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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

Prop65の警告表示“Short-Form”の改定動向

2021年08月21日更新

1.Prop65とは

アメリカで最も有名な法規制は、連邦法のTSCA(有害物質規制法)とカリフォルニア州法のProp65(Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986)(*1)と思います。

Prop65はOEHHA(the Office of Environmental Health Hazard Assessment カリフォルニア州環境保護庁環境健康有害性評価局)が主管しています。


Prop65の対象物質は、癌、出生異常、その他生殖への危害の原因物質で、約1,000物質が“The proposition-65 List”(*2)に収載されています。 癌を引き起こす化学物質の重大なリスクレベル(NSRL)や生殖毒性を引き起こす化学物質の最大許容線量(MADL)を含むセーフハーバーレベル(safe harbor levels)が確立されています。


NSRLは、70年間10万人がばく露しても重大なリスクを生じないレベルです。

MADLは、人がそのレベルの1,000倍にさらされたとしても観察可能な影響を持たないレベルで、NOEL(No Observed Effect Level;無影響量;動物試験等でいかなる影響も認められない最高の投与量)の1/1000で設定されます。


“The proposition-65 List”に収載されている物質を含む製品によるばく露が、NSRLやMADLのセーフハーバーレベルを大幅に下回って(significantly below levels)いない限り、第6条による警告を与えなければならないとされています。


セーフハーバーレベルが特定されていない場合は、使用できる摂取レベル(安全な使用の決定)(Safe Use Determination (SUD))(*3)を特定するために、暫定ガイダンス値またはその他の手段で計算します。


2.警告表示の義務

警告表示(第6条(明確かつ合理的な警告))は、2016年8月30日に表示内容を大幅に改正し2018年8月30日から義務化しました。


この改正後の消費者向け製品の警告表示は、“California Code of Regulations”のTitle27の§ 25603(Consumer Product Exposure Warnings - Content.)(*4)に規定されています。

発がん性物質の場合の「完全な長さ」表示は、「注意マーク」(*5)と以下を表示します。


WARNING(大文字、ボールド):“This product can expose you to chemicals including [name of one or more chemicals], which is [are] known to the State of California to cause cancer. For more information go to www.P65Warnings.ca.gov.”


記載項目の少ない“Short-Form”も用意されていて、「注意マーク」と以下を表示します。

WARNING(大文字、ボールド):Cancer - www.P65Warnings.ca.gov.

“Short-Form”は、化学物質名の記載が要求されていません。


3.改定案の概要

2021年1月8日に消費者向け製品の“Short-Form”の改定案(*6)とその理由書(*7)が発行されました。


3.1 Short-Formの使用要件の改定

警告表示の主な目的は、消費者にばく露される化学物質についてのより具体的な情報を提供し、さらにそれらの懸念について、新たに構築されたOEHHAの警告ウェブサイトにそれらを指摘することです。 また、製品ラベルに“Short-Form”警告を提供するオプションも含めました。

“Short-Form”の使用要件は、小さな製品への貼付を意図していましたが、大きな製品への貼付を明確に禁止していませんでした。 このため、冷蔵庫や洗濯機などの大きな製品にも“Short-Form”が多用される結果になり、OEHHAの目的である「ばく露される化学物質についてのより具体的な情報」の提供に不十分との認識が生まれました。

理由書では、OEHHAは、「“Short-Form”警告でラベル表示された広範囲の消費者製品からのばく露に関して、公衆から頻繁に問い合わせを受ける。

2019年12月から2020年12月までの間にプロポジション65の警告に関連したOEHHAへの公的問い合わせの非公式集計では、消費者の問い合わせのほぼ70%が特定の製品についてより多くの情報を要求し、消費者の問い合わせの少なくとも18%が“Short-Form”の消費者製品ばく露警告に関する情報の要求を含んでいた。」としています。


問い合わせの事例が紹介されています。

一例として、現行のCOVID-19緊急時に、OEHHAは、消費者が家庭用のフェイスマスクにフィルターを使用していたため、HEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)真空フィルターに提供された“Short-Form”警告に関して、市民から複数の問い合わせを受けている。

消費者は、事業者が警告を提供している化学物質に関する情報を希望し、製品を使用するかどうかの情報を得た決定をすることができた。


HEPAフィルターは一般的には、家庭で加工して使用することは少ないのですが、パンデミックのような場合には、思いもかけない使用がされることを示唆しています。

リスク評価の難しさを感じる状況です。


例示のように消費者は、ばく露される可能性のある化学物質の名称を知りたいと望んでいます。 このような状況を踏まえて、改正案では、消費者製品で“Short-Form”警告の使用を可能にする3つの条件を指定しました。

すなわち、“Short-Form”警告は、次の場合にのみ使用できます。


(A)ラベリングに利用できる製品の総表面積が5平方インチ以下である。

参考:普通名刺は2.17×3.54インチで、7.7平方インチです。

(B)パッケージの形状またはサイズが、「完全な長さ」の警告コンテンツに対応できない。

(C)警告全体は、製品の他の消費者情報に使用される最大の文字サイズ以上の文字サイズで印刷しなければならなく、文字サイズは6ポイント以上にしなければならない。

 

3.2 “Short-Form”の記載内容の改定

この背景から、「注意マーク」と表記内容が以下のようになりました。

WARNING: Cancer Risk From Formaldehyde and Reproductive Risk From Toluene Exposure - www.P65Warnings.ca.gov.

上記例のように物質名のFormaldehydeとTolueneの記載が追加されました。


カタログやインターネットの商品紹介では、“Short-Form”の使用が認められなくなりました。 消費者にばく露される化学物質についての、より具体的な情報を提供することが目的であることを、改めて明確に要求しています。


なお、準備期間として公布後1年で発効させるとしており、前回の改正より短くなっています。


4.パブコメの結果

OEHHAは2021年1月8日に改正案を告示し、3月29日までの60日間の意見を求め、3月11日にはWebinar形式の公聴会を開催しました。


60日間のパブコメ期間に寄せられて意見は整理され公開(*8)されています。


寄せられている意見は、個人、企業や業界団体からで、意見も1行コメントから文書添付までの様々です。


意見はOEHHAの提案に賛成するものもありますが、2018年8月30日からの表示義務の大幅な変更から間もないことなどを理由に反対の意見も多く出ています。


OEHHAからその後の情報は確認できていませんが、カルフォルニア州は厳しい規制を率先して実施することで有名ですので、気になるところです。


(松浦 徹也)


引用

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閲覧数:2,458回

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