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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q634.【修正】高級筆記具(単色のボールペン)をEUに輸出する際のREACH規則に基づく成形品の義務について

2022年09月30日更新

【質問】

デザイン性の高い高級筆記具(単色のボールペン)をEUに輸出します。

REACH規則の成形品の義務を教えてください。 なお、インクは大手文房具メーカーのボールペンインクと同じ物を購入しています。

 

【回答】

REACH規則での成形品に関して、ECHA発行の「REACH規則における成形品中の物質に関する要求事項に関する手引書」(以下「手引書」)に解説があります1)。


手引書の2.3項に成形品の判定フローが示されています。 例4にプリンターカートリッジの例示があり、解説では、トナーは、単独でも機能しかつカートリッジの耐用期間内に消費されることから物質/混合物となり、カートリッジは、トナーを保持しかつトナーの放出制御する機能を持つ成形品となることから、全体として成形品と物質/混合物の複合体としています。


ご質問の筆記用具も同じように解釈され、成形品(ボールペンのインク以外の構成部品)と物質/混合物(インク)からなる複合体となります。 REACH規則への適合性は、以下の成形品および物質/混合物に対する要求事項について確認し対応する必要があります。


1.成形品に対する義務に関して

ボールペンの軸から香り成分などを意図的に放出している場合など成形品中に、通常および当然予見できる使用条件下で意図的に放出される物質が含まれ、その物質が1事業者あたり年間1tを超えて、その用途での登録がない場合には、登録が必要となります。


また、成形品中にCLSが0.1wt%を超えて含まれる場合には、以下の対応が必要です2)。


a. CLS届出

REACH規則7条2項により、ボールペンの軸など成形品中に、CLSが0.1wt%を超える濃度で存在し、年間に1製造者または輸入者あたり1トンを超え、REACH規則6条に基づく物質登録においてその用途が無い場合には、EU域内事業者はCLS届出の義務が発生し、EU域外企業はCLS届出を行えるように情報提供する必要があります。


b.情報伝達

REACH規則33条により、成形品中にCLSが0.1wt%を超えて含まれる場合には、CLSの製造・輸入量に関わらず次の情報伝達義務が生じます。


(i)川下事業者へ、最低限当該物質名を含み当該成形品を安全に使用するのに十分な情報を提供する。

(ii)消費者から要求があれば、最低限当該物質名を含み当該成形品を安全に使用するのに十分な情報を、消費者に要求を受けた日から45日以内に無償で提供する。


c.SCIP届出

廃棄物枠組み指令3)により、EU域内で0.1wt%以上CLSを含有する製品(成形品)を上市する事業者に対して、ECHAへの情報提供が義務付けされています。 提供方法として廃棄物枠組み指令に基づき整備されたSCIPへの登録を行います4)。EU域内の輸出先に対しSCIP届出に必要な情報の提供を行うことが必要となります。


成形品は、製造中に化学的組成よりも大きくその機能を決定する特別な形状、表面、またはデザインが与えられた製品と定義されています。 成形品中のCLSの濃度は、この定義に従った成形品ごとに算出します。 情報伝達義務の判断は0.1wt%の分母となる成形品の解釈が重要となります。 算出した結果、CLSの濃度が0.1wt%を超える場合には、情報伝達義務が生じます。 「手引書」の3.4.1項に、その伝えるべき内容が解説されています。 それぞれの部品単位で0.1wt%を超えたCLSの情報を伝達するとしています。


2.物質/混合物としての義務に関して5)

一般的にインクは混合物ですが、構成する各物質がEU域内の輸入者あたり年間1tを超える場合にはインク用途としてREACH登録されていることが必要です。 インクメーカー等により既に登録済と確認されている場合には、新たな登録は必要ありません。 インクメーカー等により登録がされていない物質がEU域内の輸入者あたり年間1tを超える場合には、新たな登録が必要となる可能性があり、輸入者等との協議が必要です。


また、REACH規則31条1項および3項に該当する場合には、流通業者や川下事業者へSDSを提供する必要があります。


該当例としては、(i)物質/混合物が、CLP規則の基準で危険有害性を有するもの、PBT、vPVB、CLSに該当するなどの場合、(ii)CLP規則の危険有害性の分類基準に該当しない混合物が、発がん性区分2などの健康有害性やPBT・vPvB・CLSに該当する物質を0.1wt%以上(非気体物)含有する場合などがあります。 なお、2021年1月1日からSDSにUFIの記載が必要となっています6)。


また、REACH規則での登録、または物質/混合物がCLP規則の対象である場合には、当該物質/混合物を最初にEU域内に供給するまでにSDSをECHAへ提供する義務があります。


なお、インクを構成する物質がCLP規則の対象である場合には、インクを組み込んだ筆記用具のラベルにCLP規則に則った表示が義務付けられています7)。 特に、2021年1月1日から一般消費者向け製品に対してUFIの登録とラベルや包装への記載が義務付けられています。


具体的な対応としては、調達先のインクメーカーに対して上記情報の提供を依頼します。その情報をもとにインクとしての適合性を確認して必要な対応を行うことになります。


以上のように、成形品および物質/混合物のそれぞれの対する要求事項を整理し、含有する成分およびその含有量に応じた情報伝達など必要な対応を行うことになります。


1) Guidance on requirements for substances in articles(version 4.0)


2) Q628.成形品にCLSが1%程度含有している場合の届出義務について


3) Waste Framework Directive


4) SCIP


5) Guidance on resistration(version4.0)


6)EUのSDSについて


7)筆記具に対するCLP規則に基づくラベル添付について

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