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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

TSCA SNUR(第5条)とPBT(第6条)の規制の違い ~その2 第6条について~

2022年07月15日更新

アメリカの法規制に関するお問い合わせが増えています。これまで、カリフォルニア州法のProp65の質問はいただいていましたが、最近はTSCAのPBT規制に関するものが急増しています。


前回(2022年5月20日)のコラムで、TSCA第5条のSNURの解説をしました。今回は第6条のPBT物質(Persistent, Bioaccumulative, Toxic 難分解性、高蓄積性、毒性を有する物質)に関連する事項を解説します。


1.第6条(化学物質および混合物の優先順位付け、リスク評価、および規制の構成)

TSCA(*1)はCFR(the Code of Federal Regulations )“Title 15-COMMERCE AND TRADE”の“CHAPTER 53-TOXIC SUBSTANCES CONTROL ”に収載されています。第6条は§2605になります。

第6条の構成は2016年の改正で強化され、以下になっています。

(以下説明は部分的な機械翻訳による意訳によります。)


(a)規制の範囲

化学物質または混合物の製造、加工、商業的流通、使用若しくは廃棄、またはその活動の組み合わせが健康または環境を損なう不当なリスクをもたらすとEPA長官が判断した場合は以下を適用する。

(1)化学物質または混合物がリスクをもたらさないように、製造、加工、商業的流通の禁止または制限をする。

または

製造、加工、商業的流通の量を制限する。

(2)特定の使用または

指定されたレベルを超えた濃度での使用のための製造、加工、商業的流通の禁止または制限をする。

指定されたレベルを超えた濃度での使用のための製造、加工、商業的流通の量を制限する。

(3)リスクのある化学物質または混合物またはその化学物質または混合物を含有する成形品について、使用、商業的流通または廃棄にとその組み合わせに関して、明瞭で適切な警告及び指示を表示または添付する。

最低限の警告及び指示の様式及び内容はEPA長官が規定する。


(b)リスク評価

(1)リスク評価の優先度付け

(2)初期リスク評価並びにその後の高優先度及び低優先度物質の指定

(3)リスク評価の開始、指定

(4)リスク評価の手順及び期限


(c)(a)の規則の公布

(b)(4)で不当なリスクを生じると判断した場合は以下の措置を行う。:

1年以内:(a)の規則案を官報で提案する。

2年以内:(a)の最終規則を官報で告示する。

(b)(4)で特定された不当なリスクを生じさせないために、成形品について、必要な範囲で禁止またはその他の制限をする。


成形品も対象とすることが明確に記載されていることが注目されます。


(d)発効日

EPA長官は(a)に基づく規則は実行可能な限り早い発効日を指定する。


(e)ポリ塩化ビフェニル

ポリ塩化ビフェニルの廃棄のための方法 (1977年公布版と同じ)


(f)水銀

連邦政府機関による水銀(元素)の販売、流通、移送の禁止 (2016年改正で追加)


(g)免除 (2016年改正で追加)

(a)の規定の要件の免除


(h) 難分解性、生物蓄積性、および毒性(PBT)化学品(Chemicals)(2016年改正で追加)

(1)迅速措置

TSCAワークプラン(TSCA Work Plan for Chemical Assessments:2014 Update )(*2)で特定されている物質について、以下の化学物質について(a)の規則案を提案します。

(A) EPA長官が、TSCA作業計画化学物質方法文書(*3)により、

・難分解性および生物蓄積性スコアが高値または中値であると結論付ける合理的な根拠を有しており、

・金属または金属化合物ではなく、EPA長官が作業計画問題策定を完了しておらず、

・第5条に基づく検討を開始し、または2016年6月22日以前に第4条(§2603)に基づく同意契約を締結していない

(B) EPA長官によって実施されたばく露及び使用のアセスメントに基づいて、一般集団、又は潜在的にばく露された、もしくは、ばく露されやすい亜集団(幼児、児童、妊婦、労働者、高齢者等のEPA長官が特定した個人グループ)、又は環境へのばく露の可能性が高い化学物質

(2) リスク評価の不要性

EPA長官は、(1)の対象となる化学物質についてリスク評価を行う必要はない。

(3) 最終規則

EPA長官は、(1)に従って規則を提案した後18月以内に、(a)に基づく最終規則を公布しなければならない。

(4) 選択制限

EPA長官は、(1)に従って(a)に基づいて規則において公布された禁止事項及びその他の制限事項の中から選択する際に、EPA長官が化学物質によって提示されていると判断する健康又は環境への被害のリスクに対処し、実行可能な範囲で当該物質へのばく露を低減する。


2.TSCAセクション6(h)に基づく難分解性、生物蓄積性、および毒性(PBT)化学物質(*4)

PBTは下位規定のe-CFR Title 40/ Chapter I / Subchapter R / Part 751(*5)に収載されています。

§751.401 General.

§751.403 Definitions.

§751.405 DecaBDE.

§751.407 PIP (3:1).

§751.409 2,4,6-TTBP.

§751.411 PCTP.

§751.413 HCBD.

PBTは§751.405~413に規定されていますが、その前提が§751.401及び§751.403に規定されています。


§ 751.401 一般

(a) 本サブパートは、TSCAセクション6(h)、15 U.S.C 2605(h)に従って、難分解性、生物蓄積性、および毒性化学物質の商業における製造、加工、および流通に関する禁止および制限を定める。

(b) 別段の規定がない限り、本小項目の禁止および制限は、以下の活動には適用されない:

(1) 最終使用者(再販売以外の目的のために最終製品を購入または獲得した人)に、以前に販売または供給された、化学物質、または化学物質を含有するあらゆる製品または物品の商業的流通。

最終消費者の例は、もはや使用しようとしない製品を再販売する消費者、または、チャリティーに物品を寄付する消費者である。

(2) 化学物質、または化学物質を含有するあらゆる製品または成形品の廃棄、ならびに廃棄目的のための化学物質または化学物質を含有するあらゆる製品または成形品の商業における輸入、加工および流通である。

(3) あらゆる化学物質、または化学物質を含有するあらゆる製品または成形品の商業的な製造、加工、流通、および使用、研究開発のための§751.403に定義される。


研究開発(Research and Development)とは、科学的実験や分析、または廃棄方法を含む化学物質の化学的研究や分析を目的とした実験室や研究用途のみを意味するが、新製品の開発や、化学物質を含む既存の製品の改良のための研究や分析には使用しない。


§ 751.403 定義

成形品(Article)とは、以下の製造された物品をいう:

(1) 製造中に特定の形状またはデザインに成形されたもので、

(2) 最終使用時に、その形状またはデザインに機能の全部あるいは一部が依存する最終使用時の機能(end use function(s))を有するものであって、且つ、

(3) 最終使用中に化学的組成の変化がないか、あるいは成形品とは別の商業的目的を持たない組成の変化のみで、他の化学物質、混合物または成形品の最終使用時に生じる化学反応に起因するもの。ただし、流体(fluids) や粒子は、形状やデザインに関係なく成形品とはみなされない。


製品(Product)とは、化学物質、化学物質を含む混合物、または成形品ではない化学物質あるいは化学物質を含む混合物を含む物体(object)を意味する。


成形品(Article)と製品(Product)は異なる定義です。機械翻訳では、どちらも「製品・物品」と訳される多く、規制が異なる場合がありますので、注意が必要です。


最終規則(Rule)はCFRに収載されますが、最終ルール(*6)の告示では、措置の決定の経緯や趣旨などが記述されています。


3.PIP(3:1)の“No Action Assurance”(無行動保証)(*7)

PIP(3:1)の規制開始日が以下のように延長され戸惑いがありました。

OCSPP(化学安全汚染防止局)は、「2021年3月9日から、成形品に使用されるPIP (3:1)の加工および配布の禁止の対象となっており、PIP (3:1)が追加された成形品は、現在公布されているが、規則が公表されてからまでEPAに知られていなかった規則によって明らかに作成された困難に対処するために必要かつ適切であると考えている。」として、180日間(9月まで)の執行を延期(No Action Assurance)しました。

10月に2022年3月まで延長する案についてパブコメをとり、結果として2024年10月31日まで延長されました。

法規制の公布後に施行日を変更することは、理解できないところですが、(h)(4)の「実行可能な範囲で当該物質へのばく露を低減する」ことによります。


なお、2023年春にPBT 5物質は見直すとしています。


4.まとめ

TSCA 第2条(§2601)(c)(議会の意図)で、以下の規定があります。

EPA長官が本法を合理的かつ慎重に執行し、EPA長官が本法に規定されているように実施または提案するいかなる措置についても、環境的、経済的及び社会的影響を考慮することが議会の意図である。

第5条(§2604)(a)(3)Aでは、「コストまたはその他のリスク以外の要因を考慮することなく」と記述されていますが、“No Action Assurance”のように、理念では規制しきれないようです。


(松浦 徹也)


引用

*1:TSCA


*2:TSCAワークプラン


*3:TSCA作業計画化学物質方法文書 


*4:TSCAセクション6(h) 


*5:PBT 


*6:最終ルール 

2,4,6-TTBP最終規則

decaBDE最終規則

PIP(3:1) 最終規則

PCTP最終規則

HCBD最終規則


*7:無行動保証 


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