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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

カナダ 特定有害物質禁止規則2022の提案

2022年06月24日更新

2022年5月14日にカナダ環境省(Department of the Environment)は「特定有害物質禁止規則2012」(Prohibition of Certain Toxic Substances Regulations,2012)*1の改訂版として本規則案*2を公表しました。

公表から75日間のパブリックコメント募集および60日間の異議申し立てを受け付けています。

今回の改訂版は、2012年特定有害物質禁止規則(現規則)を廃止して置き換える目的で提案されています。

改訂の大きな目的は、現規則ですでに一部の例外を除いて禁止されているペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、長鎖ペルフルオルカルボン酸(LC-PFCA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、およびこれらの物質を含む製品の製造、使用、販売、輸入に加えて、デクロランプラス(DP)およびデカブロモジフェニルエタン(DBDPE)の製造、使用、販売、および輸入に制限を導入するものです。

もう一つの目的は、すでに禁止されている物質とこれらを含む製品の禁止と例外規定が1999年カナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act:CEPA)*3および現規則の本文と一覧表(スケジュール)などに分散して規定されているものを本規則案で整理して示すこと、および例外規定などの規定の不明確な部分を再定義して単純化することにより規制対象の関係者、利害関係者、および一般の人々が理解しやすくすることを目的としています。


1.DP、DBDPEに関する新たな規制について

本規則案ではDP、DBDPE、およびこれらを含む製品の製造、使用、販売、輸入を禁止すると同時に、一定条件の下で製造者および輸入者が許可証を取得した場合には最大3年間の継続使用が、または次のいずれかの免除条件を満たす場合には各々の期限まで継続使用が認められます。

・航空機エンジンファンケース摩擦ストリップ製品、およびそれらにサービスを提供する製品の使用、販売、輸入、およびファンケース摩擦ストリップを含む航空機の継続的な使用と販売(2030年12月31日まで)

・ワイヤーおよびケーブル製品を製造するためのDBDPEを含むペレットまたはフレークの使用、販売、および輸入(カナダ官報第Ⅱ部に最終規則が公表されてから5年間)

・電気電子機器(Electrical and Electronic Equipment:EEE)、車両、およびDPおよび/またはDBDPEを含む特定の部品の製造、使用、販売、および輸入(カナダ官報第Ⅱ部に最終規則が公表されてから5年間)

・EEEおよび車両にサービスを提供するための、DPおよび/またはDBDPEを含む特定の交換部品の使用、販売、および輸入(カナダ官報第Ⅱ部に最終規則が公表されてから20年間)

・免税車両およびEEEの継続的な使用および販売

・提案された規制が発効した時点で使用中または在庫にあったDPおよび/またはDBDPEを含むすべての製品の使用および販売


2.現規制対象物質の規制要件変更について

現規制で規制されているPFOS、PFOA、LC-PFCA、HBCD、PBDE、およびそれらを含む製品の製造、使用、販売、輸入を制限する目的で特定の除外規定を撤廃、および以下の活動を制限します。 ただし、提案された規制ではこれらの物質の濃度しきい値を設定し、それ以下ではそれらの存在は偶発的(混入または汚染)であると見なして禁止は適用されません。


1) PFOS、PFOおよびLC-PFCA

・フォトリソグラフィープロセスまたは写真フィルム、紙、印刷版用のフォトレジストまたは反射防止コーティングで使用するPFOS、またはPFOSを含む製品の製造、使用、販売、販売の申し出、および輸入を許可する除外規定を撤廃

・10ppm以下の濃度のPFOSを含む泡消火剤(Aqueous Film Forming Foam:AFFF)の使用を許可する除外規定を撤廃

・個人的な使用のためのPFOAおよびLC-PFCAを含む製品の輸入および使用を許可する除外規定を撤廃

・消防で使用されるPFOAおよびLC-PFCAを含むAFFFの使用、販売、または輸入を許可する除外規定を撤廃するが、引き続き以下の除外規定を設定

・すべての放出物が環境から健全な方法で封じ込められ、処分されるという条件で、消防システムをテストするためのPFOAおよびLC-PFCAを含むAFFFの使用(2025年12月31日まで)

・緊急事態における液体燃料蒸気および液体燃料火災を抑制するためのPFOAおよびLC-PFCAを含むAFFFの使用(2025年12月31日まで)

・PFOAおよびLC-PFCAを含む製品の使用、販売、販売の申し出、輸入を許可する除外規定を撤廃するが、引き続き以下の除外規定を設定

・本規則が発効した時点で使用中または在庫にあったPFOAおよびLC-PFCAを含む製品の使用および販売

・特定の半導体の使用、販売、輸入、およびそれらを含む製品の継続的な使用と販売(指定された期間)

・2016年12月23日より前に製造または輸入されたPFOAおよびLC-PFCAを含む製品の使用、販売、および販売の申し出を許可する除外規定を撤廃


なお、AFFFを含む製品中の、総濃度でPFOS 1 ppm、PFOA 1 ppm、LC-PFCA 1ppm以下の存在は偶発的であると提案されていますので、使用禁止は適用されません。


2) PBDE

・PBDEを含む製造品目の製造、使用、販売、および輸入を許可する除外規定を撤廃するが、引き続き以下の除外規定を設定

・decaBDEを含む特定の車両交換部品の使用、販売、輸入、および交換部品を含む車両の継続的な使用と販売(2036年12月31日まで)

・カナダに商品を持ち込むために使用され、妥当な時間内に原産国に空で返送されるdecaBDEを含むプラスチック輸送パレットで、パレットがカナダ国内で廃棄またはリサイクルされないことおよび所有者の連絡先情報を示すラベルが付けられている場合の輸入

・本規則が発効した時点で使用中または在庫にあったPBDEを含む製品の使用および販売

・2016年12月23日より前に製造または輸入されたdecaBDEを含む製品(製造品目ではない)の使用および販売を許可する除外規定を撤廃


なお、物質、混合物、ポリマー、または樹脂中の各PBDE同族体(デカBDE、ペンタブロモジフェニルエーテルなど)の濃度が10ppm以下の場合は偶発的であると提案されていますので、使用禁止は適用されません。

PBDE同族体が複数同時に存在する場合には、すべての同族体の総濃度が500ppm以下の場合に偶発的であると提案されています。


3) HBCD

現規則では、HBCD、およびHBCDを含む発泡ポリスチレンフォームの製造、使用、販売、販売の申し出、輸入のみが禁止されていますが、本規則では

・HBCDを含む他のすべての製品の製造、使用、販売、輸入を禁止としますが、以下の除外規定を設定

・HBCDを含む車両交換部品の使用、販売、輸入。交換部品を含む車両の継続的な使用と販売(2025年12月31日まで)

・提案された規則が発効した時点で使用中または在庫にあったHBCDを含む製品の使用および販売

・2017年1月1日より前に製造または輸入されたHBCDの使用、販売、販売の申し出を許可する除外規定を撤廃


製品中のHBCDの濃度が100ppm以下の場合は偶発的であることが提案されていますので、使用禁止は適用されません。


3.関連する規定の改正

本規則の発効に伴い、CEPAの施行を目的とした指定条項を規定する規則(指定規則)一覧表項目27は本規則に置き換えられます。

また、CEPA輸出管理リスト(Export Control List:ECL)を修正するための省令が出される予定です。新リストにはPFOSに加えて新たにPFOA、HBCD、PBDE、LC-PFCA、DP、およびDBDPEが追加されます。

CEPAセクション84に基づいて発令されたDBDPEに関する8つの省令も廃止されます。


4.まとめ

今回の改訂はCEPAの一連の見直しのひとつですが、POPsがカナダに居住する先住民族の伝統的な食料である魚や哺乳類(鯨など)に蓄積することにより北極圏の環境や先住民族にとって特に脅威となるという視点は新鮮であり、このような視点からカナダがPOPs条約に先行して規制を強化していこうという取組は今後評価されてくるものと思います。

(杉浦 順)


*1 特定有害物質禁止規則2012


*2 特定有害物質禁止規則2022


*3 1999年カナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act:CEPA)

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