2024年09月20日更新
米国では2023年10月にTSCAに基づくPFAS類の報告・記録管理規則が公布1)され、PFAS類そのものやそれらを含む混合物および成形品を製造・輸入した企業に対して、企業情報やPFAS類の情報、用途、濃度範囲、製造・輸入量などを2025年5月または11月までに報告するよう求めています。注)
注)9月5日に報告期限を8カ月延期する規則が公布2)されました。
米国の製造者・輸入者は上記報告の対応に向けてサプライチェーンを通じた情報収集等を行っており、日本企業にも調査要請が寄せられていることと思います。
今回は、カナダで7月に公示されたカナダ環境保護法(CEPA)に基づきPFAS類の当局への報告を求める「PFAS類の情報提供通知3)」を取り上げます。なお、本通知の内容を解説した「PFAS類の情報提供通知の対応ガイダンス4)」も同日公開されました。
1.目的
「PFAS類の情報提供通知」はCEPA第71条(1)(b)で定められた「環境大臣はある物質が有害であるか、有害となる可能性があるかの評価や、規制の要否および規制方法を評価する目的で情報提供を求める通知を発行することができる」に基づき制定されました。
カナダでのPFAS類の情報を収集し、今後の追加的な規制検討等の活動に活用することが意図されており、この点は米国と同様と言えます。
2.報告義務者
2023年中に次の基準のいずれかに該当するカナダ国内の製造・輸入者および使用者に報告義務が課されています。
<製造者:物質>
・別表1に収載された物質を合計1,000g超製造した製造者
<輸入者:物質>
・別表1パート1に収載された物質を合計10g超、または別表1パート2または3に収載された物質を合計100kg超輸入した輸入者
<輸入者:混合物>
・1ppm以上含む混合物として、別表1パート1に収載された物質を合計10g超、または別表1パート2または3に収載された物質を合計100kg超輸入した輸入者
<輸入者:成形品>
・1ppm以上含む次の成形品として、別表1パート1に収載された物質を合計10g超、または別表1パート2または3に収載された物質を合計100kg超輸入した輸入者
(i)14歳未満の子供向け製品
(ii)粘膜に接触することが意図された製品
(iii)吸入および皮膚や口腔接触することが意図された製品
(iv)食品や飲料に直接接触することが意図された調理および盛り付け用器具
(v)食品や飲料と直接接触する食品包装材料
(vi)再利用可能な食品および飲料容器
(vii)食品加工機器
(viii)衣類または履物
(ix)寝具・寝袋・タオル
(x)個人用の家具・マットレス等
(xi)個人用のカーペットや床材
(xii)PFAS類を意図的に放出することが意図された製品
・1ppm以上含む上記以外の成形品として、別表1に収載された物質を合計100kg超輸入した輸入者
<使用者>
・混合物や成形品の製造時に別表1に収載された物質およびそれらを1ppm以上含む混合物
を合計10g超使用した使用者(成形品を使用して他の成形品を製造・組み立てする場合は
含まない)
このように義務対象者は用途や閾値(濃度・量)、PFAS類の種類(別表1のパート1~3)等によって細かく区分けされています。米国ではこのような区別はありませんでした。
また、米国の場合は2011年~2022年と10年以上の期間での実績が対象でしたが、カナ
ダでは直近の2023年のみの実績が対象となっており、米国とは異なる内容となっています。
3.対象となるPFAS類
報告対象となるPFAS類は本通知の別表1に312物質が収載されています。
米国の場合は、PFAS類を化学構造で指定され、また参考リストでも1,400超の物質が示されていました。そのため、カナダは米国よりも報告対象PFAS類の範囲は狭くなっていると言えます。
4.報告項目と期間
報告では主に次のような項目が求められます。
・企業情報(企業名や住所、事業者番号等)
・施設情報(製造・使用を行っている施設名や住所、環境への放出有無等)
・製造・輸入・使用されたPFAS類の情報(量、用途・機能、成形品中の濃度、可能な場合は分子量分布や構造式等)
・成形品の情報(成形品の名称や概要説明)
これらの情報を所定のExcelファイルに記載し、各企業が1ファイルを所定の申請窓口から原則2025年1月29日までに提出しなければなりません。なお、通知には記載されていませんが、ガイダンスでは、報告義務要件に該当しない企業には「非関与宣言書(Declaration of Non-Engagement:DNE)」を提出するよう推奨しています。
米国は2023年10月の公布から報告期限(2025年5月または2025年11月)まである程度の情報収集のための準備期間が設けられていますが、カナダでは米国に比べ、公布から報告期限までの期間がかなり短くなっています。
5.最後に
米国に続き、カナダでも類似したPFAS類の報告が求められることになりました。報告の義務者やPFAS類の範囲といった点は米国に比べると限定的になっていますが、報告期限までの期間は短く設定されているため、カナダ国内企業は急ぎ対応を進めることになるものと想定されます。また、本通知とともに公表されたガイダンスでは成形品の輸入者に対して、報告義務を履行するためには海外サプライヤから情報を入手することを強く推奨しています。
米国の報告対応に続き、今後カナダ企業の報告対応に向けたPFAS類の情報提供要請が日本企業に寄せられることが想定されます。
(井上 晋一)
1) 米国官報 PFAS類の報告・記録管理規則
2) 米国官報 PFAS類の報告・記録管理規則の提出期間の変更および技術的修正
3) カナダ官報 PFAS類の情報提供通知
4) PFAS類の情報提供通知の対応ガイダンス
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