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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EC RoHS指令見直しに関するコンサルテーションに関して

欧州委員会(European Committee:EC)は2022年8月23日に、本年3月から6月にかけて行われたRoHS指令(2011/65/EU)見直しに関するコンサルテーション(Public Consultation)の概要1)を公表しました。

RoHS指令の見直しに関しては、本コラム2022年4月30日付「RoHS指令をREACH規則に統合する?!」2)で同年2月14日から3月14日にかけて行われた意見募集(Call for Evidence)の結果3)をご紹介しています。

今回の公表は、回答の事実に基づいた短い要約を提供しているもので、すべての結果の完全な分析は、欧州委員会の影響評価で行うとしています。

以下に詳細を見ていきます。


1.コンサルテーションの目的と位置づけ

目的は、これまでに特定された RoHS 指令の弱点に対処するための潜在的な対策について、さまざまな利害関係者から情報を収集することで、収集された意見は、指令に対する実現可能な修正案の検討に反映されます。

位置づけは、一連のRoHS指令見直し作業のプロセスの中で、前回の意見募集の結果を受けてRoHS指令の課題を抽出し、見直しに向けてより具体的な修正候補項目を示して意見聴取を行ったものであり、今後は欧州委員会の影響評価を経て修正案が提案されるものと思われます。(2022年第4四半期を予定)


2.パブコメの内容と結果

2.1.回答者の属性

総回答数は154で、その内の92%(141)がRoHS指令に関する知識を有していると回答し、残りのほとんどが電気電子機器に含まれる有害物質に関心がある市民と回答しています。

全体の75%(115)が特定の団体や組織を代表して回答しています。その内の79が電気電子製品・部品の製造・供給業者、34が輸入業者、22が材料の製造・供給業者であり、その他に廃棄物管理業者、修理・改装業者、小売業者、コンサルタント会社、サービスプロバイダー、および業界団体が含まれています。

民間部門の回答者をRoHS指令附属書Ⅰのカテゴリーで分ける(総回答数385、複数回答)と、約16%(62)がカテゴリー11「他のカテゴリーに含まれないその他の 電気電子機器(Electrical and Electronic Equipment: EEE)」、約 13% (51) がカテゴリー 9「産業用監視および制御機器を含む監視および制御機器」、約 11% (43) は、カテゴリー 8 の「医療機器」という結果でした。

回答者の国別では、ドイツ (26%)、ベルギー (19%)、日本 (13%)、フランス (7%)、米国 (5%)、スウェーデン (4.5%)という結果でした。ベルギーが多いのはブリュッセルに EU 機関に関心を有するグループを代表する多くの組織が出先機関を置いているためであると想定されています。EU以外からの回答は全体の22%でした。


2.2.設問と回答

今回のパブコメでは大きく分けて35の設問が設けられています。設問の内容を詳しく見ていくことで、質問者がRoHS指令のどこに課題があると認識しているか、また修正案としてどのような選択肢を想定しているかが推測できます。

設問から読み取れる欧州委員会の課題認識としては次の9項目が挙げられます。


1)現状のRoHS指令が電気電子製品・部品のリサイクル・リユースの妨げとなっていないか。

2)RoHS指令を規則に転換する必要があるか。

3)適用範囲の変更が必要か。

4)適用範囲と規制が他の法令と整合性がとれているか。

5)適用除外(附属書Ⅲ、Ⅳ)の条件はこのままで良いか。

6)適用除外の認定手続きの遅延が与える影響と改善策

7)適用除外の有効期間を長くする必要があるか。

8)新規制限物質の追加(附属書Ⅱ)プロセスおよび適用までの期間に問題はないか。

9)RoHS指令の市場での有効性に問題はないか。

以下に各項目についての回答を見ていきます。


1)現状のRoHS指令が電気電子製品・部品のリサイクル・リユースの妨げとなっていないか。

リサイクル・リユースに関する設問は35項目中8項目(1,2,3,4,10,11,12,13)を割いているところから、今回の見直しの中で大きな柱となることが予測されます。

回答者の 40% 以上が、現在の制限が EEE の二次材料の取り込みを制限し、EEE の修理のための廃電気電子機器(Waste Electrical and Electronic Equipment: WEEE )からの部品およびコンポーネントの調達を制限していることに強く同意、または同意しています。

99 人中76 人の利害関係者 (合計154人のうち) は、EEE の回収されたスペアパーツの規定を修正することで、CO2 排出と資源効率にプラスの影響を与える可能性があると回答しています。 条件としては、環境やヒトへの影響が出ないように回収をクローズドループで行うことや環境への放出やばく露が起こらない構造とすることが挙げられています。 使用方法としては、廃棄機器から部品として取り出して再利用する(リユース)ケースと原材料として再利用する(リサイクル)ケースが想定されているようです。

これによる経済効果としては、最終製品のコストダウン、製品の長寿命化、希少材料の資源確保などが挙げられています。結果的に有害物質が含まれている廃棄物の総量も削減できると考えているようです。


2)RoHS指令を規則に転換する必要があるか。

指令の問題点として、変更や追加があった場合に各国の法令に焼き直すために時間と手間がかかり、一時的に国によって適用状況にバラツキが生じるために、各国間に不当な競争障壁が生じ、対応する事業者にも各国対応で不要な手間が生じることが想定されています。 回答者の半数以上 (57%) が、もし RoHS指令が規則に変わった場合、このようなマイナスの影響は軽減すると回答しています。


3)適用範囲の変更が必要か。

RoHS指令の適用範囲には、明確化が必要な側面があると考えている回答者は 52% ありました。 ただし、どの規定を範囲に含めるべきか、範囲から除外すべきかについての明確な意思表示はありませんでした。 設問には次の適用候補(適用例)として、RFID(無線識別タグ)、車両用に設計されているが、恒久的に搭載されていない EEE (例: 車のナビゲーション システム)、および太陽光発電パネルを範囲に追加するべきかという問いか有りましたが、ほとんどの回答者が追加に同意していました。 ここで電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association:JEITA)および日本のメーカーが揃って「測定に使用される参照標準は除外する必要があります。 また、RFIDについては質問の意図が理解できないため「わからない」を選択。 RoHS2 の FAQ では、RFID が範囲内にあると既に説明されており、妥当だと思います。」とコメントしていたのが印象的でした。


4)適用範囲と規制が他の法令と整合性がとれているか。

RoHS指令第2条(3)は、「この指令は、特定の EU 廃棄物管理法の要件だけでなく、安全衛生および化学物質に関する EU 法の要件、特に規則 (EC) No 1907/2006 を損なうことなく適用されるものとする。」とあります。規則 (EC) No 1907/2006はREACH規則4)です。

大多数の回答者が他の法律との重複、一部重複、基準の相違、規制施行時期のズレなどについて整合性がとれていないために混乱やビジネス機会損失が発生していると回答しています。

特にREACH規則とRoHS指令の適用除外条件との不整合(鉛合金、水銀ランプ等)を指摘しています。 またREACH規則の成形品とRoHS指令の均質材料の定義の違いから来る不整合を指摘する回答が多く見られました。

その他の規制としては、エコデザイン指令(ErP指令)((EC) No 125/2009)5)との重複(ハロゲン化難燃剤、水銀灯など)や、廃自動車指令(ELV指令)((EC)No 53/2000)6)との適用除外評価の違い、残留性有機汚染物質規則(POPs規則)((EC)No1021/2019)7)との閾値の違いなどが指摘されています。

一方で、「POPs規則に合わせるために、RoHS 指令の下で ポリ臭素化ジフェニルエーテル(Polybrominated Diphenyl Ether:PBDE )の最大濃度値を適応させることに賛成ですか?」との設問に対しては、条件が厳しくなることから「NO」の回答が増えています。


5)適用除外(附属書Ⅲ、Ⅳ)の条件はこのままで良いか。

大多数の意見は現在の規定は適切であり理解できるものとしています。

反対意見としては、適用除外の設定が細かくて条件も複雑であるために確認しづらいというものがいくつか見受けられます。 例えばランプならばランプ全体を一律に同条件で除外としたらどうかという意見です。 また、除外規定の決定や延長決定に際しての基準が不明確という意見もあります。

「新技術が制限物質の使用を必要とする場合、環境および人の健康の観点から受け入れられる代替物がないという条件で、新たな免除を認めることが可能でしょうか?」という設問に対しては、ほとんどの回答が第5条(1)の条件を満たすのであれば肯定的でした。また、「特定の用途 (業務用/医療機器、明確な正味の環境利益を伴うアプリケーションなど)」に限定するべきだという意見も多く出されています。


適用除外期限を決める際の代替品の入手可能性の判断としては、103 人(総計171、複数選択) は、「EU の製造業者の過半数が代替品を利用できることが実証された場合、代替品が利用可能であると仮定できる」という意見です。 代替品が潜在的に重要な原材料 (CRM) を含む場合、利害関係者の大半は、CRM の入手可能性が不十分である、または CRM の使用が人の健康/または環境に悪影響を与える場合には、適用除外を認めることが正当化されるという意見を持っています (総回答数339のうち92、複数選択)。


6)適用除外の認定手続きの遅延が与える影響と改善策

適用除外決定プロセスに関して、回答者の 53% が何らかの機会にプロセスの遅延の影響を受けています。 遅延による影響としては、管理コストの増大とビジネスチャンスの喪失を挙げる回答が多数です。

しかし、回答者の 57% は、もしもリソース不足による遅延を改善するために適用除外申請を提出する際に手数料を支払うことを容認するかという問いに対して、その意思はないと答えています。 回答者のわずか 10% が、料金を支払う意思があると答えています。

欧州化学物質庁 (European Chemicals Agency:ECHA) に適用除外要求を評価する権限を導入する可能性に付いては、利害関係者の間で異議を唱える回答が多いです。 約 40% が反対し、約 35% がそのような義務付けが有益であることに同意しています。 現状のECHA ではこの追加のタスクを引き受けるために適切なリソースを確保する必要があることを懸念しています。 一方、制限物質のリストを修正するための技術的ガイダンスをECHAが提供していることを考慮すれば、ほとんどの利害関係者は、ECHA への委任を導入すること自体は有益であると考えています。


7)適用除外の有効期間を長くする必要があるか。

「たとえば 5 年間ではなく 10 年間など、より長い期間の適用除外が認められるとしたら、あなたの仕事にどのような影響がありますか?」との設問に対して、大多数の回答者は変更による管理コストを削減することができ、そのリソースを他の制限物質削減などにまわすことができると回答しています。

「有効期間とそれぞれの期限は、付属書 I のカテゴリーにも依存しますが、このようなさまざまなカテゴリーへの分割は有用で役立つと思いますか?」との設問に対しては、カテゴリー 8 (医療機器) およびカテゴリー 9 (産業用監視および制御機器を含む監視および制御機器) のみは必要であるという回答がほとんどでした。


8)新規制限物質の追加(附属書Ⅱ)プロセスおよび適用までの期間に問題はないか。

プロセスの透明性を高めるための選択肢として、

①将来の改訂で評価される物質の予想されるタイムラインを含む「追加計画リスト」(list of intentions)を導入(REACH の「制限案発意レジストリー」(Registry of restriction intentions)に相当)(154人中111人賛成)

②附属書 II のレビュー頻度を明確にするために「定期的に」 (RoHS 第6条)という用語を規定する。(154人中97人賛成)

③新規物質制限の実施までの最短移行期間を規定する。(154人中102人賛成)

の三案を提示して回答を求めており、回答者の大多数が賛成または大賛成と回答しています。

最短移行期間として最適な期間は6~8年が最も多く、4~5年がそれに続く回答となっています。


9)RoHS指令の市場での有効性に問題はないか。

市場での有効性に関しては、自社のサプライチェーン中での情報提供レベル(設問33)、市場監視機関からの連絡を受けたことがあるか(設問34)、およびEU市場でRoHS非準拠製品を見かけたことがあるか(設問35)が挙げられています。


3.まとめ

以上今回のコンサルテーションの質問内容(設問)と利害関係者の回答を見てきましたが、特に設問を俯瞰することによりRoHS指令見直しの方向性が見えてきたように思います。

ひとつは当初、2022年4月30日付本コラムにもありますようにRoHS指令がREACH規則に統合されるのではないかという予測もありましたが、今回のコンサルテーションの内容を見るとまずはRoHS指令を規則に変更するステップを踏むように見えます。 前例としてはErP指令の規則への変更例8)があります。

同時に現在のSDG’sの流れを受けて、リサイクル・リユースを加速する修正が盛り込まれるように見えます。

次に重要な変更点は、他規制との整合性をできる限り採ることにあると思いますが、今回公表された「見直しに関するコンサルテーション概要」1)ではこの項目に一切触れていないことが気になりました。 規制当局としては他規制との不整合に関しては充分認識していることからあえて触れなかったのか、対象となる規制および不整合点が多いことから今後の検討課題として今回は触れなかったかは不明です。 回答結果を見ると整合性に関するコメントが一番多かったことから、何らかの改善を期待するところです。

以上はあくまで筆者の個人的な推測ですが、読者の皆様がRoHS指令の今後を考える上でのご参考になればと思います。


(杉浦 順)


参考文献:

*0:RoHS指令((EC) No 65/2011)

*1:RoHS指令見直しに関するコンサルテーション(Public Consultation)の概要

*2:本コラム2022年4月30日付「RoHS指令をREACH規則に統合する?!」

*3:意見募集(Call for Evidence)の結果

*4:REACH規則((EC) No 1907/2006)

*5:エコデザイン指令(ErP指令)((EC) No 125/2009)

*6:廃自動車指令(ELV指令)((EC)No 53/2000)

*7:残留性有機汚染物質規則(POPs規則)((EC)No1021/2019)


*8:ErP指令の規則への変更

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