2022年09月30日更新
【質問】
REACH規則の制限Entry 68(パーフルオロカルボン酸(PFCA)とその関連物質)において、炭素数8以下(C≦8)は制限されないということでしょうか。
【回答】
現在のREACH規則(2022年5月1日版)で、制限Entry 68(パーフルオロカルボン酸(PFCA)とその関連物質)は、炭素数C9-C14が規制対象です。炭素数8以下(C≦8)は、REACH規則では制限されませんが、別の規制があったり、規制追加が検討されたりしています。
過去には制限Entry 68でパーフルオロオクタン酸(PFOA)が規制されていた時期があり、この物質は炭素数8のPFCA(C8 PFCA)です。
現在、PFOAは、POPs条約によるPOPs規則で規制され、REACH規則では制限されていません。どの規則であるにせよ、EU全域で制限されていることには変わりありません。
また、炭素数6のPFCAであるパーフルオロヘキサン酸PFHxAは、EUでドイツ提案によりREACH規則制限物質にする検討が行われています。
さらにEUは、サステナビリティに向けた化学品戦略のなかで、(パー及びポリ)フルオロアルキル化学物質(PFAS)を、その使用が不可欠でない限り、EUで段階的に廃止してゆく方針です。
以下に、詳しく解説します。
1. REACH規則の制限Entry 68
EUのREACH規則((EC) No 1907/2006)*1)は、化学物質(Chemicals)の登録(Registration)、評価(Evaluation)、認可(Authorization)、制限(Restriction)を定めた規則です。 そのうち「制限」は、REACH規則のTitle VIII「特定の危険な物質、混合物、物品の製造、上市、および使用に関する制限」に定められていて、EU全域で制限されています。
その具体的な制限物質は、REACH規則附属書XVIIに収載されます。 制限対象物質ごとに、用途や濃度、除外適用時期等の各種条件が定められています。
附属書XVII Entry 68は、PFCAとその関連物質の制限で、現在は、2021年8月4日に欧州委員会規則 (EU) 2021/1297 *2)によって再追加された以下のC9-C14 PFCAと関連物質が記載されています。
・構造式 CnF2n+1C(=O)OH (n=8,9,10,11,12,または13) (C9-C14 PFCA) の直鎖状および分枝状パーフルオロカルボン酸、およびそれらの塩、それらの任意の組み合わせを含む
・別の炭素原子に直接結合した化学式CnF2n+1-のパーフルオロ基を有するC9-C14 PFCA 関連物質、n=8,9,10,11,12,または13、それらの塩およびそれらの任意の組み合わせを含む
・別の炭素原子に直接結合していない化学式CnF2n+1-のパーフルオロ基を有するC9-C14 PFCA 関連物質、n=9,10,11,12,13または14、それらの塩およびそれらの任意の組み合わせを含む
・ただし、次の物質を除外する。
CnF2n+1-X(n=9,10,11,12,13または14、X=F,Cl,またはBr)
CnF2n+1C(=O)OX’(n>13、X’=塩を含む任意の基)
つまり、ここでは炭素数8以下(C≦8)のPFCAは含まれません。
2. REACH規則の制限Entry 68の変遷
しかし、附属書XVII Entry 68は、その毒性と環境汚染が明らかになるにつれて、頻繁に改正が続いている項目でもあります。
最初に附属書XVII Entry 68が記載されたのは、2017年6月13日の欧州委員会規則 (EU) 2017/1000 *3)によって、PFOAの規制が加えられた時です。 このときは炭素数C8だけだったので、「C8 PFCA」とは表記されずに、PFOAと表記されています。
その後2020年12月15日に欧州委員会規則 (EU) 2020/2096 *4)によって、PFOA(C8 PFCA)の規制がPOPs条約に基づくPOPs規則((EU) 2019/1021) *5)に移管されたことを理由に、Entry 68が削除されました。
現在のEntry 68には、前節に記したように2021年8月4日にC9-C14 PFCAとその関連物質の制限が記載されています。
3.PFHxAの規制動向
パーフルオロヘキサン酸(PFHxA)は、炭素数C6のPFCAであり、現時点ではREACH附属書XVII Entry 68には該当しません。
しかし、EUでは現在、2018年12月21日のドイツ提案によりREACH附属書XVIIに入れることの検討 *6)がすすめられ、物質の評価文書(ドシエ)の意見公募が終わったところまで討議が進んでいます。
4.POPs条約での検討動向
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約) *7)の規制物質は、締結国会議(COP)前に残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)で検討されます。 特定の物質の検討は、早ければ1年、長くても数年後にはCOPに勧告されています。 今年から長鎖PFCA(C9~C20 PFCA)の検討が始まりました。 数年後にはPFOAと同じように、REACH規則での規制でなく、POPs規則での規制に変わるかもしれません。
*1)EU REACH規則((EC) No 1907/2006)
*2)欧州委員会規則 (EU) 2021/1297
パーフルオロカルボン酸 (C9-C14 PFCA)に関するREACH規則附属書XVII の修正
*3)欧州委員会規則 (EU) 2017/1000
パーフルオロクタン酸(PFOA)に関するREACH規則附属書 XVIIの修正
*4)欧州委員会規則 (EU) 2020/2096 REACH規則附属書 XVIIの修正
*5)欧州委員会規則 ((EU) 2019/1021) POPs規則
*6) EU パーフルオロヘキサン酸(PFHxA)のREACH規制検討過程
*7)環境省 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)
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