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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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オンライン販売製品を対象とした市場調査結果(REF-8)

2021年12月24日更新

欧州化学品庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(フォーラム)」では、毎年1つのテーマを選定し、多くの加盟国が参加して1年間大規模な市場調査等を実施する「REACH規則執行プロジェクト(REACH EN FORCE:REF)」が行われ、翌年末にその結果を取りまとめた報告書が公表されます。

今回は、「オンライン販売製品のREACH規則・CLP規則・殺生物性製品規則(BPR)の各種要件」をテーマとしたREF-8の報告書が2021年12月8日に公表1)されましたので、その概要を紹介します。


1.REF-8の調査概要

REF-8では29加盟国が参加して2020年の1年間をかけて、オンライン販売のプラットフォームである「マーケットプレイス」やその他の「WEBショップ」等を対象にオンラインで販売されている5,730製品(物質:323製品、混合物:4,631製品、成形品:776製品)を対象に、REACH規則等の次の義務の順守状況が調査されました。


<REACH規則>

・第31条:工業用化学品(物質・混合物)における公用語の安全データシート(SDS)の提供

・第67条:制限(附属書XVIIの一部のエントリーを対象)


<CLP規則>

・第17条:危険有害性に分類される化学品における公用語によるラベル表示

・第18条:製品特定名のラベル表示

・第25条:補足情報のラベル表示

・第48条:危険有害性に分類される化学品の広告での危険有害性情報の提供


<BPR>

・第17条:殺生物性製品の承認

・第72条:殺生物性製品の広告での必須記載事項および「無毒」や「環境にやさしい」等の誤解を招く文言の記載禁止

・第89条:殺生物性製品に関する経過措置

これら義務を調査した結果、大半の製品で何らかの違反が確認され、5,000件を超える措置が公示されました。


2.義務別の調査結果

<REACH規則>

制限については、2,629製品(化学品:1,974製品、成形品:655製品)が調査され、このうちの78%(化学品:95%、成形品:25%)で違反が確認されました。 化学品の違反率が高くなっていますが、これは「はんだ中の鉛」などREACH規則附属書XVIIエントリー28~30の対象となっている「発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)の1A、1Bに分類された物質を含む一般消費者向け化学品の使用・上市制限」について調査対象製品が1,874製品と多く、またほとんどの調査対象化学品について一般消費者が購入可能な状況となっていたために違反率が99%になったのが大きな要因と言えます。

なお、エントリー28~30以外で、100製品以上が調査されたエントリーでの違反率は次のような結果となっています。

・エントリー23(プラスチック材料や宝飾品中のカドミウム):16%

・エントリー27(宝飾品中のニッケル):2%

・エントリー51(玩具・育児用品中のDEHP、DBP、BBP):14%

・エントリー52(玩具・育児用品中のDINP、DIDP、DNOP):2%

・エントリー63(宝飾品や成形品中の鉛):10%

また、SDSに関する義務については956製品が調査され、このうちの5%の製品ではSDSが提供されてなかったか、もしくは提供されていた場合でも公用語で記載されていないといった違反が確認されました。


<CLP規則>

CLP規則の第48条における化学品の広告に関する義務について、2,065製品が調査され、75%の製品で違反が確認されました。このうちの大半は広告に何らの危険有害性情報が掲載されておらず、また危険有害性情報が掲載されていても、内容が不足している等が指摘されています。また、広告中でラベルが提供されている場合であっても記載要件の不備や公用語以外の言語での提供といった違反が確認されています。


<BPR>

BPRの義務については、1,153製品が調査され、77%の製品で違反が確認されました。今回多く調査された殺生物性製品の製品タイプ別の違反率は次の通りです。

・製品タイプ1(ヒト消毒剤):43%

・製品タイプ2(ヒト・動物に直接使用しない消毒剤):39%

・製品タイプ18(殺虫剤・殺ダニ剤):21%

・製品タイプ19(忌避剤・誘引剤):79%

違反の内容としては、殺生物性製品の承認や経過措置に関する内容で42%、必須記載事項の未記載や「無毒」や「環境にやさしい」等の誤解を招く文言の記載といった広告表示に関する内容で70%の違反が確認されています。


3.違反に対する措置

これらの違反については、口頭や書面による助言や行政命令等の措置によって、販売の禁止や市場からのリコール、オンライン販売サイトからの削除といった製品販売に関する是正や、オンライン販売サイトの広告情報の修正や削除といったサイト上の表現の修正といった対応が図られています。


4.最後に

今回テーマとして取り上げられた「オンライン販売」については、2017年に実施された過去の調査2)でも高い違反率が指摘されており、また、REACH規則やCLP規則等の化学物質規制のみならず、消費者向け製品を対象とした各種規制でもマーケットプレイス等の事業者の役割の強化や市場調査の強化が図られる等、当局が注視している分野と言えます。現時点ではオンライン販売で多くの違反が確認されている状況ですが、これらの結果を踏まえ、今後はより一層取り組みが強化されるものと想定されます。このような違反事例は、他人事ではなく「他山の石」として、自社の取組に活かすことが有効であると考えます。

なお、フォーラムでは、今後も次のようなテーマをREFで取り上げることが決定しており、既に実施・準備が進められています。

・REF-9(2021年実施):日没日経過後の認可対象物質の取扱い

・REF-10(2022年実施):消費者製品(混合物および成形品)中の有害物質(REACH規則の制限やCLS、POPs規則等)

・REF-11(2023年実施):REACH規則附属書IIで定められたSDSの要件


(井上 晋一)


1)ECHA REF-8報告書


2)ECHA オンライン販売のCLP規則要件に関するパイロットプロジェクト報告書

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