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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

デクロランプラスとUV-328の締約国法の制定情報の調べ方~ その2 EUや日本の国内法の制定状況 ~

執筆者の写真: tkk-labtkk-lab

2025年02月12日更新

§1 POPs条約の国別の附属書改正情報

国連事務総長からの通知を受けて、締約国は1年以内に国内法を整備しますが、締約国は受諾できない場合は国連事務総長に書面で通報することができます。

これを受けた国連事務総長は他の締約国に通知します。

この状況は「国連事務総長による寄託通知(CNs)」(Depositary Notifications (CNs) by the Secretary-General)のWebページ(*1)で検索できます。

この文書に関する締約国の情報確認は、以下の情報を入力して検索します。

入力

 CN Year :事務局からの通知年

 CN Number :入力なし (CN Numberは国連通知番号です。)

 Participant :

 国連通知の場合は“Formality”を選択

 締約国すべての通知なの場合は、“Select All Participant”を選択

 特定締約国からの通知の場合は、“特定国”を選択

 Action Type:Select All Action Type

 Treaty Reference:XXVII-15 を選択 XXVII-15はPOPs条約の識別

XXVIIは「事務総長に寄託された多国間条約」の第27章(環境)で15は第27章の15番という意味です。

 “Start Date”“End Date :”は絞り込み条件です。

CN Yearに“2024”、Participantに“Formality”及びTreaty Referenceに“XXVII-15”を選択するとPOPs条約に関する2024年の国連通知が通知されます。検索結果は、この条件では1文書“CN Number 77”が抽出されました。

COP11の決定によるデクロランプラスとUV-328の寄託通知(*2)は、2024年2月26日付の文書番号「C.N.77.2024.TREATIES-XXVII.15」です。

Participantに“Select All Participant”を選択すると、4文書抽出されました。

2025年2月10日時点では、CN77に関して、シンガポールから2024年12月20日にC.N.498で現時点では受諾できない(currently unable to accept)との通報(*3)が出されています。

POPs条約のCOPの決定による締約国法の制定状況(*4)も検索できます。

TABの“Amendments to the Annexes”の“Filter”に、対象国と対象物質を選択すると対象国の改正情報が検索できます。

デクロランプラスおよびUV-328は未発効で、入っていません。

2025年2月26日以降に追加されると思います。


§2 WTO TBT通知の検索

国連事務総長からの通知による国内法の制定、改定は貿易に関する技術的障害を軽減・除去することを目的としたWTO TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)により、 強制規格についてはその案の概要を、WTO事務局を経由し各締約国に事前に通報します。締約国から通常60日間の意見を受付ます。

WTOに通報された法案を確認(*5)することで、WTO加盟国(加盟国数166 2025.1.27時点 出典 外務省)の状況は確認できます。

Free text search に、UV-328、Dechlorane Plus などの対象物質名を入れます。

Notifying Memberに調査対象国を選択します。


2.1日本

検索してみますと、日本は化審法改定の通報(*6)が2024年9月に行われています。

添付文書の“Notified document (1)“(*7)では、以下の化審法改正が通報されています。

(1)背景

COP11の決定を受けて、2023年7月、2023年11月、2024年7月に、厚生労働省薬事審議会、経済産業省化学物質審議会、環境省中央環境審議会(*8)において、メトキシクロル、デクロランプラス、UV-328を製造規制法に定める第一種特定化学物質(注)に指定することを決定した(注)。

注:第一種特定化学物質に指定する物質名

(i)メトキシ[2,2,2-トリクロロ-1-(メトキシフェニル)エチル]ベンゼン(メトキシクロルとしても知られている)

(ii)1,2,3,4,7,8,9,10,13,13,14,14-ドデカクロロ-1,4,4A,5,6,6A,7,10,10A,11,12,12A-

ドデカヒドロ-1,4:7,10-ジメタンジベンゾ[A,E][8]アヌレン(別名デクロランプラス)

(iii)2-(2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(2-メチルブタン-2-イル)フェノール(UV-328としても知られている)


(2) 一定期間の使用が認められる化学物質とその使用(注)

・2030年2月26日:防衛用途でのデクロランプラスの使用

注:化審法第25条(使用の制限)

何人も、次に掲げる要件に適合するものとして第一種特定化学物質ごとに政令で定める用途以外の用途に第一種特定化学物質を使用してはならない。

ただし、試験研究のため第一種特定化学物質を使用するときは、この限りでない。

1.当該用途について他の物による代替が困難であること。

2.当該用途に当該第一種特定化学物質が使用されることにより当該第一種特定化学物質による環境の汚染が生じて人の健康に係る被害又は生活環境動植物の生息若しくは生育に係る被害を生ずるおそれがないこと。

(3) デクロランプラスとUV-328を使用した輸入禁止商品(注)

(i)デクロランプラス

-難燃剤用薬品、樹脂用

-シリコーンゴム

-潤滑油

-接着剤とテープ

-部品ハウジング、電気配線、ケーブル、電気・電子製品用

(ii)UV-328

-塗料とワニス

-潤滑油

-接着剤、テープ、シーリングフィラー

-プラスチック用紫外線吸収剤


注:第24条(製品の輸入の制限)

何人も、政令で定める製品で第一種特定化学物質が使用されているもの(以下「第一種特定化学物質使用製品」という。)を輸入してはならない。

2 前項の政令は、第一種特定化学物質ごとに、海外における当該第一種特定化学物質の使用の事情等を考慮して定めるものとする。


審議会資料などを確認しますと、輸入制限品目は、過去において輸入実績を考慮して特定しています。


(3)施行予定日

・2025年2月頃施行予

化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の改正は、メトキシクロル、デクロランプラス、UV-328を第一種特定化学物質に指定

・2025年6月頃

デクロランプラス、UV-328が使用されている輸入禁止品の追加指

政令(案)は、2024年12月13日に閣議決定(*9)されました。


2.2 EU

2025年2月6日時点で、EUのWTO TBT通報は確認できませんでした。


(1)EU委員会の法案確認

EUはPOPs規則 COPの決定による物質制限はPOPs規則(2019年6月EU議会およびEU理事会規則(EU)2019/1021)(*10)で行っています。

WTO TBT通報で確認できない場合は、いろいろな手順がありますが、一つの方法としてEU委員会公開されているPOPsに関する情報(*11)のWebページで確認します。

TAGの“Proposals for new POPs”に入り、“List of substances proposed as POPs”で検討中の対象物質が確認できます。

デクロランプラス、UV-328が確認できます。

国連事務総長の通報について「拒絶」していないことが分かります。

このWebページの相談(consultations)(*12)で状況が見られますが、執筆時点では情報がありませんでした。

現時点でも過去でもデクロランプラス、UV-328のconsultationは確認できませんでした。

POPRCでPOPsとして提案されている物質のリスト(List of substances proposed as POPs)(*13)は公開されています。準備は進めていることは確認できます。

2023年5月24日の官報でCOP11でのEU委員会のとるべき立場の決定を告示(*14)しました。この決定は、COP11ではPOPRCの勧告を尊重するとの決定です。

EUはPOPRCの勧告を原則採択する方針です。


もう一つの方法として、EU委員会の取組みは、“Welcome to Have your say”(*15)のWebページで情報が入手できます。

このページで検索もできますが“All initiatives”(*16)のページに入り、デクロランプラス、UV-328の準備は進めていることが分かっていますので、条件を入れるのがよいと思います。

Keywords:Dechlorane PlusやUV-328を入力

Topic:Environmentを選択

Stage:Draft Actを選択


(i) デクロラン・プラス

検索結果(*17)として、法案本文と附属書がダウンロードできます。

法案本文では、以下になっています。

第1条 規則(EU)2019/1021(POPs規則)の附属書Iは、本規則の附属書に従って修正される。

第2条 本規則は、EU官報に掲載された日から20日目に発効する。

附属書では、以下となっています。

物質、混合物又は成形品中に存在するデクロランプラス 1mg/kg (0,0001重量%)以下の濃度に適用するものとする。

デクロランプラスの上市及び使用は、次の目的のために許可される:

(a) 2030年2月26日までの航空宇宙・宇宙・防衛出願;

(b) 2030年2月26日までの医用画像アプリケーション;

(c) 2030年2月26日までの放射線治療装置及び設備;

(d) 次のいずれかの予備部品:

(i) 陸上の自動車;

(ii) 水産・園芸・林業機械; (iii)欠番

(iv) 航空宇宙、宇宙、防衛への応用;

(v) 医用画像応用

(vi) 放射線治療装置及び設備

デクロランプラスが初めて使用され、使用済みになるまで、または2043年12月31日まで、

(e) 委員会は、(a)、(b)、(c)及び(d)の特定の免除の延長の必要性を、遅くとも2028年4月1日までに評価する。

(f) 第2項(a)から(d)に定める該当する免除の使用期限前または期限前に連合で既に使用されているデクロラン・プラスを含む物品は、引き続き使用することができる。

(g) (d)(iv)にいうデクロラン・プラスを含有する予備部品の上市及び使用であって、既に連邦で生産され又は2043年12月31日までに輸入されたものは、許可される。


(ii)UV-328

検索結果として、法案本文と附属書がダウンロード(*18)できます。

法案本文では、以下になっています。

第1条

規則(EU)2019/1021の附属書Iは、本規則の附属書に従って改正される。

第2条

本規則は、欧州連合官報に掲載された翌日から20日目に発効する。

本規則は、その全体を拘束し、すべての加盟国に直接適用されるものとする。本規則は2025年2月26日より適用される。

附属書の中間使用またはその他の仕様に関する特定の免除は以下です。

物質、混合物又は成形品中に存在する場合には、1mg/kg (0,0001重量%)以下のUV-328の濃度に適用するものとする。

成形品に含まれるUV-328の上市及びその成形品の使用は、下記の目的のために延期されるものとする:

(a)2030年2月26日まで:陸上自動車;

(b)2030年2月26日まで:採血管内の機械式分離装置;

(c)2030年2月26日まで:偏光板中のトリアセチルセルロース膜

(d) 2030年2月26日まで:写真用紙

(e) 次のいずれかの予備部品:

(i) 陸上自動車;

(ii) 農林業用及び建設用の固定式産業機械

(iii) 分析、測定、制御、監視、試験、製造及び検査のための機器の液晶ディスプレイであって、医療用のものを除く。

UV-328が初めて使用され、使用済みになるまで、または2044年のいずれか早い日までとする。

(f) 次のいずれかの予備部品

(i) 規則(EU)2017/745の範囲内、および規則(EU)2017/746の範囲内のデバイスにおける液晶ディスプレイ;

(ii) 分析、測定、制御、試験、生産、検査用の機器の液晶ディスプレイ

ここで、UV-328は、初めて使用され、使用済みになるまでとする。


§3 非意図的含有の規定

EU POPs規則案では、成形品中に存在する場合には、1mg/kg (0,0001重量%)以下のデクロランプラス・UV-328の濃度に適用されます。

EU POPs規則案は 成形品で1ppm(分母はREACH規則の定義)です。

化審法は非意図的混入濃度を規制していません。これは化審法の「使用」は限定的です。

逐条解説(*19)では「使用」を以下の解説をしています。

「第一種特定化学物質の使用」とは、第一種特定化学物質を機械、機器その他の製品に組み込んだり、混入したりするような場合を意味しており、第一種特定化学物質が使用されている「製品の使用」はこれに該当しない。

例えば、絶縁油としてPCBを用いてトランスを製造する場合やトランス中の第一種特定化学物質を詰め替えたり補充することは、「第一種特定化学物質の使用」であるが、既に製造されて第一種特定化学物質であるPCBが組み込まれているトランスを使用すること自体は、「第一種特定化学物質の使用」ではない。

成形品に第一種特定化学物質を組み込むことが禁止されます。

経済産業省の解説では、成形品に非意図的混入の防止は、「利用可能な最良の技術(BAT:Best Available Technology/ Techniques)」(*20)の原則、すなわち第一種特定化学物質を「工業技術的・経済的に可能なレベル」まで低減すべきとの考え方に立ち、副生される第一種特定化学物質による環境汚染を通じた人の健康を損なうおそれ等がなく、その含有割合が工業技術的・経済的に可能なレベルまで低減していると認められるときは、当該副生成物を第一種特定化学物質として取り扱わないこととしています。

経済産業省が認めたBATで製造された成形品は、第一種特定化学物質が使用されていると取り扱わらないことになります。

POPs条約は、「リオ宣言の原則7に規定する共通に有しているが差異のある責任に留意し」としており、締約国の国内法は微妙な差異があります。

締約国毎に確認することが肝要です。


「締約国法の制定情報の調べ方」を長文になりましたが記載しました。

お役に立てれば幸いです。


(松浦 徹也)


引用

*1:国連事務総長による寄託通知

*2:デクロランプラスとUV-328の寄託通知

*3:シンガポールの通報

*4:締約国法の制定状況検索ページ

*5:WTOに通報された法案

*6:化審法改定の通報

*7:Notified document (1)

*8:2024年審議会

*9:デクロランプラス、UV-328が使用されている輸入禁止品の追加指定する政令

*10:POPs規則

*11:POPsに関する情報

*12:consultations

*14:EU委員会のとるべき立場の決定

*15:Welcome to Have your say

*16:All initiativesのページ

*17:デクロランプラス法案

*18:UV-328 法案

*19:化審法逐条解説

*20:BATの解説

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