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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

プラスチック資源循環法が4月1日に施行されます

2022年03月29日更新

「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(*1)(略称「プラスチック資源循環法」)令和3年(2021年)6月11日に公布、令和4年4月1日に施行されます。


プラスチック資源循環法は、EUの包装および包装廃棄物指令(EC)94/62(*2)の改正(指令(EU)) 2018/852(*3)及び韓国の資源の節約とリサイクル促進に関する法律(*4)と目的を同じとしています。 日韓欧の規制法からプラスチック資源循環の潮流をまとめたいと思います。


1. プラスチック資源循環戦略について

プラスチック資源循環法(令和3年法律第60号)の目的は、第1条(目的)で以下を示しています。


この法律は、国内外におけるプラスチック使用製品の廃棄物をめぐる環境の変化に対応して、プラスチックに係る資源循環の促進等を図るため、プラスチック使用製品の使用の合理化、プラスチック使用製品の廃棄物の市町村による再商品化並びに事業者による自主回収及び再資源化を促進するための制度の創設等の措置を講ずることにより、生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。


プラスチック資源循環法は「国内外におけるプラスチック使用製品の廃棄物をめぐる環境の変化に対応」が目的としていますが、「国内外」の変化を端的に表しているのが「プラスチック資源循環戦略」(*5)(令和元年5月31日)です。


この戦略の基本原則は3R(リデュース、リユース、リサイクル)とRenewable(再生可能)で、骨子は以下となります。


(i)ワンウェイの容器包装・製品など無駄に使われる資源を徹底的に減らす

(ii)プラスチック製容器包装・製品の原料を再生材や再生可能資源に切り替える

(iii)長期間、プラスチック製品を使用する

(iv)使用後は分別回収し、循環利用する

(v)技術的経済的に難しい場合には熱回収する

(vi)可燃ごみ指定収集袋など焼却せざるを得ないプラスチックには、カーボンニュートラルであるバイオマスプラスチックを最大限使用する

(vii)経済性及び技術可能性を考慮し、また、製品・容器包装の機能(安全性や利便性など)を確保することとの両立を図る


具体的な目標は以下としています。

(i)リデュース

2030年までに、ワンウェイプラスチック(使い捨てプラスチック)を累積25%排出抑制

(ii)リユース、リサイクル

2025年までに、リユース、リサイクル可能なデザインにする

2030年までに、容器包装の6割をリユース、リサイクルにする

2035年までに、使用済プラスチックを全てリユース、リサイクル等により有効利用する

(iii)再生利用・バイオマスプラスチック

2030年までに、再生利用を倍増させる

2030年までに、バイオマスプラスチックを約200万トン導入する

廃プラスチックの年間の発生量は、1,000万トン程度(環境省データ)です。

 

「プラスチック資源循環戦略」を踏まえて、日本は議長国として2019年6月28日から29日に開催されたG20大阪サミット(*6)に臨みました。

G20大阪サミットの「G20 持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合 閣僚声明」(2019年6月15日から16日)の環境の資源効率性の項目で3Rを重視する以下の声明を出しました。(部分要約)


循環経済、持続可能な物質管理、3R及び廃棄物の価値化等の政策やアプローチを通じた資源効率性の向上が、持続可能な消費と生産及び持続可能な開発目標の追及において、経済成長と環境保全の両立ができるものであり、かつ、すべきものと認識する。


この声明の背景は、日本などの先進国の廃プラスチックは、主としてアジア諸国で処理されていますが、受入国での処理能力の不足で、廃プラスチックがそのまま、海に捨てられることも増えていることがあります。


また、漁具やレジャーでも使われる釣り糸が海に廃棄される海洋プラスチックごみが増加していることを踏まえて、海洋プラスチックに関する声明も出されています。


海洋ごみ、特に海洋プラスチックごみ及びマイクロプラスチックは、海洋生態系、人々の暮らし、漁業・観光業・海運業等の産業に対する負の影響、人間の健康に対する負の影響の可能性を鑑みると、緊急の行動が求められる問題です。


これを受けたG20の首脳宣言(*7)で「循環経済、持続可能な物質管理、3R(リデュース、リユース、リサイクル)及び廃棄物の価値化等の政策やアプローチを通じた資源効率性の向上(No38)」及び「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」No39)」とし、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」(*8)による附属書(*9)の「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」を支持すると宣言しました。


G20 大阪サミットで、世界共通のプラスチック資源循環の枠組みが決まりました。


なお、マイクロプラスチックのサイズの定義は、国連の「海洋環境保護の科学的側面に関する専門家合同グループ(GESAMP)」の“GUIDELINES FOR THE MONITORING AND ASSESSMENT OF PLASTIC LITTER IN THE OCEAN”(海洋におけるプラスチックごみの監視と評価のためのガイドライン)(*10)が使用されています。


Mega Very large > 1 m

Macro Large 25 – 1000 mm

Meso Medium 5 – 25 mm

Micro Small < 5 mm

Nano Extremelysmall < 1 μm


2. プラスチック資源循環法の設計基準

プラスチック資源循環法はG20 大阪サミットの潮流の中で制定され、第8条で「プラスチック使用製品製造事業者等は、その設計するプラスチック使用製品の設計について、主務大臣の認定を受けることができる」としています。目標は、「2025年までに、リユース、リサイクル可能なデザインにする」で、デザインルールとして、令和4年1月19日付で「プラスチック使用製品設計指針」(*11)が告示されました。


Webページ(*12)で指針の解説「プラスチック使用製品設計指針と認定制度」があります。


(1)構造基準

(i)減量化

(ii)包装の簡素化

(iii)長寿命化

(iv)再使用が容易な部品又は部品の再使用

(v)単一素材化等

(vi)分解・分別の容易化

(vii)収集・運搬の容易化 

(viii)破砕・焼却の容易化


(2)材料

(i)プラスチック以外の素材への代替      

(ii)再生利用が容易な材料の使用

(iii)再生プラスチックの利用            

(iv)バイオプラスチックの利用


基準は「減量化」では、「できるだけ使用する材料を少なくすること」、「包装の簡素化」では「過剰な包装を抑制すること」のような定量基準ではありません。


「製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷等の影響を総合的な評価」「ホームページ、製品本体、取扱説明書等での情報発信」「プラスチック使用製品製造事業者等と材料・部品等の供給者、再商品化事業者等との連携」「製品分野ごとの設計の標準化並びに設計のガイドライン等の策定及び遵守」などから国が指定した指定調査機関が調査し、国が認定プラスチック使用製品とします。


これらの運用基準は順次告示されると思われます。


3.韓国 資源の節約とリサイクル促進に関する法律の基準

韓国では、「資源の節約とリサイクル促進に関する法律」で、大統領令で定める製品の包装廃棄物の発生を抑制し、リサイクルを促進するための基準(*13)を定めています。


(i)包装材質・包装方法(包装空間比率と包装回数)に関する基準

(ii)合成樹脂材質(生分解性樹脂製品は除く)と包装材の年次別削減基準

 

製品包装方法に関する基準を守らなければならない製品として、食料品類、化粧品類や電子製品類(300グラム以下の携帯用製品に限る)などが特定されています。


包装材料の材料、構造及びリサイクルの容易さの評価基準が告示(*14)されています。


基準は「最高のリサイクル」、「優れたリサイクル」、「通常のリサイクル」および 「リサイクルが難しい」に分類されます。

分類例をご紹介します。


(i)紙パック

(a)リサイクルが容易(「最高のリサイクル」、「優れたリサイクル」)な材料と構造

本体:アルミニウムを含まない紙パック

シール 等:使用されていない

(b)リサイクル が難しい 素材・構造

本体:アルミ貼合構造を使用した紙パック

未漂白パルプを使用(白以外のパルプを使用した製品)

シール 等:合成樹脂栓や成形構造が、本体から分離できない


(ii) ポリスチレン紙(PSP)

(a) リサイクルが容易な材質・構造

本体:白色単一材料

シール等:本体から取り外しが可能な場合において

・最高のリサイクル:未使用/本体と同材料

・優れたリサイクル:本体と異なる材料

(b) リサイクルが難しい材質・構造

本体:複合材質構造(その他材質と組合せを含む)として本体と分離不可能な場合

白以外の色

ラベル等:本体に直接印刷

本体とボディとは異なる材質でボディと分離不可能な場合


執筆時点(2022年3月21日)では、日本の基準は告示されていませんが、資源の節約とリサイクル促進に関する法律の基準は参考になります。


4.EU 指令(EC)94/62の改正(指令EU) 2018/852の目標

包装材指令((EC)94/62)は指令(EU)2018/852により修正されました。第6条でプラスチックも以下の定量目標が設定されました。

・2025年12月31日までに、プラスチックの50%

・2030年12月31日までに、プラスチックの55%

詳しい解説は、2021年12月10日のコラム(*15)をご参照ください。


まとめ

SDGs第14目標の「海の豊かさを守ろう」では、「持続可能な社会のために,海と海の資源を守る」や「海の資源を持続可能な方法で利用する」があります。

SDGsの企業の取り組みの具体化に困惑することがままありますが、プラスチック資源循環法はその一つの取り組みを示唆しています。


(松浦徹也)


引用

*1:プラスチック資源循環法


*2:指令(EC)94/62


*3:指令(EU) 2018/852


*4:韓国 資源の節約とリサイクル促進に関する法律


*5:プラスチック資源循環戦略


*6:G20 大阪サミット


*7:G20 大阪サミット首脳宣言


*8:大阪ブルー・オーシャン・ビジョン


*9:G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組


*10:GESAMP 海洋におけるプラスチックごみの監視と評価のためのガイドライン


*11:プラスチック使用製品設計指針


*12:プラスチック使用製品設計指針の解説


*13:韓国 リサイクルを促進するための基準


*14:韓国 包装材料の材料、構造及びリサイクルの容易さの評価基準


*15:EUプラスチック戦略の狙い

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