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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

GPSDからGPSRへ 消費者保護強化の潮流 (その2)

2023年12月25日更新

2023年5月23日のOJ(Official Journal of the European Union 官報)で告示されたGPSR(General Product Safety REGULATION (EU) 2023/988)(*1)は、EUの消費者政策が垣間みられます。

第1回「消費者保護法強化の動向の解説」(2023年12月1日掲載コラム)(*2)に続けて、今回はその2として、GPSRの狙いを中心に解説します。

1.GPSRの対象(前文第8文節から第20文節)


RoHS指令、REACH規則や玩具指令などで、化学物質含有規制などで安全を要求しています。これらの規制法とGPSRの関係は以下のように整理されています。


※ 前文では規制に関する事項は“・・should・・”と記述され、規制条項は“・・shall・・”と記述されています。この解説では、分かりやすくするために前文でも「しなくてはなりません」のような記述としています。

(i)GPSRはすべての製品が対象となり、特定製品に特定要求が他のEU法で定めている場合にのみ、その規定を優先するものです。

(ii) 一般的な製品安全性要求(第5条)と関連条項は、EU法で規定されていない場合は消費者製品に適用されます。

(iii) ネット販売またはその他の遠隔販売手段等での提供者の義務、事故が発生した場合の経済事業者の義務、情報に対する権利及び消費者の救済、並びに製品安全リコールに関するGPSRの規定が適用されます。

ネット販売等の手段を通じて提供される製品の場合は、販売がEUの消費者を対象とする場合は上市とみなされます。

(iv)GPSRの規定によるRAPEXは、既にEU法の目的のために使用されており、セーフティゲートは、EU法の対象となる製品に適用されます。

(v)業務用に設計されているが、その後消費者市場に移行した製品は、合理的に予見可能な条件下で使用された場合には、消費者の健康と安全にリスクをもたらす可能性があるためGPSRの対象となります。

(vi)GPSRの対象とならない製品は以下です。

・医薬品

・食品および飼料製品

ただし、食品と接触することを意図した材料及び品目はGPSRの対象です。

・生きている植物、動物の副産物

・農薬、植物保護製品

・航空機

・消費者が、修理されるか又は再生利用されることが明示的に示されている製品、又は歴史的に重要な収集可能な品目として市場で入手可能にされている製品など、最先端の安全基準を満たすと合理的に期待できない製品

ただし、修理され、再生利用され、商業的にサプライチェーンに再参入する中古製品やリサイクル製品は対象です。

・サービス

ただし、消費者の健康及び安全を保護するために、サービスの提供に関連して消費者に供給され、又は提供される製品、消費者がサービスの提供中に直接ばく露される製品は、対象です。

しかし、消費者が乗車し又は旅行する装置であって、サービス提供者によって直接操作されるものは除外されます。

・美術品や骨とう品


2.製造者の義務(前文第22文節から第37文節)

経済事業者(製造者、代理人、輸入者及び流通業者)にはリスクベースでの新たな対応が幅広く要求されています。以下の要求への企業としての対応を検討しておくことが肝要で、新製品開発段階でのデザインレビューの実施や記録が求められます。

(i)一般安全要件(第4条)に基づいて、経済事業者は、安全な製品のみを市場に出す義務があります。高いレベルの安全性は、主として、製品の意図された予見可能な使用及び使用条件を考慮した上で、製品の設計及び特徴を通じて達成し、残りのリスクは、警告や指示のような特定の安全対策によって軽減しなくてはなりません。


安易な警告表示は許されないことになります。


(ii)製品の安全性は、その製品のすべての関連する側面、特に物理的、機械的及び化学的特性及びその表示等の特性、並びに当該製品を使用する可能性のある特定のカテゴリーの消費者、特に子供、高齢者及び障害者に対して製品が示す特定のニーズ及びリスクを考慮して評価しなくてはなりません。

これらのリスクには、消費者の健康と安全に対するリスクをもたらす環境リスクも含まれます。

この評価では、特に脆弱な消費者や子供のメンタルヘルスに対するリスクを含めてデジタル的に接続された製品がもたらす健康リスクを考慮します。


しかし、EUでは、脆弱な消費者や子供の定義は曖昧です。


(iii)すべての製品の安全性は、製品がその全寿命にわたって安全である必要性を考慮に入れて評価します。


(iv)他の製品に接続する製品は製品の安全性に対するリスクをもたらす可能性があり、潜在的なリスクとして十分に考慮します。


(v)一般安全要件の効果的かつ一貫した適用を促進するために、特定の製品及びリスクを対象とするEN規格を利用することが重要です。

EN規格がない場合には、製品が市場で利用可能にされている加盟国の国内法で、健康と安全の要件に適合させます。


(vi)経済事業者は、製品の識別及び経済事業者の識別情報、製品に関する指示及び安全情報を、QRコードやデータマトリックスコード等のデジタル形式で提供することができます。


(vii)製造者は、上市した製品に関する内部リスク分析による技術文書を作成し、それらの製品が安全であることを証明するための必要な情報を含めます。

技術文書で提供される情報の量は、製品の複雑さと製造者が特定した潜在的なリスクに比例しなければなりません。


(viii)自らの名称もしくは商標の下で製品を上市する、又はGPSRの要件に適合するように製品を実質的に変更する自然人又は法人は、製造者であるとみなされ、製造者の義務を負います。


(ⅸ)製品の改造は、その製品の性質及び特性に影響を及ぼす可能性があり、そのような場合は、製品の改造者が製造者となり新製品とみなされます。


3.規制条項

前文は規制する理由(Why)が記述されていますが、条項は要求事項(What)が記述されています。対応手順(How)は、企業が検討しますが、規制の背景、理由の本質が理解できると対応策が幅広くなり、知恵がだせます。


第1条から第52条までの規定は、前文と重複する内容ですが、基本条項を改めて紹介します。

第1条 目的及び内容

(1) 本規則の目的は、高いレベルの消費者保護を提供しつつ、内部市場の機能を改善することである。

(2)本規則は、市場に出され又は市場に提供される消費者製品の安全に関する基本的な規則を定める。


第2条範囲

前文と同じ規定です。


第3条 定義

(1)「製品」とは、他の品目と相互接続されているかどうかにかかわらず、サービスの提供含めて、消費者を対象としたもの、または合理的に予見可能な条件下で、消費者を意図していなくても消費者が使用する可能性が高いものを意味する。

(2)「安全な製品」とは、実際の使用期間を含む、通常または合理的に予見可能な使用条件の下で、製品の使用と互換性のあるリスクを伴わないか、最小限のリスクのみをもたらさず、許容可能であり、消費者の健康と安全の高レベルの保護と一致すると見なされる製品を意味する。

(3)「危険な製品」とは、「安全な製品」ではない製品を意味する。

(4)「リスク」とは、危害を引き起こす危険の発生確率と、その危害の重大性の程度の組み合わせを意味する。

(5)「重大なリスク」とは、リスク評価に基づき、製品の通常かつ予見可能な使用を考慮し、市場監視当局による迅速な介入が必要であると考えられるリスクを意味し、リスクの影響が即時的でない場合を含む。


「通常かつ予見可能な使用」のリスク評価は、間違った使用も含めます。例えば、電池の交換で+と-を逆にセットすることは予見可能な(間違った)使用方法です。


第4条 遠隔販売

前文と同じです。


第5条一般的な安全要件

経済事業者は、安全な製品のみを上市または提供しなければならない。


安全な製品要件は、GPSPには記述されていなく、経済事業者が自らEN規格(あれば)などを頼りに合理的に予見可能な条件安全性を考慮してリスク評価しなくてはなりません。経済事業者にとって厳しい要求です。


第6条 製品の安全性評価の側面

(1)製品が安全な製品であるか否かを評価する際には、特に以下の点を考慮すること。

(a)製品の特性(設計、技術的特徴、構成、パッケージ、組み立て説明書、および該当する場合は設置、使用、保守など)

(b)製品が他の製品と一緒に使用されることが合理的に予見可能な場合、それらの製品の相互接続を含めて他の製品への影響

(c) 評価対象の製品に対して他の製品が及ぼす可能性のある影響、特にその製品と一緒に使用されることが合理的に予見される他の製品の影響、評価対象の製品の動作を決定、変更、または完成させるために意図された非組み込みアイテムの影響を含めて、これら評価対象の製品の安全性を評価する際に考慮しなければならない要素である。(以下略)


他製品との接続使用の場合のインターフェースは問題を起こしがちです。他製品との接続についてもリスク評価対象とすることが重要です。


第7条 一般的な安全要件への適合性の推定

(1)製品は以下の場合に、本規則の第5条に定められた一般的な安全要件に適合していると推定される

(a)リスクとリスクカテゴリーに関して、関連する欧州規格またはその一部に適合し、その参照が規則(EU)1025/2012(*3)の第10条(6)に従ってOJに掲載されている場合

(途中略)


(3)ただし、第1項に基づく一般的な安全要件への適合性の推定は、そのような推定にもかかわらず製品が危険であるという証拠がある場合、市場監視当局がGPSRに基づくすべての適切な措置を講じることを妨げるものではない。


第9条 製造者の義務

(1)製品を市場に投入する場合、製造者は、それらの製品が第5条に定められた一般的な安全要件に従って設計および製造されていることを確認するものとする。

(2)製品を市場に投入する前に、製造者は内部リスク分析を実施し、少なくとも製品の一般的な説明とその安全性の評価に関連するその本質的な特性を含む技術文書を作成するものとする。

製品に関連する可能性のあるリスクに関して適切な場合、第1項で言及されている技術文書には、該当する場合、次のものも含めるものとする。

(a)製品に関連する可能性のあるリスクと、そのリスクを排除または軽減するために採用されたソリューションの分析

(b)第7条(1)のポイント(a)で言及されている関連するENのリスト、または第7条(1)、ポイント(b)または第5条に定められた一般的な安全要件を満たすために適用される第8条(製品の安全性を評価するために考慮すべき追加要素)で言及されているその他の要素(国際規格や安全性に関する消費者の合理的な期待など)

(3)製造者は、第2項で言及されている技術文書が最新であることを確認するものとする。製品が市場に出回ってから10年間、市場監視当局が自由に使えるように保管し、要求に応じてその文書を市場監視当局が利用できるようにするものとする。

(4)製造者は、第5条に規定された一般的な安全要件に準拠し続けるために、連続して生産される製品のための手順が整っていることを確認する。

(5)製造者は、製品にタイプ、バッチ、シリアル番号、または製品の識別を可能にし、消費者にとって見やすく読みやすいその他の要素、または製品のサイズまたは性質が許可しない場合は、必要な情報がパッケージまたは製品に付属する文書に記載されていることを確認する必要がある。

(6)製造者は、名称、登録商号または登録商標、住所等の連絡可能な単一の連絡先の住所または電子住所を表示する。その情報は、製品、またはそれが不可能な場合は、パッケージまたは製品に付属する文書に記載する。

(7)製造者は、製品が市場に出回る加盟国によって決定された消費者が容易に理解できる言語で、製品に明確な指示と安全情報を添付する。

(8)製造者が、その製造者の所有する情報に基づいて、上市した製品が危険製品であると考えるか、または信じる理由がある場合、製造者は直ちに次のことを行うものとする。

(a)必要に応じて、撤回またはリコールを含め、製品を効果的に適合させるために必要な是正措置を講じる。

(b)第35条(経済運営者およびネット販売のプロバイダーから消費者への製品の安全性に関する情報)または第36条(リコール通知)あるいはその両方に従って、消費者に通知する。

(c)Safety Business Gatewayを通じて、製品が市場で入手可能になった加盟国の市場監視当局に通知する。  (以下略)


製造者これら要求法的要求事項を自社のマネジメントシステム(ISO9001やエコステージなど)の手順に組み込み、内部監査や評価機関のサーベランスでPDCAのサークルを回すことが対応となります。

この仕組みが順法システム(CAS  Compliance Assurance System)と言われるもので、構成している手順書類が技術文書(Technical Documents)となります。


手順書類は膨大で、ノウハウも記述されていますので、要求により外部公開する技術文書(Technical Documentation)は、順法システム(CAS)の説明とします。

Technical Documentationは、順法説明書でISO9001などの「品質マニュアル」に相当するものです。


通常または合理的に予見可能な使用条件の下で、製品の使用と互換性のあるリスクや他製品との組み合わせ評価が要求されますので、DoC(Declaration of Compliance)を発行して、明確にすることも一つの方法です。


なお、DoCはCEマーキングでは、Declaration of Conformity) です。

TDとDoCの訳語が分かり難くお詫びします。


次回はGPSDからGPSRへ 消費者保護強化の潮流(その3)として、RAPEX(Safety Gate)とRAFSSについて解説します。

RAFSSはRAPEXに類似したRAPEXの対象外の食品関連の緊急情報システムをテーマとします。


(松浦 徹也)


引用

*1:GPSR


*2:第1回「消費者保護法強化の動向の解説」


*3:規則(EU)1025/2012

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