2024年07月26日更新
前回(その1)では、有害物質の呼吸器からの吸入による吸入ばく露の低減のための呼吸用保護具について概説しましたが、今回は有害性の液体あるいはその飛沫の皮膚や眼への接触による経皮ばく露の低減のための皮膚障害等防止用保護具および現在進められている安衛法関連の改正に伴い新たに導入された保護具着用管理責任者について説明します。
2. 皮膚障害等防止用保護具
2-1.特別規則によって使用が義務付けられる場合
次節に述べるように、現在進められている安衛法関連の改正の中で皮膚等障害化学物質へのばく露防止対策に関する規定が強化されましたが、こうした保護具については、今回の改正が初めてではなく、以前より特別規則による管理がなされてきました。
すなわち安衛法の下位法令である以下の2つの特別規則において、皮膚障害等防止用保護具について規定されています:
(1) 四アルキル鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第38号)…四アルキル鉛業務を指定 し、それらの各々について労働者に対し指定の皮膚障害等防止用保護具の使用を義務付けています。(第2条、第4~12条)
(2) 特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)…第44条において事業者に対し、特定化学物質で皮膚への障害、若しくは皮膚からの吸収による障害を起こす恐れのあるものの製造や取扱い業務における労働者に使用させるための皮膚障害等防止用保護具の備え付けの義務を課している他、以下の物質や作業については各々指定の皮膚障害等防止用保護具の使用義務を課しています。
・特定化学物質第1類および第2類中、計36の物質あるいは物質群(第44条)
・その他の特化物中の指定物質や関連作業等(第22条、第50条等)
2-2.皮膚等障害化学物質等に対して使用が義務付けられる場合
本年4月1日施行にて改正された労働安全衛生規則第594条の二において、有害性化学物質の新たなカテゴリーとして、「皮膚等障害化学物質等」が設定され、その製造や取扱い業務において、労働者に不浸透性保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等、適切な保護具を使用させねばならないとされました。これはリスクアセスメントの結果等によらず、指定された物質に対し、それとの直接接触を防止するために保護具使用を義務付けるものです。
但し別途法令等によって保護具を使用せねばならない業務はそれに従い、またこれら物質を密閉した状態で製造や取り扱う場合については除外されます。
「皮膚等障害化学物質等」の具体的な定義は、基発0531第9号 1)および基発 0704 第1号2) によります。
まず「皮膚等障害物質」とは、以下の2つの物質です:
(1) 皮膚刺激性有害物質…皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれのあることが明らかな物質。具体的には国が公表するGHS分類の結果および化学品の譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち、「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」および「呼吸器感作性または皮膚感作性」の何れかで区分1に分類されるもの。
(2) 皮膚吸収性有害物質…皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな物質。
具体的には国が公表するGHS分類の結果、以下のいずれかに該当する物質が含まれます。
・危険性又は有害性があると分類され、濃度基準値(前回(その1)参照)等が設定されているもので、ヒトや動物において経皮ばく露に関する情報があるもの
・経皮ばく露によりヒトや動物に発がん性(特に皮膚がん)が認められているもの
・濃度基準値等は設定されていないが、経皮ばく露による動物試験において急性毒性(経 皮)が区分1に分類されるもの
こうした基準に基づく「皮膚等障害物質」は、皮膚刺激性有害物質868物質、皮膚吸収性有害物質320物質、計1,064物質(うち124物質は双方に該当)となります。その各々には裾切値が定められ、それ以上の濃度を含むそれらの製剤(混合物)も含め、「皮膚等障害物質等」となります。なおこれらは前記の特別規則に基づいて不浸透性保護具等の使用義務が課されている85物質および物質群は特別規則に基づいた規制によることとして重複規制を避けるため、「皮膚等障害物質等」としての指定はされていません。
そして特別規則に基づくものを含め、以上をまとめた不浸透性保護具等の使用義務物質リストが公表されています。3)
なお労働安全衛生規則では、以下の場合以外の化学品の製造または取扱う業務に労働者を従事させる場合については、保護衣、保護手袋等適切な保護具の使用が努力義務とされています。(第594条の三)
・皮膚等障害化学物質等
・皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれまたは皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなもの
2-3.リスクアセスメントの結果に基づく場合
皮膚障害等防止用保護具の使用に関しては、前節に述べた法的に義務付けられる場合以外については、前回(その1)で述べた呼吸用保護具の場合と同様、「自律的管理」型の考えに沿って、危険有害性物質の取扱い作業に対するリスクアセスメントの結果に基づき判断します。
その場合のリスク低減のための具体的な措置は、有害性のより低い物質への代替、有害性物質発散源に対する工学的対策、作業手順の改善等管理的対策の順に優先して検討し、保護具の使用はこうした方法ではばく露程度が十分に低減されない場合の選択肢であることは同様です。
3. 保護具着用管理責任者
今回の法規制において、事業場の安全衛生管理体制として新たに保護具着用管理責任者が導入されました。
これは令和4年厚生労働省令第91号 4) で公表され、改正労働安全衛生規則第12条の六によって本年4月1日施行されたものです。
これは事業場毎に選任を義務付けるものですが、以下の2通りの場合があります:
(1)リスクアセスメントの結果、労働者の有害物質へのばく露低減の措置として保護具を使用させる場合
保護具着用管理責任者は、保護具の適正な選択、保護具の適正な使用、および保護具の保守管理の職務を行います。
(2)特別規則に基づく化学物質管理を行っている事業場で、作業環境測定の結果、第3管理区分と決定された場合の措置の強化を行う場合(特化則第36条の三の二第4項第三号、有機則第28条の三の二第4項第三号、鉛則第52条の三の二第4項第三号)
前回(その1)で述べた様に、特別規則(特化則、有機則、鉛則)では、リスクアセスメントの結果によるものではありませんが、作業環境測定の結果、第3管理区分とされた場所には必要な措置として有効な呼吸用保護具を使用せねばなりません。その際に保護具着用管理責任者は、その呼吸用保護具の適正な装着の確認及びその記録作成・保存、呼吸用保護具の有効かつ清潔な状態の保持、作業主任者の呼吸用保護具に関する事項について必要な指導を行うことが必要です。
同時に導入された化学物質管理者はリスクアセスメント対象物を製造あるいは取り扱う事業場において化学物質の技術的事項の管理を行いますが(同規則第12条の五)、保護具着用管理責任者は化学物質管理者と協調して上記保護具に関する職務を行います。
このように保護具着用管理責任者は専門性の高い見識を備えることの必要な職務のため、以下の6通りの何れかの要件を満たす者を選任することができますが、いずれの要件も満たす者が無い場合には保護具の管理に関する教育の修了受講者であることが必要です。 また(1)~(6)に該当する場合であってもこうした教育の受講が望ましいとされています1 ) :
(1)化学物質管理者の要件に該当する者
(2)作業環境管理専門家の要件に該当する者
(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者
(4)第1種衛生管理者免許または衛生工学衛生管理者免許を受けた者
(5)特化則、有機則、鉛則、または四アルキル鉛則の作業主任者の有資格者
(6)安全衛生推進者の講習修了者、その他安全衛生推進者等の選任に関する基準に該当する者
また保護具着用管理責任者はその業務に支障がなければ化学物質管理者等、他の職務との兼任は可能ですが、前記のように特別規則における第3管理区分に対する措置としての職務に従事する場合には、作業主任者にはその指導をせねばならない立場上、それとの兼務はできません。
なお労働安全衛生法第3章に基づく既存の安全衛生管理体制との関係では、化学物質管理者や保護具着用管理責任者は、総括安全衛生管理者等の指示の下に職務を行います。
おわりに
以上、2回にわたり労働安全衛生法における保護具の使用についての考え方を特に現在進められている関連法規の改正と絡めて説明しました。
特に現在は従来の特別規則に代表される法令遵守型規制から、リスクアセスメントを軸とした自律型規制への移行期にあるため、双方の規制が並立している状態であること、またリスクアセスメント対象物等、規制対象物質が毎年のように追加されていること等から混乱を招きやすく、判り難い状況です。
これらを業務上取扱う立場としては、まず自らの取扱い物質とそれに対する法規制、そして要求事項を洗い出し、確認、整理しつつ対応を進めていくことが肝要です。
そして使用する保護具については、以上解説した各法令条文では「有効な」、「適切な」保護具、あるいは呼吸用保護具、保護衣、保護眼鏡、保護手袋等の大雑把な種類の指定に留まり、それ以上踏み込んだ規定はしていません。すなわち具体的な保護具の仕様の選定に際しては、ばく露する化学物質の有害性の程度、作業内容や方法等に応じてなされるべきものであり、事業場毎に選任された保護具着用管理責任者を中心に検討、決定すべきものです。
以上
参考URL
(福井 徹)
コメント