当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EU 高懸念物質候補リスト(CLS)へ8物質追加

2021年07月24日更新

欧州化学物質庁(ECHA)は2021年7月8日付で、新たに8つの物質を高懸念物質候補リスト(Candidate List of Substances of very high concern:CLS)に追加することを公表しました*1。 これによりCLS掲載物質数は全部で219物質となりました。

追加された物質は以下の8物質です。

1)2-(4-tert-ブチルベンジル)プロピオンアルデヒドとその個々の立体異性体

(EC:-)(CAS:-)(生殖毒性:Article 57 c)

主な用途:洗浄剤、化粧品、香料入りの製品、ポリッシュ、ワックスブレンド


2)オルトホウ酸ナトリウム塩(EC:237-560-2)(CAS:13840-56-7)

(生殖毒性:Article 57 c)

主な用途:溶剤および腐食防止剤(REACH未登録)


3)2,2-ビス(ブロモメチル)プロパン1,3-ジオール(BMP)

(EC:221-967-7)(CAS:3296-90-0)(発がん性:Article 57a)

主な用途:ポリマー樹脂製造および1成分フォーム(OCPF)

2,2-ジメチルプロパン-1-オール、トリブロモ誘導体/ 3-ブロモ-2,2-ビス(ブロモメチル)-1-プロパノール(TBNPA)

(EC:253-057-0)(CAS:36483-57-5)(発がん性:Article 57a)

主な用途:プラスチック製品のポリマー製造およびその中間体

2,3-ジブロモ-1-プロパノール(2,3-DBPA)

(EC:202-480-9)(CAS:96-13-9)(発がん性:Article 57a)

主な用途:中間体として登録


4)グルタル(EC:203-856-5)(CAS:111-30-8)(呼吸感作性:Article 57f)

主な用途:殺生物剤、皮革なめし、X線フィルム処理、化粧品


5)中鎖塩素化パラフィン(MCCP)(炭素鎖長がC14からC17の範囲内の線状クロロアルカンが80%以上からなるUVCB物質)(EC:-)(CAS:-)

(PBT:Article 57d)(vPvB:Article 57e)

主な用途:難燃剤、プラスチック、シーラント、ゴム、繊維の可塑化添加剤


6)フェノールアルキル化生成物(主にパラ位)(オリゴマー化からのC12に富む分岐アルキル鎖を有する)、任意の個々の異性体および/またはそれらの組み合わせ(PDDP)を含む (EC:-)(CAS:-)(生殖毒性:Article 57 c)(内分泌かく乱性:Article 57 f)

主な用途:潤滑油添加剤および燃料システムクリーナーの調製


7)1,4-ジオキサン(EC:204-661-8)(CAS:123-91-1)(発がん性:Article 57a)

(環境に深刻な影響を与える可能性のある物質と同等の懸念レベル(環境:Article 57f))(人間の健康に深刻な影響を与える可能性のある物質と同等の懸念レベル(人の健康:article 57f))

主な用途:溶媒


8)4,4 '-(1-メチルプロピリデン)ビスフェノール(EC:201-025-1)(CAS:77-40-7)

(内分泌かく乱性:Article 57 f人の健康と環境)

主な用途:フェノール樹脂およびポリカーボネート樹脂の製造(REACH未登録)


1.CLS掲載物質取扱者の義務

CLS掲載物質は、人や環境に悪影響を与える懸念が非常に高い物質であり、REACH Article 57に(a)発がん性区分1,2、(b)変異原性区分1,2、(c)生殖毒性区分1,2、(d)附属書ⅩⅢにある難分解性、生体蓄積性、毒性(PBT)、(e)附属書ⅩⅢにある極めて難分解性かつ高い生体蓄積性(vPvB)、または(f)内分泌かく乱性を有するか上記(a)~(e)に直接該当しないが同等の人又は環境に対する影響が懸念される物質が挙げられています。

これらの物質は将来REACH規則の認可物質に指定される可能性があります。 したがってCLS掲載後に引き続きこの物質を取り扱う企業はECHAに通知する必要が有ります(REACH規則Article 7(2))。 また、顧客が安全に物質を取り扱える情報を提供する必要が有ります。 情報の提供方法としては、安全データシート(SDS)の提供(Article 31(1),(3))、安全使用情報の伝達義務および顧客要求に対応する義務(REACH規則Article 33)があります。


すでにご存じの方も多いと思いますが、以下にCLS掲載物質に関する義務を整理しておきます。


1)対象

CLS掲載物質が0.1 %w/wを越える濃度で含まれる物質が対象です。 したがって物質そのものや混合物だけではなく成形品も対象となります。


2)物質又は混合物取扱者の義務

(1)EU域内の物質又は混合物のサプライヤーは、顧客に安全データシート(SDS)を提供する必要が有ります。

サプライヤーはREACH規則 Article 31 (9)aにより、CLS掲載物質になった事実をSDSの15.規制情報に反映する必要があります。

(2)物質がPBTまたはvPvBに分類される場合には、製造者および輸入者は遅くとも物質がCLSに掲載されるまでに自社サイトのCSRに情報を掲載することにより、下流使用者が人と環境へのばく露と排出を最小限に抑えるための推奨対策を取れるようにする必要があります。 また、下流使用者はその情報を用いてリスクを適切に制御する対策を取る必要があります。


3)成形品取扱者の義務

(1)REACH規則(Article 7)にしたがい、EU域内の成形品生産者又は輸入者は、上記対象物中の掲載物質総量が年間1トン以上となる場合には、物質がリストに掲載された日から6カ月以内にECHAに通知する必要があります。 ただし、物質がその用途で既に登録されていて使用中および廃棄された場合に人や環境にばく露されない場合には、通知の必要はありません。 そのような場合でも生産者又は輸入者は成形品の受領者に適切な取扱い情報を提供する必要があります。

(2)廃棄物フレームワーク指令(Waste Framework Directive: WFD)にしたがい、EU域内の対象成形品サプライヤーは、その情報をECHAに提出する必要が有ります。 ECHAは提出された情報をSCIPデータベース*2で公開することにより廃棄物処理業者と消費者に確実に情報が伝わるようにします。

(3)EU域内の対象成形品サプライヤーは、顧客が対象物を安全に使用するに必要な情報を提供する義務がありますが、加えて消費者から要求があった場合には、45日以内にその情報を提供する必要があります。


2.まとめ

CLSへの新規掲載は半年毎(6~7月と12~1月)に行われます。 新規掲載に向けてECHAが検討対象としている物質の情報はRegistry of SVHC intentions until outcome*3で確認することができます。同サイトには2021年7月2日現在237物質が掲載されています。 この中には、現在進行中の物質として、欧州委員会の決定待ちのものが1件、現在評価中のものが5件挙げられています。 また、既に検討が完了して評価の結果SVHCに該当しないと結論付けられたもの、提案が取り下げられたもの、SVHCとして特定されてCLSに収載済となった物質も含まれています。


(杉浦 順)


*1 Candidate List updated with eight hazardous chemicals

https://echa.europa.eu/-/candidate-list-updated-with-eight-hazardous-chemicals


*2 SCIPデータベース

https://echa.europa.eu/-/updated-candidate-list-package-available


*3 Registry of SVHC intentions until outcome

https://echa.europa.eu/registry-of-svhc-intentions

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