当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • tkk-lab

CAS 登録番号が記載されていない規制物質

化学物質の規制法は強化の傾向が続き、聞きなれない化学物質が追加されることが増えています。規制物質はどのような物質なのか、自社製品に使われてる可能性を調査する場合に頼りになるのがCAS登録番号(CAS Registry Number/CAS RN (R))です。

注:(R)は(〇にR)で商標登録マークです。


ところが、CAS RN(R)が記載されていない場合があり、戸惑うことが多々あります。今回のコラムをこのあたりを解説します。


1.CAS RN(R)とは

化学物質を特定する表記は分子式、構造図、一般名、通称名など様々です。表記はビジネスのそれぞれの場面で、わかりやすい表記がされますが、法規制の場合は、一意であり、国際的に共通であることが望まれます。


CAS RN(R)は、アメリカ化学会 (American Chemical Society, ACS) による化合物番号で、1840年以降、1億3,900万件以上の化学物質が登録されています。


EUでは、EC番号 (欧州共同体番号)が使用されています。EC番号は、EU委員会が定めた化学物質の同定番号で、EINECS番号(1971年1月1日から1981年9月18日の間に欧州共同体市場に出回っていると見なされた物質のリスト)、ELINCS番号(1981年9月18日以降に市販された新物質の指令67/548/EECに基づき通知された物質をリスト)、NLP番号(1992年4月の指令92/32/EEC改正指令67/548/EECによってポリマーの定義が変更され、以前はポリマーと考えられていた物質が規制から除外されなくなり、1981年9月18日から1993年10月31日の間に市販されていたポリマーと見做されなくなったポリマーのリスト)から構成されています。

EC インベントリ(*1)には、EC番号を有する約10万物質が収載されています。

 ECインベントリは、「名称」「EC番号」「CAS RN(R)」「説明」「分子式」で構成されています。

CAS RN(R)が記載されていない物質もあります。


2.実例

CAS RN(R)が記載されていない最近の事例としてREACH規則の制限案(*2)のSubstances in single-use nappies(使い捨ておむつ含有物質)があります。

使い捨ておむつ含有物質は、他の検討物質と異なり、「EC番号」「CAS RN(R)」が特定されていません。


詳細(*3)を確認すると、対象(Scope)として、PAHs, formaldehyde, dioxins, furans, PCBs, ...となっていますが、物質名は明確ではありません。

PDFファイルの“Restriction report”(ANNEX XV RESTRICTION REPORT PROPOSAL FOR A RESTRICTION)を確認すると物質名が記載されています。

PAHsは、benzo[c]fluorene, benz[a]anthracene, cyclopenta[c,d]pyrene,・・・となっていますが、CAS RN(R)は記載されていません。本文中にはCAS RN(R)とEC番号があります。

また、ECインベントリで“benzo[c]fluorene”を検索すると、EC番号「05-908-2」、CAS RN(R)「205-12-9」、分子式「C17H12」が確認できます。

CAS RN(R)が確認できれば、構造式や別名の“7H-Benzo[c]fluorene、Benzo[c]fluorene、3,4-Benzofluorene、NSC 89264“が確認できます。


これは、規制提案段階での関連文書で、CAS RN(R)などが確認できる事例です。

 

POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)でPFOAの関連物質が廃絶物質になりました。EUではPOPs条約をPOPs規則((EU) 2019/1021)(*4)でEU法に転換して規制します。

POPs規則では、PFOAの関連物質を附属書で以下と定義しています。

POPs条約の適用上、PFOAに分解するあらゆる物質であるPFOA関連化合物は、構造要素の1つとして炭素 原子(C)に結合する(C7F15)を有する直鎖状又は分岐状のペルフルオロヘプチル基を有するあらゆる物質(塩及びポリマーを含む)を含む。


POPs条約ではPFOA関連物質は加盟国がリストを提示することになっており、POPRC(ストックホルム条約残留性有機汚染物質検討委員会)で詳細検討します。2021年1月11日から16日(POPRC16)のオンライン会合(*5)では、2017年6月のPOPRC13のリスト案(UNEP/POPS/POPRC.13/3)(*6)に締約国から意見募集を行うことを決定しています。


POPRCの決定をうけて、具体化しますので、現時点では決まっていないことになります。

OECDでは、PFOA関連物質等のリスト(*7)を公表しており、指針になっています。


アメリカはPOPs条約には加盟していますが、批准していなく、オブザーバーの立場でEPAが参加しています。アメリカは、PFOA及びその塩、関連関連物質をTSCAのSNUR(Significant New Use/重要新規利用)の“Title 40 Chapter I Subchapter R Part 721 Subpart E § 721.10536”(*8)で 規制しています。

§ 721.10536

(b) 報告の対象となる化学物質および重要な新規用途

(i) CF3(CF2)n-COO M   M = H+ または形式的に解離することができる任意の他の基

(ii) CF3(CF2)n-CH=CH2;

(iii) CF3(CF2)n-C(=O)-X,   X = 任意の化学物質;

(iv) CF3(CF2)m-CH2-X,  X = 任意の化学物質;

(v) CF3(CF2)m-Y-X,  Y = 非S、非Nヘテロ原子、Xは任意の化学物質

ただし、5 < n < 21  6 < m < 21


他国と同様の明確な定義ですが、物質の特定を表1で物質名とCAS RN(R)がリストされています。今後の動向で表1の改定を意図しているとも思えます。


日本の化審法は、「PFOA関連物質に関するPOPs条約付属書と3省合同会合での指定案」(*9)を告示していますが、POPRCの検討待ちの状況です。


POPs条約の事例は、大元で決定されていなく、締約国の意図で、それぞれが先行的に指定しています。対象物質が数多くあり、特定しきれない事例です。

 

3.化粧品の場合

EU法規では、EC インベントリが基本となり、物質名はEC インベントリの名称になります。しかし、化学物質名は、命名ルールが数多くあります。例えば、DEHP(CAS RN(R)117-81-7)では以下です。

フタル酸ビス(2-エチルヘキシル);オクトイル;ジエチルヘキシルフタラート;ビス(2-エチルヘキシル)=フタラート;ビス(2-エチルヘキシル)フタラート;フタル酸ジ-2-エチルヘキシル;フタル酸ジ-(2-エチルヘキシル);フタル酸ジ(2-エチルヘキシル);ジオクチルフタラート;フタル酸ジエチルヘキシル;ビソフレックスDOP;1,2-ベンゼンジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル);ジ(2-エチルヘキシル)フタラート;ジオクチル


化学物質の専門家は別として、一般消費者にとっては、別名の区別がつかないことが想定されます。消費者に分かりやすい名称や名称の統一が望まれます。


代表的な消費者製品が化粧品で、その成分開示が規制されています。成分開示を前記のDEHPのような別名をそれぞれのメーカーが表示すると消費者は混乱します。


このため、化粧品ではINCI(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)名を使用します。INCI 名は、国際命名委員会(INC)による化粧品成分を特定するために国際的に認められた体系的な名前(*10)です。


ステアリン酸(INCI名 STEARIC ACID)は界面活性剤の一つでシャンプー、洗顔フォーム、クレンジング、クリームなどの化粧品に使用されています。


ステアリン酸は、REACH規則で物質登録(*11)がされています。

表示名:azelaic acid

EC番号:200-313-4

EC名:azelaic acid

CAS RN(R):57-11-4

分子式:C18H36O2

IUPAC名: azelaic acid

商品名

HYSTRENE® 9718

KORTACID 1890/1893/1895/1898 など


ECHAの情報カードで要約(*12)されています。


パラベンは化粧品、食品、医薬品には微生物による汚染を防ぐため、防腐剤が使用されることがあります。

パラベン(CAS RN(R) 99-76-3 4)は、INCI名はMethylparabenで、別名ヒドロキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸メチル、メチルパラベンです。


REACH規則の物質登録の識別(*13)は以下です。

表示名: Methyl 4-hydroxybenzoate

EC 番号:202-785-7

EC 名:Methyl 4-hydroxybenzoate

CAS RN(R):99-76-3

分子式:C8H8O3

IUPAC 名:methyl 4-hydroxybenzoate


商品名

Faracide M・Methylparaben・Microcare MHB・Paratexin M・Solbrol M

パラベンはTrade Nameの一部に使用されているだけです。


INCI名は、化粧品の成分を、製品の国の起源に関係なく、単一のラベル名によって識別されるように、消費者に透明性を提供するものです。


EU化粧品規則((EU)1223/2009)(*14)では、成分表示では、INCI名が要求されています。

 

4.まとめ

CAS RN(R)が記載されていない物質は、対象物質が数多くあり、特定しきれない事例が過半です。日本の遵法宣言は規制リストを基準としますが、REACH前文第86文節に以下の説明があります。


物質そのもの、混合物又は成形品に含まれる物質の製造・上市又は使用からの人の健康及び環境に対する高いレベルの保護を確保するために必要とされる適切なリスク管理措置を特定することは、製造者、輸入者及び川下使用者の責任であるべきである。


しかし、それが不十分と考えられる場合や、欧州共同体の法規が正当化される場合には、適切な制限が定められるべきである。


リスク管理措置は、企業が自社製品の用途などを考慮して、企業が使用制限、条件付き使用などを決めることが求められています。EUでは、法的要求を満たすのは最低限の措置と考えています。


GPSD(General Product Safety Directive 2001/95/EC 一般製品安全指令(*15))では、第1条で「消費向け製品が安全であることを保障する」ことを目的としています。

しかし、GPSDは、安全基準を明確にしていません。


EUでは、結果だけでなく“due diligence”(企業として相当の努力で対応したか)やBAT(利用可能な最良の技術)の採用も求めています。


自社製品の全成分を把握し、SDSなどで有害性を確認して、リスク管理措置を決定する必要があります。


CAS RN(R)が記載されていない場合のアプローチの一つの考え方です。

  

(松浦 徹也)


引用

*1:

https://echa.europa.eu/information-on-chemicals/ec-inventory


*2:

https://www.echa.europa.eu/restrictions-under-consideration


*3:

https://www.echa.europa.eu/web/guest/restrictions-under-consideration/-/substance-rev/59101/term


*4:

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02019R1021-20210315


*5:

https://www.meti.go.jp/press/2020/01/20210122003/20210122003.html


*6:http://chm.pops.int/TheConvention/POPsReviewCommittee/Meetings/POPRC13/MeetingDocuments/tabid/6024/Default.aspx


*7:

https://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?doclanguage=en&cote=env/jm/mono(2006)15


*8:

https://www.ecfr.gov/current/title-40/chapter-I/subchapter-R/part-721/subpart-E/section-721.10536


*9:https://www.meti.go.jp/shingikai/kagakubusshitsu/shinsa/pdf/209_01_b01.pdf


*10:

https://www.jcia.org/user/business/ingredients/namelist


*11:

https://echa.europa.eu/es/registration-dossier/-/registered-dossier/15163


*12:

https://echa.europa.eu/substance-information/-/substanceinfo/100.000.285


*13:

https://echa.europa.eu/es/registration-dossier/-/registered-dossier/14310


*14:

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/ALL/?uri=CELEX%3A32009R1223


*15:

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32001L0095

1,037回の閲覧

最新記事

すべて表示

2022年01月14日更新 2021年5月28日付の本コラムで「統合規制戦略年次報告書2021年版」*1(以下「報告書」)の内容をご紹介しました。 その中で、「グループ評価」の目的が2027年までにすべての登録物質にリスク管理または新たなデータ生成の優先順位を付けることをめざしていることをお伝えしました。 また、「グループ評価」により以前の個別評価アプローチと比較して2020年度に評価が完了した物

2022年01月07日更新 はじめに 化学品のラベリングは、それらに関する基本的な情報を効率よく伝達することによって、人の健康や環境に対するそれらの有害な影響を低減することを目的としています。 その改善に向けて、現在欧州委員会ではラベリング要件の簡素化やデジタル化に向けての新たな取組み(Chemicals-simplification and digitalization of labelling

2021年12月24日更新 欧州化学品庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(フォーラム)」では、毎年1つのテーマを選定し、多くの加盟国が参加して1年間大規模な市場調査等を実施する「REACH規則執行プロジェクト(REACH EN FORCE:REF)」が行われ、翌年末にその結果を取りまとめた報告書が公表されます。 今回は、「オンライン販売製品のREACH規則・CLP規則・殺生物性製品規則(BP