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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

Safety Gateの2023年通知概要

2024年05月10日更新

EUでは市場から危険な製品を排除することを目的に、欧州委員会を通じて加盟国27か国およびアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの30か国間(以下、EU/EEA)での迅速な情報交換を行うために「Safety Gate」1)が運用されており、加盟国の市場調査などの結果から適宜危険な製品の情報が通知され、共有・公表されています。

「Safety Gate」の通知状況は適宜公表されていますが、毎年年次報告書としても取りまとめられており、3月に2023年版が公表2)されましたので、その概要についてご紹介します。


1.全体

2023年の年次報告書3)によると、2023年の通知件数は3,412件であり、2022年の2,117件から大きく増加し、この20年間で最も多い通知件数となっています。 この点について年次報告書では、通知件数の増加は市場に危険な製品が増加しているわけではなく、加盟国当局による市場調査等の活動が強化されているためであると述べています。


この通知の内訳を違反製品の「製品カテゴリー」、違反原因となった「リスク」、違反製品の「原産国」別に上位5位までを見てみます。


2.製品カテゴリー

製品カテゴリー別に見ると、化粧品が全体の1/3程度を占め最も多く、次いで玩具、自動車の順となっています。例年は玩具、自動車が第1位、第2位に位置づけられることが多いため、2023年は例年とは異なる結果となったと言えます。


この理由としては、REACH規則附属書XVIIの改正によって、消費者向け化学品中の含有が制限される発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)物質の追加等を受けて、それらCMR物質の加盟国当局による化粧品の監視が強化されたことに起因しています。


なお、玩具や自動車の全体に占める割合は下がっているものの、通知件数自体は例年と同程度で推移しています。


第1位:化粧品(32%)   ※2022年:第3位(10%)

第2位:玩具(13%)    ※2022年:第1位(23%)

第3位:自動車(12%)   ※2022年:第2位(16%)

第4位:電気電子製品(10%)※2022年:第5位(8%)

第5位:衣類繊維製品(8%) ※2022年:第4位(9%)


3.リスク

次に違反原因となったリスク別に見ると、「化学物質」が全体の1/2強を占め最も多く、次いで、けが、窒息の順となっています。順位的には「環境」を除けば例年同様の傾向ではありますが、2023年は化学物質に起因する通知の割合が例年に比べかなり多くなっています。


化学物質に起因する通知が多くなっている理由としては、製品カテゴリーで述べたように、化粧品中のCMR物質についての監視が強化されたことが挙げられており、消費者向け製品中への含有が2022年3月から制限されたリリアール(CAS番号80-54-6)の含有による違反が大半を占めていました。


また、RoHS指令やPOPs規則の違反については、「環境」として区分されており、電気電子製品でははんだ中の鉛やケーブル中の短鎖塩素化パラフィン(SCCP)類が、玩具では軟質プラスチック中のフタル酸エステル類などが多く通知されています。


第1位:化学物質(51%)※2022年:第1位(35%)

第2位:けが(21%)  ※2022年:第2位(25%)

第3位:窒息(8%)   ※2022年:第3位(14%)

第4位:環境(8%)   ※2022年:-(その他に含まれていた)

第5位:感電(6%)   ※2022年:第4位(9%)


4.原産国

原産国別に見ると、中国が1/3超を占め最も多く、ついでイタリア以外のEU/EEA、イタリアの順となっています。 2023年はイタリアによる通知が例年に比べてかなり多く、例年最も多いドイツの2倍弱となったため、イタリアとその他EU/EEAが区別されていますが、EU/EEAの合計で見れば中国よりも多い割合を占めています。 これも化粧品の監視強化に伴う結果であり、化粧品を除くと、例年同様に中国が1/2超を占めたことが示されています。


第1位:中国(37%)

第2位:イタリア以外のEU/EEA(24%)

第3位:イタリア(15%)

第4位:不明(12%)

第5位:その他の国(12%)


5.最後に

2023年は消費者向け化学品である化粧品についての監視が強化されたことによって、製品カテゴリーやリスク、原産国で一部例年とは異なる傾向が見受けられました。 化粧品の影響はあるものの、REACH規則の制限等による化学物質リスク、RoHS指令やPOPs規則等による環境リスクが多く挙げられていることは、化学物質に関する当局の関心の高さが伺えます。


なお、欧州化学物質庁(ECHA)の執行フォーラムは、2024年の調査(REF-12)として、加盟国当局や税関と連携した「輸入製品(物質・混合物・成形品)」をテーマに取り上げています4)。具体的には、EU域外から輸入される物質・混合物についてはREACH規則の登録や認可義務を、成形品については制限義務の履行状況について調査が開始されています5)。これらの調査で違反製品が確認されれば、2024年のSafety Gateにも反映されることになり、2024年も引き続き化学物質リスクについての通知件数が多くなるのではないかと想定されます。


(井上 晋一)


1) EC Safety Gateトップページ


2) EC プレスリリース


3) EC Safety Gate年次報告書2023年版


4) ECHA ニュースリリース


5) ECHA ECHA Weekly(2024年1月10日付)

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