2021年04月23日更新
1.共同体ローリングアクションプランとは
共同体ローリングアクションプラン (以降「CoRAP」と略称) は、REACH規則の前文 (20) に示されている主旨に則り欧州化学品庁(以降「ECHA」と略称) が加盟国権限当局との連携により登録物質を対象として物質評価を計画して実施する仕組みです。
REACH規則前文(20)の内容は以下です。
「評価に関する規定は、登録が本規則の要件を遵守しているかの審査や、必要な場合には物質の特性に関してより多くの情報の作成を可能とさせることを可能とするよう、登録のフォローアップを用意すべきである。 化学物質庁は、加盟国と協調しつつ、ある物質が人の健康または環境に対してリスクを与えるとみなす根拠がある場合には、物質を評価するための欧州共同体ローリングアクションプランに含めた後、加盟国の権限ある当局を頼みにしてその物質が評価されることを確実にすべきである。」(環境省訳)
CoRAPは、ECHAが2011年に発行した “ Background document to the decision of the Executive Director of ECHA , ED/32/2011 Selection criteria to prioritise substances for Substance Evaluation (1) (2011 CoRAP selection criteria ) “ に示されており、有害性とばく露を考慮して評価対象物質(CoPAR物質リスト) を選定するとしています。
CoRAP物質リストは、Meetings of the Member State Committee にECHAがCoRAP候補物質を提案し、討議を行ってそれらの物質に報告者(Rapporter)となる加盟国を募集して評価を実施しています。 具体的には毎年3月にECHAが今後3年間のCoRAP物質確定版を「CoRAP更新の履歴」(2) として公表しています。
CoRAP の目的は、当年度を含めた向こう3年間の評価物質に優先順位をつけて評価を行い、それら物質の製造および/または使用による人の健康または環境へのリスクを呈する懸念の可能性を明らかにすることです。
ECHAは毎年3月に次年度のための計画の見直しを行い、新規物質の追加等も加味して計画更新を検討します。 物質が優先的な評価情報を示唆する時には、加盟国はいつでもその物質を優先的にとり入れるように届出することが可能です。そのような場合ECHAはその物質を翌年の更新対象として採用します。
ECHAと加盟国は、以下のようなCoRAPの物質選択のためのリスクベースの選定基準(Selection Criteria)を開発しています。
選択基準には、難分解性、生物蓄積性、毒性 (PBT) および内分泌攪乱性または発がん性、変異原性および生殖毒性 (CMR) 物質および使用・総計登録量に基づく潜在的なばく露情報が対象となっています。
ECHAは、リスクベースアプローチの供給のために有害性とばく露に関連した基準の組合せを使用しています。
加盟国とECHAは、更なる情報要求がその物質の最初の懸念を明らかにすることに役立つ場合にのみCoRAPにその物質を含めます。
ECHAは毎年秋期にCoRAP草案をウェブ上に公開し、加盟国委員会(MSC) に意見の提出を求めます。ECHAは加盟国委員会の意見に基づき評価物質ごとに懸念および評価実施加盟国が明示されているCoRAP更新版を採択します。
評価実施加盟国は、CoRAPの初年度 (現行年度) に特定されている物質評価に1年間をあてる。必要な場合、特定された懸念 (潜在リスク) を明確にするため個々の物質の登録者からの更なる情報要求のための決定草案を準備します。
2. 2021年3月17日公表のCoRAP更新版の内容
2020年11月4日に意見徴収のため加盟国および加盟国委員会(Member State Committee : MSC) に対して提出されていたCoRAP草案が2020年12月8日にECHAのウェブ上に公開されていました。
ECHAは、2021年2月10日に採択されたMSCの意見に基づいてCoRAP更新版 (3)を採用し、2021年3月17日にウェブ上に公開しています。
そこではCoRAPの実施予定物質 (2021年に8物質、2022年 – 2023年に50物質) への着手を改めて宣言し、 2021年、2022年および2023を包含しているCoRAPを更新しています。
REAH規則 (EC) 1907/2006 (第44条~第48条) の物質評価プロセスの下で加盟国権限当局により評価のための2021年~2023年の対象リストにおいて58物質を更新しています。 その計画には新たに割当てられた3物質と2020年3月18日以前に行われたCoRAP更新において既に発表されていた55物質が含まれています。
それらの物質は2021年、2022年および2023年に16の加盟国間に分配されます。2021年には、8物質が6加盟国により評価される予定となっています。
2022年と2023年にはそれぞれ40物質および10物質の評価が予定されていますが、2022年3月に予定されている次回CoRAP更新において今回2022年と2023年に対してリストされている物質は変更されるかも知れません。
このように、CoRAPの更新は「物質選択基準(2)」を考慮して加盟国と緊密に協調して準備されてきました。 CoRAP草案は2020年11月4日に加盟国および加盟国委員会 (MSC) に意見を求めて提出され、2020年12月8日にECHAのウェブサイトに公開されています。 今回のCoRAP更新版は、以前のそれと比較すると28物質について評価年を延期しています。 その主要な理由は、進行中の同一物質のドシエ評価待ちのためとなっています。
幾つかの場合、評価間の高度な一貫性を達成するため類似物質のタイミングを一致させるために延期がなされています。 5物質が新規情報または状況の変化に基づいて物質評価の結果、懸念が明らかとなり優先度が低いもしくは不必要であることが判明し、評価加盟国の要求により取下げられています。
取下げ対象物質は以下の5物資です。(左の番号はCAS RN(R)を示す)
・67-51-6 3,5 - ジメチルピラゾール
・121-82-4 ヘキサヒドロ - 1,3,5 – トリニトロ- 1,3,5 – トリアジン
・2691-41-0 シクロテトラメチレンテトラニトラミン (15質量%以上の水で湿性としたもの)
・36483-57-5 2,2- ジメチルプロパン- 1 – オール、 トリブロモ誘導体
・n.a プロピレンの水和によるプロパン-2-オールの製造から副生成物として得られるC3アルコールとC3アルケンの反応生成物
上述のようにCoRAP情報は加盟国により毎年指定された物質の有害性、ばく露状況評価が行われますので、それらの評価情報を注視することにより、評価物質がCLSへの収載される場合等の早期把握が可能となります。
化学物質材料メーカーあるいはサプライチェーンに位置する混合物・成形品製造企業として重要な情報源として活用されることを期待いたします。
(担当 : 瀧山 森雄)
引用
(1) Background document to the decision of the Executive Director of ECHA
(2)
(3)
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