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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

よもやま話 2024年シリーズ なぜ、この法規制が始まったのか 第1回 一般製品安全規則((EU)2023/988 General Product Safety Regulation :GPSR)

2024年11月08日更新

GPSR(*1)は、2023年5月23日に一般製品安全指令((EC)2001/95 General Product Safety Directive: GPSD)を置き換える「規則」として告示されました。

指令から規則への変更以上に、企業への要求が変わってきています。


1.制定背景

世界の国々は国内の産業保護育成と共に消費者の権利の保護と拡大政策を強化しています。ことに、ネット販売の普及でサプライチェーンの国境がなくなり新たな規制が始まってきています。

EUの消費者保護法を確認すると、長年にわたり消費者の権利の保護と拡大の政策が継続されています。

・1984年:誤解を招く広告に関する指令(EEC)84/450(*2)

・1997年:遠隔契約に関する消費者保護に関する指令(EC)97/7(*3)

・2001年:一般製品安全に関する指令(EC)2001/95/ (*4)

・2002年:消費者金融サービスの遠隔販売に関する指令(EC)2002/65/(*5)

・2004年:消費者保護協力に関する規則(EC)2006/2004 (*6)

2017年には、加盟国の国家機関は、EUの消費者保護法の施行に責任を持っており、国境を越えての買い物時の消費者保護を目的として、「消費者保護法の執行を担当する国家当局間の協力規則」(EU)2017/2394により公的執行者のネットワーク(*7)を設立しました。

2019年にライエン委員長が就任し、「消費者保護法現代化指令」((EU)2019/2161)(*8)で、それまでの消費者保護4指令を改訂し、消費者諸法規を強化しました。この指令は、EUの「消費者のためのニューディール」(COM(2018) 183 final)(*9)の一環として制定されたものです。

また、EUグリーンディールによる消費者エンパワーメント強化を定め、消費者がグリーンおよびデジタルへの移行において積極的な役割を果たせるように、「消費者の権限強化とより良い保護の確保のための新しい消費者アジェンダ」(*10)を2020年に示しました。

EUの消費者保護政策は、社会情勢の変化に合わせて、理念を示し、規制法で要求事項を具体化しています。


2.規制の目的

GPSRは、食品以外の消費者向け製品に広く適用されます。GPSRは、ライエン委員長の消費者保護政策を具体化したもので、他の法規制に大きな影響を与えると考えられます。また、GPSRは、規則となり加盟国による差異なく運用されます。

GPSRは前文が108文節、条項が52条、1つの附属書で構成されています。GPSRの主旨が前文に記述されていますので、前文を精読することが重要です。


消費者保護は消費者の健康、安全、経済的利益の保護と域内自由市場の達成のために、加盟国での差異の無い高度な取り組みが行われます。経済事業者(製造者、輸入者、販売者等)は、安全な製品のみを市場に出す義務があります。高いレベルの安全性は、主として、製品の意図された予見可能な使用及び使用条件を考慮した上で、製品の設計及び特徴を通じて達成し、残りのリスクは、警告や指示のような特定の安全対策によって軽減しなくてはなりません。


用語の定義では、「安全な製品」とは、「実際の使用期間を含む、通常または合理的に予見可能な使用条件の下で、製品の使用と互換性のあるリスクを伴わないか、最小限のリスクのみをもたらさず、許容可能であり、消費者の健康と安全の高レベルの保護と一致すると見なされる製品を意味する。」とし、「危険な製品」とは、「安全な製品ではない製品を意味する。」としています。

安易な警告表示は許されないことになります。


GPSRは消費者保護が目的ですが、多面での保護を目的としています。

(i)GPSRはすべての製品が対象となり、特定製品に特定要求が他のEU法で定めている場合にのみ、その規定を優先するものです。

(ii) 一般的な製品安全性要求と関連条項は、EU法で規定されていない場合は消費者製品に適用されます。

(iii) ネット販売またはその他の遠隔販売手段等の提供者の義務、事故が発生した場合の経済事業者の義務、情報に対する権利及び消費者の救済、並びに製品安全リコールに関するGPSRの規定が適用されます。

ネット販売等の手段を通じて提供される製品の場合は、販売がEUの消費者を対象とする場合は上市とみなされます。

(iv)業務用に設計されているが、その後消費者市場に移行した製品は、合理的に予見可能な条件下で使用された場合には、消費者の健康と安全にリスクをもたらす可能性があるためGPSRの対象となります。

(v)GPSRの対象とならない製品は、医薬品、食品および飼料製品、生きている植物、動物の副産物や農薬、植物保護製品などの個別法が適用される製品です。


3.製造者の義務

(1)製品を上市する場合、製造者は、EN規格(あれば)などを頼りに合理的に予見可能な条件安全性を考慮したリスク評価に従って設計および製造されていることを確認する。

(2)製品を上市する前に、製造者は内部リスク分析を実施し、少なくとも製品の一般的な説明とその安全性の評価に関連するその本質的な特性を含む技術文書を作成する。

技術文書には、該当する場合、次のものも含めるものとする。

(a)製品に関連する可能性のあるリスクと、そのリスクを排除または軽減するために採用されたソリューションの分析

(b)関連するENのリスト、またはその他の要素(国際規格や安全性に関する消費者の合理的な期待など)

(3)製造者は、技術文書が最新であることを確認する。製品が市場に出回ってから10年間、市場監視当局が自由に使えるように保管し、要求に応じてその文書を市場監視当局が利用できるようにする。

(4)製造者は、一般的な安全要件に準拠し続けるために、連続して生産される製品のための手順が整っていることを確認する。

(5)製造者は、製品にタイプ、バッチ、シリアル番号、または製品の識別を可能にし、消費者にとって見やすく読みやすいその他の要素、または製品のサイズまたは性質が許可しない場合は、必要な情報がパッケージまたは製品に付属する文書に記載されていることを確認する必要がある。

(6)製造者は、名称、登録商号または登録商標、住所等の連絡可能な単一の連絡先の住所または電子住所を表示する。その情報は、製品、またはそれが不可能な場合は、パッケージまたは製品に付属する文書に記載する。

(7)製造者は、製品が市場に出回る加盟国によって決定された消費者が容易に理解できる言語で、製品に明確な指示と安全情報を添付する。

(8)製造者が、その製造者の所有する情報に基づいて、上市した製品が危険製品であると考えるか、または信じる理由がある場合、製造者は直ちに次のことを行うものとする。

(a)必要に応じて、撤回またはリコールを含め、製品を効果的に適合させるために必要な是正措置を講じる。

(b)消費者への製品の安全性に関する情報またはリコール通知あるいはその両方に従って、消費者に通知する。

(c)Safety Business Gatewayを通じて、製品が市場で入手可能になった加盟国の市場監視当局に通知する。 など


4. 派生的規制法 

「商品の修理を促進する指令」((EU)2024/1799(*11))が、2024年7月10日に官報で告示され、加盟国は2年以内に国内法に組み込む義務があります。

指令では、製品に応じて最長 10 年間の修理オプションを提供することが義務付けられ、修理は、製造者(またはその下請け業者)が無料または「適正な価格」で実施する必要があります。

修理部品は、独立修理業者に「修理を妨げない適正な価格で」販売される必要があります。現在は、洗濯機、回転式乾燥機、食器洗い機、冷蔵庫、テレビ、溶接機、掃除機、サーバー、電話、タブレット、軽量輸送手段(e バイクや e スクーターなど)のバッテリが対象で、今後拡大されます。


このように消費者保護に関する様々な規制が強化されるなかで、「不公正な慣行に対するより良い保護とより良い情報提供を通じて消費者にグリーン移行の権限を与える指令」((EU)2024/825)(*12)が公布されました。

前文による指令の目的は、消費者が正しい情報により商品を選択できるようにするものです。

(i)消費者保護と環境保護を高いレベルで維持しつつ、域内市場の適切な機能に貢献し、グリーン移行を進展させるためには、消費者が十分な情報を得た上で購入を決定し、より持続可能な消費パターンに貢献できることが不可欠である。

(ii)事業者が明確で関連性があり、信頼できる情報を提供する責任がある。

(iii)EU の消費者法に、商品の早期陳腐化に関連する慣行、誤解を招く環境主張 (グリーンウォッシング)、製品または事業者の事業の社会的特性に関する誤解を招く情報、不透明で信頼性のない持続可能性ラベルなど、消費者を誤解させ、持続可能な消費の選択を妨げる不公正な商慣行に対処するための具体的な規則を導入する。

1. 加盟国は、2026年3月27日までに、この指令を遵守するために必要な措置を採択し、公表する。加盟国は、直ちにその旨を委員会に通知する。

これらの措置は2026年9月27日から適用されます。

GPSRが要求する技術文書、「エコデザイン規則」((EU) 2024/1781)(*13)や「電池規則」(*14)で要求される製品パスポートの信頼性が問われることになります。


2024年7月18日にEU理事会によってEU委員会委員長候補として正式に推薦されたウルズラ・フォン・デア・ライエン氏がEU議会に提出された“Europe’s Choice(Political Guidelines for the Next European Commission 2024−2029)”(*15)では、「グローバル市場で規模を拡大する企業をより支援しつつ、消費者向けの商品やサービスの品質が低下したりしないようにする」としています。トレードオフになりがちな政策展開の舵取りに意欲を示しています。

今後も消費者保護政策は強化されると思えます。


(松浦 徹也)


引用先

*1:GPSR

*2:指令(EEC)84/450

*3:指令(EC)97/7

*4:指令(EC)2001/95/

*5:指令(EC)2002/65/

*6:規則(EC)2006/2004

*7:公的執行者のネットワーク

*8:(EU)2019/2161)

*9:COM(2018) 183 final

*11:指令(EU)2024/1799)

*12:指令(EU)2024/825

*13:エコデザイン規則

*14:電池規則

*15:Europe’s Choice

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