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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

REACH規則のPFAS類制限提案文書の更新

  • 執筆者の写真: tkk-lab
    tkk-lab
  • 11 時間前
  • 読了時間: 6分

2025年09月26日更新

EU REACH規則に基づくPFAS類の制限提案は世界的に注目されている動向と言えます。2023年3月に開始された意見募集では多くの意見が寄せられ、その意見を踏まえた検討が継続されています。2024年3月に検討ステップとして、意見募集結果を踏まえて、次の2つの検討を並行して進めることが示されていました1)。

(1)1回/四半期で開催される欧州化学品庁(ECHA)専門家委員会(リスク評価委員会(RAC)および社会経済評価委員会(SEAC))でPFAS類の制限によって影響を受ける用途ごとに検討を行うこと

(2)制限提案文書を提出した5つの加盟国(ドイツ、デンマーク、オランダ、ノルウェー、及びスウェーデン)で制限提案文書の更新を行うこと


(1)については、四半期ごとにECHA専門家委員会の検討状況が公表されており、各分野の検討が進められています。ただし、各分野の検討結果は「暫定意見」であるためその内容は非公表の扱いとなっており、最終的な意見案が公表されるまでは内容は公表されません。なお、直近では6月に開催され2)、次回は9月に開催される予定となっています。

一方、(2)については、8月に制限提案文書の更新版が公表3)されました。そこで、今回はこの制限提案文書の更新版について概要をご紹介します。


1.制限提案文書の更新版で追加的に考慮された主な事項

「当初の制限提案文書(当初版)4)」に対して寄せられた5,600件超の意見の評価が行われました。その結果、「制限提案文書の更新版(更新版)」では、当初考慮していなかった次の8つの用途が新たに追加され、評価が実施されました。

・ 印刷用途

・ シーリング用途

・ 機械用途

・ 医薬品の包装等のその他の医療用途

・ 軍事用途

・ 爆発物用途

・ 産業用繊維(テクニカルテキスタイル)用途

・ 溶剤および触媒等の幅広く工業用で利用される用途

また、当初版では制限オプション(RO)として次のRO1およびRO2を対象に評価が実施されていましたが、更新版では一部の用途についてRO3も対象に追加されています。

・ RO1:18カ月後の適用から全面禁止する

・ RO2:18カ月後の適用からさらに5年または12年の猶予期間設定用途を設けた上で禁止する

・ RO3:ライフサイクル全体にわたる排出量を最小限に抑える厳格な条件下で継続使用を可能とする(対象用途:PFASの製造、輸送機器、電気電子機器および半導体、エネルギー、シーリング、機械、テクニカルテキスタイル)


2.更新された制限提案内容

改めてRO1~RO3の制限オプションが検討され、結果としてRO3を一部組み込んだ「RO2」が提案されています。構成は概ね当初版と同様ですが、当初版では考慮していなかった用途を追加評価したこと等を受けて、更新版では次のように適用除外用途や猶予期間設定用途を拡大する内容となっています。

(1)第4項に基づく適用除外用途

当初版では、a~cまでの殺生物性製品規則や植物保護製品規則、他の法規制で規制対象となっている活性物質が挙げられていました。更新版ではスペアパーツや再生材を含む紙・繊維・プラスチック製品、一定の排出係数を超えないPFAS類の製造等のd~mが追加されています。

PFAS類の製造においては、管理された条件下で使用を認めるRO3の要素が組み込まれています。また、再生材を含む紙・繊維・プラスチック製品についての再生材を立証する文書を当局の要請に応じて提出することや、WEEE指令やELV指令の適用範囲となるプラスチック製品等で適用除外用途に該当する場合であっても閾値以上含有する場合には、製品に「意図的に添加されたPFAS類を含有する」と表示するといった新たな要件が追加されています。


(2)第5項に基づくすべてのPFAS類を対象とした猶予期間設定用途

当初版では、a~eeの用途が挙げられていましたが、更新版ではa~wwに拡大しています。追加・変更された用途としては、印刷用途(トナーやラテックス印刷インク等)や軍事用途、溶剤および触媒等の幅広く工業用で利用される用途(溶剤や触媒、加工助剤等)といった新たに評価された用途をはじめ、電子部品のコーティングおよびフィルム、電池用のバインダーおよび電解液等の用途が新たに追加されています。


(3)第6項に基づくフッ素ポリマーおよびペルフルオロポリエーテル(PFPE)類のみを対象とした猶予期間設定用途

当初版では、a~oの用途が挙げられていましたが、更新版ではa~yに拡大しています。追加・変更された用途としては、医薬品の包装等のその他の医療用途(医療機器の包装材、固形経口投与製剤用ブリスター等)やシーリング用途(工業用シーリング剤等)機械用途(工業用機械装置等)、軍事および爆発物用途(軍事用爆発物)、 溶剤および触媒等の幅広く工業用で利用される用途(水処理および浄化用のフィルターおよび分離媒体におけるフッ素ポリマーの工業使用)といった新たに評価された用途をはじめ、ワイヤーおよびケーブル(コネクタを含む)や、燃料電池および電解槽、橋梁および建築用ベアリング等の用途が新たに追加されています。


なお、5項および6項の猶予期間設定用途については、当初版と同様に大半の用途に対して、該当する用途や前年度に上市した物質の情報や量を1回/年の定期報告でECHAに提出する要件が付されるとともに、フッ素ポリマーやPFPE類の製造者・輸入者およびそれらを使用する川下ユーザーには、事業所での取扱いに関する管理計画の策定や毎年の見直しを行うことが義務付けられています。


3.最後に

今回、PFAS類の制限提案文書の更新版の概要をご紹介しました。ECHA専門家委員会の用途ごとの暫定結論が非公表である中、更新版が公表されたことで、意見募集で寄せられた意見を踏まえたPFAS類の制限の検討内容が確認できるのではないかと思われます。

ただし、更新版はあくまでも制限提案文書であり、現在進行中のECHA専門家委員会の検討の「背景文書」として位置づけられています。そのため、ECHA専門家委員会の検討によって、その内容は変更される可能性もあり、今後のECHA専門家委員会による意見案の公表および意見募集が待たれるところです。

ECHAは8月27日に今後のECHA専門家検討会のタイムラインを公表5)しました。現状は複数用途の検討や横断的項目に関する検討等、いくつかの検討項目が残っている状況ですが、2025年末までに議論を終了する見込みが示されました。また、2026年中旬までにRAC意見およびSEAC意見案が取りまとめられ、意見募集を経て、2026年末までにECHA専門家委員会による検討は完了する予定となっています。

なお、検討結果は、欧州委員会(EC)に提出され、ECはできる限り早期にREACH規則附属書XVIIの改正案を策定・公表することとしていますが、一般的には規制開始までは主に次のようなステップが控えていますので、官報公示や適用開始には、さらに時間がかかることになります。

・ ECによる附属書XVII改正案の作成とWTO通知

・ ECによる改正案の採択

・ 欧州議会および欧州理事会による精査

・ 官報公示

・ 官報公示の20日後に施行し、18カ月後から適用開始


(井上 晋一)


1) EC ニュースリリース(PFAS制限提案の検討ステップ)

2) EC ニュースリリース(6月のECAH専門家委員会の検討結果)

3) ECHA PFAS類の更新版の制限提案文書(更新版)

4) ECHA当初の制限提案文書(当初版)

5) ECHA ニュースリリース(PFAS類制限評価のタイムライン)

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