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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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物質/混合物の分類、表示および包装のための有害性クラスとクライテリアに関する規則 (EC) No 1272/2008を修正する委員会委任規則

2022年10月28日更新

掲題、規則 (EC) No 1272/2008 (以降「CLP規則」) を修正する委員会委任規則の草案 1)に対する意見募集が2022年9月20日から2022年10月18日まで行われました。


上記、委員会委任規則 (草案) (以降「草案」)の覚書メモ (EXPLANATORY MEMORANDUM) には草案制定の背景、採択までの経緯、委任法の法的要素等が記載されています。


1. 草案の背景

CLP規則の目的は、以下の2項目を確実にすることである。

(ⅰ) 人の健康と環境の高レベルの保護

(ⅱ) 物質、混合物および特定成形品の自由な移動

上記2項目は、EUレベルでの物質、混合物の有害性分類とクライテリアを確立することによって実現される。

CLP規則の第53条 (1) は、同規則の関連条項および附属書の内容を技術と科学の進展に適合させるために調整し、採択する権限を欧州委員会 (以降「委員会」) に与えている。

技術と科学の進展に適合するためCLP規則に新しい有害性クラスとクライテリアを導入することは化学戦略の下での基本的な公約 (commitment)として認められている。それは有害化学物質から消費者、弱者グループおよび作業者を保護し、環境の化学物質汚染ゼロを目標とするEUグリーンディールの構成要素 (building block) だからである。

内分泌攪乱性により高懸念物質としてREACH規則の物質特定で得られた経験と科学知識はCLP規則に対し、新しい有害性クラス導入を強く要求している。

同様に、REACH規則附属書ⅩⅢにおける難分解性、生物蓄積性および有毒性 (PBT) および特に難分解性、生物蓄積性 (vPvB) を有する物質の特定における経験は新しい有害性クラス導入の誘因となっている。難分解性、高移動性および有毒性 (PMB) および特に難分解性、高移動性 (vPvM) により環境に重大な影響を及ぼす可能性がある。

科学的専門家の審議と諮問に基づき、草案の附属書に規定されているクライテリアとハザードステートメントはこの分野の科学的知識の進展を適切に反映している。


2.草案採択に先行実施されたコンサルテーション

2.1専門家グループによるコンサルテーションとサブグループによる特別な議論

2016年4月13日の ’ Interinstitutional Agreement on Better Law-Making ’ 2) の規則に従って、各加盟国から任命された専門家は、該当する専門家グループ (CARACAL (注))において助言を求められた。  

PMT 、vPvMおよびPBT、vPvB物質に対して、2021年9月30日のCARACALミーティングで議論され、新有害性クラス等については2021年12月14日のミーティングにおいて議論された。 更に、本規則附属書に収載される科学的クライテリアは2020年7月2日以降2022年2月24日までに開催された内分泌攪乱性に関するCARACALサブミーティングにおけるディスカッション、2021年5月28日および2021年6月28日に開催されたECHAのPBT専門家グループのミーティングの結果に従っている。


(注) Competent Authorities for Registration , Evaluation , Authorisation and Restriction of Chemicals (REACH) Classification , Labelling and Packaging (CLP)


2.2インパクトアセスメントプロセスにおけるコンサルテーション

2016年4月13日のthe Interinstitutional Agreement on Better – Law – Making の項13に従って、委員会は、法的要求と本委任規則に関するCLP規則レビューに関するインパクトアセスメントを実施した。このインパクトアセスメントには、重大経済、環境および社会的な影響を与える新有害性分類クライテリア挿入の影響分析が含まれている。

CLP規則の改版に関するインパクトアセスメントプロセスの一部として、委員会は、幾つかの問題について、(a) 公開パブリックコンサルテーションおよび (b) 標的ステークホルダーコンサルテーションを開催した。


(a)公開パプリックコンサルテーション

委員会は、2021年8月9日から2021年11月15日まで14週間のCLP規則の改版に関する公開パブリックコンサルテーションを実施した。

委員会は、その結果以下の4タイプのステークホルダーから625の回答を得た。

((ⅰ)企業ビジネス団体、(ⅱ)EU/非-EU市民団体、(ⅲ)公共団体、(ⅳ)その他の市民団体)

回答の内訳の概要は以下です。

企業ビジネス団体 (45%)、EU/非-EU市民団体 (39%)、その他の市民団体 (12%)

企業ビジネス団体からの回答の69%は中小企業からで、大企業からは30%であった。トータルで144の方針説明書 (ポジションペーパー) がアップロードされている。 地域別でみるとフランス (28%)、ドイツ (20%) であった。新有害物質の導入についての意見はステークホルダーグループごとに大きく違っていた。


(b)標的ステークホルダーコンサルテーション

CLP規則に関する標的ステークホルダーコンサルテーションは、2021年11月10日から12月22日までの6週間行われた。

その間合計167の回答と39のポジションペーパー (方針説明書) が受領された。

標的ステークホルダーコンサルテーションに対する回答分析によれば、新有害性クラス導入支持者は、その行動計画/構想は有害化学物質へのばく露を減らし、安全な職場、安全な代替物質および有害物質をよりよく制御することが可能であるとしている。

しかし、殆どの企業ビジネス団体は新有害物質クラス導入に反対していた。

新有害物質クラス導入への反対理由は、有害性コミュニケーションにおける潜在的情報負担増、国際貿易分野における行動の歪み、多様な活動に対するコスト増をもたらすことであった。


また、内分泌攪乱性を処理するためにCLP規則は適切な手段ではないとの懸念を持つと共に、既存の分類・表示と新しい有害性クラスの潜在的な重複について懸念を表明していた。 これに対する反論とは、内分泌攪乱性はまったく違った方法で多様な有機体 (微生物) に影響していることを強調していることを示しているからである。 そのため、内分泌攪乱性は本質的な (有害) 特性として考慮され有害性として格付けされるべきとしている。

その他のコメンテーターは、難分解性および移行性のような特性は、必ずしも有害性に関連しない事実、すなわち、化学物質が自動的に有害性であることを意味しないことを指摘した。


しかし、CARACALメンバーからの幾つかの文書回答は、特定の特性の組合せ、例えばvP、vMまたはPMBは飲料水源への脅威をもたらすことを強調していた。 そのような特性の組合せは、廃水処理施設における自然と人工のバリヤを化学物質が通過するチャンスを増加させる。


3.草案の法的要素

本草案の法的根拠は、CLP規則の第53 (1) 条である。

本規則は、委員会委任規則の形式を採用している。

CLP規則の第53 (1) 条における権限付与に照らして、EU機能に関する条約第290条に従って、委任法によって技術と科学進歩を附属書Ⅰパート3およびパート4、附属書Ⅲのパート1、附属書Ⅵのパート1を採択することは適切である。


草案は前文17条、本文2条と附属書から構成されている。以下に前文の要約を紹介します。


(1)CLP規則の附属書Ⅰパート2~パート5は有害性クラスとそれら有害性クラスとは別の物質、混合物および特定の成形品の分類のための調和化されたクライテリアを含み、各クライテリアに対応する表示要求にどのように適合すべきかを規定している。


(2)欧州グリーンディールは、あらゆるソースからの汚染を除去し、有害性に無関係な環境実現へ向けて活動する野心的なアプローチとして人の健康と環境保護への到達点を規定している。


(3)2002年にWHOにより確立された定義に基づき、内分泌攪乱性の有害性特定の法的拘束を確立するための必要性および植物保護製品、殺生物性製品に対して既に開発されていたクライテリアを利用し、それがすべてのEU共同体法令に適用される必要性は有毒性のない環境に向けた持続可能な委員会コミュニケーション化学物質戦略において強調されている。 そのコミュニケーションは、環境有毒性、難分解性、移動性および生物蓄積性を十分に処理するためにCLP規則に新しい有害性クラスとクライテリアを収載する必要性を指摘している。


(4)委員会はCLP規則に新しい有害性クラスとクライテリアを追加するため、オープンパブリックコンサルテーションとステークホルダーコンサルテーションを含んだインパクトアセスメントを実施している。

委員会はまた、ECHAの専門家グループに難分解性、生物蓄積性および有毒性化学物質に関する助言を求め、REACHとCLPのための権限当局 (CARACAL) およびその専門家グループである内分泌攪乱性に関するサブグループに新しい物質、混合物の分類と表示のための有害性クラスとクライテリアに関する助言を求め、彼らの科学的な助言を考慮に入れていた。


(5)REACH規則の下で、内分泌攪乱性の特定およびPBT、vPvB、PMTおよびvPvMとして物質の特定で得られた経験と科学的知識を得たことで、CLP規則に新しい有害性クラスとクライテリアを導入し、技術と科学の進歩を適合させることが必要である。それらの有害性クラスの分類のために利用可能な証拠は評価され、科学的クライテリアは科学の現状を反映すべきである。


(6) 内分泌攪乱性を有する物質、混合物は、公衆の健康と環境に懸念を呈する。内分泌攪乱性は人に特定の障害、中でも出生異常、発育、生殖、また神経発達障害、がん、糖尿病および肥満をもたらすことが証明されており、大人や子供に大きく影響を与えている。内分泌攪乱性は同時に動物の個体数に負の影響を及ぼす可能性が証明されている。


(7) 経験上、PBTまたはvPvBは高懸念を示す。それらは環境中で分解せず食物連鎖中で活性有機体に蓄積する傾向がある。排出はそれらの濃度を低下させることにより容易に止まらず、長期間でのこの蓄積の影響は予測することが難しいので、環境中でのそれら物質の蓄積を減少させるのは難しい。更に、長距離輸送に耐える特定のPBTおよびvPvBは遠方の未汚染地域を汚染する潜在力を持っている。それらの物質がいったん環境中に放出されるとそれらへのばく露を止めることは困難である。それにより環境経由で動物と人間両方に累積ばく露をもたらす。


(8) その低吸収潜在力および移動性と同様に高難分解性によって、それらは飲料水サイクルに入り、広範囲にわたり拡散するので、PMTおよびvPvM物質は懸念をもたらす。多くのPMTおよびvPvM物質は、廃水処理プロセスにより取り除かれるのは僅かの部分である。そして、最も進歩した飲料水処理施設の純化プロセスによって打開される可能性がある。

新しい排出と結びついているそのような不完全な除去は、環境中におけるPMTおよびvPvM物質の濃度が時間を超過して増加することを意味する。いったん、環境に放出されると動物と人間への累積ばく露に結びつくPMTおよびvPvM物質へのばく露は止めることが困難である。長期間にわたるこのばく露による影響は予測ができない。


(9)PBT、vPvB、PMTおよびvPvM物質、混合物と同様に人の健康と環境に対する内分泌攪乱性の特定において得られた科学的知識と経験の増進に照らして、それらの物質と混合物に対する有害性クラスを導入し、特定するために対応する科学的クライテリアを導入することは適切である。


(10)内分泌攪乱性に関するエビデンスのレベルは科学的な力が異なっているかもしれない。

それ故に、内分泌攪乱性に次の2つのカテゴリーを創出することは妥当である。

既知または推定される内分泌攪乱性 (カテゴリー1) および

疑わしい内分泌攪乱性 (カテゴリー2)


(11)内分泌攪乱性のクライテリアの適用に関するガイドラインを開発する場合、ECHAは植物保護製品および殺生物性製品に関する法令の制定およびその他の科学的正当性法令の制定から得られた経験を役立てることができる。


(12)PBTおよびvPvB物質および混合物の固有の性質は類似している。しかし、有毒性のクライテリアに関してはかなり違っている。

一方、難分解性と生物蓄積性に関しては、本質的特性の化学的評価のための一般的ルールを確立し、2つそれぞれの有害性クラスとそれぞれ個別のクライテリアを創出することが妥当である。


(13) PMTおよびvPvM物質、混合物の固有の性質は類似している。しかし、有毒性のクライテリアに関してはかなり違っている。

一方、難分解性と移行性に関しては、本質的特性の化学的評価のための一般的ルールを確立し、2つそれぞれの有害性クラスとそれぞれ個別のクライテリアを創出することが妥当である。


(14)REACH規則への登録の有無に関わらず、PBTおよびvPvBとして物質、混合物の適切な分類を許可するためにREACH規則附属書ⅩⅢセクション1に規定されているPBTおよびvPvB物質の特定のための既存のクライテリアはCLP規則に収載されるべきである。この点については、CLP規則のPBT、vPvBに対するすべての有害性カテゴリーの導入は、REACH規則附属書ⅩⅢに規定されている限り、それらを反映しているPBTおよびvPvBを実現するために要求されているエビデンスの高レベルな科学力を考慮して適切ではない。


更に、P、vP、、B、vBおよびTの特性に対するスクリーニングが、有害性特定および分類とは異なった目的に役立つのかを考慮すべくスクリーニング情報は当該附属書に規定されている。 加えて、そのスクリーニング情報に基づき更なる有害性カテゴリーの開発は、過剰分類や既存の環境分類との重複を引起すだろう。 それ故に、CLP規則にPBTおよびvPvBに対する追加的な有害性カテゴリーの導入は適切ではない。


(15)M、vMのための分類クライテリアは特にlogKoc (土壌吸収係数) 値に関係している。Koc値は、有機炭素―水分割係数で、土壌、スラッジおよび堆積物のような固体環境区分 (solid environmental compartment) の有機フラクション上で吸収される物質の能力を反映している。 そして、地下水中への浸透物質の潜在力に反比例の関係がある。 それ故、物質のlogKoc値に対抗する移行性クライテリアを評価することは適切である。

低Kocは高移行性を暗示している。


(16)新しい有害性クラスを規定する場合は、それらの名称をつけたクラス、個々の有害性ステートメントおよび個々の有害性カテゴリーコードの導入が必要である。

それ故、CLP規則附属書Ⅰ、ⅢおよびⅥに有害性クラス、有害性ステートメントおよびカテゴリーコードを含むことが必要である。


(17)物質、混合物のサプライヤーは新しい分類と表示の規定に適合するための時間の確保を確実にするため、規則に従った物質、混合物の分類、表示義務の適用時期は延期されるべきである。 繰延べ期間の終了以前に既に上市されていた物質、混合物はサプライヤーの追加負担を回避するために本規則に従い、再分類、再表示することなく継続して上市することが認められるべきである。


(18)ボランタリーベースで早期段階での新規定の申請を許可しているCLP規則に規定されている移行規定により、サプライヤーは本規則に従い物質、混合物を分類、表示の義務適用日以前に新分類、表示規定を申請することが可能とされるべきである。


第1条

CLP規則は以下のとおりに修正される。


(1) 附属書Ⅰは本規則附属書Ⅰに規定とおりに修正される。

(2) 附属書Ⅲは本規定附属書Ⅱの規定とおりに修正される。

(3) 附属書Ⅵは本規定附属書Ⅲの規定とおりに修正される。


第2条

本規則はEU官報の刊行後20日目に発効し、直接加盟国に適用される。


さいごに

草案がEU官報で公示され、発効すれば、CLP規則が改正されることとなります。

それに基づき、新しい分類基準が、国連GHS (化学品の分類および表示に世界調和システム) に採用されることが予想されます。

その場合、我国においてもSDSが要求されている労働安全衛生法、化管法および毒劇法への対応が必要になるものと思われます。 

関連する企業においては、本動向に注視しておくことが必要であると考えます。


(瀧山 森雄)


引用

1)Hazardous chemicals – updated rules on classification, labelling and packaging (europa.eu)


2)INTERINSTITUTIONAL AGREEMENT BETWEEN THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE COUNCIL OF THE EUROPEAN UNION AND THE EUROPEAN COMMISSION ON BETTER LAW-MAKING

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