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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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米国およびカナダのホルムアルデヒド規制について

2021年09月17日更新

はじめに

ホルムアルデヒド(CAS RN 50-00-0)は、その水溶液であるホルマリンは消毒用に使用されていますが、接着剤、塗料、防腐剤等にも用途があります。しかし呼吸器感作性、皮膚感作性、発がん性等の有害性を有するため、様々な法規制がなされています。


カナダでは7月7日付官報で、カナダ環境省(Environment Canada)により、同国の環境政策の基本法であるカナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act:CEPA)1) に基づいて「複合木材製品からのホルムアルデヒド排出規則」(Formaldehyde Emissions from Composite Wood Products Regulations: SOR/2021-148)2) が公示されました。


これは米国の法令に整合させていることが特徴で、両国の法規制は深い関係にあります。 今回は両国のホルムアルデヒド規制について整理して、ご紹介します。


1.米国およびカナダのホルムアルデヒドへの法規制の状況(複合木材製品以外)

 

1-1.米国の法規制

ホルムアルデヒドは米国では有害物質規制法(Toxic Substances Control Act:TSCA)3) における重要新規利用規則(Significant New Use Rule:SNUR)の40CFR§721.3800に指定され、人の健康や環境に重大な影響を与える可能性のある新たな用途に使用する場合には、事前に米国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency:EPA)への報告が必要です。 この新たな用途とは、具体的には有害性伝達プログラム(Hazard communication program)で指定されるものおよび水中へ放流するものを指定しています。4)


その他、有害廃棄物の生成、輸送、処理、保管および処分を規定した資源保護回復法(Resource Conservation and Recovery Act:RCRA, United States Code Title42 §6901~)5)、水域への汚染物質の排出を規制し、水質水準の維持向上を図るための水質浄化法(Clean Water Act :CWA, United States Code Title33 §1251~)6) や大気汚染物質の排出を規制する大気浄化法(Clean Air Act:CAA, United States Code Title42 §7401~)7)といった法令の規制対象となっています。


またカリフォルニア州の飲料水への発がん性物質や生殖毒性物質の混入を規制し、これら物質へのばく露の可能性のある場合に警告を義務付ける法令であるProposition65において、ホルムアルデヒドは規制対象物質となっています。8)


1-2.カナダの法規制

カナダではホルムアルデヒドはリスク評価の結果、有害物質に指定され、そのリストに掲載されています。9)

また環境緊急規則(Environmental Emergency Regulations (SOR/2019-51))10) の対象物質に指定されています。 これは所定の濃度あるいは量以上の危険有害性物質を取扱う設備に対し、制御不能、計画外、または偶発的な放出によって引き起こされる緊急事態に対処する計画の策定や漏洩した場合の報告を義務付けたものです。

 


2.複合木材製品からのホルムアルデヒド排出規制 

ホルムアルデヒドは、安価なため、特に建材や家具等に複合木材の接着剤や塗料等の構成材料として使用されることが多く、これら製品から大気中に放出されて、その濃度によっては「シックハウス症候群」を引き起こすことが明らかになっています。 このためホルムアルデヒドは、前記の様な法令の他、近年ではそうした用途に対する法規制の整備が進められてきています。


米国およびカナダの規制は以下の様です。


2-1.米国の排出規制

米国では複合木材製品への法規制は、カリフォルニア州が先行し、これらからのホルムアルデヒドの放出量を2012年7月1日までに2段階(Phase1およびPhase2)で削減すること、またそれを裏付けるための試験は第三者認証機関によるその妥当性の認証を義務付けることを骨子とした「大気中毒性規制措置」(Airborne Toxic Control Measure to reduce formaldehyde emissions from composite wood products:ATCM)11) が2009年に施行されました。


その後米国環境保護庁(Environment Protection Agency:EPA)は、有害物質規制法(Toxic Substance Act:TSCA)の下位法令として実施規則 Code of Federal Regulations(CFR)Title40 Protection of Environment, Part770 Formaldehyde Standards for Composite Wood Products を2016年に公表しました。12)


これは2018年6月1日より米国内の複合木材製品(ただし積層製品については2024年3月22日)に対して適用され、その規制値はATCMのPhase2と同一のものです。


また第三者認証機関による認証については、上記Subpart B EPA TSCA TitleⅥ 第三者認証プログラム§770.7~8で規定されていますが、カリフォルニア州大気資源局(California Air Resource Board:CARB)との調整を図り、2016年12月12日より2019年3月22日までを移行期間とし、この期間においてCARBと第三者認証機関によりなされた認証は、EPAへ申請することによりTSCA TitleⅥに基づく認証として認められるとの措置が執られました。

  

2-2.カナダの排出規制

カナダではこれまで複合木材製品から放出されるホルムアルデヒドに対しては、2016年にカナダ規格協会による自主的基準(Formaldehyde emissions standard for composite wood products”, National Standard of Canada, CAN/CSA-O160-16)が策定されましたが、法的な拘束力はありませんでした。13)


今回公示されたカナダの排出規則は初めての法的な規制となりますが、全34条より成ります。 また併せて「ホルムアルデヒド放出試験に関する指令」(Directive concerning testing for formaldehyde emissions)14) および「ガイダンス文書:本規則に基づく複合木材製品の認証における第三者評価機関の役割」(Guidance document: The role of third party certifiers in certifying composite wood products under the Formaldehyde Emissions from Composite Wood Products Regulations)15) も公表されています。


基本的な内容は前節で述べた米国で施行中の規制内容に整合させていますが、その概要は以下の様です:


(1) 規制対象と排出規制値

本規則で規制対象とする製品として、下記の(i)~(v)、これらを組み込んだ構成部品および完成品を複合木材製品、また(i)~(iv)を複合木材パネルと定義しています。

(i)~(v)は以下に示す現在米国で施行中と同一のホルムアルデヒドの排出基準値が定められており、これを超えるホルムアルデヒドを含む複合木材製品の輸入、販売、および提供は禁止されます:

(i) ハードウッド合板      0.05ppm

(ii) パーティクルボード 0.09ppm

(iii) 中密度ファイバーボード 0.11ppm

(iv) 薄い中密度ファイバーボード 0.13ppm

(v) 積層製品 0.05ppm


構成部品や完成品については、こうした規格を満たす複合木材パネルや積層製品を組み込んだものが要求されます。


この規制は官報公示18カ月後(但し積層製品は5年後)に施行されますが、施行日以前に製造されたことを証明する文書がある製品には適用されません。


また人家に保管することを意図していないパレット、包装資材、船舶・車両等の用途向けのものは規制対象外です。 


(2) 製品の認証

前記排出基準の遵守を確保するために、本規則では複合木材パネルまたは積層製品に対しては、その製品タイプ毎に、認定試験所による試験を義務付けています。

この試験はASTM E1333、またはそれとの同等性が確保されているのであればASTM D6007の要件に従って行われますが、この試験結果は第三者認証機関によってその正当性が認証されねばなりません。また試験は第三者認証機関により指定されたサンプルに対して行われます。

複合木材パネルまたは積層製品の製造者(ここで製造者とはカナダ以外の者も対象。以下同様。)は四半期毎にこの試験を認定試験所に実施してもらうこと、またその試験サンプルを保管する義務があります。

そしてこの第三者認証機関による認証を得られた製造者はその製品の認証宣言をすることができます。これはその製品が米国のTSCA TitleⅥによる認証を得た場合にも認められることとしており、両国の認証制度には共通化が図られています。


また複合木材パネル、積層製品、構成部品、完成品の輸入者は、それらが排出基準値を満たし、認証を得たものであることを確認せねばなりません。

ここで認定試験所とは、国際標準化機構規格ISO/IEC 17025の下で、国際試験所認定協力機構相互承認協定(International Laboratory Accreditation Cooperation Mutual Recognition Arrangement:ILAC MRA)に署名している機関により認定されている等の要件を満たす試験所です。16)


また第三者認証機関とは、国際標準化機構規格ISO/IEC 17065 の下で、国際認定フォーラム相互承認協定(International Accreditation Forum Mutual Recognition Arrangement:IAF MRA)に署名、またはIAFに認められた地域認定グループの1つに加盟している等の要件を満たす機関です。17)


(3) ラベル表示

 本規則の対象となる製品の製造者または輸入者は、その販売時に製造者または輸入者名、TSCA TitleⅥあるいは本規則による第三者認証機関による認証を得ていること等をラベルによって表示せねばなりません。


またそれらを製造者または輸入者より購入した者は、そのラベルのコピーを保管し、必要に応じその情報を利用可能としておけば、その製品にラベルが貼りつけられていなくても更にそれらを他者へ販売或いは提供することができます。


ラベル表示は識別し易く、印字高さ2mm以上とし、英仏双方の言語で記載することが必要です。


(4) 記録の保管

複合木材パネル、積層製品、構成部品、完成品の製造者や輸入者は、ホルムアルデヒド排出試験の記録、試験担当者に関する情報、ロットのトレーサビリティ、製造や販売に関する情報等、本規則に定める各種情報と記録文書を維持保管せねばなりません。

これらは英語、仏語またはそれらの両方で記載されねばならず、保管期限は5年間です。

また環境省大臣や販売先へはその要請に応じて適宜提供されねばなりません。


おわりに

以上述べました様に、今回のカナダの複合木材製品からのホルムアルデヒドの排出規制は米国の法規制との共通化を図った形で制定されました。

カナダは米国と特に経済的には非常に深い関係にあり、2019年米国はカナダの輸出の73%、輸入の57%を占めていますので(The World Fact Book 18))、このことは特に両国の関係企業等にとって事業活動に必要な様々な要件が簡素化され、業界へのコスト負担の低減や競争力強化への寄与が期待されます。

今後共両国の化学物質の法規制は基本的にはこうした方向で進められていくと考えられます。


また北米大陸全体の最近の動向として、従来の北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement:NAFTA)に代わり、米国・メキシコ・カナダ間の協定(Agreement between the United States of America, the United Mexican States, and Canada:USMCA)が2020年7月1日に発効しました。19)

これは3国間の貿易の促進や公正な競争の確保を目的としていますが、環境面でも多国間環境協定の重視等の姿勢が打ち出されています。

北米大陸各国の環境政策については、今後共こうした全体的な動向と関連付けて注意していきたいと思います。


(福井 徹)


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