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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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カナダの使い捨てプラスチック禁止規則について

2022年08月13日更新

はじめに

プラスチックは現代社会において最も広範に使用されている材料の1つで、優れたコストや耐久性等の利点故に、その用途は包装、建材、自動車資材、エレクトロニクス、繊維、医療機器等、幅広い分野に及んでいます。


その生産量は2020年には全世界で3億6,700万トンにもなりますが、一方、その約9割が全くリサイクルされていないと言われています。 これは主にリサイクルの方が新規プラスチックよりも高コストとなることに起因しています。


このためプラスチックは大量に環境中に廃棄され、海岸、地表水、堆積物、土壌、地下水、屋内外の空気、飲料水、食品等で見出され、野生動物に対しても、遺棄された漁具等に巻き込まれることによる窒息死や小サイズのマイクロプラスチック(通常5mm以下のものをいう)の体内への採り入れ等の事例が多発しています。


こうした状況は食物連鎖によって、また大気中に浮遊するマイクロプラスチックの吸引等により、人間の健康にも悪影響を及ぼす可能性への懸念が世界的に高まっています。

世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature:WWF)は、このままでは世界のプラスチック廃棄物産出量は2030年までに41%増加し、海洋中への廃棄量は2倍の3億トンになると警告しています。1)


カナダ政府でもこの問題への取組みを続けてきましたが、本年6月22日、同国の環境政策の基本法である1999年カナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act, 1999:CEPA)2) の下位法令として、「使い捨てプラスチック禁止規則」(Single-use Plastics Prohibition Regulations: SOR/2022-138)が官報公示されました。3)

本稿では、これまでの取組みも含め、その概要について解説します。


1.これまでのカナダ政府による取り組み

プラスチックごみによる環境汚染に対する取組みは、国連等により国際的なレベルでもなされてきましたが、カナダでは特に同国が議長国を務めた2018年6月のG7・シャルルポワサミット以降、具体的な取組みが促進されました。 この会議では、プラスチックごみ問題は全世界的な海洋の生態系に悪影響を与え、1か国のみの努力では解決し得るものではなく、発展途上国を含む世界全体の課題としての取組みの必要性が議論されました。


同年11月、連邦政府、州政府および準州政府は、カナダ環境大臣会議(the Canadian Council of Ministers of the Environment:CCME)において、「プラスチック廃棄物ゼロ戦略」(Strategy on Zero Plastic Waste)を原則承認しました。4)


これはプラスチックに対し、その循環型経済としての仕組みの確立を目指し、カナダとしての行動の枠組みを示したもので、優先して取り組むべき10件のアクションを提案しています。


そしてこれらは製品設計、使い捨てプラスチック、収集システム、リサイクル能力、および国内市場に焦点を当てたPhase1と、消費者の意識、水生活動、研究と監視、浄化、およびグローバルな行動に焦点を当てたPhase2とから成り、前者は2019年6月、後者は2020年7月に各々CCMEにて承認されました。


この中でPhase1の1項目として採りあげられた使い捨てプラスチック(Single-use Plastics:SUP)および廃棄可能なプラスチック(disposable plastics、植物、或いは繊維をベースとする環境への負荷が少ない生分解性プラスチック)に対する取り組みについては、それらの環境中への放出削減やそれに伴う生体に対する安全性向上やコスト削減に効果的であり、それを達成するためのロードマップ構築のため、以下の3項目をアクションアイテムとして挙げ、その期限を2021年12月に設定しています:

(1) 廃棄物の削減を目指していく製品の優先順位を決定する。

(2) 廃棄プラスチックの削減を裏付ける様な目標を設ける。

(3) 廃棄物を削減する仕組みを特定する。


次いで2020年10月7日、環境気候変動省(Environment and Climate Change Canada)は、「廃棄物と汚染を防止するためのプラスチック製品への統合管理アプローチの提案」(A proposed integrated management approach to plastic products to prevent waste and pollution)5) を発表しました。


ここではプラスチック廃棄物やプラスチック汚染を防ぐためのプラスチックのライフサイクル全体に対処するための次の3ステップより成る統合的な管理アプローチが提案されています:

・第1段階(分類):SUPをカテゴリー別に分類し、環境への影響やリサイクル、代替材料の可能性等に関する情報を分析する。計14カテゴリーのSUPについての分析結果が示されている。

・第2段階(管理目標の設定):SUPの管理目標を設定する際の下記3通りの考え方が示されている。

(i)SUPの環境中への放出の根絶若しくは大幅な量削減

(ii)プラスチック製品による環境影響の低減

(iii)プラスチックの回収率向上による材料資源の節約

・第3段階(管理目標達成のための手段の選択):設定された管理目標を達成する手段が複数ある場合のその選択についての基準が示されている。

そしてこうした広範な関連情報を検討の結果、6種のSUPを使用禁止或いは制限の対象とすることが提案され、それに対するパブリックコメントが60日間受け付けられました。

また同年10月10日、プラスチック製品は、有毒物質を定義しているCEPA第64条のうちの (a) 環境又はその生物多様性に即時又は長期的に有害な影響を及ぼす、又は及ぼすおそれのあるもの、との条件を満たすと判断され、その有毒物質リストであるSchedule1への追加が提案され、60日間のパブリックコメントを経て、2021年5月12日付カナダ官報にて、” No.163 Plastic manufactured items” として追加する命令が同年4月23日にて登録され、同日を以って追加されたことが公表されました。6)


プラスチックによる環境汚染に対しては、以上の様な取組みがなされてきましたが、「使い捨てプラスチック禁止規則」は2021年12月25日付カナダ官報にて提案され、その後70日間のパブリックコメントの実施を経て、今回の公布となりました。


2.使い捨てプラスチック禁止規則の規制内容

「使い捨てプラスチック禁止規則」は、全13条より成りますが、内容としては、前記「廃棄物と汚染を防止するためのプラスチック製品への統合管理アプローチの提案」で示された以下の6種のSUP(括弧内は主に使用されている材料の種類)に対する規制を法制化したものです。

(1) 買物袋(ポリエチレンフィルム)

(2) ナイフ、フォーク、スプーン、箸等の食卓用食器類(ポリプロピレンまたはポリスチレン)

(3) コンテナ、カップ、プレート等、問題点の多いプラスチックを含む食品容器(押出または発泡ポリスチレンフォーム、ポリ塩化ビニル、オキソ分解性プラスチック、またはカーボンブラックを添加剤として含むプラスチック)

(4) 攪拌棒(ポリプロピレンまたはポリスチレン)

(5) ストロー(ポリプロピレン)

(6) 飲料容器輸送用リングキャリア(低密度ポリエチレン)


具体的には、これらSUPの製造・輸入、販売、および輸出が、以下の様に段階的に禁止されます(なお本規則登録は2022年6月20日):

・製造・輸入…(1)~(5)は本規則登録6カ月後、(6)は12カ月後

・販売…(1)~(5)は本規則登録18カ月後、(6)は24カ月後

・輸出…(1)~(6)全て本規則登録42カ月後


但し以下は例外として本規制対象外としています:

(1)廃棄物のプラスチック製品。

(2)ストローに関しては、フレキシブルストロー(断面形状が波型で、その位置で様々な角度で曲げた状態を維持できるもの)については、業務用や病院等の医療施設、ケア施設向けへの販売、また表示無のパッケージで 一般公開されず、かつ顧客より要求された場合のみとすることを条件とした1パック20本以上の小売販売については対象外。

(3)これらSUPの輸出については、上記の様に本規則登録42カ月後までは許容されるが、その期間における輸出目的での製造、輸入または販売は認められる。但しこの場合、その輸出目的のSUP品目の種類毎に品目の名称、数量、製造あるいは輸入年月日等の情報や文書を含む記録を記録作成から少なくも5年間保管せねばならない。


3. 期待される効果

今回の規則による規制対象となる6つのカテゴリーのSUPは、2019年の推定販売量15万トン(このうち最大のものは買物袋で約12万トン)で、同年のカナダで発生した廃プラスチック全体量の3%を占めると推定されています。


本規則の施行により、2023年から2032年の10年間で約130万トンの廃プラスチックが削減されると予想されており、これは毎年カナダで発生する廃プラスチック全体の約3%に相当すると推定しています。


これによるプラスチック廃棄による環境汚染は約22,000トンの減少をもたらすと予想され、同期間に発生するプラスチックによる汚染全体の約5%を占めています。


またこれによる主に代替材料の使用に起因する現在価値として20億ドルの費用発生が予想されていますが、これはカナダの消費者1人当たり年間約5ドルとなります。 6カテゴリーのSUPの製造禁止は、カナダの製造業者には同期間中、1億7,600万ドルのコストをもたらすと予想しています。


一方、陸上や海洋のプラスチック汚染回避によるごみの清掃のためのコストが削減されることによる利益として、同期間中の現在価値で6億1600万ドルを予想しています。


なおこれら6カテゴリーのSUPに対し、紙、木、アルミニウム、リサイクル可能プラスチック等による代替には見通しがついており、これらの使い捨て可能な材料による代替品の2015~2019年の平均成長率を4.7%としています。


おわりに

以上の様にカナダではプラスチックに対する循環型経済の仕組みへの切替えという大きな課題に対し、その具体的な施策として「使い捨てプラスチック禁止規則」が実現されました。 しかし前記の様に、これは「プラスチック廃棄物ゼロ戦略」における多くのアクションアイテムのうちの1つとしての位置づけであり、同戦略の目指す統合的管理の構築にはまだまだ多くの課題が残されています。


今後は本規則の施行による効果検証と共に、こうした諸課題への取組みが継続されていくものと思われます。

例えば、本年7月25日には、プラスチック製品にそのリサイクル性をラベル表示すること7)、またプラスチック製造者の拡大生産者責任(製品に対する生産者責任をそのライフサイクル後の段階にまで拡大させる考え方)の強化のため、製造者にそのリサイクル性等に関するデータを登録させるためのデータベースを設立すること8) についてのパブリックコメントが各々10月7日までの予定で開始されています。


引き続きこれらの動向には注意していきたいと思います。


参考URL

1)


2)


3)


4)


5)


6)


7)


8)


以上


(福井 徹)


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