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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

TSCA SNUR(第5条)とPBT(第6条)の規制の違い ~その1~

2022年05月20日更新

最近のご質問の傾向として、EU RoHS指令やREACH規則関連の質問からTSCAなどのアメリカ法に関する質問が増えているようです。 また、多くの方からTSCAは難解との声もお聞きします。


特に、TSCAでは、SNURとPBT規制の違いに戸惑いを感じますので、今回はこの辺りを2回に分けて解説します。


1. TSCAの構成

TSCA(Toxic Substances Control Act:有害物質規制法)は、1976年10月に公布し、1977年1月発効しましたが、2016年6月に「21世紀のためのFrank R. Lautenberg化学物質安全法」(*1)(以下21世紀法と略記)で大改正が行われました。 この改正はFrank R. Lautenberg上院議員が尽力しましたので改正法に同氏の名前が付けられています。


この改正で注目されるのが、EPA(U.S. Environmental Protection Agency:環境保護庁)の権限を強化とリスクベースによる安全基準の導入などです。


EUはREACH規則の前身の指令67/548/EEC(1967年6月)、日本は化審法(1973年10月)がTSCAに前後して有害物質規制法が制定されています。 当時は、化学物質による健康被害、環境影響が大きな社会問題となっていました。


TSCAはEPAが所管する法律ですが、U.S.C.(United States Code連邦法典)(*2)のTitle15 (Commerce And Trade)CHAPTER 53(TOXIC SUBSTANCES CONTROL)SUBCHAPTER I(CONTROL OF TOXIC SUBSTANCES)にSection (§)2601 から2629に記載されています。


日本の政省令にあたる下位規定は、e-CFR(electronic Code of Federal Regulations e-CFR:連邦規則集)(*3)のTitle 40に収載されています。

 

1976年の公布時の名称(Long title)は、“An Act to regulate commerce and protect human health and the environment by requiring testing and necessary use restrictions on certain chemical substances, and for other purposes.”(特定の化学物質の試験及び必要な使用制限を義務付けることにより、商業を規制し、人の健康及び環境を保護する法律)で、Section 1(第1条)に記載されていました。 この名称は1992年に“Toxic Substances Control Act”となり、削除されました。


しかし、EPAは、空行ながら第1条を残して以降の条項番号はそのままとしていますので、 U.S.C. Title15 CHAPTER 53の§2601(15 U.S.C. 2601)は、EPAでは第2条になっています。


法律の「条」のなかの区分は、日本では「項」(2,3・・)「号」(一、二、三・・)「番号」(イ、口、ハ・・)(①、②、③・・・)((i)、(ii)、(iii)・・)のように区分しています。


アメリカは「条」は5段階で区分しています。

§ ‘Section ’

 (a)‘Subsection’

  (1)‘Paragraph’

   (A)‘Subparagraph’

    (i)‘Clause’

     (I)‘Subclause’


このようにTSCAは、慣れないと戸惑いますが、以下の解説ではこの区分によります。


2. 第5条(製造及び加工届出)(§2604:15 U.S.C. 2604)の仕組みとSNUR規制

TSCAは、TSCA Inventoryに収載されていなければ90日前までに届出なくてはならいと知られています。 手順はe-CFR のTitle 40 /Chapter I /Subchapter R /Part 720 (*4)に示されています。


§2604の記述は、上記が分かっていると理解がしやすくなります。

2.1 総則 パラグラフ(1)

(A)本パラグラフのサブパラグラフ(B)及び(h)に定める場合以外は、以下を行うことができない。

(i)EPA長官が第8条(b)によるリストを公表後30日以内に新規化学物質を製造する


第8条(b)によるリストがInventoryで、詳細はPart710(*5)に示されています。


分かり難い表現ですが、Inventoryに収載されて30日経過後に既存物質となり、PMNの対象外して製造できるという意味です。


(ii) EPA長官がパラグラフ(2)により重要新規利用(Significant New Use)と決定した要件で化学物質の製造または加工する。


2.2 パラグラフ(2)

化学物質の使用がパラグラフ(1)により、EPA長官の重要新規利用の決定は、次の全ての要因を考慮する。

(A)化学物質の製造、加工の計画数量

(B)使用による人または環境へのばく露の状況や状態の変化の程度

(C)使用による人または環境へのばく露の規模や期間が増加する程度

(D)化学物質の製造、加工、商業的流通、廃棄の当然予想される様式や方法


詳細手順がPart721(*6)に示されており、SNUR(Significant New Use Rule)として知られているものです。


重要新規利用の要件は、Part721のSubpart E(Significant New Uses for Specific Chemical Substances)に示され、約2,200物質が特定(*7)されていす。

この中には Part721.10536にPFOAとその塩が特定されています。


(5)で成形品について以下を規定しています。

EPA長官は、(1)(A)(ii)に基づく成形品または成形品の区分の一部としての化学物質の輸入または加工について、本条に基づく通知を要求することができる。

ただし、EPA長官が、(2)に基づく規則において、規則の対象となる成形品または成形品のカテゴリを通じて、化学物質への合理的なばく露の可能性を正当化できる場合に限る。


成形品中の化学物質については、Part721.45(*8)で以下の免除があります。

§721.5で特定される者は、次の場合を除き、本パートのサブパートEで特定される化学物質についての§721.25の通知要件の対象とならない:

(f) 成形品の一部として化学物質を輸入または加工する者


しかし、Part721.45の規定はありますが、(5)によりSNURは成形品にも適用される場合があります。


2.3 パラグラフ(3)

前項の審査決定は以下とする。

第18条によりSNUR指定はEPA長官の優先権とされています。

(3) 審査及び決定に従うことを条件として、適用される審査期間内に、管理者は届出内容を再検討し、次の事項を決定するものとする。


(A) コストまたは他の非リスク要因の考慮なく、関連する化学物質または重要新規利用が、使用条件下でEPA長官によって関連すると特定された潜在的にばく露された、または、感受性のある亜集団に対する不当なリスクを含めて、健康または環境に対する不当なリスクを提示すること。

この場合、管理者は(f)に基づいて要求される措置を講じなければならない。

(B) 以下であること

(i) 管理者が利用できる情報が、関連する化学物質の健康及び環境への影響、または重要新規利用の合理的な評価を可能にするには不十分である。

(ii)(I) コストまたは他の非リスク要因の考慮なしにEPA長官が、その物質の評価、製造、加工、商業的流通、使用、もしくは廃棄、またはそのような活動の任意の組み合わせを行うことを可能にするための十分な情報がない場合、EPA長官によって関連すると特定された潜在的にばく露された、もしくは感受性のある亜集団に対する不合理なリスクを含めて、健康または環境への不合理なリスクを提示することができる。

(II) その物質は、相当な量で製造されているか、または製造される予定の物質は、相当な量で環境中に入るか、または環境中に入ることが合理的に予想されるか、またはその物質に著しいもしくは実質的な人体ばく露があるか、またはその可能性があるか、その場合、EPA長官は、(e)に基づいて必要とされる措置を講じなければならない。

(C) 費用または他の非リスク要因ようを考慮することなく、その化学物質または重要新規利用が、使用条件下でEPA長官によって関連すると特定された潜在的にばく露されているか、または感受性のある亜集団に対する不当なリスクを含む健康または環境に対する不当なリスクを提示する可能性がないこと。

この場合、届出の提出者は、重要新規利用のための化学物質の製造または加工を開始することができる。


2.4 引用している規定

(e)情報作成中の規則

(1)A  

EPA長官は、以下により費用または他の非リスク要因を考慮することなく、物質の製造、加工、商業的流通、利用、廃棄の禁止若しくは制限するために、使用条件での関係があるとしてEPA長官が特定した潜在的にばく露される、または感受性の高い亜集団に対する不当なリスクを含めて、健康または環境への不当なリスクから保護するために、必要な範囲でその活動のあらゆる組み合わせの禁止や制限を命令できる。

(i) EPA長官が利用できる情報が、(a)による届出物質の健康及び環境影響の正当な評価するに十分でない

(ii)(I)EPA長官が評価を行うに十分な情報がない場合で、その物質の製造、加工、商業的流通、使用若しくは廃棄、またはそれらの活動のあらゆる組み合わせが健康または環境への不当なリスクの恐れがある

(II)その物質は、相当な量で製造されているか、または製造される予定の物質は、相当な量で環境中に入るか、または環境中に入ることが合理的に予想されるか、またはその物質に著しいもしくは実質的な人体ばく露があるか、またはその可能性がある


(f) 不合理なリスクに対する保護

(1) (a)の 使用条件に基づきEPA長官が該当すると特定した潜在的にばく露された亜集団に対する不当なリスクを含めて、費用またはその他の非リスク要因を考慮することなく、届出が必要な化学物質または重要新規利用が健康または環境への不当な被害のリスクをもたらすと判断した場合、EPA長官は、審査期間の満了前に、そのリスクから保護するために必要な範囲で、(2)または(3)により承認された措置を講じるものとする。

(2) EPA長官は、(1)に基づいて認定された化学物質に適用するために、第6条(a)に基づく規則案を発行することができる。

(A) 商業的に製造、加工または頒布することができる当該物質の量を制限する要件、

(B)第6条(a)(2), (3), (4), (5), (6)または(7)に記載される要件、または

(C) (B)に規定する要件の組合せ。

 

「費用または他の非リスク要因を考慮することなく(without consideration of costs or other nonrisk factors)」が幾度も出てきますが、21世紀法で追加されたものです。

従前は環境、経済及び社会的影響を考慮した不当なリスク(unreasonable risk)のみでしたが、without consideration of costs or other nonrisk factorsが追加されました。

EPAの権限が強化されたものです。


3. 第5条(h) PMN免除

PMN免除は(h)(1)で試験販売目的、(3)少量(Part723.50で10トン以下と規定)と試験研究、(4)低リスク(Part723.250  ポリマー)が免除されます。


なお、第2条(定義)(2)(B)(vi)で、連邦食品、医薬品、化粧品法で定義する「食品」「食品添加物」「医薬品」「化粧品」「医療機器」の製造、加工または商業的に流通させる場合は対象外となります。


4.同意指令とSNUR

(a)による届出PMN)は(f)(2)の量の制限などが課される場合があります。 この制限は届出者に課されるもので、同意指令(協定)と言われますが、届出者以外に広く規制するのがSNURです。


参考

「製造」の定義には、「輸入者」を含みます。

「亜集団」の定義では、「幼児」「児童」「妊婦」「労働者」「高齢者」等を含みます。

 PBTで注目を浴びている第6条は次の機会(7月中旬)に解説します。


(松浦 徹也)


引用

分かりやすくするために、機械翻訳による意訳をして、原文にない用語の追加や削除をしました。 部分的な引用もしていますので、解釈はかならず原典をご確認ください。



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