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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

f欧州化学品庁(ECHA)がREACH規則に関する4物質グループの規制ニーズを公表

2022年07月22日更新

欧州化学品庁(ECHA)は、2015年に統合規制戦略を発表し、2027年末までにREACH規則に基づいて登録されている全ての登録物質にリスク管理または新たなデータ生成の優先順位を付けることを目標として掲げています。 この前段階として「規制ニーズ評価」があり、2021年12月の情報では100t超(348物質)、1~100t(333物質)が規制ニーズ評価の対象になっています(1)。


規制ニーズの評価は、EU内で規制によるリスク管理が必要であること、または現在EU

内では更なる規制措置が必要ではないと判断していく作業で、規制によるリスクの管理手段とデータ生成などの中間ステップの組み合わせについて当局の判断を支援することを目的としています。 したがって、規制ニーズの評価そのものに法的拘束力はありませんが、潜在的な規制措置に関する透明性のある情報であり、企業など利害関係者にとって注目すべき情報と考えられます。 今回、ECHAは新たに4つの物質グループについて、規制ニーズの評価を公表しました。


今回のコラムでは4物質の中でも幅広い用途が想定されている「ジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類」を中心に考えてみます。


◆ジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類(2)

ジルコニウムに着目し、ジルコニウムを含む単純な無機化合物としてグループ化しています。 2021年12月時点の化学物質の登録情報(chemical universe list(1))によると「ジルコニウム」の単語を含む物質は64物質が確認できます。これらのうち、酸化カルシウムジルコニウム(CAS 11129-15-0)と酸化マグネシウムジルコニウム(CAS 39318-32-6)など100t超の使用量で登録されている物質が21物質あり、ジルコニウムを含む物質はEU内で多量に使用されていることわかります。 規制ニーズ評価はこのような多量に使用されている物質に対する社会的影響を考慮し、実施したものと考えられます。


ECHAの統合規制戦略に沿って当局ECHAがREACHおよびCLP規則の下で取り組んでいる物質固有の活動の概要を提供するツールとしては、公共活動調整ツール(PACT)があります(3)。 このPACTで先と同様に「ジルコニウム」の単語を含む物質を調査すると40物質が現在対象となっていることがわかります(2022年7月現在)。 今回の規制ニーズ評価においてグループ化されているのはこれらの中の31物質です。残る9物質はジルコニウムを含む複合金属酸化物などであり、ジルコニウム以外の対応する金属のグループ評価で扱われるか、または扱われてきました。 この9物質の中にはSVHCとして特定されている「ジルコン酸チタン酸鉛(CAS 12626-81-2)」や混合物である「フリット、化学薬品(CAS65997-18-4)」を含みます。 こうした内容からグループ化にあたり、グループ名は「単純な(simple)」をつけたジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類にしたものと思われます。

ジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類は、使用例として、洗浄や潤滑剤、医薬品、セラミック、コーティングなど、幅広い用途があげられています。 グループ内の一部の物質の用途は、専門家などから消費者および物品の耐用年数にまで及ぶ可能性があるとしており、用途や使用環境なども規制ニーズ評価の判断材料となっています。

今回の規制ニーズ評価では、現在入手可能な情報に基づきグループ内のすべての物質に対する(さらなる)EU規制リスク管理の必要なしと結論づけています。 理由としては、生物学的観点からジルコニウムは体内への取り込みが少なく生体内蓄積するとは予想されていないことや生態毒性の高い銀イオンを放出する可能性がある銀をドープした酸化ジルコニウム(CAS なし(EC 414-390-9))においても魚やミジンコへの急性影響や藻類への影響は観察されないことがあげられています。 ただし、ジルコニウムは生分解できないため、環境中には残留するとみなされています。


規制ニーズが公表された残りの3物質は、以下に評価結果の概要を記載します。


◆アルキルジメチルベタイン類(4)

分子中の「ベタイン構造」に着目して、アルキルジメチルベタイン類としてグループ化しています。このグループはさらにサブグループとして「アルキルベタイン類」と「アルキルアミドプロピルベタイン類」に分けられています。

実施した規制ニーズ評価では、現在入手可能な情報に基づきグループ内のすべての物質に対する(さらなる)EU規制リスク管理の必要なしと結論づけられました。 ただし、危険性や使用法など新しい情報が追加された場合、文書が更新され結論とアクションが再検討される可能性があります。


◆ジアルキルジチオリン酸のチオアルキル酸とそのエステル類(5)

ジアルキルジチオリン酸のチオアルキル酸とそのエステル類は、アルキル化ジチオホスフェート部分の存在に基づいて、構造的に類似した物質をグループ化しており、9つの物質が対象物質としてあげられています。


グループ内にREACH規則に基づく登録情報などから有害性を推定することが困難な物質が存在することから、EU規制リスク管理の必要があると結論づけられています。

このグループの今後のアクションとしては、未特定物質についてSVHCに関する判断を行い、SVHCと特定した場合、REACH規則における「制限」による規制が推奨されています。


◆テトラヒドロキシメチルおよびテトラアルキルホスホニウム塩類(6)

テトラヒドロキシメチルおよびテトラアルキルホスホニウム塩部分の存在に基づいて、構造的に類似した物質をグループ化しています。このグループはさらに「テトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩およびそれらのアミンとの縮合生成物」(サブグループ1)と「テトラアルキルホスホニウム塩」(サブグループ2)の2つのサブグループに分割しています。

サブグループ1となる「テトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩およびそれらのアミンとの縮合生成物」は、遊離ホルムアルデヒドが潜在的な皮膚および吸入暴露に関連している可能性があるとされています。

今後のアクションとしては、発がん性、生殖毒性、および放出/曝露の可能性による反復曝露などに関する調和された分類と表示があげられています。

サブグループ2となる「テトラアルキルホスホニウム塩」は構造的に関連のあるサブグループ1の物質で特定されている有害性情報から生殖(発生)毒性の可能性が推定されています。

今後のアクションとしては、コンプライアンスチェックや調和された分類と表示があげられています。


◆最後に

今回、ECHAが公表した4つのグループに対する規制ニーズ評価のうち幅広い用途が想定される「ジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類」を中心に取り上げました。 このような規制ニーズを評価する場合、EU規制リスク管理の必要ありという結果を想像しがちですが、「ジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類」は、EU規制リスク管理の必要なしとの結論でした。


また、4グループ全体で見ると2つのグループが追加のEU規制リスク管理アクションなし、残る2つのグループが追加のEU規制リスク管理アクションの必要性ありとの判断です。

EUによる追加規制の動向も気になるところですが、追加のEU規制リスク管理アクションなしと判断された物質(グループ)については、追加規制による使用リスクが低い物質(グループ)と捉えることもできます。 企業においては、これらの物質(グループ)をいわゆる残念な代替品の回避や規制が追加される可能性が低いものとしてリストアップし、自社製品に反映していくなどの活用法が想定されます。

規制ニーズ評価は統合規制戦略を達成する上での中核の一つであり、企業においても様々な活用方法が考えられる有用性の多い情報と考えられます。


(1) Universe of registered substances


(2) 規制ニーズ評価:ジルコニウムとジルコニウムを含む単純な無機化合物類


(3) 公共活動調整ツール(PACT)


(4) 規制ニーズ評価:アルキルジメチルベタイン類


(5) 規制ニーズ評価:ジアルキルジチオリン酸のチオアルキル酸とそのエステル類


(6) 規制ニーズ評価:テトラヒドロキシメチルおよびテトラアルキルホスホニウム塩類


(長野 知広)


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