top of page

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

水枠組指令に基づく優先物質の環境基準草案に関する最終意見の公表

2022年02月14日更新

水枠組指令(2000/60/EC) (以降 : WFD ) 1) の目的 (第1条) は内陸の地表水、移行水、沿岸水および地下水を保護するための枠組みを確立することとなっています。


指令の前文には以下の記載があります。

 (22) 有害物質の水への排出の漸進的な削減に貢献すること。

 (27) 本指令の最終目的として優先有害物質の除去を達成し、天然に存在する物質のバックグラウンド値に近い海洋環境での濃度達成に貢献すること。

 (40) 汚染の防止と管理に関しては、共同体の水政策は排出制限値と環境品質基準の設定により汚染源の汚染管理を行い複合的なアプローチに基づくべきこと。

(43) 優先有害物質の放出、排出または損失による汚染の停止または段階的な廃止の必要がある。欧州議会と理事会は、委員会からの提案に基づき、優先事項としての行動を検討する物質とそれらの物質による水汚染に対して採択される特定な措置に対する重要な情報源を考慮に入れ、費用対効果および比例したレベルとコントロールの組合せを特定することによりそれらの物質による水汚染に対し優先的に講ずる行動と特定された措置に合意する必要がある。

(44) 優先物質を特定する場合は、予防原則を考慮すること。


WFD本文の第2条 (用語の定義)と第16条 (水質汚染に対する戦略) の規定は以下のようになっています。

第2条 (用語の定義)

29. 「有害物質」とは「毒性」、「持続性」および「生物蓄積性」のある物質 (PBT物質)または物質グループおよび同等レベルの懸念を引起すその他の物質または物質グループ。

30. 「優先物質」とは第16条(2) に従い特定され、附属書Ⅹに収載されている物質を意味しており、これらの中には第16条(1) および(8) に従い採択される措置により第16条(3)または(6)により特定される物質に該当する「優先有害物質」が含まれています。

35 「環境品質基準」とは、人間の健康と環境を保護するために超えてはならない水、堆積物または生物相中における特定の汚染物質または汚染物質グループの濃度を意味しています。

第16条 (水質汚染対する戦略)

(1) 欧州議会と理事会は飲料水の取水に使用される水へのリスクを含む水生環境または

水生環境を介して重大なリスクを示す個々の汚染物質または汚染物質のグループによる水汚染に対する特定の措置を採用しなければなりません。

(2) 欧州委員会は水生環境に対して、または水生環境を介して重大なリスクをもたたらすものの中から選択された物質を優先物質に提案し、リストに収載しなければなりません。

(3) 上記のリストには優先有害物質も特定されています。

(4) 欧州委員会は、本指令の発効日から遅くとも4年後、およびその後少なくとも4年毎に採択された優先物質のリストを検討し、必要に応じて追加提案を提出しなければなりません。

(5) 欧州委員会は、上記の提案を作成する際には、毒性、生体毒性および環境に関する科

学委員会、加盟国、欧州議会、欧州環境機関、共同体研究プログラム、共同体が所属する国

際機関からの勧告を考慮に入れて提案を行わなければなりません。

(6) 優先物質に対しては、欧州委員会は以下の管理案を提出しなければなりません。

― 関係物質の放出量、排出量および損失の漸進的な削減。特に

― 特定有害物質の放出、排出および損失の停止または段階的な廃止。これについ

ては適切なスケジュールが含まれており、欧州議会および理事会がこれらの

提案を採択してから20年以内に実施しなければなりません。

(7) 欧州委員会は、地表水,底質または生物相中の優先物質濃度に適用可能な品質基準の提案を提出しなければなりません。

(8) 欧州委員会は、第6項および第7項に従い、該当する物質が優先物質のリストに含まれてから少なくとも2年以内に点源および環境品質基準の排出規則に関する提案を提出しなければなりません。


欧州委員会の健康、環境および緊急リスクに関する科学委員会 (Scientific Committee on Health , Environmental and Emergency Risks 以降: SCHEER) は以下の5物資についてWFDに従い提案されていた「優先物質に対する環境品質基準草案 (Draft Environmental Quality Standards : EQS) 」に対する最終意見を公表し、2021年12月23日を提出期限とするコメントを募集行っていました。


(1) 銀およびその化合物 2)

(2021年10月7日- 8日にSCHEERが最終意見として引用、CAS (RN) 7440-22-4

労働安全衛生法のラベル表示、SDS交付およびリスクアセスメント実施対象物質)

(2) ニコスルフロン (Nicosulfuron) 3)

(2021年10月7日- 8日にSCHEERが最終意見として引用、CSA (RN) 111991-09-4 農薬取締法対象製品)

(3) アセトアミプリド (Acetamiprid) 4)

(2021年11月19日にSCHEERが最終意見として引用、CAS (RN) 160430-64-8

劇物、水質汚濁防止法、船舶安全法等対象物質)、

(4) クロシアニディン (Clothianidin) 5)

(2021年11月19日にSCHEERが最終意見として引用、CAS (RN) 210880-92-5

用途 : 殺虫剤)

(5) 17-アルファエチニルエスラデオル (17 - Alpha - Ethinylestradiol (EE2) , Beta - Estradiol (E2) and Estrone (E1) ) 6)

(2021年11月19日にSCHEERが最終意見として引用、CAS (RN) 57-63-6)

 

上記5物質に対する優先物質の環境基準草案に関するSCHEERによる最終意見が公表された背景、経緯 (手順) 等の概要を以下に紹介します。


1.背景

WFD第16条は、欧州委員会に対し環境に重大なリスクをもたらす物質の中から優先物質を特定し水中、堆積物および/または生物相中の物質に対してEU環境品質基準 (EU EQS ) を設定することを要求している。

2001年にカドミウム、ヘキサクロロベンゼン、ジクロロメタン等の33物質が最初の優先物質としてリストアップされていた。(Decision 2455/2001) 更に、2008年にそれらの物質に対するEQSが設定されていた。(指令2008/105/ECまたはEQS指令、EQSD)

WSD第16条においては、欧州委員会に対し、優先物質リストを定期的にレビューすることを要求しており、欧州委員会により2011年に要求された最初のレビューにおいて追加の12物質を含んだ改正リストを採択し2013年にその結果が提出されている。

2度目のレビューの技術作業は進行中で、幾つかの優先物質の候補物質が特定されている。欧州委員会は2022年中に理事会と議会に提出するために法案を起草中である。

技術作業は、WFDの通常実行戦略 (the Common Implementation Strategy) の下で化学物質作業グループ (the Working Group (WG) Chemical) により実施中である。

個々の物質の専門家グループおよび優先物質のレビューに関するサブグループ等で構成されているWGメンバーから推薦されている専門家は可能な候補物質に対してEQS草案を導出し、コンセンサスが得られている場合もあるが、合意がなされていない場合もある。

既存の優先物質に対するEQSは現在改版中である。 

EQS導出に当たっては、技術ガイダンスドキュメント (TGD-EQS) に従ってSCHEERがレビューを実行中である。


2. 委託条項 (TERMS of REFERENCE)

環境総局 (DG Environment) は、提案されている優先物質に対するEQS草案および多数の既存優先物質の改版されたEQSに関してSCHEERに意見を求めている。

環境総局は、各物質に対する意見提出にあたり、SCHEERに以下の2項目に焦点を当てることを要求している。

(1) 利用可能情報およびTGD-EQSに照らして、EQSが正しく適切に導出されているか

(2) 健康および/または環境に関する影響の観点から最も重要なEQSが正しく特定されているか

 

WFDに基づく「優先物質のEQS基準草案」に関しては、SCHEERによってレビューされています。

たとえば、「銀およびその化合物」の場合は、決定論的手順で導き出された最大許容濃度品質基準の承認、データセットが不完全であるため確率論的なアプローチを実行しないという決定に同意する。また、決定論的アプローチによる年間品質基準の承認も行っています。

その他、塩水について十分なでデータがないことに同意し、底質の生態毒性について年間品質基準 (淡水) を承認しています。

その他、抗菌剤耐性が一式文書で取扱われていることを高く評価し、技術ガイドラインに含めることを推奨しています。

その他の4物質につきましても、引用 3) 4) 5) 6) を参照いただきSCHEERによるレビュー結果を確認いただければ幸甚です。


(担当 : 瀧山 森雄)


引用

1)


2)


3)


4)


5)


6)

閲覧数:1,035回

最新記事

すべて表示

EUの環境法の動向(その1)

2024年11月05日更新 2024年は日米欧で選挙が行われ、環境政策も多かれ少なかれ変化が見込まれます。ブリュッセル効果(The Brussels Effect: How the European Union Rules the...

Comentarios


bottom of page