2021年11月15日更新
はじめに
化学品の分類および表示に関する世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals、以下GHS)は、世界的に統一された基準により化学品の危険有害性を分類し、それらを取扱う各関係者への情報伝達手段であるラベルやSDSの作成指針を提供することを目的としています。 これは国連による加盟各国への勧告としての位置づけで、条約の様な法的強制力はありません。 しかし世界の主要各国はこれと整合させた内容で国内法の整備を進めており、全世界の環境政策の中で非常に重要な存在となっています。
9月14日に国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe, 以下UNECE)よりその改訂第9版が公表されました。1)
今回はその改正内容を中心に概要をご紹介します。
1.GHSとその改訂
GHSは1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された地球サミットにて採択された ” Agenda21 ” 2) 第19章第27項の「SDSおよび容易に理解できるシンボルも含め、世界的に調和された危険有害性に関する分類および表示システムを可能であれば西暦 2000 年までに利用できるようにするべきである。」との指摘が契機となって整備が進められました。 2003年7月に初版が公表され、以降2年毎に社会経済的あるいは科学技術的状況の変化等によるニーズを適宜織り込んで改訂されてきました。
今回公表の改訂第9版は、2020年12月11日の国連経済社会理事会(United Nations Economic and Social Council, 以下ECOSOC)のGHS専門家委員会第10回会議において採択されたGHS第8改訂版に対する修正3)を踏まえたものです。
2.改訂第9版の主要改訂内容
前回の改訂第8版ではエアゾール、皮膚腐食性/刺激性、特定標的臓器毒性の分類基準の見直し、注意書・絵表示の追加、附属書11の追加等がなされていますが、改訂第9版では4部34章11附属書(但し附属書2は保留中)との基本構成には変更はありません。
今回の大きな改訂は、危険有害性クラスとしての爆発物(explosives)の分類のためのカテゴリーを変更したことです。
2-1.爆発物のカテゴリーおよびそれに伴う変更
GHSでは爆発性物質あるいは混合物を、「それ自体の化学反応によって周囲環境に損害を及ぼす様な温度、圧力および速度でガスを発生する能力のある固体物質または液体物質、若しくは混合物であり、火工剤はたとえガスを発生しなくても爆発物とする」と定義し、また1つ或いはそれ以上の爆発性物質或いは混合物を含む成形品を爆発性成形品としており、これは今回の改訂でも変更はありません。
爆発物は、GHSで現在計29設定されている危険有害性クラス(hazard class)のうちの1つです。
改訂第8版までは、その危険性に応じて不安定爆発物および区分1.1~1.6の計7カテゴリー
に分類されていました。
ここで区分1.1~1.6とは、国連危険物輸送勧告(United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods、以下UNRTDG。現時点最新のものは2019年に採択された改訂21版。4))の附属書・国連モデル規則にて規定されているもので、その「クラス(class)1 爆発物」において設定されている区分(division)1.1~1.6をそのままGHSの危険有害性クラスとしての爆発物におけるカテゴリーとしていました。
すなわちこれまでのGHSにおける爆発物の分類は、輸送や保管のための安全対策というUNRTDGの目的に沿ったものになっていました。
これに対し今回の改訂第9版では、爆発物の取扱い上における安全性という観点に立った分類を規定しています。
すなわち下記の様に、爆発物をカテゴリー1及び2に、カテゴリー2は更に2A、2Bおよび2Cという3つのサブカテゴリーに分類しています。またこれまで設定されていた不安定爆発物というカテゴリーは削除されました:
(1)カテゴリー1
カテゴリー1とは、爆発性物質、混合物、成形品で、
(a)区分1.1~1.6には指定されておらず、
(i)爆発物あるいは火工剤としての効果を生むために製造されているもの、または
(ii)Manual of Tests and Criteriaのテストシリーズ2による試験で明確な結果を示す物質又は混合物
*Manual of Tests and Criteria とは、UNRTDGやGHSに規定される危険物の分類や輸送用容器についての基準、試験方法や手順等の具体的な詳細を示したもので、現時点最新のものは2019年公表の改訂7版。5)
または
(b)区分指定を受けた一次包装の内容物(その内容物は爆発性成形品としての区分指定はされていない)で、
(i)一次包装状態にないもの、または
(ii)一次包装状態にあるが、それが包装材、空隙、あるいは重要な配置によって爆発を低減する効果はないもの
*一次包装とは、使用時までの爆発性の物質、混合物あるいは成形品の収納を目的とした最低水準の構成の包装状態で区分指定を受けたもの。
この様に区分1.1~1.6に指定されていない爆発物は全てカテゴリー1に分類されます。区分指定するには大きな懸念がある、あるいはそれに適した設定状況にはない爆発物については、カテゴリー1として扱うことになります。 したがってカテゴリー1の爆発物は必ずしもカテゴリー2よりも危険性が高いということではないので、この点、通常のカテゴリー分けとは基準が異なることに注意が必要です。
(2)カテゴリー2
爆発の危険性が高い順にサブカテゴリー2A、2B、2Cが設定され、UNRTDG中の国連モデル規則における区分1.1~1.6で指定される爆発物のみが含まれています。
2Aは区分1.1,1.2,1.3,1.5または1.6に指定されているもの、および区分1.4で2B、2Cに該当しないものです。
2Bおよび2Cは、区分1.4に指定されたもののうち比較的爆発危険性の低いものですが、その要件には各々、Manual of Tests and Criteriaによる試験結果や一次包装による爆発低減効果等に関する事項が規定されています。
以上の様に、今回の改訂では、物質や混合物自体の特性に基づいて爆発物としての危険有害性クラスへの指定は行われますが、カテゴリーやサブカテゴリーについては、取扱い上の危険性はそれらの包装の構成や物質・混合物の成形品への組込みにも依存することを考慮してその要件が構成されています。
こうした爆発物のカテゴリー変更に伴い、以下についてもそれに合わせた形で変更されています:
(1)カテゴリー、サブカテゴリーを決めるための判定論理(デシジョンツリー)
(2)各カテゴリー、サブカテゴリーに使用される絵表示、シンボル、注意喚起語、危険有害性情報およびそのコード、注意書きおよびそのコード。これらは附属書1および3にまとめられています。
2-2.その他の変更点
附属書1:分類およびラベルの概要はGHSの危険有害性クラス、カテゴリー、サブカテゴリーの各々に対応するGHSおよびUNRTDG・国連モデル規則における絵表示、注意喚起語、危険有害性情報およびそのコードをまとめた一覧表ですが、今回は更にUNRTDG・国連モデル規則におけるクラスや区分が示され、より判りやすく便利になりました。
また附属書9及び10は化学物質の各種試験に関するガイドラインが示されていますが、その中で引用されている多くのOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)による文書について、その後更新されたものや新たに追加されたものがあるので必要な修正がなされています。
おわりに
以上、この度改訂されたGHSについて述べましたが、冒頭で述べました様に主要各国はこの内容と整合させて国内法の整備を進めています。
しかしこれらはGHSのペースに合わせて2年毎に法改正をしている訳ではなく、後追いの形で、現時点では例えばEUのCLP規則(Regulation (EC) No 1272/2008 of the European Parliament and of the Council of 16 December 2008 on classification, labelling and packaging of substances and mixtures) 6) ではGHS改訂第7版、米国のHCS(United States Code Title29 ChapterXVII Part1910, Hazard Communication Standard:危険有害性周知基準)7) では改訂第3版、日本のJIS Z 7252:2019 8)では改訂第6版に、各々整合させた内容となっています。
しかしこれらも順次GHSの改訂内容を採り入れて改正されていくと思われますので、今後共注意していきたいと思います。
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(福井 徹)
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