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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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ハイドロフルオロカーボン(HFC)を削減する規制の動向について

2024年02月23日更新

ハイドロフルオロカーボン(HFC)は炭素原子、水素原子、フッ素原子からなる有機フッ素化合物の一種です。 オゾン層破壊物質として有名なフロン化合物(フロン化合物は炭素原子、水素原子、フッ素原子に加え塩素原子で構成)の代替物質(代替フロン)として冷媒などに使用されてきました。 しかしながら、HFCはオゾン層を破壊しないものの、温室効果ガスとしてのふるまいが二酸化炭素の100~10,000倍以上とされ、国際的に注目されるようになりました。 このような流れから「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」において2016年に改正(キガリ改正)が採択され(*1)、HFCも同議定書の段階的削減の対象となりました。 キガリ改正は、国別に「途上国第1グループ」「途上国第2グループ」「先進国」に分類しそれぞれの削減スケジュールが規定されています。先進国については2036年時点で基準量(2011年~2013年生産量の平均値)と比較して15%(85%削減)と設定されています。 本コラムでは、削減義務の対象となっているHFCに関する動向について取り上げてみます。


◆EUの動向

EU理事会は2024年1月29日にEUの温室効果ガス(GHG)総排出量の3%以上を占めるHFCを含むフッ素化ガス(Fガス)の規制を強化した規則を採択しました(*2)。 この規則案の採択は、EUグリーンディールの一つの結果であり、EUが掲げている2030年の気候目標と2050年までに気候中立を達成することに向けた重要な一歩となります。 新たに採択された規則では、従来の規則より排出枠の削減を強化しながら段階的に減らしていき、2050年までに最も一般的なFガスであるHFCの使用が廃止されるよう設定されています。 例えば、従来の規則において2027-2029年の排出量が2015年比で24%なのに対し、新たに採択された規則案では、附属書Ⅶにおいて2027-2029年の排出枠が2015年比で約12%となり、2050年の排出量を0%に設定しています。 また、環境に優しい代替品が利用できるヒートポンプ、エネルギー伝送用の開閉装置、または健康分野で使用される製品などは、附属書Ⅳに記載される条件にてFガスの使用を制限することになります。


HFCの生産量(附属書Ⅴ)※基準量:2011年~2013年生産量の平均値

2025年~2028年 60%

2029年~2033年 30%

2034年~2035年 20%

2036年以降   15%


HFCの排出量(附属書Ⅶ)※基準量:2015年

2025年~2026年 24.3%

2027年~2029年 12.3%

2030年~2032年 5.2%

2033年~2035年 4.8%

2036年~2038年 3.8%

2039年~2041年 3.5%

2042年~2044年 3.1%

2048年~2049年 2.7%

2050年以降    0%

(附属書Ⅶに記載の数値より計算)


なお、EUはFガスを制限する規則を採択すると同時にオゾン層破壊物質を制限するための規則についても採択しています(*2)。 今回採択したこれらの規則案は先進的な内容となっており、このような内容が他の国々にも波及していくことを期待するとしています。


◆米国の動向

米国はモントリオール議定書におけるキガリ改正を受けて2020年米国イノベーション製造法(AIM法) (*3)にてHFCの排出量を規制しています。 2020年米国イノベーション製造法における削減スケジュールは以下のようになっています。


HFCの生産量※基準量:2011年~2013年生産量の平均値

2020年~2023年 90%

2024年~2028年 60%

2029年~2033年 30%

2034年~2035年 20%

2036年以降   15%


HFCの排出量※基準量:2011年~2013年生産量の平均値

2020年~2023年 90%

2024年~2028年 60%

2029年~2033年 30%

2034年~2035年 20%

2036年以降   15%


米国のHFCに関する最近の動きとしては、2020年米国イノベーション製造法(AIM法)に基づく技術移行プログラムの規定改正があります(*4)。 技術移行プログラム(*5)は2020年米国イノベーション製造法(AIM法)に基づきHFCが使用される特定のセクターまたはサブセクターでの使用を制限するもので、指定のサブセクターにおいて特定の機器の製造、輸入、または設置を禁止するものです。 この制限の開始日はサブセクターにより2025年1月1日から2028年1月1日までの期間のいずれかに設定されていました。 今回公表された規定改正は新しい住宅用および小型商業用エアコンおよびヒートポンプシステムの設置について、制限の開始日を 2025年1月1日としていたものを2026年1月1日まで1年間延長するというものです。 この1年間の延長は技術移行プログラムの発効後、住宅用および小型業務用エアコンおよびヒートポンプ機器の製造業者、輸入業者、販売業者から設置制限の開始日を遵守した場合、該当のサブセクターにおいて相当量の滞留在庫が生じることが通知されたことによります。 2020年米国イノベーション製造法(AIM法)には、判断要素として過去の傾向と比較した、全体的な経済コストと環境への影響という項目があり、今回の延長はこの判断要素に基づく決定と考えられます。


◆日本の動向

キガリ改正に基づくHFCの生産量・消費量の削減義務を履行するため、2018年に、特定物質等の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(昭和 63年法律第53号)を改正し、HFCの製造及び輸入を規制しています(*6)。 日本も先進国としてEU及び米国と同様にHFCの生産量・消費量を段階的に削減し、2036年には基準量比で15%まで削減することを目指しています。 2021年10月22日閣議決定された「地球温暖化対策計画」(*7)(*8)では、2030年にHFCの排出量を2013年比で45%にすることを目標値として設定しています。

現状でEU、米国と比較して2030年時の目標値がやや大きい状況ですが、次回の地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画が策定される際に2030年またはそれ以降に向けてどのような目標が示されるのか注目しておく必要がありそうです。


◆最後に

EUはキガリ改正を受けたHFCの段階的削減について、規則を改正しHFCの削減目標値を引き上げ、排出量に関しては2050年にゼロにすることを規定しました。 米国は2020年米国イノベーション製造法に基づいて設定した目標の達成に向けてセクターごとの制限を規定し、法整備を進めている印象です。 こうした流れを受けて日本をはじめとする他の国々がHFCの削減に向けてどのような取り組みを打ち出していくか注目されるところです。


(*1) モントリオール議定書及びキガリ改正の概要


(*2) フッ素系ガスとオゾン層破壊物質を制限するための規則の採択


(*3) 2020年米国イノベーション製造法(AIM法)


(*4) 2020年米国イノベーション製造法(AIM法)に基づく技術移行プログラムの規定改正


(*5) 2020年米国イノベーション製造法(AIM法)に基づく技術移行プログラム


(*6)モントリオール議定書キガリ改正を踏まえた今後の HFC 規制のあり方について


(*7) 地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)


(*8) 令和5年度フロン排出抑制法に関する説明会

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