2022年07月29日更新
1.ストックホルム条約とは
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)(*1)は、2001年5月22日に採択され、2004年5月17日に発効しています。 2022年7月現在、185ヶ国が批准しています。 日本も2002年8月30日に批准、2004年5月17日に発効しています。残留性有機汚染物質(POPs)とは、難分解性、生体蓄積性、長距離移動性といった性質を持つ有害な有機化合物です。 POPsが人間の健康と環境への大きな脅威になっていることが認識され始めたのは1990年代でした。 1995年5月、国連環境計画(UNEP)の管理理事会により12種類のPOPs(初期リスト)に関する国際的な評価プロセスの実施、国際的な行動の策定が求められました。 これを受けて、化学物質安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)が、1996年6月に12種類のPOPsの排出を削減・除去するための措置を通じ、そのリスクを最小化するためには、国際的な法的拘束力のある手段を含む国際的な行動が必要であることを示すに足る情報があると結論づけました。 そして、1997年2月のUNEP管理理事会の決定(19/13C)に基づき、政府間交渉委員会(INC)による12種類のPOPsに関する国際的な行動実施のための国際的な法的拘束力のある手段の検討が始まりました。 最終的には、2001年5月22日から23日にかけてスウェーデンのストックホルムで開催された会議において、ストックホルム条約が採択されました。(*2)
初期リストに含まれる12種類に加えて、現在までに16種類が追加されていますので、合計で28物質がPOPs条約の対象となっています。物質の種類により規制内容が異なり、それぞれ附属書A、B、Cに収載されています。
・附属書A: ELIMINATION(廃絶)は製造・使用、輸出入の原則禁止
・附属書B: RESTRICTION(制限)は製造・使用、輸出入の制限
・附属書C: UNINTENTIONAL PRODUCTION(非意図的生成物)は非意図的に生成される物質の排出の削減および廃絶
POPs条約へ追加される物質の検討については、締約国から追加物質の提案が行われると、POPs検討委員会(POPRC: Persistent Organic Pollutants Review Committee)が審議します。 POPRCは、規定の手順に則り、リスクプロファイルの作成、リスク管理評価書の作成などを経て、提案された化学物質がPOPs条約の附属書に追加すべきであるという結論の場合は、締約国会議(COP)に勧告することになります。 COPにおいてPOPs条約への追加が決定されると、各締約国において規制が実施されます。例えば、2019年の第9回締約国会議(COP-9)でPFOA(ペルフルオロオクタン酸)とその塩およびPFOA関連物質の附属書Aへの追加が決定しましたが、これを受けて、日本では、PFOA又はその塩が2021年4月に化審法の第1種特定化学物質として指定されています。
2.POPs検討委員会(POPRC)について
POPRCは締約国会議(COP: Conference of the Parties)の下に発足された組織であり、定員は世界で31名、5地域(アジア太平洋,アフリカ,西ヨーロッパその他,中央・東ヨーロッパ,ラテンアメリカおよびカリブ)ごとに人数が決められています。 直近では、2022年1月に第17回POPRC会議(POPRC.17)(*3)がスイスのジュネーブで行われ、以下の成果がありました。
・リスクプロファイルの採択: デクロランプラス、UV-328
・リスクプロファイル案作成の決定: クロルピリホス、炭素鎖長がC14で塩素化レベルが45重量%以上の塩素化パラフィン、長鎖ペルフルオロカルボン酸とその塩および関連化合物
次回の第18回POPRC会議(POPRC.18)(*4)は、2022年年9月にイタリアのローマで開催の予定で、デクロランプラスとUV-328に関するリスク管理評価書案に加え、クロルピリホス、炭素鎖長がC14〜17の範囲で塩素化レベルが45重量%以上の塩素化パラフィン、長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCAs)とその塩および関連化合物のリスクプロファイル案の審議が行われる予定です。 さらに、デカブロモジフェニルエーテルと短鎖塩素化パラフィンの特定の適用除外、ペルフルオロオクタンスルホン酸とその塩およびペルフルオロオクタンスルホニルフルオリドの代替品評価に関しても検討されます。
3.締約国会議(COP)の最新情報
締約国会議(COP)では、条約の実施状況の確認および評価や、必要に応じて、条約およびその付属書の改正(POPRCから提出された新規化学物質のリスト化など)の検討および採択が行われます。 直近では、第10回締約国会議(COP-10)が、オンラインでは2021年7月26日~30日に、対面では2022年6月6日~17日にスイス・ジュネーブで開催されました。 6月に対面で開催された会議の概要は以下の通りです。(*5)
・ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)とその塩およびPFHxS関連化合物を条約の付属書Aに記載し、廃絶の対象として設定
・BAT(利用可能な最善の技術)およびBEP(環境上の最良の実践)の専門家が作成したBATおよびBEPに関する新しいガイダンスを歓迎、NIP(国内実施計画)の策定と更新に関するガイダンスの改訂および汚染サイトの特定と管理に関するガイダンス草案を確認
・DDTの段階的廃止計画の可能性に関する協議プロセスを開始。締約国に対し、2025年までに機器でのDDTの使用を廃止するための行動を直ちに実施しその努力を強化すること、また、2028年までに関連するPCB廃棄物の環境配慮型管理を実現することを求めた。さらに、地球環境ファシリティ、国連機関、政府間組織、NGO、その他がPCBに関する条約の目的達成を支援するための追加努力を呼び掛けた。
4.まとめ
POPs条約が採択されてから20年余りの年月がすでに経っています。 POPs条約は185ヶ国という多くの国が批准している国際的な条約であり、各国において、国内実施計画(NIP)を策定の上、実施することが定められています。 POPsの難分解性および生体蓄積性や長距離移動性という性質から、国際的な協力が必要である分野です。 POPsの多くは農薬または工業用化学物質であり、本来なら人間の生活を良くするために開発されたものが、結果的には人間の健康や環境への損失を引き起こしてきました。 現在でも、複数種類のPOPsがそのリスクをPOPRCで検討されています。 今後もPOPs条約で規制されるPOPsの種類は少しずつ増えていくことが予想されますが、POPs条約のような法的拘束力の国際的な手段を通して、有害な化学物質の削減および廃絶が地球規模で目指されることは、地球環境にとって大いに意義のあることだと考えられます。
(岡本 麻代)
引用
*1: ストックホルム条約本文
*2: ストックホルム条約交渉の歴史
*3: 第17回残留性有機汚染物質(POPs)検討委員会(POPRC.17)
*4: 第18回残留性有機汚染物質(POPs)検討委員会(POPRC.18)
*5: ストックホルム条約第10回締約国会議
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