2022年09月30日更新
EU RoHS指令は一度全面改正され、現在はRoHS2として運用されていますが、改めてその流れを整理すると次のような流れでした。
・RoHS1:2006年に施行され、主要な電気電子製品(8製品種)を対象に、制限対象化学物質(6物質)の含有制限を課す
・RoHS2:2013年に施行され、軍事用などの一部の対象外製品を除くすべての電気電子製品(11製品種)を対象に、制限対象化学物質(2019年より10物質に拡大)の含有制限を課し、含有制限を担保するためにCEマーキングによる適合性評価を求める
現在、EU RoHS指令については、循環型経済(Circular Economy)活動計画などを踏まえた全面見直しによるRoHS3の検討が進められています。
EUで始まったRoHS指令は様々な国に波及し、RoHS1の制定以降、いくつかの国で類似の規制が制定されていますが、2022年になって一部の国で全面改正や制限対象物質の拡大といった、改正に向けた動きがありましたので、今回はその概要をご紹介します。
1.全面改正
・ベトナム
2011年に公布された「電気電子製品中の特定有害化学物質の許容濃度に関する暫定規則」がベトナムRoHSに相当する規制であり、規制によって指定された製品種に対して6物質の含有制限を課す内容で施行されてきました。 これはEUのRoHS1に相当する内容であったと言えます。
2022年8月に、従来の規則を置き換える「電気電子製品中の特定有害化学物質の含有制限に関する技術規則」案が公表1)されました。 この新たなベトナムRoHS案では、規制対象とする製品種の拡大や制限対象物質の10物質(6物質+4種のフタル酸エステル類)への拡大、適合性評価の仕組みの導入等の変更が図られています。 今回の改正は現状EUで運用されているRoHS2に相当する内容であると言えます。
・トルコ
2012年5月に公布された「廃電気電子機器の管理に関する規則」がEUのRoHS指令とWEEE指令をまとめた規制であり、RoHSに関する内容としては、EUのRoHS1に相当する内容であったと言えます。
2022年7月に、従来の規則をEUと同様にWEEE相当とRoHS相当の規則に分離したそれぞれの規則案が公表されました。 このうちRoHSに関する新たなトルコRoHS案2)では、規制対象とする製品種の拡大や制限対象物質の10物質(6物質+4種のフタル酸エステル類)への拡大、CEマーキングによる適合性評価の仕組みの導入等の変更が図られています。 今回の改正は現状EUで運用されているRoHS2に相当する内容であると言えます。
・インドRoHS
2011年5月に公布された「2011年電気電子機器廃棄物の管理および処理規則」がEUのRoHS指令とWEEE指令をまとめた規制であり、RoHSに関する内容としては、規制によって指定された製品種に対する6物質の含有制限を課す内容で施行され、その後2016年に「廃電気電子機器管理規則」に改正され、現在に至っています。
2022年5月に同規則の改正案が公表3)されました。 主な改正内容はWEEEに関連する事項ですが、同規則の対象製品が従来の「IT・通信機器」および「家電製品、民生用電子機器」の2製品種から、医療機器や玩具・スポーツ用品などを含む6製品種に拡大する内容となっているため、RoHSの対象製品が拡大することになります。 ただし、前述のベトナムやトルコのような制限対象物質の拡大や適合性評価に関する義務は追加されていないため、EUのRoHS1に相当する内容であると言えます。
このように既存規制の全面改正によって、3カ国ともに対象製品の拡大が図られていますが、ベトナムやトルコではさらに制限対象物質へのフタル酸エステル類の追加や適合性評価の仕組みの導入等、EUのRoHS2指令に相当する改正が進められており、タイムラグはあるもののEUのRoHS指令を追いかけていると言えます。
2.部分改正(対象製品の拡大、制限対象物質の拡大、適合性評価の導入)
前述の3カ国のような全面改正ではないものの、中国RoHSでは、2022年3月に、既存の国家標準である「電気電子製品制限物質の限度量要求(GB/T 26572-2011)」の改訂等によって、制限対象物質にフタル酸エステル類の追加を図ることが発表4)されました。
中国RoHSはすでに一度全面改正され、対象製品の拡大や、一部製品種を対象とした含有制限や適合性評価の仕組みが導入された中国RoHS2が運用されていますが、今後、EUが先導したフタル酸エステル類の制限との整合を図る予定となっています。
3.各国の動きによる日本企業への影響
このようにEU以外の国においても、EU RoHS指令を追いかける形で、自国のRoHS類似規制を見直し、対象製品の拡大や制限対象物質の拡大、適合性評価の仕組みの導入が進められています。 これらEU以外の国のRoHS類似規制の変化による企業への影響は、サプライチェーンの立ち位置によって異なるものと考えます。
まず、RoHS類似規制の規制対象である電気電子製品(最終製品)のメーカーの場合には、対象製品の範囲や適合性評価の仕組みといったEU RoHS指令とは異なる要件による影響を受けることになります。 そのため、自社製品が対象となるか、対象となる場合にどのような適合性評価が求められるかといった、各国固有要件を把握し、対応を図ることが求められるため、各国の規制内容の詳細を確認することが不可欠です。
一方、最終製品メーカーのサプライチェーンの川上に位置する部品メーカー等の場合には、顧客である最終製品メーカーから制限対象物質の非含有を求められることになります。 制限対象物質は各国で6物質または10物質と違いはあるものの、現状ではEU RoHS指令の10物質が最大であり、また制限対象物質の新規追加はEUが先導している状況であることから、EU RoHS指令の制限対象物質の非含有に対応していれば、その他の国の類似規制の要件に変化があったとしても、基本的には対応が図れていると言えます。 そのため、各国規制の変化による影響は最終製品メーカーに比べて小さく、それよりもEU RoHS指令の動向を把握し対応することが優先されるものと考えます。
現在検討されているEUのRoHS3はEU域内だけでなく、時間差はあるものの各国の類似規制へも影響を与える可能性が大きいことから、その内容が注目されています。 当初は2022年末に欧州委員会(EC)が改正案を提案する予定となっていましたが、4月に開催された欧州委員会のRoHS専門家グループ会合の議事録5)では、2023年第2四半期まで延期される見込みであることが示されており、まだしばらくは検討に時間がかかる見込みです。
1) ベトナム商工省 電気電子製品中の特定有害化学物質の含有制限に関する技術規則案http://legal.moit.gov.vn/du-thao-van-ban/Download/196104/DU%20THAO%20QCVN%20DIEN%20DIEN%20TU.pdf
2) トルコ環境都市計画気候変動省 電気電子製品中の特定有害化学物質の制限に関する規則案
3) インド環境森林気候変動省 202x年廃電気電子製品管理規則案
4) 中国電子技術標準化研究院 ニュースリリース
5) EC RoHS専門家グループ会合議事録(4月6日開催)
(井上 晋一)
Comments