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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

カナダ環境保護法と化学物質管理計画について

2022年02月25日更新

はじめに

カナダの環境政策において、化学物質管理を規定した最も基本的な法令はカナダ環境保護法です。

現在カナダでは同法の下に、全ての既存化学物質について人の健康や環境へのリスク評価を完了させるとの目標を掲げた総括的な取組みである化学物質管理計画が進められています。

その第3段階は、2016年4月以降2020年までの計画で取り組まれましたが、続く2021年より2024年までの実施要領が昨年12月に公表されました。

今回はこれまでのその動きや今後の計画についてご紹介します。


1.カナダ環境保護法とそれに基づく化学物質管理計画

カナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act、以下CEPA)1) は、1988年6月に制定されました。1999年4月に大幅な改正が行われ、現在、前文、12部、356条、および6附則の構成となっています。

その目的は、汚染防止及び人の健康や環境の保護を図ることにより、持続可能な発展に貢献することとされ、政府や化学物質の製造者、輸入者、使用者等の義務、またそれらのプロセス等について規定しています。

その政府の責務として、既存物質あるいは新規物質の有害性或いはその可能性について、また環境や人の生命や健康にリスクをもたらすのか否かを評価する様、務めねばならないと規定しています。(第2条(1)(k))

そして同法では国内物質リスト(Domestic Substance List、以下DSL)を作成、維持することが規定されています。(第66条)

これは1984~1986年にカナダ国内で年間100kg以上の製造、輸入、販売の実績のある物質をベースとして編集され、1994年5月に公表されましたが、この時点では約23,000エントリーが収載されていました。一方、カナダ国内でこうした実績のない新規物質を製造あるいは輸入する場合には届出の義務があります。(第81条)

DSLにはこうした新規物質も必要に応じて追加されてきており、現在28,000余がエントリーされていますが、一部は物質名を総称名で記した非公開部分があります。2)

そしてCEPAでは、環境大臣に対し、DSL収載物質に対して分類(カテゴライゼーション)を行い、下記(i)または(ii)の条件を満たす物質を特定することを要求しています(第73条):

(i)人に大きなばく露の可能性がある。

(ii)残留性あるいは生体蓄積性があり、人体や人以外の生物に本質的に有害である。


このためにスクリーニング評価が行われ(第74条)、その結果、この条件を満たす物質が優先物質として特定されます。


こうしたCEPAやDSLの整備を踏まえ、保健省および環境省が中心となり、これら既存物質に対して当時利用可能なそれらの危険有害性情報を基に、2006年9月まで優先順位付けが行われました。

この優先順位付けを踏まえ、約4,300物質がスクリーニング評価を必要とする優先物質と判断され、同年12月より新たな取組みとして、化学物質管理計画(Chemicals Management Plan、以下CMP)が開始されました。3)

その骨子とするところは、これら優先物質のリスク評価への取組みと共に、年間400~500件届出される新規物質への対応です。


CMPは段階的に推進され、リスク評価は幾つかの物質をまとめたバッチ毎に進められ、それらの結果は適宜HP上で公開されてきました。またその進捗状況は概ね年2回報告書が公表されると共に、毎年向う2年間のローリングプランが更新されてきています。

第1段階で962,第2段階で3,072の物質が評価されましたが、2016年4月に開始された第3段階では、その時点での残り1,558物質に対し、そのリスク評価を2020年までに完了させるとの目標が掲げられていました。


2.2021~2024年のCMP実施要領

今回公表された2021~2024年のCMP実施要領には、実施予定の活動項目、予定される成果物、タイムライン等が一覧表として示されていますが、概要は以下の様です4):


(1) 既存物質のリスク評価

優先物質として特定された物質のうち残り約330物質に対してそのリスク評価を向こう3年間で完了させるとしています。その具体的物質名は今回の公表内容には示されていませんが、2021~2022年の秋~冬に公表し、年4回更新していくとしています。

(2) 優先物質の特定  

優先物質を特定してきたこれまでの活動のレビューを通じて、対象とする物質や物質群の範囲の拡大に向けた取り組みは継続されます。

また蓄積性リスクの評価や社会的弱者への保護といった新たに生じてきた問題に関連して、優先物質を特定していく手順に対して引き続き改善を進めていくとしています。

時間経過と共に得られる新たな情報もあり、当局はこれまで1,200の既存物質を優先物質に追加してきました。今後の優先物質特定の新たな計画には、こうしたプロセスが織り込まれることになります。

(3) 有害物質のリスク管理およびその効果測定

CEPAでは有害性を特定して物質はCEPA付則1のリストに収載されますが(第90条)、環境大臣および評議会は、このリスト収載物質を含め、それらのリスク管理の必要性やその方法について必要な情報収集を行い、検討します。(第68,71,93~96条)

実施済みの有害物質のリスク管理は引き続き継続すると共に、CMPの活動の中で有害物質と判断された物質には新たなリスク管理手段を整備していくとしています。

また有害物質のリスク管理の効果は、その使用量や放出量の削減状況を指標に、年1~2回測定されます。

(4) 新規物質の評価

前記の通り、新規物質は製造、輸入に際し、事前に届出が必要ですが、年間約450の新規物質のリスク評価を継続し、必要な場合にはリスク管理を課す(年間15~25件)としています。

(5) 重要新規活動

CEPAでは、化学物質によって以下の(i)または(ii)に該当する場合、それを重要新規活動(Significant New Activity、以下SNAc)と定義しています(第80条):

(i)物質の環境への流入や放出が量的あるいは濃度的にそれ以前よりも著しく増加する。

(ii)物質の環境への流入や環境におけるばく露あるいは潜在的ばく露によってその様相や状況がそれ以前よりも著しく異なるものとなる。

DSL収載物質を使用、製造、または輸入することによりこうした状況となる場合、その者は、事前に環境大臣に所定の情報の届出を行い、人の健康や環境への潜在的リスクの評価を受け、その指示に従わねばなりません。また新規物質を使用しようとする場合も同様です。(第81条)

現在約420物質がSNAcの適用を受けていますが、今後共その規定の適用と見直しを行っていくとしています。 

(6) ナノ物質について

現在までDSL収載物質のリスク評価において、それがナノ物質形態である場合の明確な検討はなされていませんでした。

政府は、現在カナダ国内で流通しているナノ物質に対して、そのリスク評価を進め、必要に応じて適切な管理措置を確実に講じる様、活動中であると述べています。

DSL収載のナノ物質で高優先のものに対しては、スクリーニング評価を行います。2021~2024年は引き続き酸化チタンおよび酸化亜鉛の評価を行います。

また、ナノ物質のリスク評価の枠組み草案が検討され、今後意見募集が実施される予定です。

(7) 研究活動

新たな懸念を効率的かつ効果的に特定し、リスクを評価および管理するための新たなツールの開発を行います。

研究活動は、CMPの下で特定された様々な優先物質のばく露と影響をよりよく理解するために必要であるとしています。

(8) 飲料水について

カナダ保健省による飲料水プログラム(Health Canada’s Drinking Water Program)の中で、飲料水、レクリエーション用水、水の再利用に関するガイドライン、ツール、およびアドバイスを整備していきます。

このプログラムの下での活動により、人間の消費する水の保護のため、すべての州や地域、および他の政府部門での飲料水の基礎的な要件を策定していくとしています。

(9) その他

以上のCEPAに基づく実施項目の他、食品医薬品法(Food and Drugs Act)5) および同法規則(Food and Drug Regulations)6)、カナダ消費者製品安全法(Canada Consumer Product Safety Act)7)および食品医薬品法下での化粧品規則(Cosmetic Regulations)8) 、害虫駆除製品法(Pest Control Products Act) 9)に基づく取組みについても触れられています。

例えば現状、医薬品の原材料の多くはその潜在的環境リスク評価がなされていないため、食品医薬品法は医薬品の環境リスク管理が可能な様に改正し、カナダの規制制度を国際的な標準に調和させていくとしています。


おわりに

以上述べました様に、カナダではCEPAの制定を出発点として、CMPという国内に存在する全ての化学物質の人の健康や環境へのリスクを明らかにし、管理していくことを目的とした取組みが進められています。

残り約1,550物質を全て評価するとしていた第3段階ですが、概ねその目標は達成されてはいるものの、なお評価すべき物質を残しています。 これからも研究の進展に伴い、既存物質ではあっても、新たな危険有害性が明らかとなることにより、再評価の必要性が出てきたり、ナノ物質をはじめ、様々な新たな物質が開発実用化、上市されていくことは疑いのないところです。

したがって化学物質はより多様な物質を対象に、一層高度な管理レベルを目指すものとなっていくことものと思われます。


今後も個々の物質の新たなリスク評価結果の公表と共に、関連法令も必要な改正がなされていくと思われます。

特に昨年4月、CEPAは全てのカナダ国民は健康的な環境に対する権利を有することを規定し、より環境保護を強化する方向で改正することが報じられ10)、現在検討が進められていますので11)、今後の動向が注目されるところです。


参考URL


2)


3)










(福井 徹)

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