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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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GPSDからGPSRへ 消費者保護強化の潮流 (その3)

2024年03月08日更新

2023年5月23日のOJ(Official Journal of the European Union 官報)で告示されたGPSR(General Product Safety REGULATION (EU) 2023/988)(*1)は、EUの消費者政策が垣間みられます。


第1回「消費者保護法強化の動向の解説」(2023年12月1日掲載コラム)(*2)、第2回(2023年12月25日掲載コラム)(*3)に続けて、今回はその3(最終回)として、リコール命令などで日本企業が気にしている“RAPEX”について解説します。


1.RAPEX

日本企業が定期的に訪問するEUのWebサイトの一つが“Safety Gate”(*4)の“alerts”と思います。

“Safety Gate”は、消費者向け製品の早期警戒監視システムRAPEX(Rapid  Exchange of Information System) と言われていました。


GPSD(指令(EC)2001/95)の第12条による「消費者の健康と安全に重大なリスクをもたらす製品に対して講じられる対策と措置について」、加盟国とEU委員会の間で迅速な情報交換を行うためのEU迅速情報システム(「RAPEX」)を確立しています。


Safety Gate(Safety Gate Rapid Alert System)と名称は異なっても、RAPEXと同様に危険な製品に関する情報交換システムで、EUによって運用されています。 このシステムは、EU委員会と加盟国が危険な製品と関連する対策の情報交換に使用されます。


経済事業者(製造者、輸入者や流通者など)が、危険な製品と認識した時の当局に通知する“Safety Business Gateway”(Product Safety Business Alert Gateway.)が用意されています。

Safety Gateは以下の製品に適用されます。

・消費者向けの消費財、例えばおもちゃ、電気機器、自動車、化粧品

・専門家向けの製品や環境リスクを伴う製品

ただし、医薬品、医療機器と用品、食品などの製品は、このシステムの対象外です。


Safety Gateの摘発対象製品を見ますと、RoHS指令やREACH規則の不適合品だけでなく、医薬品あるいは医療機器に類似した保護具の粒子フィルターマスク(*5)や歯のホワイトニングジェル(*6)なども摘発されています。


手袋(*7)や子供用パジャマ(*8)などの衣料品も摘発されていますが、車両総重量20トンラスのトラック(*9)の摘発もあり、消費者の考え方は幅広です。

 

Safety Gateの対象とRAPEXの目的を、前文で以下のように示しています。


前文第1文節で「GPSDは、消費者製品が安全でなければならず、加盟国の市場監視機関が危険な製品に対して行動を起こし、その効果をRAPEXで情報交換することが必要であるという要件を定めている」とし、第2文節で「新技術やオンライン販売に関連する進展」の社会的情勢の変化や、指令(EEC)87/357で規定している食品模造品(食品ではないものの、消費者、特に子供が製品を混同することが予見できるような形状、匂い、色、外観、包装、表示、容量またはサイズを有する製品)を含めて、明確な枠組みを確保する」としています。


さらに、第3文節では、指令から規則にした背景を説明しています。


規則は、加盟国による異なる移行の余地を残さない明確で詳細なルールを課すための適切な法的手段である。指令ではなく規則を選択することで、EU調和法の範囲内にある製品に対する市場監視枠組みとの整合性を確保するという目的の達成がより良くなる。

ここで適用される法的手段も規則(EU)2019/1020(*10)(規則765/2008(製品のマーケティングに関する認定と市場監視の要件)の改定規則))である。

このような選択は、EU市場での製品安全規則の一貫した適用を通じて、規制負担をさらに軽減する。


EU市場はGPSRで統一した規制がされることになり、GPSRはGPSDを引き継いでいますので、RAPEXも継続して重要視されます。


2.市場監視当局の権限

法令不遵守製品は、製造者、代理人、輸入者、販売店などの企業が危険な製品や事故について加盟国の市場監視当局に第25条“Safety Business Gateway”によるWebポータル“Safety Business Gateway”(*11)で、加盟国市場監視当局、EU委員会や製造者などの関係者で情報交換、共有します。


市場監視や措置は、規則(EU)2019/1020で実施されます。


規則(EU)2019/1020は、第14条(市場監視権限)1項で「加盟国は、市場監視当局に対し、本規則の適用及び同盟の調和立法の適用のために必要な市場監視、調査及び執行の権限を付与する。」としています。

執行権限は、4項で少なくとも以下の権限が与えられます。(部分意訳)

(a)経済事業者に対し、関連文書、技術仕様書、データまたは製品の適合性および技術的側面に関する情報を提供することを要求する権限

対象製品に適用されるEU調和法を遵守しているかどうかを評価するために必要である場合に限り、当該文書、技術仕様書、データまたは情報を、保存媒体または当該文書、技術仕様書、データもしくは情報が保存されている場所にかかわらず、あらゆる形式で提供することを要求する権限、ならびに当該文書、技術仕様書、データまたは情報の取得またはコピーを要求する権限;

(b)経済事業者に対し、供給網、流通網の詳細、市販されている製品の量、及び当該製品と同一の技術的特徴を有する他の製品モデルについて、EU調和法に基づく適用される要件を遵守するために関連する情報を提供することを要求する権限;

(c)当該情報が調査の対象に係るウェブサイトの所有権の確認のために必要な情報を経済事業者に提供させる権限;

(d)製品の非公表の立入検査及び物理的検査を実施する権限;

(e)当該経済事業者が不適合を特定し、かつ、証拠を入手するために、当該経済事業者の事業、事業、工芸品又は職業に関連する目的のために使用する土地、敷地又は輸送手段に立ち入る権限;

(f)不適合を特定し、それらを終結させるために、市場監視当局自身の主導で調査を開始する権限;

(g)不遵守の事例を終結させ、又はリスクを排除するために適切な措置をとることを経済事業者に要求する権限;

(h)経済事業者が適切な是正措置を講じない場合、又は不適合もしくはリスクが継続している場合には、適切な措置を講じる権限(市場における製品の提供を禁止もしくは制限する権限、又は製品の自らの回収もしくは経済事業者に回収を命ずる権限を含む。);

(i)第41条の規定による刑罰を科する権限;

(j)製品サンプルを入手する権限(秘密の識別を含む)、それらのサンプルを検査し、不適合を特定し、証拠を得るためにそれらを分解する権限;

(k)重大なリスクを排除するために他の有効な手段が利用できない場合の権限:


加盟国の監視当局は上記権限で不遵守に対する措置を決定します。


3.摘発手順

CEマーキング製品はニューアプローチ指令によるマーキングですので、加盟国は受け入れる義務があります。 しかし、市場監視当局がニューアプローチ指令やREACH規則などのEU調和法に対する適合性に疑義がある場合は、自由流通を阻止するセーフガード手続きを発動する権限があります。

一般的には、EUが第三国に対して、アンチダンピングなどでEU市場の混乱を避けるために発動します。この手順は規則(EU)2019/287(*12)に定めています。


一方、CEマーキング製品などは、EU調和法の適合宣言がされていること、第三国についてはTBT協定への考慮が必要となりますので、慎重な手続きが求められます。


摘発手順は、エコデザイン規則案(*13)に具体的に示されており、共通手順と思われますのでご紹介します。


エコデザイン規則案では、第63条に加盟国でのセーフガード手続きが規定されています。

第63条 加盟国レベルでリスクを有する製品の処理手順


1. 加盟国の市場監視当局が、対象となる製品がリスクをもたらすと信じるに足る十分な理由を有している場合には、市場監視当局は、リスクに関連し、かつ、本規則又は関連する委任された行為に定められたすべての要件を対象とする評価を実施しなければならない。関係経済事業者は、必要に応じ、市場監視当局に協力しなければならない。


市場監視当局は、当該評価の過程で、当該製品が委任された行為に定められた要件を満たしていないと認める場合には、遅滞なく、市場監視当局が定める合理的な期間内に、かつ、その性質に応じて、かつ、該当する場合には、違反を終結させるために、適切かつ比例的な是正措置をとることを関係経済事業者に要求しなければならない。

市場監視当局は、関係する公認機関にその旨を通知しなければならない。

経済事業者が講じるべき是正措置には、規則(EU)2019/1020第16条(3)に列挙されている(製品が市場で入手可能になるのを妨げる。製品をただちに回収し、存在するリスクについて公衆に警告する措置を含めることができる。など)

2.市場監視当局は、非遵守が自国の領域に限定されないと考える場合には、評価の結果及び経済的事業者に講じることを要求した措置について、EU委員会及び他の加盟国に通知しなければならない。

3.経済事業者は、EU全域において市場で利用可能にしたすべての関連製品に関して、すべての適切な是正措置が講じられることを確保する。

4.関係経済事業者が1の第2段落にいう期間内に是正措置をとらない場合又は不遵守が継続する場合には、市場監視当局は、当該製品を国内市場で入手することを禁止し又は制限し、当該製品を当該市場から撤退させ、又は当該製品を回収するためのすべての適当な暫定措置をとる。

EU委員会及び他の加盟国に対し、これらの措置を遅滞なく通知しなければならない。

5.4に規定するEU委員会及び他の加盟国への情報は、規則(EU)2019/1020第34条に規定する情報通信システムを通じて伝達されるものとし、すべての利用可能な詳細、特に、不適合製品の識別に必要なデータ、製品の原産地、主張される不適合及び関係する不適合の性質、とられた国内措置の性質及び期間、並びに関連する経済事業者が提示する主張を含むものとする。また、市場監視当局は、不遵守が次のいずれかによるものであるか否かを示すものとする:

6.手続を開始した加盟国以外の加盟国は、遅滞なく、EU委員会及び他の加盟国に対し、採用された措置、及び当該製品の不適合に関する追加情報、並びに、通告された国内措置に同意しない場合には、その異議を通報する。

7.4に規定する情報を受領した後3ヶ月以内に、加盟国又はEU委員会のいずれかが、加盟国によりとられた暫定措置について異議を提起しなかった場合には、当該措置は、正当とみなされる。

措置は、関係する製品又は要件の特異性を考慮するために、3ケ月前後の期間を定めることができる。

8.加盟国は、関係する製品又は製造者に関して、製品の市場からの撤退のような適切な制限的措置が遅滞なくとられることを確保しなければならない。


第 64 条で、加盟国またはEU委員会が、第 63 条に定められたセーフガード手順に基づいて国家レベルで講じられる措置に同意しない場合に使用するEUセーフガード手順を定めています。


注:EUで利用される通知システムとしては、以下などがあります。

Safety Business Gateway:加盟国市場監視当局、EU委員会や製造者などの関係者で情報交換、共有に利用されています。

ICSMS(Information and Communication System for Market Surveillance): EU委員会、税関及び市場監視当局が利用する通信システムで、加盟国市場監視当局間の情報の共有に利用されます。


ICSMSの意図などは、エコデザイン規則案の前文に詳述されています。

RAPEX:Safety Gate Rapid Alert System のパブリックインターフェースである Safety Gate ポータル(Safety Gate EU rapid alert system for dangerous non-food products)で 消費者への情報提供システムとして利用されています。


これらの通知システムは、従来はバラバラに運用されていましたが、システム間の情報共有がされ、さらにオンライン販売などのビジネスモデルの進化に対応するために開発が進んでいます。


「Safety Gate」を管理するためのガイドラインが決定 (EU) 2019/417(*14)として公布されています。


決定は、特に、制度の範囲に加えて、通知基準を明確にし、使用される用語を更新することを目的としています。

さらに、Safety Gateを適切に機能させるために近年開発された新しいツール(Safety Gateと市場監視プラットフォーム上の情報通信システム間のインターフェースなど)についても言及しています。

ガイドラインには、リスク評価の手順などもあり、製品開発時の設計審査(DR)の参考となります。


4.摘発の妥当性評価

GPSR第29条(リスク評価の相違に関するEU委員会への意見の要請)で、「加盟国の市場監視当局の決定に基づいて危険とみなされた製品は、他の加盟国の市場監視当局によって危険と推定されるべき」とされます。


しかし、「異なる加盟国の市場監視当局が、自国の調査とリスク評価に基づいてリスクの特定やレベルについて相違する結論に達した場合、加盟国はその問題をEU委員会に付託し、その意見を求めることができ、EU委員会は、適切な遅延なく、該当製品のリスクの特定またはリスクレベルについて意見を告示する。」手順となっています。


また、問題がEU委員会に付託されていない場合でも、EU委員会は自発的に意見を告示することもできます。


EU委員会は、この告示内容を消費者安全ネットワーク(Consumer Safety Network)に報告書として定期的に報告をします。その報告書は、加盟国がリスク評価に適用する主要な基準と、それが内部市場および消費者保護の均等なレベルに及ぼす影響を特定し、加盟国とEU委員会がリスク評価のアプローチと基準を調和させることを目的としています。


消費者安全ネットワークは、 第30条により加盟国の製品安全に関する権限を持つ機関として設立されます。


消費者安全ネットワークの目的は、加盟国の機関と委員会との間での調整と協力のプラットフォームとして、EU域内での「リスク評価、危険製品、試験方法と結果、基準、データ収集の方法論、情報と通信システムの相互運用性、最近の科学的発展、新技術の使用、および他の制御活動に関連する側面についての情報の定期的な交換を促進する」ことです。消費者安全ネットワークは製品の安全性を管轄する加盟国の当局で運用されます。

 

このように、EU調和法に対する適合性に関する摘発は慎重な手続きがとられます。


5.食品関係のアラート

RAPEXは非食品に関するEU迅速情報システムですが、食品については、食品安全当局が食品や飼料に由来する健康リスクに関する情報を迅速に交換し、リスクを回避するための即時行動を取れるようにするために “RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed”を設立しました。


“The RASFF Window”(*15)で摘発情報などが検索できます。

“RASFFCONSUMERS PORTAL”では、EU全体、加盟国別の通知が確認できます。

RASFF CONSUMERS PORTAL


通知内容では、例えば“NOTIFICATION 2023.7856”(*16)は、「唐辛子油と大豆油にはグリシドール脂肪酸エステル類が過剰に含まれている」としてリコール命令が出ています。

グリシドール脂肪酸エステル類(*17)は、かつて植物性食用油で問題となった物質で、ご記憶もあると思います。


NOTIFICATION 2023.7856”は食品ですが、”NOTIFICATION 2023.8636”(*18)は「パッケージにMOSH と MOAHが含まれている」として販売停止(市場撤退)命令が出ています。


この通知はドイツですが、フランスのミネラルオイル規制と同様の摘発で、食品関係にしてフランス以外にもその対象が広がっています。


GPSRでEUの消費者保護の動向を解説してきました。このコラムで、EUのなかで、GPSRは多くの法規制と関連しており、消費者保護規制は幅広に行われていることをご理解いただけたと思います。


消費者保護の潮流は、EUだけでなく中国などでも起きています。詳細は稿を改めて解説しますが、中華人民共和国製品品質法案(*19)が公開され、第50条で社会的弱者保護規定が新設されました。


第50条(厳格な基準要件) 国は、子供と妊娠中および授乳中の女性の健康と安全を保護するために、子供向け製品および妊娠中および授乳中の女性向けの製品の必須基準を策定する。


高齢者・障害者用品の技術基準の策定・改善を奨励し、高齢者・障害者に安全で便利な機能性用品を提供し、高齢者・障害者の合法的な権益を保護する。


このように、消費者保護、社会的弱者保護は国際的な規制強化の潮流に思えます。


(松浦 徹也)

 

 

引用

*1:GPSR


*2:2023年12月1日掲載コラム


*3:2023年12月25日掲載コラム


*4:Safety Gate


*5:粒子フィルターマスク


*6:歯のホワイトニングジェル


*7:手袋


*8:パジャマ


*9:トラック


*10:規則(EU)2019/1020


*11:Safety Business Gateway


*12:規則(EU)2019/287


*13:エコデザイン規則案


*14:決定 (EU) 2019/417


*15:The RASFF Window


*16:NOTIFICATION 2023.7856


*17:グリシドール脂肪酸エステル類


*18:NOTIFICATION 2023.8636


*19:中華人民共和国製品品質法案

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