2022年04月30日更新
1.EU イニシアチブの意見募集
EUでは重要な法律や政策(イニシアチブ)の検討段階で、Webページの“Have your say”(*1)で、広く意見を求めています。
2022年2月に電子機器における有害物質の使用制限の簡素化と効率の向上およびその執行の改善のイニシアチブが提案されました。このRoHS指令の改定するイニシアチブに関する“Call for evidence for an impact assessment”のWebページで、“Call for Evidence”(意見募集)(*2)が2022年2月14日から3月14日に行われ、意見が公開されています。
このイニシアチブのB項( 目的と方針の選択肢)で、以下の政策案を示しています。
(部分的意訳で、一部分りやすくするため記述を変更)
このイニシアチブの全体的な目的はEU市場での調和された適用を保証しながら、廃電気電子機器の環境的に健全な処理を含めて、有害物質の制限に関するRoHS指令の規定により、人の健康および環境を保護するのに役立つことを保証することである。
特定された問題に対処するため、EUグリーンディールの循環経済行動計画、ゼロ汚染対策計画、持続可能性のための化学物質戦略および持続可能な製品イニシアチブにより、可能な一連の措置を考慮する。上記の目的に対処するための可能な選択肢(オプション)の最初の非網羅的なリストである。
各オプションについて、様々なサブオプションも考慮することができる。オプションおよびサブオプションは、相互に排他的ではなく、組み合わせることができる。
以下に概説するオプションは、主として立法的および非立法的(例えば、ガイダンス)措置の組み合わせを表す予備的なものであり、検討によって進化し得る。すべてのオプションは、不必要な行政上の負担を軽減する目的を考慮する。
(a)RoHS指令をそのまま維持し、RoHS指令 FAQ文書の更新などの特定の非立法的(「ソフト」)措置を導入する。これには、REACH規則やエコデザイン指令などの他の法律との相互作用の説明が含まれる。
(b)法規制(「ハード」)対策やソフト対策の導入・改定によるRoHS指令の簡素化・明確化して
(i)適用除外基準とプロセスを明確化・改善し、
(ii)物質制限のトリガー、基準、プロセスを明確化・改善し、
(iii)REACH規則、エコデザイン指令を中心とする他の法律との整合性を確保し、
(iv)実施・執行を改善する。
(c)このオプションは以下の点を考慮する。
・適用免除プロセスの改革:免除基準の改定・明確化、免除の有効性の適合、移行期間に関する規定、標準的な評価スケジュールと手続きの明確化、免除手続きに関するガイダンス文書を発行する。
・日程(タイムライン)および手順を含む物質制限規定の改定をする。
RoHS指令の対象となる電気電子機器について、REACH規則およびエコデザイン指令等との関係および潜在的重複を明らかにする。
制限手順のための方法論/ガイダンス文書を発行する。
・免除および物質制限評価を既存の欧州化学物質庁(ECHA)に委託する。
・スペアパーツ規定の改革をする。
・RoHS指令の範囲の更新と明確化をする。
・再生材料及び重要原料に関する規定の導入をする。
・RoHS指令と規則No 765/2008(および改正規則2019/1020)との連携の強化を含めて、施行および市場サーベイランスに関する規定を改定するとともに、電子商取引の課題およびさらなるガイダンスによる対処を含める。
・RoHS指令、REACH規則とエコデザイン指令を含む他の関連法規との明確な線引きを保証するための規定の導入/見直し、および必要に応じてガイダンス文書/共通理解文書の策定をする。
(d)RoHS指令を規則に転換し、適用を簡素化し、異なる加盟国における異なった加盟国の国内法への転換に関連する不必要な規制負担を軽減する。
(e)RoHS指令を廃止し、その規定をREACH規則に組み込む。
(f)RoHS指令を廃止し、電気・電子廃棄物の環境的に健全な回収および廃棄に関連する製品要件を持続可能な製品法規(エコデザイン指令を改訂して持続可能な製品イニシアチブの文脈で明確にする)の下で対処する。
2.イニシアチブの背景
このイニシアチブのA項(政治的背景、問題の定義、補完性確認)で政治的背景を説明しています。
・このイニシアチブは、循環経済行動計画(Circular Economy Action Plan(CEAP))の一環であり、持続可能のための化学物質戦略(Chemicals Strategy for Sustainability)およびグリーンディール(European Green Deal)の重要な成果物であるゼロ汚染対策計画に寄与する。
・RoHS指令((EU)2011/65)の第24条(2)の「2021年7月22日までに、委員会はこの指令の一般的なレビューを実施し、必要に応じて立法案を添えて欧州議会と理事会に報告を提出する」による。
現状の問題として以下を整理しています。
RoHS指令の評価プロセスの一環として行われた評価および協議は、指令が電気電子機器における有害物質の使用を削減するという目的の達成に寄与することを示した。
その結果、本指令は、環境およびヒトの健康の保護、ならびに内部市場の機能に寄与してきた。しかし、評価はまた、指令の実際的な運用およびいくつかの体系的問題を伴う一連の問題を特定し、特に、適切な規定およびプロセスの高い行政負担および複雑性を指摘した。これらの問題は、物質規制の免除の付与/更新/取り消しに関する規定及び手順であって、複雑であり、かつ、その一部がその適用において実用的でないことが証明されているものに特に関連する。
•附属書III/IVの用途の除外の有効性に関する極めて複雑な規則
•用途の除外のための基準の適用から生じる問題(例えば、代替品の「全体的な負の影響」の重み付けの基準の欠如、または重要な原材料との代替)
•期限及び免除手続の期間
•免除のための委託された行為を加盟国の法律に転換する必要性に起因する遅延
•経済事業者の予測可能性および全体的に高い行政負担の問題(規制物質リストの見直しプロセス)
•制限プロセスがどのように誘発されるかについての不十分な明確な規定
• (さらなる)電気電子機器における物質制限
これは、潜在的にRoHS 指令(特別法)の下で設定され得るが、REACH規則の下でもあり得る(それにもかかわらず、2つの行為の目的、ならびに物質制限を決定するための基準およびメカニズムに差異がある)。
-電子商取引の強制の困難さの状況
-スペアパーツまたはその対象についての不明確で古い規定、および循環経済を支えるための不十分な規定(例えば、二次資源について)
-物質アセスメントおよびREACH規則の制限を対象とする関連EU法規、または電気電子機器に特有の法律(エコデザイン指令)との整合性
3.意見
このイニシアチブに対して、115件のフィードバックがありました。
(1) REACHとの重複とその矛盾は、中小企業にとって不必要な複雑さを増し、循環型経済の実施を制限すると感じています。私たちは、RoHS指令を大幅に簡素化し、明確にし、それを規則に変換すること、またはRoHS指令を廃止し、大幅に簡素化した規定をREACH規則に組み込むことを提案します。(以下略)
(2) RoHS指令を改善するために、「ソフト」な非立法措置よりも「ハード」な立法措置を提案することが望ましいと考えており、REACH規制またはエコデザイン指令にRoHS指令を組み込んでも望ましい結果には到達しないと考えています。(以下略)
(3) RoHS指令は、FAQやその他の「ソフト」対策からの情報をサポートするとともに、基本的に現状を支持します。ただし、用途の除外プロセスのいくつかの側面は、特にタイミングの側面に関連するいくつかの変更によって改善されると考えています。
RoHS指令は電気電子機器の特別法として残し、他の規制における電気電子機器関連の制限はRoHS指令に移管されるべきです。
物質制限と免除の評価をECHAに委ねられることを望んでいません。(以下略)
このように、様々な意見が出されています。これを受けて、このイニシアチブをさらに発展させ、微調整する際に考慮するパブリックコンサルテーションが3月10日から6月2日まで行われています。
EU委員会は受け取ったインプットを概要レポートに要約し、どのように考慮したかを説明し、2022年の第4四半期に採択する計画です。
4.RoHS指令とREACH規則の関係
イニシアチブの選択肢の一つに「RoHS指令をREACH規則に統合する」があります。
RoHS指令とREACH規則の関係は現行法でも、明確に記載されています。
RoHS指令第5条(附属書の科学的、技術的進歩への適応)の第1項(a)(*3)で以下を規定しています。
規則(EC)No 1907/2006(REACH規則)によって提供される環境および健康保護を弱めず、以下の条件のいずれかが満たされる場合に限り、付録IIIおよびIVのリストに特定の用途向けの電気電子機器の材料およびコンポーネントを含める。
—附属書IIに記載されている材料または物質を必要としない設計変更または材料およびコンポーネントによるそれらの除去または置換は、科学的または技術的に実行不可能であり、
—代替品の信頼性は保証されていない。
—代替によって引き起こされる環境、健康、および消費者の安全への悪影響の合計は、その環境、健康、および消費者の安全の利益の合計を上回る可能性がある。
REACH規則では、例えば制限では、附属書XVII No63 Entry(鉛および化合物)(*4)では、第8項(By way of derogation, paragraph 7 shall not apply to:)の(k:articles within the scope of:)で、“(iv) Directive 2011/65/EU of the European Parliament and of the Council ”と、RoHS指令対象は対象外としています。
RoHS指令とREACH規則の関係は類似している部分があり、規制当局間で合意文書(REACH AND DIRECTIVE 2011/65/EU (RoHS) A COMMON UNDERSTANDING)(*5)が取り交わされています。
RoHS指令の附属書II(制限物質)について、「収載済」「収載提案」「収載検討」と、REACH規則の制限(附属書XVII)及び認可(附属書XIV)の「収載済」「収載提案」「収載検討」の組み合わせで18通りの中で、6通りのシナリオを検討していました。
基本的に、規制にあったては先行規制を優先するもので、詳細は国会図書館に保存されている2015年6月の解説(*6)をご確認ください。
RoHS指令とREACH規則は、このように相互に補完していますが、RoHS指令は1998年4月の起案時は、指令76/769/EEC(危険な物質及び調剤の上市と使用の制限)の改正指令「廃電気電子機器に関する指令」(Waste Electrical Equipment amending Directive 76/769/EEC)でした。規制内容は、現在のWEEE指令とRoHS指令の要求が一緒になっていました。
その後、2000年12月9日の提案文書((COM(2000)347)(*7)でWEEE指令案とRoHS指令案に分割しました。
その後、指令76/769/EECはREACH規則の制限(附属書XVII)として統合されています。
イニシアチブのRoHS指令を廃止し、その規定をREACH規則に組み込むオプションは、RoHS指令の制定経緯からすると必然とも思えます。 しかし、その行方が気になるところです。
(松浦 徹也)
引用
*6: https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11274623/j-net21.smrj.go.jp/well/rohs/column/150612.html
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