2024年06月28日更新
現在、EU REACH規則において、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances(PFAS類))の制限提案の検討1)が進められており、EU域内外から多くの意見が寄せられる等、世界的に関心の高いトピックスであると言えます。
また、米国においてもTSCAに基づくPFAS類報告規則2)によって2024年11月からPFAS類を意図的に添加した製品についても、当局に所定の報告を行うことが求められています。さらに米国では様々な州においてPFAS類を含む製品に対する州法が制定・検討されているところです。
今回は米国の州の中でも、原則すべての製品を対象とした初めての州法として位置づけられ、他州へも同様の枠組みが波及しつつあるメイン州のPFAS類汚染防止法(Act To Stop Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances Pollution)を取り上げます。
1.これまでの経緯
PFAS類汚染防止法は2021年7月に制定3)され、PFAS類を意図的に添加した製品を対象に、大きくは「禁止」と「報告」の2つの義務を企業に課す内容となっています。
<禁止>
・2023年1月1日以降:住宅用カーペットやラグ、防汚や撥水等の布地処理剤
・2030年1月1日以降:現状避けられない用途(Currently Unavoidable Use :CUU)として当局が認めた製品を除く、すべての製品
<報告>
・2023年1月1日以降:製造者や製品情報、PFAS類の含有情報等を当局に報告
このように、一部の製品種については先出しで禁止した上で、その他の製品種についても報告を求めるとともに、将来的にはCUUを除き禁止する内容であるため、メイン州で流通するほぼすべての製品が対象となっています。また、報告にあたって、企業では自社製品中の意図的添加したPFAS類の種類や量を把握することが必要となる等、世界的に見てもかなり厳しい対応を求める法規制であると言えます。
その後、2023年2月に報告に基づく具体的な手続き等の下位規則案が公表されましたが、結果として2023年6月の改正4)によって報告開始時期が2年間延長され、2025年1月1日からに変更されました。
また、禁止の除外用途となるCUUについては、2024年1月から企業からの申請の受付が開始され、CUUリスト案の作成が進められていました。
2.2024年4月の大幅見直し
上記のように、報告に向けた準備やCUUの検討が進められていたのですが、そのような中、2024年4月16日に法律の大幅な改正5)が図られました。
<対象外製品の拡大>
これまでは、連邦法ですでに規制されているPFAS含有製品や中古品、包装材が本規制の対象外となっていましたが、さらに次のような製品種が新たに追加されました。
・特定の消火剤
・米食品医薬品局(FDA)によって規制されている医療機器、医薬品、製剤
・動物用製品
・公衆衛生や環境、水質検査のための製品
・航空機など米運輸省や国土安全保障省等が定める要件を満たす必要がある製品
・自動車
・船舶
・半導体およびその製造に必要な関連製品や材料
・消費者向けではない電気電子機器
・上記製品の開発や製造に直接使用する製品
<特定製品種への段階的禁止とその他製品の禁止時期の延期>
禁止に関しては、すでに、カーペットやラグ、布地処理剤については適用されていますが、今回の改正によって、次のように一部の特定製品種についても段階的禁止する時期を設定するとともに、最終的にすべての製品に適用する時期が2年延期されました。
・2023年1月1日以降:住宅用カーペットやラグ、防汚や撥水等の布地処理剤
・2026年1月1日以降:クリーニング製品、調理器具、化粧品、デンタルフロス、子供
向け製品、生理用品、繊維製品、スキーワックス、布張り家具
・2029年1月1日以降:人工芝、過酷な湿潤条件下で使用するアウトドア衣類
・2032年1月1日以降:その他の製品、ただし2040年1月1日から適用する製品を除く
・2040年1月1日以降:空調制御システムや冷凍機、冷媒・発泡剤・エアロゾル噴射剤
<CUUに限定した報告>
これまでは2025年1月1日以降、PFAS類を意図的に添加した製品について報告義務が課されていましたが、今回の改正によって、報告義務は禁止適用後にもPFAS含有が認められるCUUに限定されました。つまり、今後定められるCUUに該当し、禁止適用後も継続してPFAS含有製品を提供する場合のみ、報告が求められることになりました。
これにより、前倒しで禁止が課されている製品を除くその他の製品については、2032年以降に、「禁止に対応する」か「CUUに該当する場合に継続してPFAS類を含有するが報告に対応する」のいずれかが求められることになります。
この報告要件の緩和は、これまでPFAS類の含有情報を早期に把握することが求められていた企業にとっては、対応に余裕ができたと言えます。やはり、従来の報告義務への対応は企業にとっても、当局にとっても多大な労力がかかる内容であったことから、今回の改正は法律の本来の目的は維持しつつも、労力の軽減を図る意図があったものと考えられます。
3.最後に
メイン州から始まった原則すべての製品を対象とした段階的禁止および報告を定めた規制は、ミネソタ州6)等の他の州にも拡大しつつあります。また、4月18日に米国連邦政府においても「2024年 永遠の化学物質規制および説明責任法(Forever Chemical Regulation and Accountability Act of 2024)」が提案7)されました。
EUのREACH規則や米国において、製品中のPFAS類の含有について規制化が進められているところです。ただし、幅広い用途で利用されているPFAS類をすべての用途で禁止することは困難であるため、エッセンシャルユースやCUU等の除外用途が設けられることが一般的です。
REACH規則では現在制限条件等の検討が進められていますし、メイン州でも2025年にはCUUの検討が開始される予定となっていますので、そのあたりの動向も注目されるところです。
(井上 晋一)
1) EU PFAS類の制限検討
2) 米国 PFAS報告規則
3) 米メイン州 PFAS類汚染防止法
4) 米メイン州 PFAS類汚染防止法(2023年改正)
5) 米メイン州 PFAS類汚染防止法(2024年改正)
6) 米ミネソタ州 PFAS類の含有や使用を禁止する規制
7) 米連邦議会 2024年 永遠の化学物質規制および説明責任法案
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