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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q667.塗料用途で欧州殺生物性製品規則(BPR)において未認可となる抗菌剤(活性物質)を含有する場合の取り扱いについて

2023年09月22日更新

【質問】

塗料へ保存中にカビの発生を防ぐための抗菌剤(活性物質)を使用します。 対象の塗料に添加する抗菌剤は欧州BPRにおいて未認可で、最終製品である塗膜にも残渣として微量に残留します。 このような場合どのような扱いになるでしょうか。

 

【回答】

ご質問のように塗料の保存性を高めるために抗菌剤(活性物質を)添加している場合、その塗料は「処理された成形品」として欧州殺生物性製品規則(BPR)(*1)の適用範囲となります。 BPRは使用する活性物質が承認されており、使用製品・用途において認可されることを要求しています。 したがって、塗料用途に使用して活性物質として機能する抗菌剤がBPRにおいて認可されていない場合、対象となる製品は欧州への上市が原則として禁止されるものと考えられます。


◆欧州殺生物性製品規則(BPR)について

殺生物性製品規則(BPR)は、殺生物性製品の安全性と効果性を確保するために欧州連合(EU)で制定された規則で、適用範囲は殺生物性製品とその処理物となります。処理物については、BPR第3条(l)に「処理された成形品」の定義があり、以下のように規定されています。


「処理された成形品とは、1つまたは複数の殺生物性製品で処理された、または意図的に組み込まれた物質、混合物、または成形品を意味する。」


ご質問の塗料は製品の保存性を高めるために、殺生物性製品となる抗菌剤で処理した混合物となりますので、BPRの適用範囲となります。 日本自動車工業会(JAMA)が公表している「殺生物性製品規則(BPR)に関する自動車業界ガイドライン」(*2)においても、「処理された成形品」として「防腐剤が入った缶入り塗料」が例として挙げられています。


殺生物性製品は、活性物質(Active Substance)と呼ばれる化学物質や微生物の働きによって、害虫や細菌など害を及ぼす生物から人体や動物、材料、成形品を保護するために使われる製品を指します。 BPRはこのような特性をもつ殺生物性製品を欧州で上市するために事前認可を要求しています。 事前認可では殺生物性製品の要素となる活性物質と殺生物性製品のタイプ・用途が特定され、ここで特定される活性物質はBPRの手続きに従い承認されている必要があります。 したがって、ご質問のように製品のタイプが塗料で、使用する活性物質との組み合わせがBPRに基づいて認可されていない場合、対象塗料の欧州への上市は禁止されることになります。


なお、塗膜中に残渣として未認可となる活性物質が存在している場合の取り扱いについては、塗膜中の塗料の保存性を高めるために使用される活性物質が塗膜中で有害な生物を破壊、抑止、無害化など殺生物性製品としての機能を発揮しないのであれば、BPRの適用範囲からは外れていると考えられる可能性があります。 すなわち、塗膜となった後の塗装品であれば、EUにおける他の法規制要件も満たしたうえでEU内へ投入できる可能性はあるものと思われます。


一方で、BPRの趣旨である人間の健康、動物の健康、および環境を保護することを目的とした予防原則という観点を踏まえると未認可の物質で少なくとも塗料中で生物に対して活性物質としての作用する物質を含有する塗装品をEU内へ投入するのは適切ではないと捉えることもできます。 貴社におかれましてはより適切な判断をするために、使用する抗菌剤の成分を把握したうえで当局へ問い合わせを行うなどの情報収集活動を行うことをお勧めいたします。


(*1) 欧州殺生物性製品規則

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32012R0528


(*2) 殺生物性製品規則(BPR)に関する自動車業界ガイドライン

https://www.japia.or.jp/files/user/japia/work/kankyo/AIG-BPR_v1(Japanese%20version).pdf

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