2022年10月21日更新
欧州化学物質庁(ECHA)に関する現行の規則は、2006年施行のREACH規則1)のなかで規定されており、第79条において欧州化学物質庁は、この規則の技術的、科学的、および管理的側面を管理し、場合によっては実行する目的で設立され、これらの側面に関して共同体レベルでの一貫性を確保すると明記されています。 2008年以降、ECHAは新しい任務を担いながら、活動の幅も拡大していますが、近年ではガバナンス強化や作業の合理化、資金調達の持続性などといった課題も明らかになっています。
これらの課題の解決を目的としたイニシアチブとして、2022年9月12日、欧州委員会はECHAの基本規則に関する提案における情報提供の照会(Call for evidence)(2022年10月10日まで)2)を開始しました。 今回のコラムではこの内容について説明します。
1.背景
2020年10月14日に採択された持続可能な化学物質戦略(CSS)3)は、化学物質に関するEUの規則を簡素化し、統合することを目的のひとつとしており、「1物質1評価」アプローチを通じて、安全性評価の有効性、効率性、一貫性を向上させるための多くの方策を説明しています。 そのなかで、ECHAのガバナンスを強化し、その資金調達モデルの持続可能性を高めることが提案されています。
ECHAはEUの化学物質政策の技術、科学、管理業務を統括、遂行するために設立されましたが、化学物質政策の主な目的は、人の健康と環境を高い水準で保護し、域内市場を十分に機能させることにあり、これには、化学物質の有害性評価の代替方法や、域内市場における自由な流通を促進する一方で、産業の競争力とイノベーションを向上させることが含まれます。
今回のイニシアチブには、2017年に公表されたECHAの評価報告4)や2020年に公表された欧州会計監査院の特別報告書5)の内容についても反映させるとしています。
2.イニシアチブが取り組むべき課題
ECHAは、REACH規則以外の法規制や欧州委員会と締結した協定(職業ばく露限界値に関する意見提供のためのサービスレベル協定など)から、技術、科学、管理面での追加業務を委託されており、その結果、EHCAの業務範囲は複雑さを増しています。
今後CSS実施の一環として、改定が予定される他の法規制によりECHAに割り当てられる業務はさらに増えることが予想されています。 ECHAとその機関の役割と運営について、本質的な変更と明確化を実施しなければ、この状況はさらに複雑化し、非効率につながる可能性が高いとしています。
特にECHAとその機関、リスクアセスメント委員会、社会経済性評価委員会、執行フォーラムの法的枠組みは、ECHAが将来の義務を果たし、独立性を維持できるように明確化される必要があります。 今後、リスクアセスメント委員会では、以下のような既存業務および今後派生する業務に基づき、化学物質に関する科学的な意見を発表する見込みです。
・REACH規則およびCLP規則の改正に関連する既存業務の追加または再定義
・飲料水指令(DWD)などの既存の法規制に規定された業務
・電池規則など、提案段階の法規制に規定された業務
・消費者安全科学委員会(SCCS)および保健衛生・環境及び新興リスクに関する科学委員会(SCHEER)から移管される可能性のある業務(水枠組み指令(WFD)、玩具安全指令、RoHS指令など)
また、ECHAの持続可能な財政的枠組みは事務的負担を軽減したうえで、より柔軟性をもって設定される必要があります。 そうすることによりECHAのさまざまな任務の遂行における一貫性と相乗効果が確保されるとともに、ECHAの予算使用の最適化に繋がるとしています。 ECHAの財源は現在3つの異なる予算で構成されていますが、それらの間の柔軟性は高くありません。
(i) REACH規則とCLP規則
(ii) 殺生物性製品規則(BPR)
(iii) 環境および国際的な協定:環境指令や国際条約を実施するために欧州委員会が支払うEU負担金をまとめたもの(有害物質の輸出入に関する規則(PIC)、残留性有機汚染物質規則(POPs)、飲料水指令(DWD)、廃棄物枠組み指令(WFD)第9条など)
手数料収入に関しては、特にREACH規則に基づいてECHAが徴収する手数料が大幅に減少しています。 これは、おもに2018年に段階的導入物質における登録期限が到来したことに起因しています。 同時に、REACH規則の下で予定されている業界の登録、届出、申請に関する情報が不足しているため、手数料収入は予測不可能で不安定であることも指摘されています。 産業界が支払う手数料は年によって大きく異なるため、EU予算からバランスのとれた業績を合理的に見積もることができず、予算と作業の計画立案を複雑にしています。これらは前述の2017年のECHA評価報告にも明示されています。
3.予想される影響と評価
ECHAが活動する法的枠組みを明確にすることによって、より効果的、効率的、かつ首尾一貫した活動を行うことが意図されています。 これは、ECHAの既存の任務と、さまざまなCSSにより派生する新しい任務の数が増加することを背景として検討されており、統合されたリソースの利用を改善し、予算と業務の計画を簡素化することが期待されています。 ただし、このイニシアチブは、経済的、社会的、環境的に大きな影響を与えることはないと考えられています。
今後、ECHAのパフォーマンスは、分散型機関に関する共通アプローチ6)に沿って定期的に評価される予定となっています。 共通アプローチは、EUの分散型機関をより効率的かつ効果的にEUの政策を実施できるようにするための包括的な指導原則で、2012年、欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会により採択されました。
ECHAの役割と任務の変更は、資源ニーズと資金源に関する潜在的な変更とともに、REACH規則の改定7)、CLP規則の改定8)およびECHAに新しい任務を委託するその他の構想に関する影響評価で考慮されており、これらの異なる影響評価から得られた知見は、統合される予定としています。
3. まとめ
ECHAはREACH規則の施行とともに設立され、現在ではREACH規則以外にも多岐に渡る業務を行っているため、法規制の手続きを確認するうえで、読者のみなさまにもよく知られたEUの専門機関だと思われます。 ただし、ECHAの業務範囲や根拠となる規則はあまり広く認識されていないのではないでしょうか。
今後、CSSのもとで改正されるREACH規則やCLP規則などの動向は多くの人にとって興味深いものだと思われます。 同時に今回のイニシアチブの動向にも目を配ることにより、これらの法規制の体系や全体像をより深く理解することに繋がるのではないかと考えます。
(柳田 覚)
1) REACH規則
2) ECHAの基本規則を提案するイニシアチブ
3) 持続可能性のための化学物質戦略(CSS)
4) 欧州化学品庁(ECHA)の評価報告書(2017)
5) 欧州会計監査院の特別報告書
6) 分散型機関に関する共通アプローチ
7) REACH規則改定のイニシアチブ
8) CLP規則改定のイニシアチブ
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