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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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REACH規則におけるPFAS類の制限提案

2023年03月31日更新

ストックホルム条約の廃絶対象物質にはすでにPFOS類やPFOA類が収載されており、さらに、2022年6月に開催された第10回締約国会議(COP10)では、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)類を新たに追加することが決定され、日本では化審法第一種特定化学物質への指定等の措置案が、EUではPOPs規則附属書Iへの追加案が公表され、国内法への反映に向けた手続きが進められています。


これまでは、これら各種のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS類)の規制化は個別に検討されてきましたが、欧州化学品庁(ECHA)は2月に、約10,000種もの物質を対象としたPFAS類の制限提案文書を公表したことをニュースリリース1)しました。 制限提案文書の公表が大きくニュースリリースとして取り上げられることは、あまりないため、それだけPFAS類の制限提案文書に対する当局や産業界の関心の高さが伺えます。


今回は公表されたPFAS類の制限提案2)の概要について紹介します。


1. 対象物質

対象となる物質はペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS類)であり、「少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチルまたはメチレン炭素原子(H、Cl、Br、I原子が結合していない)を含む物質」と定義されています。ただし、一部の構造要素を含む物質は除外されています。


2. 制限内容

対象となるPFAS類の製造や使用、上市を制限するとともに、次の濃度以上PFAS類を含む物質、混合物、成形品の上市が制限されています。

・個々のPFAS類の分析によって、各物質の濃度が25ppb以上(高分子PFAS類を除く)

・個々のPFAS類の分析によって、PFAS類の合計が250ppb以上(高分子PFAS類を除く)

・PFAS類(高分子PFAS類含む)が50ppm以上。総フッ素が50mgF/kg超の場合は、当局からの要請に応じて、製造・輸入者および使用者はPFAS類またはPFAS類ではないフッ素化合物の各濃度の証明書を当局に提出する

このように、既にPOPs規則で規制されているPFOA類等と同様に、ppb(10億分の1)やppm(100万分の1)レベルでの濃度が提案されています。


3. 免除および猶予期間

PFAS類は対象となる物質数も多く、また利用されている用途も多様です。 そのため他規制の対象となっている場合の免除や、特定の用途については適用開始までの猶予期間が設けられています。


まず、制限条件の第4項で殺生物性製品規則((EU) 528/2012)や植物保護製品規則((EC)1107/2009)、医薬品規則((EC) No 726/2004)、動物医薬品規則((EU)2019/6)、医薬品共同コード指令(2001/83/EC)の適用範囲にある殺生物性製品や植物保護製品、人および動物用医薬品中の活性物質は本制限から免除されています。 ただし、この免除条件に該当する製品の製造・輸入者は、1回/2年の頻度で該当する免除要件や前年度に上市した活性物質の情報や量をECHAに提出することが求められます。


次に制限条件の第5項で、次の用途に対して施行後「6.5年」、「13.5年」、「期限なし」の3種の猶予期間が設けられています。

・5a:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム(FKM)を除く高分子PFASの製造時に使用する重合助剤(6.5年猶予)

・5b:個人用保護具規則((EU)2016/425)附属書IのリスクカテゴリーIII(a)~(c)で指定されたリスクから保護する個人用保護具で使用される繊維製品(13.5年猶予)

・5c:個人用保護具規則附属書IのリスクカテゴリーIII(a)~(m)で指定されたリスクから保護するための消防活動の個人用保護具で使用される繊維製品(13.5年猶予)

・5d:上記繊維製品(5b、5c)の再含侵のための含侵剤(13.5年猶予)

・5e:撥水性と撥油性の両者が求められる産業または専門的環境において高性能空気や液体の用途で使用されるろ過および分離媒体として使用する繊維製品(6.5年猶予)

・5f:-50℃未満の低温冷蔵の冷媒(6.5年猶予)

・5g:試験機器や測定機器中の冷媒(13.5年猶予)

・5h:冷却遠心分離機中の冷媒(13.5年猶予)

・5i:代替手段が存在しない施行後18カ月以内に上市された暖房、換気、空調および冷蔵(HVACR)機器の修理や補充品(13.5年猶予)

・5j:国の安全基準や建築基準法によって代替物の使用が禁止されている建物のHVACR機器の冷媒(期限なし)

・5k:産業用精密洗浄液(13.5年猶予)

・5l:高濃度酸素環境で使用する洗浄液(13.5年猶予)

・5m:現状の代替品が、資産に損傷を及ぼす、または健康リスクをもたらす場合のクリーンエージェント消火システム(13.5年猶予)

・5n:診断検査機器(13.5年猶予)

・5o:航空機や航空宇宙産業用油圧システムの作動油の浸食防止、耐食用添加剤(13.5年猶予)

・5p:機械式圧縮機を備えた内燃エンジン車の空調システムの冷媒(6.5年猶予)

・5q:船舶以外の輸送用冷凍機器の冷媒(6.5年猶予)

・5r:高電圧開閉装置(145kV超)の絶縁ガス(6.5年猶予)

・5s:過酷な状況下で使用される、または機器の安全のために使用することが必要な潤滑剤(13.5年猶予)

・5t:測定機器の校正や分析標準物質(期限なし)


なお、3月から実施する制限提案文書に対する意見募集の結果を受けて検討する特例として、次の5u~5eeが挙げられています。

・5u:自動車のエンジンルームで騒音・振動防止のために使用される繊維製品(13.5年猶予)

・5v:硬質クロムめっき(6.5年猶予)

・5w:建物の断熱材として現場で噴霧される発泡フォームの発泡剤(6.5年猶予)

・5x:3Dプリントにおける溶剤ベースの脱バインダーシステムでの産業および専門的使用(13.5年猶予)

・5y:3Dプリント用ポリマーの平滑剤の産業および専門的使用(13.5年猶予)

・5z:スプレーの品質として不燃性および高い技術的性能が要求される用途でのエアゾール用高圧ガス(13.5年猶予)

・5aa:紙媒体の文化財の保存(13.5年猶予)

・5bb:医療機器の工学的流体(洗浄や熱伝達)(13.5年猶予)

・5cc:医療機器の通気膜(13.5年猶予)

・5dd:軍事用車両の空調用冷媒(13.5年猶予)

・5ee:半導体製造工程(13.5年猶予)


また、制限条件の第6項では、さらにフッ素樹脂やペルフルオロポリエーテル(PFPE)類といったポリマーのみを対象とした用途別の有用期限も次のように設けられています。

・6a:産業および専門的な食品・飼料生産のための食品接触材(6.5年猶予)

・6b:埋込型医療機器(メッシュ、創傷治療製品、チューブ、カテーテルを除く)(13.5年猶予)

・6c:医療機器のチューブおよびカテーテル(13.5年猶予)

・6d:定量噴霧式吸入器(MDI)のコーティング(13.5年猶予)

・6e:プロトン交換膜(PEM)燃料電池(6.5年猶予)

・6f:石油産業および鉱業でのフッ素樹脂 の使用(13.5年猶予)


なお、前述の第5項と同様に3月から実施する制限提案文書に対する意見募集の結果を受けて検討する特例として、次の6g~6oも挙げられています。

・6g:産業用および専門家用の耐熱皿の焦げ防止コーティング(6.5年猶予)

・6h:ヘルニア用メッシュ(13.5年猶予)

・6i:創傷治療製品(13.5年猶予)

・6j:定量噴霧式吸入器(MDI)以外の医療機器のコーティング(13.5年猶予)

・6k:硬質ガス透過性コンタクトレンズおよび眼科用レンズ(13.5年猶予)

・6l:医薬品や医療機器、診断薬のポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)ベースの包装材(13.5年猶予)

・6m:点眼薬の包装材中のPTFE(13.5年猶予)

・6n:滅菌医療機器の包装材(13.5年猶予)

・6o:輸送車両の安全性に関わる機能や、運転手、乗客、荷物の安全性に影響を及ぼす用途(13.5年猶予)


これら用途については特例として含有制限に対する猶予期間が設けられていますが、多くの用途(5b~5d、5f~5t、5u、5w~5ee、6b~6d、6f、6h~6o)特例に該当する混合物・成形品の製造・輸入者には、1回/2年の頻度で該当する用途や前年度に上市した物質の情報や量をECHAに提出することが求められています。 また、フッ素樹脂やPFPE類といったポリマーの輸入者およびそれらを使用する川下ユーザーには、事業所での取り扱いに関する管理計画の策定や毎年の見直しが求められています。 このように、含有制限の猶予期間中であっても管理が求められる内容となっています。


4. 最後に

今回のPFAS類の制限提案はこれまでの制限提案に比べ、次のような特徴が挙げられます。

・約10,000物質と対象物質の範囲が広いこと

・「玩具」や「消費者向け製品」、「皮膚と長期間接触する製品」等のような特定の用途に限定して制限を課すのではなく、代替が困難な用途(エッセンシャルユース)以外は全て制限すること

これら制限提案に関する新たな動きは、2020年10月に公表された「持続可能な化学物質戦略」においても言及されており、また、現在検討中のREACH規則の改正における検討課題の1つとして制限等へのエッセンシャルユースの導入が挙げられています。

今回のPFAS類の制限提案は、産業界への影響が大きいことはもとより、制限提案に関する新たな動きの試金石として注目を集めており、意見募集や当局による検討等の今後の動向が注目されます。


(井上 晋一)


【参考情報】

1)ECHA ニュースリリース


2)ECHA PFAS類の制限提案

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