2023年08月04日更新
EUでは、「有害化学物質の輸出入に関する規則」(EU) No 649/2012【有害化学物質の輸出入規則】*1)(以下、同規則とします)の修正案 EU C(2023)3822 *2)が、2023年6月16日にEU委員会で採択されました。 同規則第23条(1)では、同規則附属書Ⅰ(ロッテルダム条約に基づく有害化学物質の輸出入制限リスト)を毎年見直しすることになっています。 直近の改正は2022年7月1日でした。
今回のトピックでは、この改正で輸出届出手続きの対象となる化学物質一覧に加えられる有害化学物質には、どんなものかをみてゆきます。
その前に、ロッテルダム条約と輸出届出手続きについて確認します。
1.ロッテルダム条約(PIC条約)
ロッテルダム条約(PIC条約ともいう)*3)は、先進国で使用が禁止または厳しく制限されている有害化学物質や駆除剤が、開発途上国にむやみに輸出されることを防ぐために、締約国間の輸出に当たっての事前通報・同意手続(Prior Informed Consent、通称PIC)などを設けた条約で、1998年9月11日にロッテルダムにおいて採択されました。 日本は1999年8月に署名、現時点では72ヵ国で署名されています。
日本でロッテルダム条約(PIC条約)の対象となる化学物質は、2022年10月現在 *3)
1.PIC条約附属書Ⅲ掲載物質 52物質群
2.我が国が独自に禁止又は厳しく制限している物質(最終規制措置対象物質)
注)一部が、PIC条約附属書Ⅲ掲載物質と重複しています。
・化学物質審査規制法(第1種特定化学物質) 34物質
・労働安全衛生法(製造使用等禁止物質) 8物質
・毒物及び劇物取締法(特定毒物) 10物質
・農薬取締法(販売禁止農薬) 22物質群
です。
2.EUで輸出届出手続きの対象となる化学物質一覧
EU 同規則附属書Ⅰは、以下の3つのパートに分かれています。(同規則第7条)
附属書ⅠPart 1:輸出届出手続きの対象となる化学物質一覧(同規則第8条)
附属書ⅠPart 2:PIC通知の対象化学物質一覧(同規則第8・11条)
附属書ⅠPart 3:PIC手続きの対象化学物質一覧(同規則第13・14条)
Part 1には、Part 2 と Part 3 の化学物質も含まれる他、PIC条約以外のEU規則などで輸出届出手続きが必要なものも含まれています。 化学物質名のほか、CAS RN、EC番号、CNコードの例示、サブカテゴリー(農薬(p1)、その他の殺生物剤(p2)、業務用化学物質(i1)、公衆用化学物質(i2))、使用制限(厳しい制限(sr)、EU法令による禁止(b))を一覧にしています。
Part 2 と Part 3 は、PIC条約の対象となる化学物質です。
Part 2は、EUが独自に禁止又は厳しく制限している物質(最終規制措置対象物質)であり、Part 3 の化学物質は含まれていません。 化学物質名のほか、CAS RN、EC番号、CNコードの例示、カテゴリー(農薬(p)、工業用化学物質(i))、使用制限(厳しい制限(sr)、EU法令による禁止(b))を一覧にしています。
Part 3がPIC条約附属書Ⅲ掲載物質です。化学物質名のほか、CAS RN、CNコードの例示、カテゴリー(農薬、非常に危険な農薬、工業用化学物質)を一覧にしています。
3.今回の有害物質輸出入規則改正で追加された化学物質
2023年6月16日にEU委員会で採択された修正案 *2) で、同規則に追加された有害化学物質を整理すると以下のように分類できました。日本での規制状況と比べながらみてゆきましょう。
(1)EUが承認を更新しないなどの理由による有害化学物質
「植物保護製品の市場投入規則」(EC) No 1107/2009 *4) や,「殺生物性製品の市場での入手と使用についての規則」(EU) No 528/2012 *5) で、EUが必要な承認を更新しなかったために、農薬カテゴリーで使用禁止になったために、EU 同規則附属書Ⅰに追加されるもの。また、「物質および混合物の分類・ラベル表示・包装規則(CLP規則)」(EC) No 1272/2008 *6) のGHS分類で人の健康または環境への懸念物質であることが理由のひとつになっているものがあります。
1.ファモキサドン 131807-57-3 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録があり、殺菌剤「ホライズン」の有効成分のひとつ。
2.ホスメット 732-11-6 農薬 有機リン系殺虫剤
日本では、農薬登録はありませんが、作物への残留基準値があります。
3.インドキサカルブ 173584-44-6等 農薬 殺虫剤
日本では、農薬登録があり、「アグロスリン」などの商標で果実や野菜などの栽培に利用されています。
4.α-シペルメトリン 67375-30-8 農薬 殺虫剤
日本では、異性体を区別せず「シペルメトリン」として農薬登録があり、「トルネード」などの商標で野菜などの栽培に利用されています。
5.イソピラザム 881685-58-1 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録があり、「ネクスター」などの商標で、野菜・果樹栽培に使用されています。
6.クロロフェン 120-32-1 動物医薬品 殺菌剤
日本では、化審法で既存化学物質です。
7.エスビオトリン 260359-57-7 殺虫剤・殺ダニ剤
日本では、化審法で医薬品類(第9類)に分類されています。
8.トリフルムロン 64628-44-0 農薬 殺虫剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
9.シフルトリン 68359-37-5 農薬 ピレスロイド系殺虫剤
日本では、農薬登録があり、広い作物に資料されています。農薬以外でも不快害虫用の殺虫剤にも使われています。
10.クロルフェンビンホス 470-90-6 農薬 有機リン系殺虫剤
日本では、「CVP」という名前で農薬登録されていましたが、2004年2月28日に登録失効しました。残留基準値が設定されています。
11.テルブホス 13071-79-9 農薬 有機リン殺虫剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
(2)産業界が承認手続きを撤回したなどの理由による有害化学物質
EUではなく、産業界が承認を撤回することにより、使用禁止になったものです。
1.ブロマジオロン 28772-56-7 クマリン系殺鼠剤
日本でも、殺鼠剤として使用されています。
2.メタムナトリウム 137-42-8 ジチオカーバメート系の殺線虫・殺虫・殺菌・除草剤
日本では、「カーバムナトリウム塩」という名前で農薬登録されています。
3.ジウロン 330-54-1 農薬 除草剤
日本では、DCMUという名前で農薬登録があり、使用されています。
4.アジムスルフロン 120162-33-2 農薬 スルホニルウレア系除草剤
日本では、農薬登録され、水稲の除草剤として使用されています。
5.カルベタミド 16118-49-3 農薬 除草剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
6.カルボキシン 5234-68-4 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
7.シプロコナゾール 94361-06-5 農薬 トリアゾール系殺菌剤
日本では、農薬登録され、日本芝の病気を防ぐために使用されています。
8.エタメスルフロンメチル 97780-06-8 農薬 除草剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
9.エトリジアゾール 2593-15-9 農薬 殺菌剤
日本では、2012年1月1日に農薬登録が失効していますが、残留基準値が設定されています。
10.フェンブコナゾール 114369-43-6 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録され、果物やお茶に使用されています。
11.フルキンコナゾール 136426-54-5 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
12.ルフェヌロン 103055-07-8 農薬 昆虫成長制御剤(殺虫剤)
日本では、農薬登録され、幅広い作物に使用されています。
13.メトスラム 139528-85-1 農薬 除草剤
日本では、農薬登録されていませんが、残留基準値が設定されています。
14.ミクロブタニル 88671-89-0 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録され、幅広い作物に使用されています。
15.ペンシクロン 66063-05-6 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録され、適用作物は、稲・いも・芝などです。
16.プロクロラズ 67747-09-5 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録され、適用作物は、稲などです。
17.プロホキシジム 139001-49-3 農薬 除草剤
日本では、農薬登録されていません。残留基準値の設定もありません。
18.スピロジクロフェン 148477-71-8 農薬 殺虫剤(殺ダニ剤)
日本では、農薬登録され、果物やお茶に使用されています。
19.トリフルミゾール 68694-11-1 農薬 殺菌剤
日本では、農薬登録され、幅広い作物に使用されています。
20.フェノキシカルブ 72490-01-8 農薬 殺虫剤・昆虫変態阻害剤
日本では、1996年11月7日に農薬登録が失効しています。
(3)REACH規則の「認可が必要な物質」で日没日を迎えた有害化学物質
以下の8成分は、REACH規則(EC) No 1907/2006 *7) の附属書ⅩⅣ(認可が必要な物質一覧)で生殖毒性があるとされて、2020年7月4日に日没日を迎えています。 附属書ⅠPart 1 とPart 2に追加されます。
1.1-ブロモプロパン 106-94-5
2.フタル酸ジイソペンチル 605-50-5
3.1,2-ベンゼンジカルボン酸、ジ-C6-8-分岐アルキルエステル、C7リッチ 71888-89-6
4.1,2-ベンゼンジカルボン酸、ジ-C7-11-分岐および直鎖アルキルエステル 68515-42-4
5.1,2-ベンゼンジカルボン酸、分枝状および直鎖状のジペンチルエステル 84777-06-0
6.フタル酸ビス(2-メトキシエチル) 117-82-8
7.フタル酸ジペンチル 131-18-0
8.フタル酸n-ペンチルイソペンチル 776297-69-9
(4)ロッテルダム条約の第10回締結国会議(COP10)で決められた有害化学物質
以下の2成分は、2022年6月6日から17日まで開催されたロッテルダム条約 *3) 第10回締結国会議(COP10)で、同条約の附属書IIIに含めることを決定したため、PIC手続きの対象になりました。 そのため、以前から附属書ⅠPart 1とPart 2にありましが、附属書ⅠPart1はそのままに、Part 2から削除して、Part 3に追加されます。
1.デカブロモジフェニルエーテル 1163-19-5
2.ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、その塩とPFOA関連化合物 335-67-1
(5)法令上の表記の整理のための修正があった有害化学物質
1.ブロモキシニルなど 1689-84-5など 関連物質名の明示
2.エポキシコナゾール 135319-73-2など CAS RNの追加
3.ノニルフェノール エトキシレート 9016-45-9など EC番号の追加
以上が、今回の有害化学物質の輸出入規則附属書Ⅰの追加・改正内容でした。
(東京環境経営研究所 執行理事 槌田 博)
4.【参考情報】
*1)EU「有害化学物質の輸出入に関する規則」(EU) No 649/2012
*2)EU「有害化学物質の輸出入に関する規則」(EU) No 649/2012の2023年6月16日修正案
*3)ロッテルダム条約(PIC条約ともいう)の経済産業省解説
*4)EU「植物保護製品の市場投入指令」(EC) No 1107/2009
*5)EU 「殺生物性製品の市場での入手と使用についての規則」(EU) No 528/2012
*6)EU 「物質および混合物の分類・ラベル表示・包装規則(CLP規則)」(EC) No 1272/2008
*7)EU REACH規則(EC) No 1907/2006
Comentarios