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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

デクロランプラスとUV-328の締約国法の制定情報の調べ方~ その1 POPs条約の規制物質の特定手順と情報入手方法 ~

執筆者の写真: tkk-labtkk-lab

2025年02月12日更新

POPs条約(残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約)(*1)は、2023年11月現在で日本を含めて184か国及びEU、パレスチナが締約しています。POPs条約による規制物質は2年毎に決定されます。

POPs条約の事務局(*2)は、国際連合環境計画事務局が担当しています。

直近の2023年5月1日から12日に開催されたCOP11(第11回締約国会議)で廃絶物質(附属書A物質)として決定されたデクロランプラスやUV-328に関する日本の化審法の改正やEUなどの各国の国内法の改正情報のお問い合わせが増えています。

締約国は、地域的や経済的などに違いがあります。このため条約では前文で、「先進国及び開発途上国の各国の能力並びに環境及び開発に関するリオ宣言(*3)の原則7に規定する共通に有しているが差異のある責任に留意し」の記述があります。


このため、エッセンシャルユースの内容やその期間に差異があることになります。POPs条約のCOPの決定内容だけでは、十分でないことになります。

最近のお問い合わせが増えているデクロランプラス、UV-328の締約国法の制定情報の探し方をご紹介したいと思います。


§1.POPs条約の規制物質の特定手順

POPs条約による規制物質の特定は、締約国が附属書A(廃絶)、附属書B(制限)と附属書C(意図的でない生成)に収載する提案と附属書D(情報の要件及び選別のための基準)の情報提供をします。事務局が附属書D を確認と補足しPOPRC(Persistent Organic Pollutants Review Committee 残留性有機汚染物質検討委員会)に送付します。

POPRCでの附属書E(危険性の概要に関する情報の要件(リスクプロファイル))に関する情報の提供を締約国に求め、検討し附属書F(社会経済上の検討に関する情報(リスクマネジメント評価))をまとめて、COP(Conference of the Parties 締約国会議)に対応を勧告します。

COPはPOPRCの勧告を受けて、審議し、採択した場合は、国連から締約国に決定が通知します。締約国は通知を受領後原則1年以内に国内法を制定(公布)します

国連から締約国にCOPによる決定を通知に対して、条約第22条3項(b)で受諾できない場合は、それを国連に通知しなくてはなりません。

受諾できないとする日本のPFHxS事例があります。

PFHxSは2022年11月16日に国連事務総長からCOPによる決定通知(C.N.401.2022)(*4)が出されています。

日本は通知文書(C.N.459.2023)(*5)で条約第22条3項(b)により「日本政府は、現在(currently)締約国会議第10回会合で採択された附属書A[決定により採択]SC-10/13:ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、その塩及びPFHxS関連化合物のリストに対する改正を受諾することができない。」と通知しました。

この通知では「現在(currently)」とあるように、その後「撤回」できます。

2024年12月にPFHxSに関する化審法改正政令案の意見募集結果が告示されました。意見なしでしたが、化審法の改正は進められています。

同様に、韓国も遅れて、2024年11月6日にPFHxSについて国内法の公布し、条約第25条4項の規定により国連に通知(*6)しました。この場合は通知後90日で発効となります。


なお、POPRCの状況はPOPs条約事務局のWebページ(*7)で確認できます。

COPの開催審議内容などはPOPs条約のWebページ(*8)で確認できます。

経済産業省のWebページ(*9)で、POPRC及びCOPの状況が公開されています。


注:POPRCとは、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約(POPs条約)の検討委員会です。POPs条約への追加物質の検討や、POPsの規制対象物質に関するリスク管理評価などを実施しています。

POPRCは、アフリカ諸国、アジア・太平洋諸国、中央および東ヨーロッパ諸国、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国と西ヨーロッパおよびその他の国地域から選出された31の政府指定の専門家で構成され、毎年秋に開催されています。


§2.COPの決定

デクロランプラスとUV-328は2023年5月1日~12日にスイスのジュネーブで開催されたCOP11で採択されました。Webページのタグ「決定」のなかのデクロランプラスやUV-328の文書にエッセンシャルユースなどが記載されています。

COPは「作業文書」で経緯やPOPRCの勧告が確認できます。


2.1 デクロラン・プラスの決定内容(*10)

デクロラン・プラスの決定(採択)内容は以下です。

(1)対象物質

・CAS RN® 13560-89-9

・CAS RN® 135821-03-3 (幾何異性体 syn-isomer)

・CAS RN® 13582-74-8  (幾何異性体 anti-isomer)

(2)特定の免除

(i)製造 なし

(ii)使用要件

 Part XIによる:

- 航空宇宙

- 宇宙および防衛用途

- 医療用画像及び放射線治療装置及び設備

- Part XIの第 2 項及び第 3 項の規定に従った用途の成形品の交換部品及び修理

(iii) Part XIの内容

デクロランプラス

A.デクロラン・プラスの使用は、第4条に従って事務局に使用の意向を通知した締約国を除き、廃止する。

B.成形品の交換部品及び修理のためのデクロランプラスの使用に関する特定の免除は、デクロランプラスが成形品の製造に元々使用されていた場合に適用されるものとし、成形品の耐用年数の終了又は 2044 年のいずれか早い方まで、以下の用途に限定して使用できるものとする。

(a) 航空宇宙(航空機エンジンファンケースのラビングストリップ製品(注)、空隙充填・エッジシーリング製品、 航空機エンジン製造修理、電気製品、構造パネル、航空機キャビン内装など);

注:engine fan case rub strip products:ケーブルが振動するような所に使用

(b) 宇宙(人工衛星、探査機、その他の探査機器、有人キャビン、実験室、ロケットモーター用断熱材、地上支援機器など);

(c)防衛(艦艇、ミサイル、発射台、兵器、通信機器、レーダー、ライダーシステム、支援機器など);

(d) 自動車(自動車、オートバイ、農業用車両、建設用車両、産業用トラックなどの陸上車両全般;)

(e) 定置式産業機械(タワークレーン、コンクリートプラント、油圧破砕機など;

(f) 海洋、園芸、林業、屋外用動力機器

(g) 分析、測定、制御、監視、試験、生産、検査用機器


C.成形品の交換部品及び修理のためのデクロランプラスの使用のための特定の除外は、デクロランプラスがそれらの成形品の製造に元々使用されていた場合に適用され、遅くとも 2041 年までに 締約国会議で検討されることを条件として、それらの成形品の耐用年数の終了まで、以下の用途に 限定して利用可能である:

(a) 医療機器(超音波診断装置、磁気共鳴画像診断装置、X線画像診断装置、軟性内視鏡、放射線治療装置及び設備等);

(b) 体外診断装置(免疫測定装置、血液学分析装置、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査システム、遺伝子分析装置、臨床化学分析装置、血液凝固分析装置、尿検査装置など)。


2.2 UV-328の決定内容(*11)

(1)対象物質

CAS RN ® 25973-55-1

(2)特定の免除

(i)製造 

Part XIIの規定に基づき登録簿に記載された締約国に対して許容する。


(ii)使用要件

Part XIIによる:

-バンパーシステム、ラジエーターグリル、スポイラー、カーガーニッシュ、ルーフモジュール、ソフト/ハードトップ、トランクリッド、リアウィンドウワイパーなどの自動車部品(自動車、オートバイ、農業用車両、建設用車両、産業用トラックなど、陸上のすべての車両を対象とする)。

-自動車、エンジニアリング機械、鉄道輸送車両、大型鋼構造物用ヘビーデューティーコーティングなどの工業用コーティング用途

-採血管のメカニカルセパレーター

-偏光板のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム

-印画紙

-Part XII第 2 項及び第 3 項の規定に従う用途の成形品の交換部品


(iii)Part XIIの内容

(1)UV-328の製造及び使用は、第4条に従ってUV-328を製造及び/又は使用する意図を事務局に通知した締約国を除き、廃止されるものとする。


(2)成形品の交換部品のための UV-328 の製造及び使用のための特定の除外は、UV-328 がそれらの成形品の製造に元々使用されていた場合に適用されるものとし、成形品の耐用年数の終了または 2044 年のいずれか早い方まで、以下の用途に限定して利用可能である:

(a)自動車(自動車、オートバイ、農業用車両、建設用車両、産業用トラックなど、すべての陸上車両を対象とする);

(b) 農業、林業、建設業で使用される定置型産業機械(タワークレーン、コンクリートプラント、油圧破砕機など);

(c) 医療用途以外の分析、測定、制御、監視、試験、生産、検査用の機器(レコーダー、赤外線放射温度計、デジタルストレージオシロスコープ、放射線検査機器など)に搭載される液晶ディスプレイ。


(3)医療目的の以下の用途の成形品の交換部品のためのUV-328の使用に関する特定の適用除外は、UV-328がそれらの成形品の製造において元々使用されていた場合に適用されるものとし、遅くとも2041年までに締約国会議による審査を受けることを条件として、それらの成形品の耐用年数の終了まで使用可能である:

(a) 医療機器及び体外診断機器(超音波診断装置、軟性内視鏡、免疫測定分析装置、臨床化学分析装置、血液凝固分析装置など)の液晶ディスプレイ;

(b) 分析、測定、制御、監視、試験、生産、検査用の機器(レコーダー、赤外線放射温度計、デジタルストレージオシロスコープ、放射線検査機器など)に使用される液晶ディスプレイ


§3.委託者(国連事務総長)からの通知

 COPによる決定の通知は、POPs条約の委託者の立場の国連事務総長から、通常6か月後に締約国に書簡で通知します。

COP11で附属書A(廃絶)に決定したデクロランプラス、UV-328及びメトキシクロルの国連通知は2024年2月26日付で通知(*12)されました。

デクロランプラスとUV-328以外の国連事務総長の通知(*13)は、Webページで確認できます。

締約国はこの通知を受領してから1年以内に国内法を制定します。

このWebページを確認したところ、2025年1月23日にエチオピアからUV-328の使用の免除の追加に関する修正案が出され、2025年5月のCOPで審議が予定されています。このため、2025年2月14日までに事務局とエチオピア政府の両方に送付することが要請(*14)されています。

UV-328の特定の適用除外のリストを修正し、以下の項目を追加すべきである:

「民間機および軍用機の断熱ブランケットおよびデッキ用の水封テープ、民間機および軍用機の構造、機械、内装、電気アセンブリ、緊急、推進、環境制御、飛行制御システム用のポリウレタンおよびポリアミド接着剤


変化は続いていますので、情報入手は必要です。


(松浦 徹也)


引用

*1:POPs条約

2019年改正版(仮訳)

2023年改正版(英語)

*2:POPs条約事務局

*3:リオ宣言

*4:C.N.401.2022)

*5:日本の通知文書C.N.459.2023

*6:韓国の通知文書C.N.458.2024.

*7:POPRCの状況

*8:COPの状況

*9:経済産業省のPOPRC及びCOPの状況

*10:COPのデクロラン・プラスの決定

*11:COPのUV-328の決定

*12:2024年2月26日の国連事務総長の通知

*13:国連事務総長の通知

*14:エチオピアからUV-328の使用の免除の追加に関する修正案

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