使い捨ての制限

・短期間での陳腐化の対策

・売れ残った耐久消費財の廃棄の禁止


(2)消費者の権利強化

・修理可能性や耐久性などに関する情報へのアクセス権

・環境への持続可能性を考慮した製品選択権

・修理権


(3)資源集約型産業循環型モデルへの移行

・電子・情報通信機器:製品の長寿命化と廃棄物の回収・処理の改善

・バッテリーおよび車両:バッテリーの持続可能性向上と循環型モデルへの移行

・包装:(過剰)包装の削減を含めた新たな要件

・プラスチック:再生材料の含有量須要件

・マイクロプラスチックと生物由来・生分解性プラスチックへの注意

・繊維:繊維産業の競争力とイノベーションを強化と繊維の再利用を促進する

・建設・建物:建築環境の持続可能性に関する包括的な循環型戦略

・食品:使い捨て包装・食器の再利用可能な製品への置き換え


(4)ごみ削減

・ごみの抑制と2次原材料化

・ごみ分別とラベリングのEU共通化


日本企業は、EUに輸出する電気電子機器などに適用される規制に敏感に対応していますが、付随する「包装」や「プラスチック」は、後回しにしがちです。「包装」や「プラスチック」は幅広く規制されますので規制動向は確認しておくことが必要です。

 

(2)廃棄物の状況  

「新循環型経済行動計画」で、「EUと国家レベルでの取り組みにもかかわらず、発生する廃棄物の量は減少していない。EUのすべての経済活動による廃棄物の年間発電量は25億トン(1人当たり年間5トン)で、各市民は平均して約0.5トンの自治体廃棄物を生産している。廃棄物の発生を経済成長から切り離すには、バリューチェーン全体と家庭全体でかなりの労力が必要である。」と廃棄物に関する現状説明をしています。


2019年12月23に官報(Official Journal of the European Union )で通知されたEU議会の決議「EUのプラスチック戦略(A European Strategy for Plastics in a circular economy:C 433/136)」(*4)で、プラスチック廃棄物の状況を以下のように示しています。


・プラスチックの世界の年間生産量は2015年に3億2200万トンに達し、今後20年間で2倍になると予想されている。

・EUでは、毎年2,580万トンのプラスチック廃棄物が発生している。

・EUでは、プラスチック廃棄物の30%のみがリサイクルのために収集されている。一方、市場に出回っているプラスチックの6%だけが再生プラスチックから作られている。

・プラスチック廃棄物の埋め立て(31%)および焼却(39%)率は高いままである。

・プラスチック包装材料の価値の約95%が流出しており、年間700億ユーロから1,050億ユーロの損失につながっている。

・世界では、毎年500万から1300万トンのプラスチックが世界の海洋にあり、現在までに1億5000万トンを超えるプラスチックが海洋に存在すると推定されている。

・毎年1 50 000〜5 00 000トンのプラスチック廃棄物がEUの海に流出している。

・プラスチックはビーチごみの85%、海洋ごみの80%以上を占めている。

・海洋ごみは経済活動と人間の食物連鎖にも悪影響を及ぼす。

・すべての海鳥の90%はプラスチック粒子を飲み込みこんでいる。

・意図的に追加されたマイクロプラスチックの使用を消費者または業務用製品に制限するための科学的根拠を調査するという委員会のECHAへの要請は歓迎される。

・オキソ分解性プラスチックに対する制限の可能性についての提案を準備するという委員会のECHAへの要請は歓迎される。


現状と新たな課題が示されていて、新たな法規制の方向がわかります。


分かりやすい事例としては、WWF Japan(World Wide Fund for Nature公益財団法人世界自然保護基金)のWebサイト(*5)があります。「世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計1億5,000万トンで、少なくとも年間800万トンが、新たに流入していると推定されています。

「環境問題とは?地球の未来のために、知るべきこと」としています。

漁網に絡まり溺死したオサガメやケニア・ワタミュビーチに打ち寄せられたプラスチックゴミなどの写真を掲載し、深刻な状況を訴えています。

ことに海洋プラスチック廃棄物などは、市民一人ひとりの意識改革が重要です。EUでは、グリーンディールと市民の生活空間を結び付ける“New European Bauhaus” (*6)と言われるイニシアティブが動き始めました。


環境に関する直接的な利害関係者だけでなく、広く市民を巻き込む意識改革で、持続可能な製品政策の展開を支えるものです。


環境対応は一人ひとりの行動が重要ですが、この面にも踏み込んでいます。


EUの戦略の徹底は凄さがあります。


2. プラスチック戦略の概要

「プラスチック戦略」では、議会の決議として委員会に新たな取り組みを起案しています。

・ライフサイクルアセスメントに基づいて異なる包装材料のそれぞれの特性を考慮し、特にライフサイクルアセスメントに基づいて異なる包装材料の特性を考慮し、予防に対処し、循環性のための設計を考慮して、2020年末までに包装及び包装廃棄物指令における必須要件を改訂し、強化するその義務を果たすよう委員会に求める;

・委員会に対し、「費用対効果の高い方法で再利用可能でリサイクル可能なプラスチック包装」、過剰包装を含む、明確で実施可能で効果的な要件を前進させるよう求める。

・委員会に対し、非包装プラスチック製品についても、リサイクル材料、製品、およびシステムが果たすことができる重要な役割を含めた資源効率と循環性の包括的な原則を作成するよう要請する。

・製品基準の開発、ライフサイクルアセスメント、すべての主要プラスチック製品グループをカバーするようにエコデザイン法的枠組みの拡大、エコラベル規定の採用、および製品環境フットプリント法を実施することは、拡張生産者責任によって達成され得ると考える。


リサイクルされた原料の利用促進も検討されています。

・委員会に対し、信頼を築き、二次プラスチックの市場を奨励するために、品質基準を迅速に推進するように要請する。

・これらの品質基準を策定する際に、公衆衛生、食品安全、および環境を保護しながら、さまざまな製品の機能と互換性のあるグレードでのリサイクルを考慮に入れるように要請する。

・委員会に対し、食品接触材料におけるリサイクル材料の安全な使用を確保し、革新を促進するよう要請する。

・加盟国に対し、リサイクルされたコンテンツを含む製品に付加価値税(VAT)の引き下げを導入することを検討するよう呼びかける。


EU議会の決議「プラスチック戦略」は、ELV指令((EC)2000/53)、廃電池指令((EC)2006/66)、WEEE指令((EU)2012/19)、WFD((EC)2008/98)、包装材指令((EC)94/62)、ErP(エコデザイン指令)((EC)2009/125)などの改正や、SDGs No.14(海に豊かさを守る)の取り組みの方向性を与えます。


3.包装材指令((EC)94/62)の改正

2018年6月14日に包装材指令は、指令(EU)2018/852(*7)により修正されました。


前文で指令の意義を示しています。

前文第1文節:連合の廃棄物管理は、環境保護、保全、環境の質の向上、人の健康の保護、天然資源の効率的かつ合理的な利用の確保、循環経済の原則の促進、再生可能エネルギーの利用の強化、エネルギー効率の向上、輸入資源への連合の依存度の低下を視野に入れて改善されるべきである。 新たな経済機会を提供し、長期的な競争力に貢献する。資源のより効率的な使用はまた、連合の企業、公的機関、消費者に大幅な純節約をもたらす一方で、年間温室効果ガスの総排出量を削減する。


新たなリサイクル対象が第13文節で説明されています。

前文第13文節:より多くのアルミニウムがリサイクルされ、エネルギーの大幅な節約およびCO2排出の削減につながるので、有意な経済的および環境的利益を達成するために、鉄およびアルミニウムについて別個のリサイクル目標を設定すべきである。

したがって、金属包装のための既存のリサイクル目標は、これらの2つのタイプの廃棄物について別々の目標に分割されるべきである。


この前文の理念を受けて、以下の条項が改正されました。


第5条(再利用)

1. 加盟国は、指令2008/98/EC(WFD)の第4条に規定された廃棄物階層に沿って、食品衛生又は消費者の安全を損なうことなく、(国内法で)上市された再利用可能な包装のシェア及び包装を環境上適正な方法で機能運営条約に適合して再利用するためのシステムの増加を奨励するための措置をとらなければならない。

このような手段は、特に、以下を含むことができる。

(a)デポジット・リターン・スキームの使用

(b)定性的または定量的な目標の設定

(c)経済的インセンティブの利用

(d)毎年、各包装ストリームについて市場に投入される再利用可能な包装の最低パーセンテージの設定


第6条のリサイクル目標値は以下に引き上げがされました。

(f)2025年12月31日までに、すべての包装廃棄物の重量65%以上をリサイクルする。

(g)2025年12月31日までに、包装廃棄物に含まれる以下の特定の材料に関して、リサイクルのための重量別の以下の最小目標を達成する。

(i)プラスチックの50%

(ii)木材の25%

(iii)鉄の70%

(iv)アルミニウムの50%

(v)ガラスの70%

(vi)紙と段ボールの75%。

(h)2030年12月31日までに、すべての包装廃棄物の重量70%以上をリサイクルする。

(i)2030年12月31日までに、包装廃棄物に含まれる以下の特定の材料に関して、リサイクルのための重量別以下の最低目標を達成する。

(i)プラスチックの55%

(ii)木材の30%

(iii)鉄の80%

(iv)アルミニウムの60%

(v)ガラスの75%

(vi)紙と段ボールの85%


鉄とアルミニウムは廃棄物の焼却後に分離された金属のリサイクル量となります。


指令は加盟国の国内法で規制されます。包装材指令のドイツ包装法(*8)では、「個人など最終消費者」によって廃棄される包装材のリサイクル目的で、対象はレストラン、ホテル、休憩所、食堂、行政、兵舎、病院、教育機関、慈善施設、映画、オペラ、博物館のような文化部門、ホリデーリゾート、遊園地、スポーツスタジアムのようなレジャー部門などを含めています。


改正法により包装材を利用する中身のメーカーは年間の使用し、流通させる包装材の推定量を新たに組織化されて中央包装登録局(Zentrale Stelle Verpackungsregister)の包装登録データベースに包装材の種類と素材を登録する義務(無料)が課せられました。


“LUCID Packaging Register”により、会社名、住所やVAT ID 番号または税番号と商標名を登録します。


詳細な対象品目リスト(*9)は中央包装登録局が公表しています。


義務者(最初のディストリビューター:ドイツ国内の商品生産者または、生産者が国外企業の場合、ドイツ国内の輸入業者)は“LUCID Packaging Register”に登録した包装材をリサイクル業者に回収を委託しますが、リサイクル業者と回収契約を結び契約金を払うことになります。

 

生物分解性プラスチックについては、前文第17文節で以下を示しています。

生物分解性包装廃棄物の好気性または嫌気性処理にリサイクル率の計算が適用される場合、好気性または嫌気性処理する廃棄物の量は、リサイクルされたとして数えることができる。ただし、このような処理がリサイクル製品、材料または物質として使用されるべき出力を生成する場合に限る。

このような処理のアウトプットは、最も一般的には堆肥または消化物であるが、処理された生分解性包装廃棄物の量と比較して同程度の量のリサイクル含有量を含むならば、他のアウトプットも考慮に入れることができる。


この理念から附属書II 第3項(生物分解可能な包装の要件)が改正されました。

生分解性包装廃棄物は、完成した堆肥のほとんどが最終的にCO2、バイオマスおよび水に分解するような物理的、化学的、熱的または生物学的分解を受けることができるような性質のものでなければならない。

オキソ分解性プラスチック包装は生分解性とは考えてはならない。


オキソ分解性プラスチックは対象外となりました。


EUはUKの離脱、COVID-19のパンデミックによる財政補填の意味もあり、EU委員会は、リサイクルされていない各加盟国で発生するプラスチック包装廃棄物のCall-Rateを均一で0.80ユーロ/kgとする決定(*10)を行いました。

 

利害関係者からは、徴収された資金がリサイクル対策に投資されないことへの反対論がでています。


4.EU以外の規制動向

EU以外でも包装材やプラスチック規制は検討されています。

(1)アメリカ 

アメリカ農務省(USDA)がバイオベースの製品の購入と使用を増やすプログラムバイオプリファード(*11)を推進しています。


(2)アメリカの州法

共通州法で“ The Toxics in Packaging Act 2021”(*12)があります。


(3)日本

バイオマスプラスチックの普及(*13)をしています。


(4)シンガポール

シンガポールはシンガポール包装協定(SPA)(*14)で包装材を管理しています。



次回はEUプラスチック戦略の狙い(その2)として、使い捨てプラスチック(single-use plastic)指令の解説を行います。


(松浦 徹也)


引用

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