2022年03月11日更新
欧州委員会は、イニシアチブの権利と呼ばれる新しいEU法の計画、準備、提案する権限を有しています。 2022年2月14日、欧州委員会は、電気電子機器中の特定の有害物質の使用を制限するRoHS指令を見直し、簡素化、効率化するイニシアチブの影響評価を公開しました。 同時にこのイニシアチブをさらに発展させ、微調整することを目的として、利害関係者に向けた情報提供の募集が開始(2022年3月14日まで)されました。 1) 今回のコラムでは、この影響評価文書 2)の内容についてご紹介します。
1.イニシアチブの背景
今回の取り組みは、循環型経済行動計画 3)の一部であり、欧州グリーンディールの主要な成果物である「持続可能性のための化学物質戦略」と「汚染ゼロ行動計画」に貢献するものです。
循環型経済行動計画では、電気電子機器(EEE)の廃棄物は、年間増加率が2%とEUにおいて急速に増加しているおり、リサイクル率も40%を下回っていると推定されると説明されています。 そのため、製品の再利用の促進や長寿命化といった課題に対処することを目的として、欧州委員会は「循環型電子機器イニシアチブ」提案するとしています。 その行動のひとつとしてRoHS指令の見直しと、REACH規則やエコデザイン指令を含む関連法規との一貫性を向上させるためのガイダンスの提供が明記されています。
さらにRoHS指令の第24条2項において、指令の全般的な見直しを実施するよう欧州委員会に求めていることも背景のひとつとなっています。
2.取り組むべき課題
RoHS指令の評価プロセスの一環として行われた評価と協議では、同指令がEEEにおける有害物質の使用削減という目的の達成に寄与していることが示されました。 ただし、その評価において、RoHS指令の実際の運用に関するさまざまな問題といくつかの体系的な問題も特定されており、特に、管理上の負担が高く、規定とプロセスが複雑であることが指摘されています。 これらの問題は、以下の事項に関連しています。
(1)適用除外の付与・更新・取り消しに関する規定と手続きが複雑で、その申請において部分的に実行不可能であることが証明されていること
・適用除外の有効性に関するルールが複雑すぎること
・適用除外の基準から生じる問題
(例:代替品または不可欠な原材料の代替における「総合的な負の影響」を評価する基準が欠如している)
・適用除外の手続きの期限と期間
・適用除外の指令を加盟国法に置き換える際に生じる遅延
・経済事業者の予測可能性に問題があることと全体的に高い管理負担の問題
(2)規制対象物質のリストの見直しプロセス
・新たな物質制限のプロセスを開始させる規定が明確ではない
・EEEにおけるさらなる物質制限は、RoHS指令のみならずREACH規則においても設定される可能性がある(ただし、両法の目的、物質制限を決定する基準やメカニズムに違いがある)
(3)インターネット取引において執行が困難であること
(4)スペアパーツや適用範囲に関する規定が不明瞭で時代遅れであり、循環型経済を支援するには不十分な規定であること(例えば二次原料について)
(5)REACH規則またはエコデザイン指令などの関連するEU法規制との整合性
3. 目標および政策的な選択肢
特定された問題に対処するため、EUグリーンディール、特に循環型経済行動計画、ゼロ汚染行動計画、持続可能性のための化学物質戦略、(エコデザイン指令を改訂する)持続可能な製品イニシアチブ 4)の目的を考慮しながら、可能なさまざまな対策が検討されています。
今回、この目的に対応するための最初の選択肢が以下のように特定されました。 それぞれの選択肢について、様々なサブオプションも検討されており、選択肢とサブオプションは相互に排他的ではなく、組み合わせることができます。 さらにこれらの選択肢は、おもに立法的措置と非法律的措置(ガイダンスなど)の組み合わせであり、暫定的なものであるため、今後の分析によって発展する可能性があります。 また、すべての選択肢は、不必要な管理負担を減らすという目的を考慮しています。
(1)RoHS指令を現状維持し、RoHS FAQ文書の更新など、特定の非法律的な措置(ソフトな措置)を導入する。これには、REACH規則やエコデザイン指令など、他の法律との相互作用の説明も含まれる。
(2)RoHS指令の簡素化と明確化について、(i)~(iv)に関する立法措置(ハードな措置)とソフトな措置を導入および改定することで実現する。
(i) 適用除外の基準とプロセスの明確化と改善
(ii) 物質制限のきっかけ、基準、プロセスの明確化と改善
(iii) 他の法律(主にREACH規則とエコデザイン指令)との一貫性の確保
(iv) 実施と施行の改善
この選択肢では、以下を考慮する可能性がある。
・適用除外手続きを改善する。:適用除外の基準の見直しや明確化、適用除外の有効性の調整、移行期間に関する規定、標準評価のタイムラインと手順の明確化、適用除外手続きに関するガイダンス文書の発行
・スケジュールや手順を含む、物質制限の規定を改善する。:対象となるEEEについて、REACH規則やエコデザイン指令などとの関連や重複可能性の明確化、制限の手続きのための方法論やガイダンス文書の発行
・EUの既存機関(欧州化学品庁(ECHA))に、適用除外や物質制限の評価を委託する。
・スペアパーツに関する規定を改善する。
・RoHS指令の適用範囲を更新し、明確化する。
・再生材料と原材料に関連する規定を導入する。
・RoHS指令と規則No765/2008(及び規則2019/1020)との関連性を強化することを含め、施行と市場監視に関する規定を改善すると同時にインターネット取引に関する課題やガイダンスに対処する。
・RoHS指令とREACH規則やエコデザイン指令を含む他の関連法規との明確な区別を確保するための規定の導入や見直し、および必要に応じてガイダンス文書や共通理解文書の作成を推進する。
(3)RoHS指令を規則化し、適用を簡素化するとともに、加盟国ごとに異なる適用に関連する不必要な規制負担を軽減する。
(4)RoHS指令を廃止し、その規定をREACH規則に取り入れる。
(5)RoHS指令を廃止し、電気電子廃棄物の環境に配慮した回収と処分に関連する製品要件を持続可能な製品法(持続可能な製品イニシアチブの観点)のもとで取り扱う。
以上のような選択肢によってもたらされる成果は、想定される影響として経済、社会、環境などの観点から説明されています。 例えば環境面における影響は以下のように説明されています。
EEEに含まれる有害物質規制の枠組みが改善されれば、規制はより首尾一貫した効率的なものとなり、環境に配慮した廃EEEの回収と廃棄を含め、人の健康と環境の保護に寄与することに繋がる。RoHS指令の幅広い製品適用範囲を考慮すると、対象となる化学物質をより安全に使用することで、有害物質の環境への放出が減少し、環境修復のコストが削減される。有害物質の環境中への排出やリサイクル市場は国内の影響にとどまらず、環境面での国境を越えた影響が予想される。
4. まとめ
今回、公開されたイニシアチブの影響評価をみるかぎりでは、現行のRoHS指令は適用除外の仕組みや手続きが複雑過ぎること、それに伴う管理に時間と費用を要しているという問題が顕在化していることがわかります。 さらに循環型経済を達成するため、リサイクルや修理によるEEEの長寿命化という観点により、二次原料やスペアパーツに関連した規制にも焦点が当てられています。
今後の議論によって、今回の提示された選択肢を含めて、新たなRoHS指令がどのように具体化されていくのかが注目されるところです。
(柳田 覚)
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