EU持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)及びエネルギーラベル規則(ELFR規則)作業計画 2025-2030年
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- 5月30日
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2025年05月30日更新
欧州委員会(European Committee:EC)(以後「委員会」)は、持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)及びエネルギーラベル規則(ELFR規則)に関する2025-2030年の優先順位付けを示す作業計画(以後「作業計画」)を採択しました。1)2)
これは本年2月17日付本コラム3) でご紹介したエコデザインフォーラム(Ecodesign Forum)(以後「フォーラム」)で本年2月に検討を行った結果を反映したもので、フォーラムの最初の成果となるものです。
なお、作業計画はESPR規則第18条第5項で、最初の作業計画を2025年4月19日までに作成することになっていたものです。
1.2025-2030年作業計画
1.1.背景と目的
作業計画は、ESPR規則及びELFR規則に基づく製品毎の委任法策定の優先順位付けと適用予定を明らかにするものです。
基本的には、従来3年毎に策定されてきたエコデザイン指令及びエネルギーラベル規則作業計画を引き継ぐもので、後述のようにESPR規則の委任法が制定されるまでは従来のエコデザイン指令の委任法が継続して有効となります。
1.2.優先順位付けの方法
優先順位付けにあたっては、エビデンスに基づく包括的で透明性の高いプロセスとするために、EU共同研究センター(Joint Research Center: JRC)による徹底した技術分析に基づき、環境への影響、市場規模・影響、関連する規制とのギャップをスコア化(JRC ranking)4) し、それにパブリックコメントとフォーラムでの協議結果を加味して決定されました。
ESPR規則では、第18条で従来の検討結果を基に最初の作業計画で検討する製品を規定していますが、新たな基準で再評価を行い最終的な優先順位付けとしています。これはESPR規則が、正当な理由を提示すればこれらの製品の一部を除外したり、新たな製品を追加したりする裁量権を欧州委員会に与えていることによるものです。
2.作業計画による優先順位
最初の作業計画には、前回のエコデザイン及びエネルギーラベルの作業計画5) から引き継いで準備された実質的な作業リストに加え、4つの最終製品、2つの中間製品、横断的要件(horizontal requirement)を定める2つの委任法が含まれています。
具体的な追加された作業リストとESPR第18条第5項で優先検討とされた製品グループの比較を表1に示します。
表1.今回の作業リストとESPR優先製品グループの比較
製品/対象物 | 作業計画2025-2030 | ESPR第18条第5項 | 備考 |
最終製品 | |||
繊維/アパレル | 2027年適用予定 | 優先対象 | 追加された 4つの最終製品 |
家具 | 2028年適用予定 | 優先対象 | |
タイヤ | 2027年適用予定 | 優先対象 | |
マットレス | 2029年適用予定 | 優先対象 | |
履物 | 2027年末までに委託調査を終了予定 | 優先対象 |
|
洗剤 | 対象外 | 優先対象 | 再調査により影響が小さく、改善効果も小さいと判断 |
塗料 | 優先対象 | ||
潤滑油 | 優先対象 | ||
情報通信技術製品(ICT製品) | 追加された横断的要件でカバー | 優先対象 |
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エネルギー関連製品 | 35製品中16製品を対象 (表2参照) | 優先対象 | 残りの19製品はErP作業計画2020-2024で検討済 |
電気開閉器 | フッ素系温室効果ガスに関する規則(EU)2024/573の動向を注視 | 対象外 |
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中間製品 | |||
鉄鋼 | 2026年適用予定 | 優先対象 | 追加された 2つの中間製品 |
アルミニウム | 2027年適用予定 | 優先対象 | |
化学物質 | 対象範囲が広く複雑なため、2025年末までに対象物質を具体的に定義 | 優先対象 | 再調査及び公開協議で影響大で効果大と評価 |
横断的要件 | |||
修理可能性 (点数化を含む) | 2027年適用予定 | 対象外 | 追加された 2つの横断的要件 |
電気・電子機器の再利用率およびリサイクル可能性 | 2029年適用予定 | 対象外 |
表2.エネルギー関連製品で作業計画2025-2030の対象となる製品
エネルギー関連製品 | 初設定/見直 | 適用予定 |
低温発生器 | 初設定 | 2026年適用予定 |
ディスプレイ | 見直し | 2027年適用予定 |
EV充電器 | 初設定 | 2028年適用予定 |
家庭用食洗機 | 見直し | 2026年適用予定 |
家庭用洗濯機、洗濯乾燥機 | 見直し | 2026年適用予定 |
業務用洗濯機器 | 初設定 | 2026年適用予定 |
業務用食洗機 | 初設定 | 2026年適用予定 |
電気モーターと可変速駆動装置 | 見直し | 2028年適用予定 |
冷蔵機器 (家庭用冷凍冷蔵庫を含む) | 見直し | 2028年適用予定 |
販売機能付き冷蔵機器 | 見直し | 2028年適用予定 |
光源と(エコデザインの場合のみ)独立した制御機器 | 見直し | 2029年適用予定 |
溶接機 | 見直し | 2030年末適用予定 |
携帯電話とタブレット | 見直し | 2030年末適用予定 |
局所空間ヒーター | 見直し | ラベル:2026年適用予定エコデザイン:2030年中適用予定 |
回転式乾燥機 | 見直し | 2030年末適用予定 |
スタンバイおよびオフモードの消費電力 | 見直し | 2030年末適用予定 |
3.作業計画で明らかになったその他の検討状況
3.1.デジタル製品パスポート(DPP)の検討
委員会は、データキャリア、インフラストラクチャー、データの相互運用性に関する規則を設定するための標準化プロセスの検討を開始しました。ESPR規則第13条では2026年7月19日までに、委員会は、少なくとも固有の識別子を安全な方法で保存するデジタルレジストリを設置することが示されていますので、それまでに検討が進むと理解できます。
一方で、現行のエネルギーラベルが関連するエネルギー関連製品の標準オプションとして使用され続けることが確認されています。
その他の対象製品については、デジタル製品パスポートで情報が提供される予定ですが、製品によってはESPRラベルや、現在検討中の繊維製品ラベリング規制など、特定のEU法規に準拠したその他のラベルが貼付される場合もあるとされています。
3.2.グリーン公共調達
委員会は、作業計画で優先される製品について、最低公共調達要件を設定する範囲を、同じ製品に対する具体的なエコデザイン要件の評価とともに評価するとしています。エコデザインの要求事項を定める委任法と公共調達の要求事項を定める実施法は、2つの異なる法律ですが、欧州委員会は、両措置を共同で調査・評価し、2つの採択手続きを並行して行うとしています。
なお、エネルギーラベル付き製品については、ELFR規則とエネルギー効率指令が、公共調達とエネルギーラベルの等級を関連付ける要件をすでに規定しています。6)
3.3.売れ残り消費者製品廃棄の防止
ESPR規則第25条第1項で、2026年7月19日より、付属書VIIに記載されている売れ残り消費者製品の廃棄は禁止されるとしていますが、委員会は破棄に関する情報開示の義務化の実施から得られる知見(将来の作業計画における禁止措置の根拠となるもの)がまだ得られていないことを理由に、今回の作業計画では検討しないとしています。
4.まとめ
ESPR規則は枠組み規則であり、詳細な規制内容は委員会が製品グループ毎に委任法を制定して実施に移されます。どの製品グループから委任法を制定していくかを示す最初の作業計画が採択されました。
従来の(ErP)作業計画は3年毎に策定されており、ESPR規則第18条第3項でも作業計画は少なくとも3年間の期間を対象とし定期的に更新されるとされています。今回は最初の作業計画でもありますので、委員会への委任期限である5年までの計画とされたと推察されます。
一方で、今回の作業計画では、検討のための情報不足などを理由に当初予定にあるが盛り込まれていないものや、新規に検討を始める製品があることから、途中で修正や追加が行われる可能性がありますので、引き続き注視していく必要があると思います。
(杉浦 順)
参考文献:
1) プレスリリース“欧州委員会、EUにおける循環型および効率的な製品を促進するための計画を発表”
2) ESPR及びELFR作業計画2025-2030
3) TKKコラム“持続可能な製品のエコデザイン規則(ESPR規則)エコデザインフォーラムの動向”
4) JRC ranking
5) エコデザイン及びエネルギーラベル作業計画2022-2024
6) 市場の監視と製品のコンプライアンス規則
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