2021年09月17日更新
【質問】
工業用途の混合物のEU毒物センターへの届出制度について質問があります。 混合物の組成、含有率を非公開にしたく、混合物の組成に関する情報提供は、EU向けSDSに記載されている物質の情報のみでよいでしょうか。
【回答】
SDSの目的は化学物質を安全に取り扱い、事故や災害を未然に防止することです。 そのため、受領者が物質や混合物等の化学品の有害性を容易に特定できるものを提供する必要があります。
ただし、混合物中の成分情報の機密情報を守る目的として以下の仕組みがあります。 CLP規則1)第24条で「ビジネスの機密性や知的財産権を危険にさらす場合、最も重要な化学官能基を識別する名前または代替指定によって混合物中のその物質を指す代替化学物質名を使用するようECHAに要求を提出することができる。」とされており、その具体的な要件としては、CLP規則附属書ⅠPart1 1.4.1項に、「その物質に職場のばく露制限値が定められていないこと、代替化学名の使用が職場で取られる必要な健康と安全上の予防措置および混合物を処理することによるリスクの制御のための必要十分な情報を提供することを実証することができること」等が示されています。 この要求が認められた場合にのみ代替物質名等をラベルやSDSに記載できることになります。
一方、CLP規則の第45条第1項に基づき加盟各国には、毒物センターが設置されていますが、その主な役割は、中毒などの事故が起きた場合に医療情報等の必要な情報をユーザーに提供することです。 そのために詳細な混合物の情報を登録する必要があります。 CLP規則改正により追加された附属書Ⅷ2) PartB 3.1.1には、工業用途に限られた混合物については、SDSへの記載内容と同様の限られた情報を認めています。その代わりに緊急対応用のメールアドレスと24時間対応可能な電話番号を登録するように求めています(PartB1.3項)。また、附属書Ⅷにより新たに統一された毒物センターへの登録情報には、混合物の成分が特定できるUFI(Unique Formula Identifier=個別識別コード)が新たに加わりました。 UFIは混合物あるいは混合物群に対し、一意的に割り当てられる4文字毎にハイフンで区切られた計16文字の大文字アルファベットおよび英数字より成る識別子です。 UFIはラベルに表示することが義務づけられており、ユーザーは緊急事態に毒物センターにUFIを伝え、毒物センターは登録された緊急対応用の連絡手段により詳細な化学物質情報を得ることによって、適切な処置方法などの指示を行うことができます。 この仕組みにより機密情報を保護しつつ事故や災害に素早く対応することが可能となっています。
なお、含有率については正確なパーセンテージではなく数値範囲での届出が許容されています(附属書Ⅷ,Part B,section3.4,Table1,2)。 この範囲で濃度を変更する場合には再登録は必要ありませんが、この範囲を超えて濃度を変更した場合や成分を変更した場合には新たなUFIを取得し、毒物センターへ届け出なければなりません。
UFIの登録はECHAの専用サイト(UFI Generator 3))3)にアクセスし、VAT番号(Value Added Tax, 企業が政府に登録している付加価値税の登録番号。)および製剤番号(formulation number、0~268,435,455の範囲内の整数より設定)を入力することにより取得します。 この両者を反映したUFIにより特定企業の特定混合物が一意的に指定されることになります。
CLP規則改訂に伴い、欧州化学物質庁(ECHA)は、危険有害性のある混合物の情報を記載する文書の作成と提出を支援するポータルサイト4)を開設しました。 これにより、これまでは複数の国に製品を展開する場合、各国ごとに手続きが必要でしたが、これからは1回の提出で複数の加盟国に情報を通知でき、業務量と費用を節約できるようになりました。
この附属書Ⅷの混合物への適用は、消費者向け製品等については2021年1月1日から、工業用途については2024年1月1日からとなっています。
(参考リンク)
1)CLP規則
2)CLP規則2017年改正
3)UFI Generator 3
4)毒物センターへの登録ポータルサイト
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