2021年08月27日更新
【質問】
EUのPBT規制の動向を教えてください。
【回答】
1.PBT規制とは
「PBT」は、難分解性(persistent)、高蓄積性(bioaccumulative)、毒性(toxic)の略語です。PBTがある化学物質を規制する仕組みが、「PBT規制」です。また、「vPvB」とは、「とても難分解性(vP)で、とても高蓄積性(vB)」です。
PBTの概念は、2001年5月採択の「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」*1) で有名になりました。「POPs」とは、残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants)の略語であり、(i)残留性(難分解性)(ii)生物蓄積性 (iii)長距離移動の潜在的可能性 (iv)毒性(悪影響)の全ての性質がある有機化学物質です。このうち(i)(ii)(iv)がPBTに相当します。
2.REACH以前のEUでのPBT規制
1978年12月21日公布の特定農薬指令79/117 / EEC *2) で、「残留性(難分解性)」を理由に特定農薬を禁止しました。
POPs条約のEC域内法としてRegulation (EC) No 850/2004 *3) が公布され、2019年POPs条約の大幅改正で、EU法もRegulation (EU) 2019/1021 *4) になりました。
JRC(欧州委員会協同研究センター)が2007年までに127 物質のPBTとvPvBを評価して、ESIS(欧州化学物質情報システム:European Chemical Substances Information System )で公開していました*5)。 このシステムは2014年11月17日に停止され、ECHA(欧州化学品庁) に移管されています*6)。
その評価結果は、28物質がPBT・vPvB・POP(残留性有機汚染物質)のいずれかの基準を満たし、66物質は基準を満たさず、10物質の評価が延期され、23物質はREACHの下で評価継続になりました。また、PBTは23物質でした。
この127物質には、米国TSCAでPBT規制に賛否両論がでているイソプロピル化フェノール=ホスファート(3:1)(PIP(3:1))が入っていませんが、ECHAはPIP(3:1)のPBTを評価中です *7)。
EUとアメリカで基本は同じでも、細部では規制が異なります。
3.EU REACHでのPBT規制
REACH *8)で規制するPBT物質は、その附属書XIII「PBT物質及びvPvB物質」に、以下のように定義されています。
i.難分解性
以下のいずれかのとき、物質は難分解性基準(P)を満たします。
(a)海水での分解半減期が60日を超える。
(b)淡水または河口水での分解半減期が40日を超える。
(c)海底堆積物の分解半減期が180日を超えている。
(d)淡水または河口の底質の分解半減期が120日を超える。
(e)土壌中の分解半減期は120日を超える。
ii.生物蓄積性
以下のとき、物質は生物蓄積性基準(B)を満たします。
(a)生体内蓄積水生種の生物濃縮係数が2000を超える。
iii.毒性
以下のいずれかのとき、物質は毒性基準(T)を満たします。
(a)海水または淡水生物の長期無影響濃度(NOEC)もしくはEC10が0.01 mg / L未満である。
(b)規制EC No 1272/2008の分類基準で評価したとき、物質が発がん性(区分1Aまたは1B)、生殖細胞変異原性(区分1Aまたは1B)、または生殖毒性(区分1A、1B、または2)である。
(c)慢性毒性の他の証拠がある。:例えば、規制EC No 1272/2008による反復暴露後で、特定の標的臓器毒性(STOT RE区分1または2)である。
EU各国から届出られた化学物質は、順番に評価されます。その結果、「制限物質リスト」(REACH第67条、附属書XVII)に、現在75物質(群)が収載されています。
一方、REACH第57条で以下の問題がある化学物資は、第58条に定められた手続きを経て、使用に際して認可が必要になる「認可物質リスト」(附属書XIV)に収載されます。
i.一定程度以上の発ガン性・変異原性・生殖毒性物質(CMR物質)
ii.残留性、蓄積性、毒性がある物質(PBT物質)
iii.残留性及び蓄積性が極めて高い物質(vPvB物質)
iv.上記以外の化学物質で、内分泌かく乱特性があり人の健康や環境に深刻な影響があり
そうなもの(個別に特定)
ここには、現在54物質(群)が収載され、うち5物質(群)がPBT物質です。
REACH第59条には、最終的には附属書XIVに収載される候補物質のリスト作成が定められていて、これを「高懸念物質(SVHC)の候補リスト」*9) といい、現在219物資(群)が登録され、うち28物質(群)がPBT物質です。
2009年に始まった物質の評価作業は、2027年完了を目標にしています。2020年末段階 *10) で、リスク管理している630物質、今のところ規制を提案しない892物質、リスク管理を検討中の1409物資、検討データ作成中の1863物質があり、未評価が18,478物質あります。2019年から物質をグループ化して評価し、評価数を大きく増やします。
5.EU CLP規則の検討
EUの「物質及び混合物の分類、表示及び包装に関する規則」(CLP規則、Regulation (EC) No 1272/2008)*11) の「分類」に内分泌攪乱物質やPBT物質、vPvB物質などを加えることなどのパブコメ募集を2021年8月9日から11月15日まで行なっています *12)。将来、PBTについて表示や包装の変更が必要になるかもしれません。
*1) UNEP「ストックホルム条約(POPs条約)」Webサイト
*2) 1979年EEC 特定農薬指令 Directive 79/117/EEC
*3) EC 最初のPOPs条約法 Regulation (EC) No 850/2004
*4) EU 改正POPs条約法 Regulation (EU) 2019/1021
*5) ESIS(欧州化学物質情報システム:European Chemical Substances Information System )のPBT評価 (アーカイブ版)
*6) ECHAに引き継がれたESISのPBT / vPvB評価
*7) PIP(3:1)についてのEUのプロファイル
*8) EU REACH : Regulation (EC) No 1907/2006
the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals (REACH),
*9) EU REACH高懸念物質(SVHC)の候補リスト
*10) ECHA Transparent progress in addressiong substances of concern, Integrated Regulatory Strategy Annual Report. April 2021.
*11) EU CLP規則、Regulation (EC) No 1272/2008
*12) EU CLP規則改正のためのパブリックコメント募集(2021/8/9~11/15)
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