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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

インド RoHS(E-Waste)改訂

2022年12月23日更新

インド環境森林気候変動省(Ministry of Environment, Forest and Climate Change:EFCC)は、2022年11月2日にインドRoHS2022(E-Waste (management) Rules:E-Waste2022)1)を公布しました。


本法のドラフトは同年5月19日に公表されて、60日間のパブリックコメントを受付けていました。2)  本法は、旧法RoHS2016(2018年に一部修正4))3)に代わり2023年4月1日から施行されます。


今回の改訂の背景としては、RoHS2016施行後も廃電子電気機器のリサイクル率が思うように向上していない(2020年で20%程度と言われている。)状況で、廃棄物の不法投棄により陸上および海上の環境汚染が加速していることが挙げられます。

以下に改訂の詳細を見ていきます。


1.今回改訂のポイント

今回の改訂で、RoHS2016で条文の構成が全8章24条であったものが、この規則実施全体を監督する「運営委員会」(第25条)の規定を追加して全8章25条になりました。 別表も新たに別表Ⅳ(販売活動年数が短い生産者の拡大生産者目標値)が追加されて全部で5つになりました。 また、別表の後に添付されていた拡大生産者責任承認申請書の書式が削除されています。


主な改訂ポイントは以下の5項目です。

①対象製品群の拡大(2製品群 ⇒ 7製品群)(別表Ⅰ)

②リサイクル目標値の変更(別表Ⅲ、別表Ⅳ)

③環境補償金賦課制度の新設(第8章第22条)

④生産者責任組織の規定を削除(第2章第5条)

⑤ゴミ箱マーク表示義務の規定を削除(第2章第5条)


2.改訂内容の詳細

2.1.対象製品群の拡大

RoHS2016では対象機器は、(i) 情報通信機器と(ii) 消費者向け電子電気機器の2製品群でしたが、製品群として新たに5製品群を新設し、更に(i) 情報通信機器に11品目、(ii) 消費者向け電子電気機器に14品目を追加しています。


対象となる製品群と品目の一部を以下に示します。(詳細は別表Ⅰ参照)


(i) 情報通信機器:(電子電気機器コードITEW17以降が追加)

ITEW1中央データ処理装置:メインフレーム、ミニコン

ITEW2 PC(入出力装置付き中央演算処理装置)

ITEW3 PC:ラップトップPC(入出力装置付き中央演算処理装置)

ITEW4 PC:ノートPC、ITEW5 PC:ノートパッドPC

ITEW6 プリンター(カートリッジを含む)、ITEW7 コピー機

ITEW8 電気・電子タイプライター、ITEW9 ユーザー端末及びシステム

ITEW10 ファックス、ITEW11 テレックス、ITEW12 電話機、

ITEW13 公衆電話機、ITEW14 コードレス電話機、ITEW15 携帯電話

ITEW16 留守番電話システム

-----------以下追加機器-------------------

ITEW17 電気通信により、音、映像、その他の情報を伝送する製品又は機器

ITEW18 基地局(タワー構造を除くすべての構成物)

ITEW19 タブレット、I-PAD、ITEW20 ファブレット、ITEW21 スキャナ

ITEW22 ルーター、ITEW23 GPS、ITEW24 UPS、ITEW25 インバータ

ITEW26 モデム、ITEW27 電子データ記憶装置


(ii) 消費者向け電子電気機器及び太陽光パネル(CEEW6以降が追加)

CEEW1 テレビ、CEEW2 冷蔵庫、CEEW3 洗濯機、CEEW4 空調機器

CEEW5 蛍光灯など水銀を含むランプ

-----------以下追加機器-------------------

CEEW6 スクリーン、電子フォトフレーム、電子ディスプレイパネル、モニター

CEEW7 ラジオセット、CEEW8 セットトップボックス、CEEW9 ビデオカメラ

CEEW10 ビデオレコーダー、CEEW11 HiFiレコーダー

CEEW12 オーディオアンプ

CEEW13 その他、音や映像の記録・再生を目的とした製品・機器(電気通信による音や映像の配信のための信号やその他の技術を含む)

CEEW14 太陽電池パネル/セル、太陽光発電パネル/セル/モジュール

CEEW15 家庭用照明器具を除く蛍光灯用照明器具

CEEW16 高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプを含む高輝度放電ランプ

CEEW17 低圧ナトリウムランプ

CEEW18 フィラメント電球を除くその他の照明器具または光の拡散若しくは光の制御を目的とした機器

CEEW19 デジタルカメラ


(iii) 大型及び小型の電子電気機器(新設)

LSEEW1 大型冷却装置、LSEEW2 冷凍庫、

LSEEW3 その他、食品の冷蔵・保存・貯蔵に使用される大型家電製品

LSEEW4 衣類乾燥機、LSEEW5 食器洗い乾燥機、LSEEW6 電気調理器、

LSEEW7 電気ストーブ、LSEEW8 電気ホットプレート、

LSEEW9 電子レンジ、オーブンレンジ、

LSEEW10 その他、調理などの加工に使用する大型家電製品、

LSEEW11 電気暖房器具、LSEEW12 電気式ラジエーター、等34機器


(iv) 電子電気工具(大型の据付型産業用工具を除く)(新設)

EETW1 ドリル、EETW2 のこぎり、EETW3 ミシン、等8機器


(v) 玩具・レジャー・スポーツ用品(新設)

TLSEW1 電車やカーレースのセット、TLSEW2 携帯型ゲーム機、

TLSEW3 ビデオゲーム、

TLSEW4 自転車、ダイビング、ランニング、ボートなどのコンピューター

TLSEW5 電子電機部品を使用したスポーツ用品、

TLSEW6 コイン型スロットマシン


(vi) 医療機器(すべての移植用機器、感染防止機器を除く)(新設)

MDW1 放射線治療装置・付属品、MDW2 循環器関連機器・付属品

MDW3 透析装置・付属品、MDW4 肺活量計・付属品、等10機器


(vii) 研究用機器(新設)

LIW1 ガス分析器、LIW2 電気電子部品を有する機器


2.2.リサイクル目標値の変更

RoHS2016では、2023年以降のリサイクル目標値を70%としていましたが、今回の改訂では2023年~2025年の目標値を60%に変更し、2027年までに70%、2028年以降は80%とする目標値が再設定されました。2022年現在のリサイクル率が20%程度であると言われていることから、依然として高い目標設定となっています。

なお、今回の改訂により追加された太陽光発電モジュール/パネル/セルから発生する廃棄物にはリサイクル目標値は設定されないことが明記されています。 ただし、第5章第12条で、2035年までに発生した廃棄物は、製造業者および生産者が保管することが義務づけられています。


また、2029年度末以降に関しては今後目標値を上げる可能性があることが示唆されています。


2.3.環境補償金賦課制度の新設

RoHS2016では、拡大生産者責任に基づき「規定違反に対して課される罰金を支払う責任を負う」ことが明記されていましたが、罰金の詳細に関しては明記されていませんでした。 今回の改訂で「環境補償金」が新設されて、本法及び本法に基づき発行されるガイドラインに違反した場合には、生産者に「環境補償金」が賦課・徴収されることになりました。

「環境補償金」は、未登録の生産者、製造者、再生業者、リサイクル業者、及び法律違反を幇助するあらゆる事業者にも課せられます。


また、「環境補償金」の支払いにより拡大生産者責任を免れることはできず、未達成の拡大生産者責任は翌年以降最大3年間繰り越されることになります。


ただし、1年後に不足が解消された場合には支払った「環境補償金」の85%が返還されます。 不足解消が2年後では60%、3年後では30%が返還されます。

一方で、3回以上違反があった場合には、登録が永久抹消される厳しい規定になっています。


2.4.生産者責任組織の規定を削除

RoHS2016では「第2章第5条生産者の責任(g)」で、拡大生産者責任を果たす方法の一つとして他の生産者と共同で「生産者責任組織(Producer Responsibility Organisation:PRO)」を作り、提携して対応することができる旨の条文がありました。

RoHS2022では第5条が大幅に簡素化されて上記条文が削除されています。ただし、「第6章第13条拡大生産者責任制度の様式」で、拡大生産者責任の義務を果たす際に「生産者責任組織(PRO)、回収センター、販売業者などの第三者機関の助けを借りることもできる。」との規定がありますので、実質的には(PROの定義が無いものの)従来どおりPROを使うことで問題が無いと解釈できます。


2.5.ゴミ箱マーク表示義務の規定を削除

ゴミ箱マーク表示義務に関しても、第2章第5条の簡素化と同時に削除されています。こちらは他の条文にも代わりとなる規定がないことから、今後は表示義務が無くなると解釈できます。

筆者の推測ですが、今回の改訂で一般に出回る電子電気機器のほとんどすべてが対象製品となりましたので、あえてゴミ箱マークを表示する必要が無くなったのではないかと思います。


3.まとめ

以上今回のRoHS改訂の内容を見てきましたが、対象製品の大幅な拡大が行われており、結果的にほとんどすべての電子電気機器が対象となりました。 この方式では、新たな電子電気機器が出るたびに追加修正が必要になりますので、EU/RoHS方式5)の対象製品定義(使用電圧と機能で定義)と適用除外製品(用途)の組み合わせにするやり方に移行する方が合理的に思えます。

また、罰則規定を厳しく設定していますが、足下の実態と目標値の乖離が大きいことが懸念材料です。


(杉浦 順)


参考文献:

1) インドRoHS2022


2) インドRoHS2022ドラフト


3) インドRoHS2016


4) インドRoHS2016の一部修正


5) RoHS指令((EC) No 65/2011)

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