2021年11月05日更新
9月に成形品中の高懸念物質のデータベース(以降「SCIPデータベース」)の初版が公表されました。
すでに本コラムでもSCIPデータベース公表時に発表されたECHAのニュースリリースの内容を紹介しましたが、今回は「その2」としてSCIPデータべースの中身や今後の展望について紹介します。
1.検索方法
ECHAのトップページには、従来、物質検索のための「Search for chemicals」のボタンがありましたが、さらに「Search for articles」のボタンが追加されました。 これがSCIPデータベースです。
SCIPデータベースには、10月末時点で600万件を超える多くの届出情報が収載されているため、次のフィルターで検索することが可能となっています。
・製品識別子:製品名やブランド名、EANコードやISBN番号、SCIP登録番号など、最大5つの項目を入力して絞り込むことができます。
・成形品カテゴリー:日本の関税分類に相当する10桁のTARICコードを選択します。選択にあたっては、セクションI~XXIの「分類」から、上2桁の「類」、上4桁の「項」、上6桁の「号」といった具合に、階層順に選択し、最終的にはHSコードとして国際的に共通化されている上位6桁まで絞り込む仕組みとなっています。
・材料および混合物カテゴリー:セラミックやガラス、プラスチックなどのSCIP固有の2階層の材料カテゴリーや、コーティングや接着剤、はんだ、インク等の混合物カテゴリーとして、CLP規則附属書VIIIに基づく中毒センター届出(PCN)で活用されているEU製品分類システム(EuPCS)を選択することで絞り込むことができます。
・CLS:CLSの物質名、EC番号、CAS番号を入力することで絞り込むことができます。
・CLS収載理由:発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)、難分解性・蓄積性・毒性(PBT)、非常に難分解かつ非常に蓄積性(vPvB)、内分泌かく乱性等のREACH規則第57条で定められたCLS収載理由を選択することで絞り込むことができます。
2.SCIP届出ファクトシート
検索した結果表示される各成形品の情報は「SCIP届出ファクトシート」としてまとめられています。SCIP届出ファクトシートは大きく次の3つの部分で構成されています。
・ヘッダー部:画面上部に掲載される最上位の成形品の概要であり、製品名や製品識別子といった製品を特定する情報や、含有するCLSの情報、安全な使用条件へのリンク等が示されています。
・ナビゲーション部:最上位の成形品から、CLSを含有する個々の成形品までの階層構造が示されており、最下位には含有するCLSの物質名が示されます。
・成形品またはCLS情報部:ナビゲーション部で最上位の成形品を選択した場合には、製品名や製品識別子といった製品特定情報や、成形品カテゴリーやEU域内製造の有無といった分類情報と安全な使用条件が表示されます。 また、下位の成形品を選択した場合には、最上位の成形品(または複合成形品)に含まれる該当成形品の個数といった構成情報、成形品の名称、成形品カテゴリーやEU域内製造の有無といった分類情報と安全な使用条件が表示されます。 一方、最下位のCLSを選択した場合には、CLSの名称やCAS番号、CLS収載理由や含有濃度範囲、材料カテゴリーや混合物カテゴリーの情報が表示されます。
このように企業が提出したSCIP届出において必須とされている多くの項目が、誰でも自由に閲覧できるようになっています。 ただし、2020年7月に公表された資料「SCIPデータベ―スの公表と機密情報」2)で示されているとおり、サプライチェーンでの取引情報を特定できる可能性がある項目として、最上位の成形品を構成する下位の成形品の製品識別子のみ開示対象からは外されています。
3.公表後の動き
SCIPデータベースの公表後の10月6日にオンラインで開催された「より安全な化学物質に関するカンファレンス2021」3)では様々なテーマについて発表がされましたが、そのうちの1テーマとしてSCIPデータベースが取り上げられました。
ECHAによる発表資料では、短期間にも関わらず、産業界の尽力により、約5,700社、約1,109万件に上るSCIP届出情報を受領していることが示されています。 また、届出手段で見ると、「システム to システム(S2S)」が全体の79%と大半を占め、次いで「IUCLID 6」が20%の割合でした。 また、全体の約57%が「通常届出」と過半数を占めていますが、サプライチェーンでのSCIP登録番号の伝達を前提とした「簡易届出(SSN)」が約40%や「参照届出」約4%活用されているようです。
ECHAは今後の予定として、SCIP情報の届出については、企業からのフィードバックの収集や安定化を目的としたツールの軽微な開発を、SCIP情報の公開については、廃棄物処理業者からのニーズやフィードバックの収集、公開されたSCIPデータベースの軽微な改善などを挙げています。 また、企業に対しては、SCIP届出情報の正確性を高めるための見直しや変更時の更新や、公開後に検索しやすいように任意項目である「その他製品名」にブランド名やモデル名を、「その他製品識別子」に消費者等が確認しやすいEANコードやカタログ番号などを含めること等を求めています。
4.最後に
過去に実施された成形品中のCLSに関する義務の履行状況に関する調査ではサプライチェーンの情報伝達が不十分であることが示されていました。
今回新たに開始されたSCIP情報の届出義務でも、川下の成形品供給者がSCIP情報の届出を行う場合には、川上の成形品供給者からCLS情報あるいはSCIP登録番号を入手することが不可欠です。 2022年に実施される執行調査(REF-10)ではCLSの情報伝達も確認項目になっており4)、成形品中のCLSは、当局の関心が最も高いテーマの1つであると言えます。
1)ECHA SCIPデータベース
2)ECHA 資料「SCIPデータベ―スの公表と機密情報」
3)ECHA より安全な化学物質に関するカンファレンス2021
4)ECHA ニュースリリース
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