2022年12月12日更新
米国カリフォルニア州の化学物質規制としてプロポジション65(Prop 65)があります。 プロポジション65は正式にはSafe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986(1986年 安全飲料水・毒物取締法)と呼ばれ、カリフォルニア州の住民投票により63対37で承認され、1986年11月に法制化されました(*1)。 プロポジション65では、がん、先天性異常またはその他の生殖に関する害を引き起こす化学物質からカリフォルニア州の飲料水源を保護し、このような化学物質へのばく露についてカリフォルニア州民に警告を提示することを企業に対して義務付けています(*2)。 プロポジション65を施行している主管組織はカリフォルニア州環境保護局(CalEPA: California Environmental Protection Agency)の環境健康有害性評価室(OEHHA: The Office of Environmental Health Hazard Assessment)です。
プロポジション65(カリフォルニア州健康安全法 25249.8)では、がんや生殖毒性を引き起こす化学物質のリストを公表し、少なくとも年1度はリストを更新することが求められています(*3)。 このリストがプロポジション65リスト(The Proposition 65 List)(*4)と呼ばれるもので、がんや先天性欠損症、その他の生殖への害を引き起こすことが知られている天然由来および合成化学物質が1,000種以上収載されています。 そのなかには、殺虫剤、一般家庭用品、食品、薬物、染料、溶剤などに含まれる添加物や成分も含まれ、製造業や建設業で使用される物質もあれば、自動車の排気ガスなどの化学プロセスの副産物として生成される物質もあります。
プロポジション65リストへの化学物質の収載が検討される方法として以下の4つがあります。(*5)
・LC: 労働法(Labor Code)のセクション6382 (b)(1)または(d)に言及されている化学物質
・SQE: 州の認定専門家(State’s Qualifies Experts)(発がん性物質同定委員会(CIC)または発生・生殖毒性物質同定委員会(DARTIC)のいずれか)により、がんや先天性異常、その他の生殖障害を引き起こすことが明確に示されている化学物質
・AB: 権威ある団体(Authoritative Bodies)(CICおよびDARTICが指定)により、がんや先天性欠損症などの生殖障害を引き起こすと特定された化学物質(権威ある組織として、米国環境保護庁、米国食品医薬品局(FDA)、米国労働安全衛生研究所、米国保健社会福祉省国家毒性プログラム、IARCなどがあります。)
・FR: 正式なラベル付けが必要なもの(Formally Required to be Labeled)(処方薬など、米国FDAをはじめとする州または連邦政府機関により、がんや先天性欠損症、その他の生殖に関する警告を含むことを要求されているもの)
最近ではPFOA(パーフルオロオクタン酸)(CAS No. 335-67-1)は発がん性がある物質として、2022年2月25日にリストに追加されました。 プロポジション65リストはExcelファイルとしてダウンロードできますが(*4)、PFOAに着目すると、Listing Mechanism(収載方式)の欄にはABと記載されています。 ここから、PFOAのリストへの収載にあたっては、権威ある組織により特定された物質であることがわかります。 また、NSRL or MADL (µg/day) の欄は空欄です。 NSRLはno significant risk levelの略で、発がん性物質に関する影響の起きないリスクレベルを、MADLはmaximum allowable dose levelの略で、生殖毒性物質に関する最大許容量レベル(*6)のことです。 NSRLとMADLはセーフハーバーレベルと呼ばれます。 プロポジション65の企業への要求事項の1つとして警告の提示がありますが、発がん性物質がNSRLより多く、生殖毒性物質がMADLより多く含まれている製品の場合には、「明確かつ合理的な(“clear and reasonable”)」警告を提示しなければなりません。(警告文および翻訳分のサンプルがカリフォルニア州のProposition 65警告に関するサイト(*7)からダウンロードできます。) PFOAのようにセーフハーバーレベルが設定されていない物質も多くありますが、この場合でも、企業は、プロポジション65リストに収載されている化学物質のばく露量や排出量ががんや生殖に関する害に関して重大なリスクをもたらさないことを示すことができない場合には、警告の提示が求められます。
警告の方法については、消費者製品へのラベル付けだけではなく、職場での提示、集合住宅での通知の配布、新聞への掲載などの方法で行うことができます。 また、警告の義務は、化学物質がプロポジション65リストに追加されてから1年後から発生します(*8)。
なお、ばく露量および飲料水源への排出量がセーフハーバーレベル以下であれば、プロポジション65の要件は免除されます。また、従業員が10人未満の企業および政府機関についても、プロポジション65の要件が免除されますので、警告要件と飲料水源への排出の禁止が免除されます(*8)。
また、プロポジション65には、安全使用判定(SUD: Safety Usage Determination)と呼ばれる仕組みがあり、企業または業界団体からの要請により、プロポジション65リストに収載され化学物質のばく露量または排出量が警告要件または排出禁止の対象であるかどうかについてOEHHAの判断を求めることができます(*9)。 企業が自分達の製品や活動が警告要件および排出禁止の対象外であると確信しているような場合でも、SUDを利用することで、プロポジション65に遵守していることをOEHHAの判断として証明することができます。
(岡本 麻代)
引用
*1 プロポジション65について- OEHHA (ca.gov)
*2 プロポジション65 - OEHHA (ca.gov)
*3 カリフォルニア州法原文(健康安全法のセクション24000 – 26250)(ca.gov)
*4 プロポジション65リスト- OEHHA (ca.gov)
*5 プロポジション65のリストに化学物質が追加される方法 - OEHHA (ca.gov)
*6 プロポジション65 のNSRLおよびMADL - OEHHA (ca.gov)
*7 企業向け警告および翻訳のサンプル – プロポジション65警告ウェブサイト(ca.gov)
*8 企業向けよくある質問 - プロポジション65警告ウェブサイト(ca.gov)
*9 プロポジション65安全使用判定(SUDs) - OEHHA (ca.gov)
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