2025年03月05日更新
EU加盟5か国(ドイツ・デンマーク・オランダ・ノルウェー・スウェーデン)は2023年2月にREACH規則附属書XVIIの制限提案として有機フッ素化合物(PFAS)規制案を公表しました(*1)。この規制案に関連するPFASは、ユニバーサルPFASとも呼ばれ、包括的で広範な物質が対象物質となることから規制案に対するパブリックコメントが5,000件以上寄せられるなど注目度の高い規制案となっており、本コラムでも以前にその進捗状況を取り上げています(*2)。ECHAは2024年11~12月にかけて、進捗状況を更新しましたので、以下にご紹介します。
◆現状の検討状況
ECHAはEU加盟5か国によるPFAS規制案と規制案に寄せられたパブリックコメントをもとにリスク評価委員会(RAC)と社会経済分析委員会(SEAC)が検討しています。
2024年12月に公表したドキュメント「PFAS規制提案の科学的評価状況(*3)」にてこれまでの検討状況をテーマごとに以下のようにまとめています。
PFASの有害性
RAC:2023年9月、2024年3月、2024年6月に議論(2024年6月に暫定結論)
SEAC:対象外
排出量推定の一般的なアプローチ(廃棄物を含む)
RAC:2024年6月、2024年9月に議論
SEAC:対象外
社会経済分析に関する一般的なアプローチ
RAC:対象外
SEAC:2024年3月、2024年6月に議論(適切なタイミングにて検討を継続)
消費者向け混合物、化粧品、スキーワックス
RAC:2024年3月、2024年6月に議論(2024年6月に暫定結論)
SEAC:2024年3月(2024年6月に暫定結論)
金属めっき
RAC:2024年6月に議論(2024年6月に暫定結論)
SEAC:2024年6月(2024年6月に暫定結論)
石油と鉱業
RAC:2024年9月に議論(2024年9月に暫定結論)
SEAC:2024年9月(2024年9月に暫定結論)
繊維、室内装飾品、皮革、アパレル、カーペット(TULAC)
RAC:2024年9月、2024年11月に議論(2024年11月に暫定結論)
SEAC:2024年9月、2024年11月に議論(2024年11月に暫定結論)
食品接触材料と包装材
RAC:2024年9月、2024年11月に議論(2024年11月に暫定結論)
SEAC:2024年9月、2024年11月に議論(2024年11月に暫定結論)
建設資材
RAC:2024年11月に議論(2024年11月に暫定結論)
SEAC:2024年11月に議論(2024年11月に暫定結論)
フッ素ガスの用途
RAC:2025年3月に議論の予定
SEAC:2025年3月に議論の予定
輸送関係
RAC:2025年3月に議論の予定
SEAC:2025年3月に議論の予定
エネルギー関係
RAC:2025年3月に議論の予定
SEAC:2025年3月に議論の予定
医療機器
RAC:2025年の会議にて議論の予定
SEAC:2025年の会議にて議論の予定
潤滑剤
RAC:2025年の会議にて議論の予定
SEAC:2025年の会議にて議論の予定
エレクトロニクスと半導体
RAC:2025年の会議にて議論の予定
SEAC:2025年の会議にて議論の予定
RAC および SEAC の会議で合意した結論は、EU委員会が制限案全体 (すべての使用分野を含む) の評価を最終決定し、意⾒を採用するまで暫定的なものとしています。ECHAのホームページにはPFASに関するトピックスを掲載しているサイトがありますので、こちらで更新情報を確認することが可能です(*4)。
また、当初の制限オプションは「完全禁止」と、代替品の状況を踏まえた「除外期間を設定したうえで禁止」でしたが、追加情報により禁止以外の制限オプションも検討されていることが示されています。検討される制限オプションはライフサイクル全体を通じて PFAS 排出量を大幅に削減するという規制⽬的を達成できるかどうかも留意事項とし、「禁止の代わりにPFASの製造、上市、使用を継続することを認める」または「代替品が利用可能になるまでのPFASの製造、上市、使用を認める」こともオプションになり得るとしています(*5)。検討が行われている産業セクターとして、技術的な代替が現時点で予見できないとされる電池や燃料電池、電解装置、医療機器、半導体などがあげられており、当初の最終的に禁止する方向性を修正し、産業セクターなどによっては禁止に代わる選択肢が提案される可能性を示唆しているといえそうです。
◆今後の予定
現在公開されている3月の会議のアジェンダ(RAC-72(3月3-7日)、SEAC-66(3月-11-14日))ではフッ素ガスの用途、輸送関係、エネルギー関係について初議論される予定となっています。これまでの状況をみると初議論から暫定結論までに1~3回を要しています。その後に予定されているセクター(医療機器、潤滑剤、エレクトロニクスと半導体)の議論日程にも影響を与える可能性があり、その議論内容とともにどのようになるのか注目されるところです。
◆最後に
EUのユニバーサルPFAS規制案は、パブリックコメントにおいて多くのコメントがよせられるなど、利害関係者の注目度が高い規制案です。今回の更新では計15項目の状況が公開され、その中で最も遅いものは医療機器、潤滑剤、エレクトロニクスと半導体の「2025年の会議にて議論の予定」となります。ただし、ドキュメントには作業が進むにつれてさらに多くのセクターを公表し、それに応じて進捗状況も更新されるとの記載があります。よって、今後、新たなセクターが公表され2026年以降も検討が継続されていく可能性が高いと思われ、引き続き注視していく必要がある情報と考えられます。
(*1)ECHA PFAS類の制限提案
(*2)EUのユニバーサルPFAS規制案の検討状況について
(*3)PFAS規制提案の科学的評価状況
(*4)ECHA:パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)
(*5)パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物 (PFAS) の規制プロセスの進捗状況
(長野 知広)
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