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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

EU ELV指令の概要

9月4日
読了時間: 15分

2026年09月04日更新


一般社団法人東京環境経営研究所(TKK)をご愛顧いただいている皆様へ

 

TKKでは、化学物質管理や法規制対応を中心に、企業の皆様の環境への取り組みを支える情報を発信してまいりました。2026年は、地球温暖化対策や省エネルギー、環境マネジメントシステムなど、より幅広いテーマについても、皆様の実務に寄り添った情報提供を進めております。


環境経営に関するお役立ち情報の第六回目では、2026年6月29日にEU理事会で採択され、同7月24日にEU官報に掲載された使用済み自動車の廃棄やリサイクルに関わる「EU ELV規則」を取り上げます。従来のELV指令では設計段階におけるリサイクル材の使用が奨励に留まっていましたが、今回公布されたELV規則では再生プラスチックの使用が段階的に義務化されることから、日本から車両・部品の欧州向け直接輸出を行う企業や、納入先経由で輸出を行う企業に影響が及ぶことが見込まれます。


本稿では、従来のELV指令とELV規則の相違点・直近の動向から、サプライチェーン上の各社における対応ポイントまで、実務に役立つ視点で分かりやすく解説します。

皆様の社内教育や取引先対応の一助としてお役立ていただければ幸いです。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

EU ELV指令の概要

 

1.従来のEU ELV指令の概要

 

従来のELV指令は、車両からの有害物質・廃棄物の発生を抑制することに加え、使用済車両(End-of Life Vehicles)とその部品の3R:再利用(Reuse)・リサイクル(Recycling)・その他の回収(Recovery)を推進して廃棄処分の量を削減するために、2000年の10月に発効した指令です。適用範囲は主に欧州連合(EU)における乗用車(カテゴリーM1)と小型の商用車(カテゴリーN1:最大積載量3.5トン未満)であり、二輪車や最大積載量が3.5トン以上の中大型の商用車は現行のELV指令の対象には含まれません。

制定された背景は、当時のEU域内で年間約800~900万トンの廃棄物が車両から発生していたことや、廃車後にEU域内で適切に処理されず、中古車としての輸出や所在不明などの理由で廃棄物の処理が追跡できない車両が約3分の1を占めていたことにあります。これらの状況から、車両が環境に与える負荷を管理・抑制することと、使用済車両の処理に関わる市場を形成することが求められていました。


指令の主な内容は以下の3つから構成されます。


(1)設計時の義務・奨励

設計時に有害物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム)を原則として含まないこと、解体・リサイクルを容易にする設計を行い、解体に必要な情報(各部品の材料と有害物質の場所など)を提供すること、材料名をルール(コーディング標準)に従って部品に識別表示することが義務付けられています。リサイクル材料の利用については、利用の促進奨励に留まっています。


(2)廃車時の義務

全ての使用済車両と廃棄部品を収集するための仕組みを構築すること、車両を処理施設に引き渡すためのコストを製造業者が負担すること、処理施設における破壊証明書の発行を登録抹消の条件とすることが義務付けられています。


(3)再利用・再生・処理時の義務

認可された処理施設で解体と有害物質の除去を行うこと、車両重量の95%以上の部品・材料の回収と85%以上のリサイクルを行うこと、3Rに関する適切な情報提供・公表を行うことが義務付けられています。


ELV指令への対応として、自動車に関わるサプライチェーンの各事業者は設計・製造段階で有害物質を除外するだけでなく、解体のしやすさを考慮した設計を行っています。またリサイクル材については、鉄やアルミなどの非鉄金属を中心に利用が進んでいます。一方、プラスチック材料は材料グレード単位での分別が難しいことや、リサイクル時に破砕することで分子の結合が断たれ、強度確保が難しくなることから、これまでは品質要求がシビアではない部品への水平リサイクルや、自動車以外へのリサイクルが主流となっていました。



2.直近の改正・ELV規則化への動き


2019年に発表された欧州グリーンディールにおいて、2050年に欧州のカーボンニュートラルを達成する目標が掲げられ、その手段として再利用とリサイクルプロセスの強化を保証した「持続可能な製品」政策を導入していくことが示されました。

ELV規則は欧州グリーンディールの一環として、製造者や廃棄物処理業者をはじめとした事業者の義務の拡大と対象車両カテゴリーの拡大を行い、また強制力も各国法に委ねられていた”指令”から、EU全体で強制力を持たせる”規則”に格上げすることで、より循環的なビジネスモデルの促進を狙ったものと位置付けられています。本規則は2023年に「自動車の循環設計とELV管理規則」として提案が公表され、提案内容の修正・方針の採択を経て2025年12月12日にEU理事会・欧州議会によって暫定合意、2026年6月29日にEU理事会で採択され、規則として正式に成立しました。同7月24日にEU官報に掲載され、発効日は官報掲載から20日後の同8月13日です。


改訂の骨子は以下の4つから構成されます。


(1)設計・生産段階から資源の循環を強化すること

従来のELV指令にも記載されている有害物質の含有制限義務や回収率(95%)・リサイクル率(85%)の達成義務に加え、新車における再生プラスチックの利用率を発効後6年以内に15%以上、10年以内で25%とし、その内の20%は廃車由来(Closed Loop)とする目標が義務付けられます。またプラスチックに限らず、将来的に鉄・アルミニウム・マグネシウムや、銅・レアアースなどの重要原材料(CRM:Critical Raw Material)のリサイクル材利用に関する目標も導入される予定です。

また、車両メーカーは新型車ごとに、部品の取り外しや再利用、リサイクルを促進するための戦略(循環性戦略:Circularity Strategy)を策定し、5年ごとの更新が発効の3年後に義務付けられる他、部品の安全な取り外しや交換に関する情報やリサイクル材の使用宣言などをデジタル媒体で提供する(車両循環性パスポート:Circular Vehicle Passport)ことが施行の6年後に義務付けられます。このパスポートは他の規則(バッテリー規則、排出ガス規則、エコデザイン規則など)におけるデジタル製品パスポート(DPP:Digital Product Passport)と整合・相互運用可能な形式かつ重複しない情報の掲載が求められ、またユーザーが一つの窓口から情報を得られるよう、可能な限り情報の統合が求められる見込みです。


(2)使用済車両の処理方法の厳格化

廃車を破砕する前に、重要原材料(CRM)を含む部品や、再利用・再生産が可能な部品の優先的な取り外しや、中古部品に対する保証の提供・ラベル表示が発効の3年後に義務付けられます。合わせて中古部品の再利用・再生産を促進するためのインセンティブが制定される見通しです。また、破砕後に残った残渣(ASR:Automobile Shredder Residue)の内、自然に還らない廃棄物は埋め立てが発効の3年後に禁止されます。


(3)拡大製造者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)の確立と老朽車両の輸出禁止

車両メーカーはELV指令で求められていた使用済車両の引き渡しコストに加え、規則を満足するために必要な有害物質の除去・部品の取り外しなどの処理費用の負担を発効の3年後に求められます。また、回収・処理を経由しない車両輸出についても有効な車検証明書が必須となり、排出ガスによる環境汚染のリスクが高い、道路走行に適さない老朽車両のEU外への輸出が発効の5年後に禁止されます。さらに行方不明車両の発生を防ぐため、車両登録システムのデジタル化が発効の35か月後に義務付けられる他、廃車証明書(CoD:Certificate of Destruction)との相互認証が強化されます。


(4)適用範囲を中大型の商用車・二輪車にも拡大

資源循環を拡大するため、ELV指令で対象とされていた乗用車・小型商用車に加え、トラック、バス、大型トレーラー、二輪車などにも発効から5年後に規則の一部が適用されるようになります。適用される規定の種類は以下の表のとおりです。


<乗用車・小型商用車以外のカテゴリーへの規定適用一覧>

規定の種類

トラック、バス、大型トレーラーなど

(M2/M3/N2/N3/O)

二輪車など

(L)

設計段階の数値目標

対象外

対象外

デジタル循環車両パスポート

対象外

対象外

廃車の有害物質除去

適用

適用

拡大生産者責任

適用

適用

中古車輸出規制

適用

対象外

(出所:’26/7/8 欧州委員会公表の規則条文から筆者作成)


ELV指令とELV規則の主な相違点のまとめは、以下の表のとおりです。


項目

ELV指令

ELV規則

リサイクル材の使用

奨励

段階的義務付け

(プラスチックから将来的に他材料にも拡大)

解体

認可施設で解体・有害物質を除去

破砕前の優先取り外し部品の指定

自然に還らない残渣の埋め立て禁止

拡大生産者責任

廃車車両の管理

生産者による処理施設への引き渡し費用の負担

廃車証明書の登録抹消条件化

生産者による回収・処理にかかる費用の負担

老朽車両の再輸出禁止

登録システムのデジタル化

適用範囲

乗用車・小型商用車

中大型商用車・二輪車に拡大

(出所:’26/7/8 欧州委員会公表の規則条文から筆者作成)




3.日本における再生プラスチック義務化への対応と、サプライチェーンへの影響


改訂内容の内、最も大きい変化と言える内容は新車における再生プラスチック・廃車由来プラスチックの使用率目標が義務付けられる点です。廃車時にプラスチック部品を回収し・再び車両向けにリサイクルする循環システムを確立することや、これまで強度確保や外観上の理由からリサイクル材を使用してこなかった部位に対し、いかに機能を保ちながらリサイクル材を採用していくかが大きな課題になります。


日本政府と川上・川下メーカーの動き、部品メーカーにとっての影響・見込まれる対応は以下の通りです。


(1)日本政府の動き

再生プラスチックの利用率に関する定量目標は未設定ですが、2026年4月に改正・施行された改正資源有効利用促進法では再生材の利用に関する計画の提出(2027年9月末~)・毎年の報告(2028年9月末~)を求めており、自動車も対象品目に入っています。また、再資源化事業等高度化法が2025年11月に全面施行され、再資源化事業などの高度化に関する認定制度を定めている他、2026年4月に具体的制度として解体業者・破砕業者に対する資源回収インセンティブ制度の開始に繋がっています。

事業面においては、環境省が2026年3月に「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」を公表しました。これは日本国内に分散した小規模な回収・リサイクル業者を束ね、地域ごとに再生材を集約・高品質化して自動車部品メーカーに卸す拠点を整備する事業で、全国約10か所の拠点を開設して2031年に年2.5万トンの供給を目指しています。

このように、生産者・再資源化事業者に対してELV規則の遵守を日本政府が法制度・事業の両面で支援・促進しています。


(2)完成車メーカー・原材料メーカーの動き

欧州市場への輸出・現地生産を継続するためにELV規則への適合が必須となっている完成車メーカー各社より、リサイクル材利用に関する定量目標や取り組みが既に発表されています。

また原材料メーカーにおいても高品質なリサイクル材の供給を目指して独自の廃プラスチック回収ルートの構築を進めている他、リサイクル技術についても現在主流の粉砕・溶融(マテリアルリサイクル)に加え、廃プラスチックを化学的処理によって分子レベルまで分解して再利用を行う手法(ケミカルリサイクル)の研究開発を進めています。ケミカルリサイクルは新たに製造する材料(バージン材)と同等の品質まで戻せる点が長所と言えますが、大規模なプラントが必要になる点や化学分解のエネルギー消費量が大きいという短所も抱えており、コスト・エネルギー消費量の課題解決に向けた原材料メーカーの取り組みも進みつつありますが、マテリアルリサイクルと同等にはまだ至っていない状況です。


リサイクル技術の比較表は以下の通りです。


観点

マテリアルリサイクル

ケミカルリサイクル

手法

物質を変えずに粉砕・溶融

化学的に分解・反応させて分子レベルまで戻す

品質

△

分子を断ち切ることで品質劣化が発生する

物理的に汚染された材料は再生しづらい

〇

バージン材同等を実現可能

不純物があっても再生可能

コスト

〇

(既存設備で対応可能)

△

(大規模設備投資が必要)

CO2排出量

〇

(化学分解を伴わない)

△

(化学分解のエネルギー消費大)

(出所:筆者作成)


(3)部品メーカーへの影響と今後見込まれる対応

ここまで挙げた日本政府、完成車メーカー、原材料メーカーの動きを踏まえると、部品メーカーにおいては主に①材料調達ルート指定増加への対応、②現行量産部品を含む再生プラスチック材への切り替え対応、③プラスチック以外へのリサイクル材目標への事前準備、の3点が重要になってくると考えられます。自社の川上・川下の動きにアンテナを張り、いち早くリサイクル材でのトライや規制に対応する技術の開発を進めて「使いこなし」による競争力の確保が重要となります。


①材料調達ルート指定増加への対応

完成車メーカーは再生プラスチックの利用率の管理と車両の品質確保を行うため、材料のカテゴリーごとにリサイクル材グレードの指定を行うだけでなく、調達ルートについても指定を増やす可能性があります。これは今まで独自の調達ルートを用いて競争力を確保してきた部品メーカーにとっては優位性を失うことに繋がるため、今までよりも加工面の技術・コスト競争力や納期管理力など競争力が重要になってくると言えます。


②現行量産部品を含む再生プラスチック材への切り替え対応

再生プラスチック材の利用率目標の発効時期は、今年中にEU官報に規則が掲載された場合は6年後となります。完成車メーカーにとっては全ての車種・全ての部品を6年以内に新型に切り替えることは事実上不可能であり、6年の間にリサイクル材を用いた新規部品の開発・試作・量産準備と、現行量産部品の材料切り替えが同時並行で進むことが見込まれます。

新規部品の場合はリサイクル材の物性を前提とした部品仕様・機能・成形条件の作りこみを行うことが可能ですが、現行量産部品の場合はリサイクル材に合わせた成形条件の変更や、金型修正が必要になるケースも想定されます。完成車メーカーが評価を行っているリサイクル材の候補情報をいち早く捉え、自社の納入する製品の仕様・成形条件にどのような影響を与えるかのレビューを行うことが有効と考えられます。


③プラスチック以外へのリサイクル材目標への事前準備

ELV規則ではプラスチックに限らず、将来的に鉄・アルミニウム・マグネシウムや、銅・レアアースなどの重要原材料(CRM:Critical Raw Material)のリサイクル材利用に関する目標も検討することが示されています。

鉄・非鉄材料の多くは自動車に使用される際、塗装・めっき・絶縁被膜などの表面処理が施されており、リサイクルを行う際はこれらの表面処理を除去する品質・コストが課題となります。またレアアースを使用する磁石は接着剤やプラスチックを用いてモーターに組み込まれているケースが多く、材料のリサイクル以前に「解体性と性能の両立」が課題となります。完成車メーカーのみならず、モジュールを納入する部品メーカーにおいても将来の規制を見越した技術の開発が重要となっています。




4.まとめ


欧州グリーンディールが掲げる2050年の気候中立実現に向け、自動車産業は「持続可能な資源循環」という新たなフェーズに入りました。ELV規則は、従来の廃棄物処理の枠組みを超え、設計段階からリサイクルまでを一貫した法的義務として結びつけた点に大きな特徴があります。

中でも再生プラスチックの使用義務化は、サプライチェーン全体に大きな影響を及ぼす課題です。部品メーカーの皆様においては、指定されたリサイクル材への切り替えや調達ルートの確保といった直接的な対応に加え、将来的な金属・重要原材料(CRM)の規制も見据えた先行的な技術開発が求められます。規則の全面的な適用までには数年の猶予がありますが、今から循環型設計への対応を加速させることは、単なる規制遵守を超え、欧州をはじめグローバル市場での競争力を高める機会となります。



執筆: 一般社団法人東京環境経営研究所 会員 中小企業診断士 加藤 直樹

 


参考文献:

1)Consolidated text: Directive 2000/53/EC of the European Parliament and of the Council of 18 September 2000 on end-of life vehicles https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02000L0053-20230330



2)End-of-Life Vehicles: EU rules to make the automotive sector circular, to maximize the efficient use of resources and to protect the environment


3)Regulation (EU) 2026/1738 of the European Parliament and of the Council of 8 July 2026 on circularity requirements for vehicle design and on management of end-of-life vehicles, amending Regulations (EU) No 168/2013, (EU) 2018/858, (EU) 2019/1020 and (EU) 2023/1542 and repealing Directives 2000/53/EC and 2005/64/EC (Text with EEA relevance)  https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2026/1738/oj


4)経済産業省 第13回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/013.html


5)環境省 資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(再資源化事業等高度化法) https://www.env.go.jp/recycle/waste/page_01721.html


 

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