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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q604.制限物質であるNMPが0.3%以上含有している場合の規制クリア方法について

2021年07月16日更新

【質問】

REACH規則の制限物質 entry71に、NMPが指定されています。 NMPを0.3%以上含有する場合は、 SDSに「導出無影響レベル(DNEL)吸⼊ばく露では14,4 mg/m3、経⽪吸収では4,8mg / kg /⽇」とそのまま記載をすれば、entry71の規制をクリア出来るのでしょうか。

 

【回答】

溶剤として広く使用されている1-メチル-2-ピロリドン(NMP)はREACH規則附属書XVIIのエントリー#711)に制限物質として指定されています。 その内容は以下の通りで、製造業者および川下ユーザーのリスク管理の視点で制限されているという特徴があります。


1.労働者のばく露レベル、すなわち、導出無影響レベル(DNEL)が、吸入ばく露では14,4 mg/m3、経皮吸収では4,8 mg / kg /日であることを、製造業者、輸入業者、および川下ユーザーが化学物質安全性報告書(CSR)および安全性データシート(SDS)に含めていない限り、2020年5月9日以降、NMPそのもの、または、NMPを0.3%以上含む混合物を上市してはならない。


2. 製造業者および川下ユーザーは、労働者のばく露が第1項で指定されたDNELを確実に下回る、適切なリスク管理措置を講じ、適切な工程条件で作業しない限り、2020年5月9日以降、NMPそのもの、または、NMPを0.3%以上含む混合物を製造または使用してはならない。


3. 1項および2項の規定に関わらず、ワイヤーのコーティング工程での溶媒としての使用のための上市及び使用に関しては、2024年5月9日から適用する。


この制限内容は、NMPあるいはNMPを0.3%以上含有する混合物全てについて、上市や使用を制限するものではなく、労働者のばく露が、規定されたDNEL以下であるようにリスク管理措置、すなわち、リスク低減措置を実施して、製造または使用することを求めています。


ご質問のNMPを0.3%以上含有する製品を譲渡する場合には、川下ユーザーがリスク管理を行うための情報を提供する必要があります。


川下ユーザーへの情報伝達はSDSにより行われます。REACHでは第31条にSDSのへ要求事項が規定され、附属書II2)にSDSの編集に関する指針が収められています。 作成における注意事項はECHAが発行しているSDS編纂ガイド3)に詳細に説明されています。


SDSは16項目の記載の必要がありますが、このうちNMPのSDS作成における特に注意が必要な項目として下記を挙げることができます。


まず、1.2項には川下ユーザーに関連する「特定された用途」の簡単な説明と「推奨しない用途(網羅的でなくてもよい)」の理由を記載します。「特定された用途」は、化学物質安全性報告書(CSR)が要求される場合には、そのばく露シナリオと情報が一致している必要があります。


7項「取り扱いと貯蔵」にはユーザーが1.2で示した用途で使用する際の安全な取り扱い方法を示します。

8.1項「ばく露限度値」の項には、ご質問のDNELの情報(吸入ばく露では14,4 mg/m3、経皮吸収では4,8 mg / kg /日)を記載することが必要です。8.2項「ばく露管理」では1.2項で特定された用途に対して川下ユーザーがばく露限界値以下に管理するべく具体的に記述します。

15項「規制情報」には、NMPはREACHの付属書XVIIのエントリー3及び30および71に収載されていますので、その情報を記載します。また、化学物質安全性評価(CSA)を行った場合にはそのことを記載します。


前記の「化学物質安全性報告書(CSR)」に関しては、REACH第14条で年間10トン以上の製造・輸入者に下記のことを行うことが義務付けられています。


・CSAでは、化学物質の危険有害性と製造・使用する全ての段階でのばく露評価から、それらの段階のリスク評価を行い、製造・使用の各段階でリスクを抑えられる条件を明確にします。言い換えますと、今回のREACH制限の例では、労働者のばく露レベルがDNEL以下にするばく露低減措置を明確にすることになります。

・CSRは、これらのCSAを取りまとめて報告書としたものです。

・「特定された用途」のCSAを「ばく露シナリオ」として、SDSに付属書として添付します。


川下ユーザーはこれらの情報を頼りにリスク管理措置を行います。 「特定された用途」以外で使用する場合や、「ばく露シナリオ」以外の条件で使用する場合などでは、川下ユーザーはサプライヤーに使用用途、使用条件を追加することを要求するか、川下ユーザー自ら安全性評価を行う必要があります。


また、NMPのREACH制限に関するユーザー向けガイダンス4)が発行されています。参考になります。



参考リンク

1)REACH規則附属書XVIIにNMPを追加するREACHの改正


2)REACH附属書II(2020年6月18日改正)


3)SDS編纂ガイド


4)NMPのREACH制限に関するユーザー向けガイダンス

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